リリスがエ□ゲ版Fateに召喚された話   作:サルミアッキ

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 マスターとサーヴァントの間でよくあるやつ。


在る人の物語

 リリスが固有結界内のエデンの偽園を歩いている。数週間前に取り込んだマキリ・ゾォルケンの蟲はすっかりその姿を変え、花から花へと飛び回り花粉を運ぶ働き蜂となっていた。

 

 リリスはこの花園が、わけもなく気に入っていた。望郷というわけではないのだが、花の香りや色鮮やかでたわわに実った果物、木陰にそよぐ涼やかな風……様々な自然の在り方が、妖霊である彼女に優しかったからだ。すっかり入り浸るようになった樹々の間で、ふと立ち止まる。

 

「……ん?」

 

 そこには、蛇がいた。艶やかな鱗を持ち、優し気な顔でリリスを見ている人間大の蛇だった。草葉の影に沈んだ蛇はがさがさと音を立てて森の奥地へと進んでいく。

 

「……」

 

 リリスはその場で逡巡する。だが、やがて蛇が消えた森の奥へと足を向けた。

 

「————これは、樹?」

 

 蛇がリリスを待っていた。その長い身をくねらせて、樹の枝に絡みついて、リリスに視線を向けている。蛇はこちらへ来いと手招くように舌をチロチロと動かした。

 

 天に聳えるのは、この世で見たことのない種類の実を付けた樹だった。生い茂る葉には読むことのできない文字が刻まれ、厳かな気配に満ちている。

 

「……え、食べろってこと?この果物を?」

 

 蛇が器用に捥ぎ取った果実を口で咥えて差し出してくる。淡い色の果実を見て、リリスは些か考え込むが、ここがマスターの固有結界であることを踏まえて、意を決してかぷりとその瑞々しい果物を口に含んだ。

 

 ぷしゃり。馥郁とした香りと溢れる水気が口の中に広がった。ああ、とても美味しい。アダムの魔力で編まれたそれは、とても甘やかで、唇を潤した。

 その味わいの中に、何らかの記憶の影がよぎった。喉を通り抜けるその魔力が、より強固にリリスとアダムを結びつける。

 断片的な瞬間の欠片が、意味を繋いで輪郭を創る。

 

「……ああ、これ、は————」

 

 リリスは、その智慧の実を通じて、ある男の記憶を陽炎のような夢に見る————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アダム・カドモン。それは、カバラにおいては人の本来の姿形にして、有する意識を拡張し到達する人本来の理想の姿。原初の神人にして器無き神の光、根源そのものとでも言うべきもの。

 

 俺の誕生には、そのアダム・カドモンが関わっていた。

 

 メルキゼデクの血を引き継ぐルリア家の祖は、数多くの魔術師たちと交友関係を持っていたらしい。魔法使いには一歩劣るものの類稀なる魔術師で、人格はかなり異質な存在だったということしか分からないが、それは話の本題ですらない。話の本題はここからだ。

 ある日のこと。魔法使いキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグと、千年錠の死徒コーバック・アルカトラスとの何気ない茶飲み話の中で零れた、ただ一つの例え話。ルリアの祖(彼若しくは彼女)の心の琴線に触れた何らかの希望が、俺という形を生み出す要因となった。

 魔法使いと死徒との議論の末、ルリアの祖はその希望を『失敗しても構わない』『どう転んでも価値がある』計画として実行することにした。未来視の千里眼を有さない身でありながら、彼/彼女は脳内の演算だけでその希望が誕生するように画策し、その未来を確信して魔術刻印を手放した。そう、希望を宿した完成品が生まれ落ちてから実現に至るまでの記録全てを彼/彼女は脳内で算出し、その悉くを見抜いたのだ。

 

 その創始者の手が加えられた冠位指定は、世代を超えて最終段階を迎え、十五世紀にイツハク・ベン・ソロモン・ルリア・アシュケナジーへと継承された。そして、彼からたった約三百年という短い間に、その計画は完了される。

 それは、エスカルドス家の魔術刻印に仕込まれた落ち物パズルのようであり、コーバック・アルカトラスが書き記した聖典のようであり……、旧くも新しき霊長というに相応しいもの。

 アダム・ハリション(物質的なアダム)アダム・カドモン(根源的なアダム)を統合したモノの創造、それこそが秘されたルリアの命題だった。

 

 

 

 

 ルリアの血統から落伍した娘が行きずりの男たちに股を開き、胎児を孕んだ。しかし、その母となった女は、胎からまろび出た赤子の存在を認めることは無く、肥溜めの中へと沈めて無かったことにした。赤子を産んだ女は、それきり行方は分からないらしい。

 だが、その赤子は生きていた。腐乱した糞尿の汚泥を乳代わりにして生き続けていた。汚物の中から見つけられた臍の緒の付いたままの男児は、すぐさま貧民窟の中で祀り上げられた。

 

 それが俺だ。いや、正確に言えば……その頃の肉体は俺であって、俺自身ではなかった。

 

 その少年の顔は子どもの頃から美しかった。それは、出生を知った時になって振り返ってみれば納得だった。他者から求められるために、遺伝子単位で設計され尽くして捏ねられた粘土細工……それが少年の全てだった。何処で生まれたか、どうしてそうなったのかさえ、全てが計画の通りだったのだろう。

