これはきっと僕の行動への罰なんだ。母親の心配もせず、蹲って父親が何をするか察していても止められなかった。それどころか、母親が自殺をするまで僕は助けてくれない親を恨み続けていた。
そして、全てを捨てて祖母を頼ってここまで来た。
ここでなら、変わるかと思ってた。けど、結局は無気力なまま――弱い自分のまま、逃げ続けたまま、同じことを繰り返した。
「―――」
絶望、それ以外ない。外に助けを求めることも出来ないまま“赤く染まった家”の奥に鍵をかけ蹲る。何が起きたのかは、想像もつかない。
それは、アポロさんに助けられその上司さんに家まで送ってもらってすぐだった。
「ただいま――」
「おかえり、曲真ちゃん。どうしたの、学校で何か嫌なことでもあったのかい?」
声は暗い、いくら励ましてもらったところで自分が所業が消える訳でもない。むしろその優しい心遣いに胸にちくちくした物を抱えるようになった。帰るとすぐに祖母が出迎えてくれる、祖母はとても優しい人でただ蹲っているだけの役立たずの僕を引き取って保護者の代わりをしてくれている。
「ううん、何でもないよ――ありがとう、おばあちゃん」
「そう?何かあったら言いなさいよ、爆発したときにはもう遅いんだから――」
僕と自身の息子、つまり父親を比べているんだろう。おばあちゃんは事件の後、僕に必死に謝ってくれた、ごめんね、ごめんねと――僕にはその謝罪を受け取る資格なんて持ち合わせていないはずなのに、謝られるたびにまるで自分が許されたようなそんな感覚がして余計に自分が気持ち悪くなった。
「――え?」
その時だった、世界が赤く染まった、今までいたリビングの壁も、机も、椅子も何もかもが赤くなった、それはまるでアポロさんと迷い込んだあの世界のようだった。
ドンドン
「え?」
扉が叩かれる音、チェーンが掛けてあるため開かないが、リビングから少し顔をのぞかせるとすぐにわかった。あの特徴的なとんがり帽子に黒いマントの二人組――
「仮面神教!?」
(ど、どうしてここに――それに――目的は、僕!?どうすれば―――ていうか、助けを呼ばないと、でも電話はあっち側だし、携帯で――)
さっきまでその現場にいたせいかすぐさま合点はついた。しかし、アポロの無線機が繋がらなかったように携帯も圏外と表示され外に助けを呼ぶのは不可能だった。
(――っ、に、逃げないと)
チェーンを壊して入ってこようとする仮面神教の団員たちを見て、急に世界が赤く染まってオロオロとしている祖母の手を引きとりあえず鍵をかけて立てこもれる自室に移動する。
「き、曲真ちゃん?どうしたの?」
「もしかしたら、不審者が入ってきているかもしれないからここに隠れよう」
「う、うんわかったけど――ゴホッゴホッ」
「おばあちゃん!?」
「あはは、ごめんねぇ――実はまだ薬を飲んでなく、ゴホッゴホッ――」
立てこもり鍵をかけたは良いもののこれでは袋の鼠、その上おばあちゃんは病を患っている。その薬は外、仮面神教の団員たちがこの部屋に入ってくるのも時間の問題、僕には戦える力はない。
(――詰んだ?)
思い出す、あの日いじめられていた時にもあったそんな感覚、全てが塞がれて身動きが取れなくなった、そんな気分だ。膝が震えだす、その場に崩れ落ちる――そして、今度も同じように――蹲ることしかできない。
(助け、てアポロさん)
虚ろな目は、今も光を待ち続けている。
一方、少し遡る――
「――ッ、痛って」
目覚めた阿歩炉は上体を起こし頭をさする。反射的に頭をさすったものの全身が痛みに覆われている。ここはどこだと目をこすりながら鮮明になった視界で左を向くと運転席に座って運転している丸先輩がいた。
「おはよう~寝坊助さん」
「お、おはようございます――ていうか――あ!!き、曲真君は!?ど、どうなりましたか!無事ですか!無事帰ってますかぁ!!」
「大きな声出しすぎだよ~ちゃんと説明してあげるからさ~」
起きて、意識がはっきりした後すぐあの赤い世界から脱出したことを思い出し一気にまくしたてるとうんざりとした表情の先輩に宥められあの後、何が起こったのか説明してくれた。
「よ、よかった。曲真君は無事に帰れたんですね、それを聞けて安心しましたよ」
