ペルソナRE   作:うどん米

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第4話・償いの時

 

 

 

『我は汝――』

 

揺らぐ景色の中、頭もおかしくなったのか幻聴が聞こえてくる。体はまだ動かない、まるで地面に服が縫い付けられたようにびくともしなかった。でも、今は幻聴にだって耳を貸したい気分だった阿歩炉は耳を澄ませようとするも――

 

「ふんっ、所詮は半端物か――」

「それよりも、我の召喚機を返せ!!」

 

ごきっ

 

「ッ、あぁぁ――!!」

 

悪魔を背後に置き、嘲笑いながら見下ろしながら近づいて来る男二人はゆっくりと近づきながら衝撃でまだ動けない俺の指を踏みつぶし曲がった指から召喚機を奪う。

幻聴はかき消され、阿歩炉はその痛みに悶えることしかできず、心は絶望に黒く塗りつぶされそうであった。

 

「さて、もういいだろうトドメを刺してやる」

(くそ、くそぉぉ――ッ!!)

 

悔しさでいっぱいだった。せっかく警察官になったのに曲真君をこの場から逃がすことも出来ず、仮面神教にやられっぱなしで家を焼かれ悲しんだ人々の仇すら果たせず。これでは力がなかった頃と何も変わらない。

だが、現実は非常かな――頭の中で喚いても、立ち上がろうと体に力を入れてもそこに穴の開いたバケツに水を注ぐがごとく不毛にうなるだけだった。

 

「待て――」

 

しかし、トドメが刺される寸前に待ったがかかった。驚きのあまり見上げるとそれを言ったのは阿歩炉に金的を蹴られ召喚機を奪われた方の男だった。その瞬間、奴らが善意で待ったをかけたわけではないことを察し阿歩炉が歯を食いしばると――

 

「ごおっ、ぐふっ――あっ、がぁ!」

「このゴミが!!ゴミが!ゴミが!!社会の犬畜生どもが!!」

 

まるでサッカーボールを蹴り飛ばすように何発も何発もそれは阿歩炉を襲った。ただでさえ曖昧な意識だと言うのに悪魔を背にした状態でのその一撃は内臓に強く響くのを感じていた。

 

 

 

でも、不思議と意識を完全に失うことはなかった。むしろ、一撃一撃加えられるたびに意識が鮮明に、冷静に研ぎ澄まされていくまるで一本の槍のように。

 

(――あいつらの狙いは曲真君だ。ここで倒れたままじゃ助けることはできない――曲真君は誘拐され、俺は死に、仮面神教の奴らは野放しになる)

「はははっ!そうやって這いつくばるのがお似合いだ――ふっ、反応も出来んかならもう終わらせてやろう」

「ふっ、あれではいつまで生きられるか――なら、我は先に選ばれし者を見つけてこよう」

 

踏みつけられ、頭に足を置かれ踏みにじられる阿歩炉。既に声を出す余力もなく踏みつけられるたびに虫が潰れたような声を出すのみだった。

 

 

だが、目に光が灯った。

 

(曲真君の元に――行ってしまう――それだけは――)

 

歯を食いしばる。でも、頭を踏みつけられぐりぐりとにじられるとすぐに歯はすぐにずれてしまう。

煮え来る怒り、胸を焦がしそうなほど燃えていたそれは決して仮面神教団員への怒りではない。

 

(何で動かない――何で、何で――これじゃあ、警察官になった意味が――)

 

おっちゃんのようになりたい。おっちゃんみたいに命を賭して誰かを救えるヒーローになりたい。

 

 

いや、ならなければいけない。ならなければ、俺は一体何のために生き残った。あの津波から、家族も死んで、おっちゃんも死んで、友達も死んで、知らない誰かも死んだ。

 

 

(あの場で、生き残った罪を償うために俺は警察官になった)

 

その思いとは裏腹に動かないからだ、これではあの幼かった自分と何が違う――?ふがいない自分自身を燃やし尽くすほどの怒り、憎悪が煮えたぎっていたのだ。

 

「――ざけるな」

「あ?」

 

 

 

 

「ふざけるなぁ!!」

「何が――だ?」

「今のは、お前に言ったわけじゃない!!」

 

その時、最後の力を振り絞って足をどかさせ阿歩炉は立ち上がる。既に、その顔には生気はなく吹けば飛びそうなほど衰弱していた。しかし、仮面神教の男はその姿を見て思わず後ずさりした。

