立派になった弟子達が責任を取らせに来る話 作:PER
そう、ありゃあ俺が王様だった頃の話だ。
その時俺ぁずーっと玉座に座って部下どもにアレやれコレやれって指示飛ばして、たまに俺が動いて色々バーっとやったりしてたんだがな?
ある時外を出歩いてたら一組の男女が歩いてきてさ、俺にこう言って来たのよ。
「僕たち、結婚するんです! 王様も、どうか祝福してくださいませんか!?」
ポカーンとしたよね。
えっ、それだけ? ってな感じで。
まぁ一応祝いはしたよ。俺ってばこんなんだけど、当時は民衆から慕われる立派な王様やってたし、国民の婚姻を祝う事は別におかしい事じゃねぇだろ?
んで、まぁそんな事があってしばらくして、ふとした時にその時のことを思い出してさ。
こう思ったんだよ。『俺、誰かを好きになったことねぇな』って。
おかしいと思うだろ? 俺、もうその時にゃあ1000年近く生きてたんだぜ?
1000年近く生きて、一回も人に恋した事がないとか、流石に異常だと思ってさ。
無性に『恋』ってのを探してみたくなっちゃったよね。
そうなるともう国政なんて手ェつけらんない。
俺の頭ん中は『恋』の事でいっぱいになっちゃって。
挙句俺は国を放り捨てて『恋』を探しに行ったわけよ。
……ん? まぁ、そうだな。
当時の国民にゃあ悪い事したと思ってるよ。
ずっと俺が国を動かして来たから、新しい代表者を立てようにもそんなノウハウどこにもねぇし。
俺が居なくなった時の想定とかこれっぽっちもしてなかったのが、思いっきり仇に出たよね。
だからずっと滅んだと思ってたのさ。今も残ってるのは想定外だった。
で、だ。
そうして俺は恋を探す旅に出たわけだが、そうそう簡単に恋なんざ見つかるわけもない。何せ1000年もの間に一回もできなかったんだ。
今更望んだところで、簡単に見つかるモンじゃないに決まってる。
だから、そん時の俺は、恋を見つけるためにどうすればいいかって考えた。
そうして数日じっくり考えて出た結論が、『最高の女』を見つける事。
見た目から性格から性能から、何から何まで俺にベストマッチした、『最高の女』これこそが恋の条件だと俺は考えたわけさ。
でもまぁ……何だ。
そんな女がいるわけねぇんだよ、常識的に考えて。
だって俺、1000歳越えの大天才だぜ?
そんな俺の眼鏡にかかる人間の女なんざ、いるわけがねぇんだよ。
そうして俺は、また壁にぶち当たった。
そして今度もまたどうすればいいかをじっくりと考えた。
だが、今度はいつまで経ってもコレだって言う回答択が見つからねぇ。
1週間経っても1ヶ月経っても、いい案が本当に一個も思い浮かばなかった。
「どーしよっかなぁ」
そんで、そんな風に俺がとある街のベンチに腰掛けて、溜息を吐いた、その時だ。
「お兄さん、どうかしたの?」
なんかいかにも怪しげなネーチャンが俺に話しかけて来てな。
まぁ普段ならこう言う輩に絡まれたら、取り敢えず泳がせておいて面白そうな事があったらそれに乗っかるって風にしてたんだが、その日に限っては俺も随分と精神が参っててな。
「俺好みの女が見つからねぇんだワ」
ってな具合に、ネーチャンに愚痴っちゃったわけよ。
そうするとそのネーチャン、我が意を得たりってな具合にいい笑顔を浮かべてな。
「じゃあ、奴隷なんてどう? 最近、良いのが入ったのよ」
へー、そんなのもあるんだ。って思った。
んで、取り敢えずついていくことにした。
当時は本当に藁にもすがる思いってやつだったよ。
もしかしたら奴隷ってやつに俺の思う『最高の女』がいるかもしれねーって。
そんなわけねぇのに、完全に馬鹿になってたよね、当時の俺。
でもね、居たんだよ。そこに。興味深いのが。
エルフってわかる? まぁ流石にわかるか。
耳の長い、とにかく長寿な事が有名な種族なんだけどさ。
そんなエルフのガキがさ、首輪に繋がれて檻に入ってやがんの。
いやー、びっくりしたよね。
エルフなんて絶対に人里に現れないモンだと思ってたし、ましてや奴隷なんかになってるとは思いもしなかったからね。
そんで更にびっくりしたのがさ、ソイツ、美人なのよ。
まだ人間で言う5歳とか4歳のガキなんだけどさ。それでもすっごいキレーな顔してんのね?