「うん、君が仮面神教の団員たちを倒してくれたおかげでね」
「――ああ、曲真君から聞いたんですね」
「いや、違うけど」
「え?」
あの世界に入った後、無線機は外部と繋がらず丸先輩とは連絡を取っていない。一応、赤い世界を脱出した後に会ったがその時には仮面神教の団員たちはいなくなっていた。
だとすれば、考えられるのは曲真君から直接聞いたという線だがそれは先輩自ら否定した。
「――大丈夫、そういう疑問もちゃんと答えてあげるから」
「あ、はい――ちなみに、今はどこに向かってるんですか?」
「もちろん、僕たちの交番にだよ。君が起きなかったらやめておくつもりだったんだけど、結構元気そうだからね」
「あはは、何だか急に目覚めちゃって――あれ?」
自分の言葉に違和感を覚える。確かに俺は急に目覚めた――それは、間違いないけれど何か、何かあったような気がする、思い出そうと頭を抱えていると交番に到着したのかパトカーが停車する。
「ほらほら、降りて降りて――よし、行くよ~」
「は、はい」
思考を中断し、誘われるがまま交番に入って行く。てっきり休憩室で話すのかと思えばそこを突っ切って更衣室まで入って、そして『使用禁止』と書かれた張り紙のついたロッカーの前で止まった。
「更衣室で話すんですか?確かに、防音は――出来そうですけど――」
「ん、違うけど――よっと」
丸先輩は懐からロッカーの鍵を取り出し鍵穴に入れ、開ける。すると――ただのロッカーだった。
と、思いきやロッカーに入っていた箒を少しどけてボタンを押す、するとカチッと音が鳴ったと思えば目の前のロッカーとその隣のロッカー二つが下に動き出す。
「うそでしょ」
「嘘じゃないよ~下に参りまーす」
目を疑いたくなる光景が目の前にあった。突然、ロッカーが動いたかと思えばその裏にはエレベーターが設置されていたのだ。この交番には二階はないので必然と行き先は決まってくる。困惑する俺をよそに、丸先輩は俺の手を引きエレベーターに押し込んだ。
下に下っていくエレベーターこんな展開バイオハザードくらいでしか体感したことがない阿歩炉は物珍しそうにあたりを見渡している。
「さて、着いたよ」
「―――」
言葉は出なかった。そこにあったのは何かを計測でもしているのだろうか物々しい機械たち、広さは平屋相当の巨大な地下空間だったのだ。
だが、それよりも阿歩炉の言葉を詰まらせる原因は別にいた。
「久しぶりだな、阿歩炉」
「は、はひぃ!!お久しぶりです、柳教官!?」
「ほっほっほっ――わしもおるよ」
「えぇぇぇ!?理髪店の刀時さん!?」
そこには警察学校時代に阿歩炉をビシバシ!厳しく!激しく!一人前の警察官に育ててくれた鬼教官の鏡浄柳教官と丸先輩に連れられ最初に訪れた店である理髪店の店主をしていた刀時さんだった。
「ど、どうなってるんですか!?これぇ!!」
「落ち着け阿歩炉、いつ何時も冷静が大切だということを忘れたか」
「そ、そうでした――冷静、冷静って――ふぅ、それで丸先輩――説明してくれますよね?」
やかましく騒ぐ阿歩炉に動揺の原因でもある柳教官の一睨みと一言で体に霜が降りるように冷静になった。多分、冷汗が伝っているだけだろう。
気を取り直して、と言うことで丸先輩に刺すような視線を向けた。
「あはは、もちろんだよ。だけど、僕たちが一から説明するよりもまず阿歩炉君が聞きたい事から聞こうかな、それで足りないところを補強しよう」
「――わかりました」
それは聞かれなかったことは言わなくてもいい情報は開示しないという事ではないか、少し丸先輩のことを怪しんだがともかく今は情報が出そろってなさすぎると思考を切り替える。
「それじゃあ、まずここは何なんですか?それと、仮面神教について、あの悪魔についても教えてください」
「うんうん、それはそうだね。まず、ここは対仮面神教――そして、彼らが扱う能力ペルソナに対抗するために結成された組織――その名は『ポリスエージェント』――警察の人間の中でもペルソナの能力を持つ、もしくは持たせられる人材で結成されているんだ」
「――なるほど、結構シンプルなネーミングですね」
(持たせられる?)