 

「なんだ――貴様は!」

 

戦況は明らかにこちらが有利。相手はペルソナも出せない半端物、体はボロボロでもはや立ち上がることすら不可能だったはずなのだ。しかし、その顔から表情から目が離せない

 

 

――その狂気に染まり切った表情を

 

 

絶望とも希望、虚無ましてや欲望の化身なんかではない、もっと恐ろしい人間が本来は持ち合わせないようなもの、いや持ってはいけないものの片鱗を本能的に感じ取ったのだ。

 

 

『そうか、やっと“至ったか”我ながら自分のためでは力が出せないのはいつも通りか』

 

ドクン、心臓が跳ねると同時に心が何か浸食されるような感覚が襲う、それと同時に時々聞こえていた幻聴が今回はくっきり聞こえてきた。

 

『聞こえるということはお前は俺となった。俺はお前になった。つまり、今からお前は償いの旅に出る、覚悟はいいか?』

 

「いいさ」

 

「何をごちゃごちゃと!――もういい、貴様の息の根を止めてやる!」

 

男の命令でティルヴィングの刃が阿歩炉に向く。だというのに、彼の目は焦点が合わぬまま虚空を見つめていた。

 

「死――なっ!!」

 

剣を振り下ろそうとしたとき、何やら気迫のようなもので押し出され仮面神教の男はその場にしりもちをつく。

 

 

『ダメ、アポロ!!契約を結んじゃ――』

 

『そうか――なら、契約だ』

「うがっ――あぁ!!」

 

ものすごい頭痛が阿歩炉を襲う、しかし倒れることなくその場で踏みとどまる。頭痛が襲う前に誰かの声が聞こえたような気がしたがすぐさま霧散していった。

 

『契約の対価はお前の命、その命尽きるまで、尽きた後もみんなのために戦い続けるんだ』

「尽きるまで、尽きた後も――戦い――」

 

 

 

 

「そして、償うんだ――罪を――」

 

その時、胸に炎が集まり空に昇っていくそして炎は空中で人の姿を成した。それは一見あいつらの背にいるような悪魔にも見えた。だが、すぐ違うと気づいた仮面の奥、その目には確かに自分と同じ光が宿っていたのだから。

 

『我は汝、汝は我――永久に縛られる狂気の奴隷よ。その願い、その償いの旅が終わるその日まで全てを代償に駆け抜けろ』

 

炎は消え、その代わり人型の戦士が立っていた。服装は真っ赤に染まった警察の制服に、その手には真紅の槍が握られていた。そして、そのペルソナを阿歩炉の心の在り方を象徴するように背には大きな十字架が背負われていた。

 

 

 

「ああ、行くぞ『ロンギヌス』――俺の償いの時だ」

 

 

 

警棒を強く握りしめる。それと同時に俺のペルソナ――ロンギヌスの握られた槍も強く握られる。それだけで、自分自身だと理解できる。何ができるのか、何をしなければいけないのか、それはもう悩む必要はない。俺のことを一番知っているのは俺なんだから――

 

「な、ペルソナ――だと!?お前は選ばれし者ではない、半端物のはず――どういうことだ、どういうことだ――」

「――どういうことだ?どうでもいいだろ、俺はお前を倒して曲真君を救ってここを脱出して、逮捕する。やることは既に決まっているし、お前をぶっ飛ばすことももう決まっている」

「戯言を!今、覚醒したばかりの未熟者で半端なものに選ばれし者である我が負けるはずがない!!」

「そう、曲真君も捕まるとそうなるのかな――なら、余計に連れ去らせるわけにはいかないな――お前を、逮捕する」

「やれるものならばぁ!!」

 

戦いが始まった。即座に動いたのは阿歩炉先ほどまで地べたに這いつくばり限界を超えていたとは思えないほど軽やかな動きで接近していく。

対する仮面神教の団員はティルヴィングの剣を大ぶりに振るう――

 

「やれるさ、俺は警察官だからな」

 

ティルヴィングの刃は先ほど金的を蹴られたとき同じように今度は槍で滑らせ体制を崩させる。そのまま、ロンギヌスの槍はティルヴィングの鎧事ぶち抜き霧散していった。

 

「これがなくちゃ出せないんだろ?」

「――っ、なぜ召喚機を使わずペルソナを!うっ」

「さあ?」

 

