夏休みに東京からやってきたハトコがワガママ可愛い 作:古野ジョン
昼飯を食べた後、必要なものがあるとか言って葵はどこかへ出かけてしまった。ようやく一人の時間を得たので、ごろんと畳に横になってみる。……っと、おばちゃんの足音がする。
「失礼します、ぼっちゃん」
「うん、入っていいよ」
襖が開いて、おばちゃんが床に膝をついたまま姿を現した。今度は何かと思ったけど……メモ帳か何かを持っているな。
「今年のお盆について、ご意見をお聞かせいただきたく」
「ああ……そっか、もう来月だもんね」
お盆。日頃は寂しい我が家に、僅かながら来客がある期間だ。といっても、形式的に挨拶を交わして、仏壇に拝んでもらうくらいだけど。準備はお手伝いさんたちがしてくれるし、俺としてはあまりすることがない。
「今年は誰が来るの?」
「去年と同じかと存じます」
「だったら、こっちも去年と同じでいいよ。まかせっきりで悪いけど、食事とかお菓子とか準備しておいて」
「それが私たちの仕事でございますから。ぼっちゃんが悪く思う必要はございません」
おばちゃんはそう答えつつ、さらさらとペンを走らせていた。きっと準備に必要な物品を考えているのだろう。由緒ある家ってのはこういうのが大変だ。こんな広い家で悠々自適に暮らしているから、文句は言えないけど。
「そういえば、お嬢様はどうなさるおつもりで?」
「どういうこと?」
「私どもとしては、この家に住む方が増えるのは構いません。しかし、仮にもここはぼっちゃんの家ですから……」
そう言って、ちらりとこちらの顔色を窺うおばちゃん。この人は子どもの頃から俺のことを見てきたんだ。多分……俺が葵のことを歓迎していないことなど、お見通しだったんだろうな。
でも――俺の心の中では、葵に対する心情が変化しつつある。さっきの件もあるし、意外と一緒にいて心地いい存在なのかもしれないと思い始めた。それに……まあ、本家からの仕送りは止められたくはないからな。
「大丈夫だよ、おばちゃん」
「あら……よろしいのですか?」
「いいよ、たしかに一人の方が好きだけどさ。悪い子じゃなさそうだし」
「ぼっちゃん……」
「たまにはさ、こういうのもいいんじゃない?」
「それなら、止めはいたしませんが」
なんだか不思議だな。さっきまではあれだけ嫌だったのに、意外と受け入れている自分がいる。安寧で怠惰な夏休み、というのが第一条件だけど。たまには遊ぶくらいだったら何も問題な――
「たっだいまーっ!」
「うわっ!?」
「あら、お帰りなさいませ」
なんでコイツらは急に現れるんだよ!? おばちゃんの背後にやってきたのは、パーカーを羽織った葵。どこかで買い物してきたようで、紙袋を両手いっぱいに抱えている。
「おにいさんっ、良い物買ってきたのーっ!」
「そ、そうか。良かったな」
「うんっ! 見たい?」
「へ?」
「見たいんだーっ! おにいさんのえっちーっ!」
「何が!?」
勢いに押されるまま、ひたすら葵と問答する俺。なんだよもう、買い物してきたくらいで随分と騒がしいな。俺が思わず立ち上がり、部屋の入口まで歩いていこうとすると――葵がパーカーを脱いだ。
「じゃーんっ! どうっ? どうこれっ?」
目の前に現れたのは……白い水着に包まれた、豊満な二つのおっぱい!? フリルのついたビキニを着けた葵が、どや顔で胸を張った。
「えへへっ、これでもスタイルには自信あるんだーっ!」
「あらお嬢様、おナイスバディで……」
「なんでも『お』をつければいいってもんじゃないぞおばちゃん!」
ってか、なんで水着なんだ!? アメリカの家じゃあるまいし、いくら広い我が家でもプールは無いぞ!? ったく、今度は何をするつもり――
「おにいさん、海に行きたいっ!」
「……えっ?」
「海水浴! おにいさんと一緒に行きたいのーっ!」
う、海ぃ!? いくらここが仙台だからって、決して近いところに海岸があるわけじゃない。……ってことは?
「遠いじゃねえかあああっ!!」
つい、思いのたけを叫んでしまった俺であった。