この歳でコレなら、将来きっとすんげー美人になるんだろうなーとか、そう思ったわけよ。
でさ、そん時なんかこう……ビビビっと来たのよ。
閃きってやつ? コレだって考えが頭に浮かんだのよ。
コイツの事を買って、俺が自分で自分好みの『最高の女』に育て上げりゃ良いんじゃね?
って。
まぁ、買いだったよね。
金貨5000枚とか吹っ掛けられたけどさ、まぁ金なんていくらでも『作れる』し。
すぐにその子を引き取って……んで、ソイツと一緒に俺ぁ森の奥に引き篭もった。
他の人間に変な影響を受けないようにって理由だった。
「わたし、これから、どうなるんでしょうか?」
そんで急拵えで家を用意していると、オドオドしながらソイツは俺に向かって聞いて来るんだ。
だから俺はこう答えた。
「お前は俺が俺好みの女に育て上げる。将来的に娶る気でいるから、お前はただ俺の言うことを聞いて、のびのびと育ちゃあそれで良い」
いやー、今思い出してもクッソキモい台詞だよなぁ。
当時の俺は至極真面目だったんだけどね。
精神的に追い詰められてたんだろうねぇ、いや本当に。
まぁ、とにもかくにもそんな感じで、俺ぁエルフのガキを育て始めたわけだ。
取り敢えず教えたのは、過酷な環境を自分一人で生きるためのサバイバルの方法だ。
俺は弱い女は嫌いだったし、俺の与り知らないところで勝手に女に死なれるのもごめんだったから、真っ先にそれを教えた。
「ねぇ、このキノコは?」
「食えねぇ。と言うかキノコはまず食えねぇ。草にしろ、草に。もしくは実」
弓とか、毒の見分け方とか、木登りとか、そう言うのも教えつつ、まぁある程度は立派に生き延びていけるかなってくらいに成長したあと。
俺が次に教えたのは、戦いの仕方だった。
「ふっ! はっ! こうですか! 師匠!」
「違ぇ! ここはこうして、こうして、こう!」
まぁ、うん。筋は悪くなかったと思う。
俺ほどじゃあねぇが、すぐに氣功術も覚えたし。
初めて数年も経つ頃にゃあ、もう熊程度には簡単に素手で勝てるくらいにはなってた。
まだ俺の腰くらいしかないガキが、ばこーんと熊を蹴っ飛ばしてる光景はもう壮観だったね。
「んー、いいじゃねぇか」
「はいっ! ありがとうございます、師匠! これで師匠に相応しい女性に一歩近づけたでしょうか」
「おー。そりゃあ勿論。これからも頑張ってくれよな」
いやぁ、本当に。健気だったよねぇ。師匠に相応しい女性になるって。
俺がポロッと家事ができる女って良いよな、なんて溢した時なんか、掃除洗濯とか一瞬でパッと覚えちゃったし、飯作るのもいつの間にか上手くなってたし。
化粧の仕方なんて、俺が2、3年かけて習得したのをたった数ヶ月でマスターしちゃったし。
そんでまぁ、そんな具合にソイツを育て続けて……どんくらいだろう?
3人育てて、その合計が2000年くらいだろ? って考えると……大体400年くらいかな?
そんくらい経ったら、もう既にソイツ、スッゲー美人になっててさ。
うん。順調に俺好みに育ってるなー、なんて思って。
んで……まぁ、体の方も出来上がって来てたから、ベッドでのアレコレも教えた。
ってか仕込んだ。うん。俺ってばそっち方面の技術もマスターしてたから。
そりゃあもうねっとりじっくり教え込んでやったよね!
最初の方はもう正に生娘って感じだったけどさ、すぐに色々と覚えて。
それで毎回毎回さ、事が終わった頃に『これで、師匠に相応しい女性に、また一つ近づけたでしょうか』って。
健気すぎて涙が出てくるレベルだったわ。
あと、その頃に俺はソイツのことを街に連れ出したりもして、社交性を学ばせたりしてた。
俺以外の人間と話すのなんてもう数百年振りだし、氣功術を覚えちゃった影響で人の下心をダイレクトに感じれるようになっちゃったしで、コミュニケーションは難航した。
最初の頃なんか、下卑た欲望を浴びせられまくってトラウマになって、俺の胸の中でガタガタ震えてたっけか。
そんで「もう師匠以外の人間と関わりたくない」とか言い出しちゃって。もうドラゴン相手にも負けないだろうに、怖がりだよねぇ。
まぁ、でもそこは俺が頑張って励まして、何とか普通にコミュニケーションが取れるまでにまで成長はしたよ。
そんで……そんで、更にもう100年くらい経った頃かな?