軽くロンギヌスの槍で叩き、仮面神教の団員の意識は闇に消えた。だが、すかさずポケットから手錠を取り出しかけようとした。

その時だった、仮面神教の団員の男の体は先ほどのロンギヌスが貫いたティルヴィングのように影のように真っ黒になり始めから何もなかったように消えていった。

 

「――どういうことだ?」

 

首を傾げるほかなかった。もしかしたら勢い余ってロンギヌスが思いっきり叩きすぎたかもしれないが死体事消えたとは思えない、この空間の特異性かもしれないし――もしくは、仮面神教の団員は人間じゃないとか――色々な想像が頭を回るが一度シャットダウンする。

 

 

 

 

 

 

「――どういうことだ、なぜお前がここにいる!?」

 

驚愕、そういわんばかりに目をかっぴらいて俺の姿を凝視している。その背中には気絶させられた曲真君が背負われていて、てっきりもう逃げられたかと思って冷や冷やしたが曲真君を俺たちが入ってきた方に逃がしたのは正解だったようだ。

 

「なんでもいいだろ、俺をいたぶってたやつは負けた。お前もこれから負ける――それだけだ」

「負けた?なぜあいつが貴様に負ける?――意味が分からん、痛めつけられついに狂ったか?」

「狂ったか――まあ、あながち間違いじゃないかな」

「何?」

「ま、どうでもいい大人しく負けろ。穿て『ロンギヌス!』」

 

阿歩炉の背後にロンギヌスが現れると、先ほどまでかっぴらいていた目はさらに開かれる。優位性を失ったからか唇が震え始め何かを察したように背負っていた曲真君を下す。

そして赤黒い召喚機をこめかみに押し当て、引き金を引いた。

 

「いでよ『ティルヴィング!』

「――来い」

「ふん、どうせあいつは貴様に油断してやられたのだろうが、我はあいつの用に油断することはない!たとえ、相手が鼠だろうが全力出すの――だ?」

 

言葉が途切れる。意気揚々と宣言したすぐ後には阿歩炉は手元にあった警棒、もといロンギヌスの槍を投擲し奴が召喚したティルヴィングを粉砕したのだ。どうやら悪魔とその使い手は連動しているようで奴もその衝撃に負け後ろに吹っ飛んで行った。

 

「―――」

 

言葉はない。何故か頭が清流のように澄み切っている、いわゆるアドレナリンバースト状態ではないだろうか、先ほどと同じように影に消えていった仮面神教の団員をぼーっと数秒見つめた後、倒れる曲真君を背負いあげる。

 

「痛いなあ――二日目からこれか」

 

背負いあげた衝撃で奴に散々足蹴にされ踏みつけられた背中がきしむのを感じたが、それよりも交番配属二日目でこんな事件に巻き込まれるなんて災難だなと頭を悩ませた。

だが、もう脅威はない――阿歩炉は曲真君を背負ったまま奴らが塞いでいた光指す道から脱出した。

 

「やあ、阿歩炉くん。お疲れ様、どうやら財布は見つかったみたいだね」

「――何でいるんです?」

「酷いなぁ、せっかく後輩を心配した先輩が駆けつけたって言うのに――まあ、言わんとしていることはわかるよ~」

「あとで説明を――アレ?」

 

脱出した先には笑顔の先輩が待ち受けていて完全に出待ち状態になっていた。まるで、ここから出てくるのがわかっていたようなそんな感じだった。

そんな先輩に怪訝な表情を見せた阿歩炉はやっと戻れたことに安堵しながらアドレナリンが切れると同時にその場に崩れ落ちた。

 

「――やっぱり初召喚は疲れるからね。よし、ならあとは頼れる先輩が何とかしますかね~」

 

そう言って丸は倒れた阿歩炉と曲真君をパトカーに積み込み足早にその場を後にした。

そして、その一部始終を目撃しているものもいた。

 

「ありえない、どうして彼がペルソナを?――消しますか」

 

それは昨日、丸巡査長に悪魔が存在するかしないかを問いかけた少女だった。しかし、その目は光はなく真っ黒だった。

 

 

 




ロンギヌス
タロット:死神
どう考えても嫌な予感しかしないペルソナ
見た目は血染めの警察の制服に巨大な赤い槍、そして阿歩炉とロンギヌスを象徴するように背負われた巨大な十字架を装備している。
なぜか召喚機では出てこなかった謎多きペルソナ、ちなみに死神のコミュ担当でもある。
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