ペルソナ能力を持つ人間、それは俺のことだろう実際にあの赤い世界の中でペルソナ『ロンギヌス』を実際に発現させた。だが、それとは別にペルソナを持たせられることができる人間がいることになる。
「じゃあ、次に仮面神教についてね――仮面神教は今から十年前に立ち上げられた宗教団体で最初は教祖を主として教団員の救済を掲げる――こう言っては何だけどオーソドックスな団体だった」
「はい、それはテレビでもやっていました。ですが、奴らは最近とんでもない事件を起こしました」
「そうだね――12か所にも及ぶ一斉放火事件、それが今の状況を作ったと言っても過言じゃない」
ここ、東京を襲った一斉放火事件――はっきり言って場所に関係性はなく無差別な放火事件だと言われている。死傷者は1名、ちょうど家に居合わせてしまったご老人が一人亡くなっている。それだけじゃない、放火された場所には警察署もありとてつもない火の広がりによって全焼してしまったのだ。
しかも、奴らの足取りはつかめない手がかり一つも残らないのだ。まるで、急に現れて急に消えたように
そのせいか、社会不安は深まるばかり――警察の威信は実質的に地の底まで落ちたと言ってもいい。
「――もちろん、阿歩炉君が考えているような状況も一つある。けど、もっと重要なのはあの事件のせいで今このポリスエージェントには戦えるペルソナ使いは、阿歩炉君――君しかいないんだ」
「え?――それって、どういう――」
「端的に言おう、放火事件があったあの日僕たちポリスエージェントは仮面神教との戦いに挑んでいた。しかし、僕たちは敗北し放火は実行されてしまった」
「ちょ、ちょっと待ってください!それ、じゃあ――」
「ああ、君の考えた通り――このポリスエージェントには最初、15人のペルソナ使いが在籍していた。しかし、その戦いによって仮面神教側に大きな痛手を加えることはできたが――警察官の皆は、殉職してしまった」
15人のペルソナ使い、すなわち俺のような人たちの全滅――正直言って絶望的どころではない。仮面神教は数百人規模の宗教団体だ、多勢に無勢たとえロンギヌスを使おうと奴らの物量に押されればひとたまりもない。
「それじゃあ、最後の質問に答えようか――君が召喚した悪魔と言うのはペルソナと呼ばれる能力についてね」
「ペルソナ、ですね」
何だか、どこかで聞いたことがある気がする。
「うん、それは君が出会った悪魔――『シャドウ』と呼ばれる怪物と戦える力、そして仮面神教のペルソナ使いと真っ向からやり合える力なんだ」
「確かにペルソナを出した後はイケイケどんどんって感じになりました」
「うんうん、ペルソナは――ほら、君のホルスターの中にあるその拳銃を自身に放つことで呼び出すことができる。いやぁ、説明しとこうと思ったんだけど僕も仮面神教との接敵がこんなに早いなんて思わなくてね~」
「いい加減その適当な性格を辞めろ、丸――阿歩炉、すまなかったな。本来であればあんな荒療治でペルソナを発動させる気はなかったんだが――」
「い、いえ!気にしておりません!」
柳教官の謝罪に思わず背筋が伸びる阿歩炉、確かにあのちゃっちい拳銃は一体何なんだと思ったが今思えば気づかぬうちに丸先輩がすり替えていたんだろう。
「あの先輩、召喚機を使わなくちゃペルソナは出せないんですか?」
「え?――うーん、出せたケースはあるって聞くけど、大体は召喚機を使って呼び出すかな――もしかして?」
「はい、俺は召喚機無しでペルソナを召喚しました。むしろ、召喚機を使ってもペルソナは発現しなかったんです」
「えぇ!?――そっかぁ、原因はわからないかな――うん、本当だよ。本当にわからないよ」
俺が召喚機を使わず呼び出したことには驚いたが、なぜか召喚機を使っても出ないことには特に驚いたような様子を見せなかった三人――むしろ、俺が召喚機でペルソナを呼び出せないことを知っていたようだった。
「ま、出せるなら何でもいいよ!でも、何か原因とか思い当たるところはある~?」
「原因――」
自分の内を探る、確かに俺にはその原因があったはずだ――でも、思い出せない誰に聞いたのかも――まるで、夢の中の記憶を必死に引っ張り出そうとするような感覚を――!!
『ええ、残念ながらまだ貴方は彼を守ることは出てきていません――そろそろ、目覚めた方がよろしいかと、取り返しのつかないことになる前に――さて、今度はあなたか来ることになるでしょう――それでは――』
「あ――」
完全に思い出した、俺は赤い世界を脱出した後、ベルベットルームに招かれて――それで、曲真君に危険が迫っているからと――
「丸先輩!どうして、仮面神教とあの場所で接敵したんですか?」
「そりゃあ、君が『選ばれし者』だからじゃない?奴らはペルソナを発現させることができる奴をそう呼ぶんだ。そして、赤い世界には入れるけどペルソナを自分では出せない奴らを『半端者』と呼ぶんだ」
「半端者――あの、もしあの場から逃げたとしても選ばれし者を追って仮面神教たちは来るんですか?」
「うーん、来るとは思うよ。あいつらも放火事件でかなり戦力がそがれたからね。ああ、そうそう奴らはペルソナ使いの素養を持つ人を捕まえて自分の仲間にしているんだよ~」
完全に繋がった、あの場で仮面神教の奴らは俺を『半端者』と呼称し曲真君を『選ばれし者』、我らの同胞となるものと言っていた。
それは、つまり――曲真君があそこから逃げたとしても奴らに追いかけられている可能性があるということだ。
「丸先輩行きましょう!」
「行きましょうって――どこへだい?」
「曲真君の家です、彼は奴らに『選ばれし者』と呼ばれていました。もしかしたら一国を争うかもしれません」
「わかった!すぐに車を出そう、曲真君を助けに行くんだ」
もしかしたらもう手遅れかもしれない。だが、これ以上奴らの好きにさせるわけにはいかない。いつもとは違い表情の引き締まった丸先輩と共にパトカーに乗り込みサイレンを鳴らしながら全力で曲真君の家に向かうのだった。
やばーい!!非常にヤバい!!さて、どうなるのか阿歩炉は間に合うのか!!
サラっと、ペルソナ使いが実質全滅状態と言うハードモードからスタートだぜ!