更に成長して、更に美人になったソイツがさ、聞いてくるのよ。
「私は、そろそろ師匠が娶るのに相応しい女性になれたでしょうか?」
ってさ。
んでさ……その時、俺は気付いたんだよ。
ソイツがさ、『最高の女』にもうなってたってことに。
いやー、感慨深かったよね。
ようやく目標が達成できたって感じだったよ。うん。
……でもさ、その時同時に、俺はあることに気付いたんだ。
そうしてこう思った。『俺はコイツを娶るべきじゃない』って。
いや、最高の女なんだよ、ソイツは。本当に。
本当に美人で、体型もバッチリ均整が取れてて、強くて、家事ができて、色々と物事を深く考えることもできて、社会性もあって、床上手で。
結婚したいって心の底から思えるような、そう言う女なのは間違いなかったんだよ。
でも……いや、だからこそかな。
思っちまったんだよ。『もったいない』ってさ。
だってそうだろ?
あまりにも完璧すぎたんだよ、ソイツは。
俺の女として生きて一生を終えるにはあまりにも惜しい才能が、ソイツにはあった。
何だろうな。
俺がこんなんだからかな。
俺がこんなすげー力を持ちながら、何にも人の役に立ってないクズだから、こそ、彼女にはそうならないで欲しいと思っちまったのかな。
とにかく、俺は彼女を娶るべきじゃないと思った。
で……それで……それで……まぁ、うん。
言ったよ、ソイツに。
「お前を娶るのはやめる。お前はもう自由に生きろ」
そう言った後は大変だったよ、本当に。
目の光が突然フッと消えたかと思ったら、とんでもない勢いで質問攻めにして来てさ。
「どうしてですか? どうしてなんですか? 私にどんな悪い事があったのでしょう? 私は師匠の、師匠に相応しい女にはなれなかったのでしょうか? 師匠、師匠、師匠。教えてください。いつもみたいに。教えてくださいよ。どこを直せばいいんですか? どこを矯正すればいいんですか? ねぇ師匠。師匠。教えてください。許してください。ごめんなさい。謝りますから。私が何か悪いことをしたのなら謝りますから。師匠。だから。捨てないでください。お願いします。私には、私には師匠しかいないんです。お願いします。どうか、どうか……」
あの時ほど心の痛んだ時は無かったよね。
勿論、ソイツに悪いところなんて一つも無い。
ソイツは間違いなく俺好みに育った最高の女だった。
でも、最高すぎた。
それこそ、むしろ俺の方が彼女に相応しくないくらいに。
だから。
「お前は、きっと俺と結ばれるよりも幸せになれる未来がある。エルフの里に行け、そこで、そこで幸せになれ。俺のようなクズには、お前は勿体なさすぎる」
そう言って、俺は彼女に背を向けた。
それで、彼女は追って来た。
俺の教えた技術をフルに用いて、絶対に逃すまいと俺を追って来た。
でも、俺の方が上だった。
あらゆる技術を極めた俺に、彼女は追いつけなかった。
彼女の慟哭が、俺の背中に伝わって来た。
でも、俺は振り返らなかった。
きっとそれこそが、彼女の幸せになると思ったからだ。
……何だよ、何でそんな目で俺を見る。
クズ野郎? そうだよ、だから俺はアイツに相応しくねぇんだ。
おい、何で叩く。やめろやめろ。
実際にアイツ、俺が居なくなってから上手くやってるみたいなんだからいいだろうがよ。
あ? 何でわかるのかって?
そりゃあお前……ああ、そういや言ってなかったな。
俺が初めて育てたエルフの、その名前はアリア。
そう、全てのエルフの頂点であるあのアリアだよ。
エルフ……1000年ほど前にアリアが頂点に立ち、人間とエルフとの間で契約が為されて以降、人里でよく見かけるようになった。その姿を見かけた人が言うには、誰かを探しているようだった、との事らしい。