 

 祀り上げられた男児は、そうあれかしとされる反応を繰り返すに至った。幼子の頃から、男女を問わずに可愛がられた。不潔極まりない辺境に追いやられ、病に喘ぐ老人に微笑むことで、その老人は安らかな顔で死んで逝けた。愛を知らない飢えた少女の手を握り、温もりを与えたことで、その少女は初めて感情を得て旅立てた。

 

 肉体が十代に差し掛かる頃には既に、その祀り子は貧民窟には似つかわしくない魔性の美少年となっていた。————人々は願った。その綺麗な身体で、我等に施しを与えて欲しいと。

 

 男も、女も、その美少年の施しを甘受した。与える立場となった美少年と身体を繋げて、忘我の情事に耽り神を見た。

 

 やがて、その噂は貧民窟の近隣にいた貴族の魔術師の耳にも入る。祀り上げられた少年は、己が身体の全てが綺麗であることを理解したが故に、その魔術師へ自分の体を売り込んだ。これによって、貧民窟には様々なものが溢れ、既に貧民と呼べる者たちはいなくなっていた。

 少年が仕えることになった男は代償魔術を使う魔術師らしい魔術師であったのだが、彼は綺麗であったが故に材料として消費されることは無く、貴重な玩具として丁重に扱われた。無論、人ではなく玩具でしかなかったので、夜な夜な魔術の儀式に使()()()()()()()()()()のだが、殺されることは決してなかった。

 ある日、魔術師は戯れに少年に魔術を教え込んだ。今は途絶えた血統の使う、魔力の効率の悪い出来損ないの術式だった。この行為は、魔術師にとっては良心からの世話焼きでも利害の一致でも何でもなく、少年が呪いに苛まれるのを見て愉悦に耽る為だったのだが、少年はこの魔術式を実用段階にまで昇華させてしまう。

 

 そう。魔術師が解読しようにもできなかったそれは、ルリアニック・カバラの最奥に列なる鍵だったのだから。

 

 自分の慈悲で置いているだけの弟子である少年、その魔術の才能に恐れをなし、そして激しい嫉妬を覚えた魔術師は少年の命を奪おうと、即座に魔術を行使しようとした。

 結果、魔術師の男は殺された。少年————アダムの自衛反応による魔術行使によって。

 

 主を殺し、自由の身となった少年だったが、未だ意思無き肉人形である状態から脱せてはいなかった。すると都合がいいことに、魔術師が消えた土地に新たな人間が兵を率いて、その土地を制圧した。魔術を知ることは無い普通の人間たちであったが、価値あるものを見つけ出す目ざとさは魔術師並みだった。

 

 魔性の少年は、今度は数多くの只人のものとなった。紅顔の美少年に給仕をさせることも、褥の中で腰を振らせることも、開いた股のモノに接吻を行わせることも、そこでは全てが許されていた。ものとして扱われることに、当時の少年は不満が無いようだった。

 

 だが、次第に性的欲求はエスカレートしていく。神が削り出した表情が作り物のようだ、と言った男がいた。交わっている時の顔が整い過ぎていて恐ろしいと言った女がいた。どうにかして人である姿を見たいと誰かが言った。

 

 人々は様々な手段を用いて、少年の中から人を見出そうとした。そして、最後の試みとして、彼の命を奪おうとした。命を奪われる時は、普通の人間ならば喪失の恐怖に怯え抵抗し、泣き叫び、命に縋りつくものだから。そんな……今際の際に立たされた少年の怒張した逸物を味わえたなら、初めて人として彼を凌辱できると、女たちは躍起になった。命の灯が消え、筋肉が弛緩した彼の肛門に己が種を迸らせたならどれ程の快楽だろうと男たちは思った。

 

 狂乱が街に巻き起こった。たった一人の少年を家畜のように追い立て殺戮せんと、男も女も武器を手に持ち駆け出した。美少年を友と言った少女であろうと、体の交わりを味わってしまった獣ならばその欲求を抑えることはできなかった。

 

————多勢に無勢だった。誰かの手で心臓が潰された。

 

 

 

 「 」(それ)が、創られていく。

 

 其処は黒く、底は白かった。

 

 いいや違う。自分の周りにあるのは色ではなかった。白も黒も、ましてや色など何処にもなかった。光も音も無い死の中に揺蕩っている。裸で、何も飾らないまま、誰でもないものが沈んでいく。

 いいや、上下も無い。だから墜ちることも、昇ることも無いはずなのに、渦巻いている「 」(それ)に巻き込まれているのは解っている。

 無というものも此処にはありえない。だから、こうして思考していることもありえないのだが、誰でもないものはその矛盾を成立させてしまえている。

 「ある」と「ない」。その互いに拒絶し合うものが騒いでいるが、それを誰でもないものは簡単に受け入れている。観測して、理解できずとも納得し、印すことができている。ああ、それはとても————気の遠くなる、刹那未満の出来事。

 有り余る、閃きの時間。その貴重な時を誰でもないものは観測する。様々なものを観測する。そして、観測したものを纏め上げる。理解のための戦いのようで、空想を紡ぐような敗北だった。しかし、それでもそれを印し続けた。渦巻くものに触れ続けた体は、やがて————。

 

 

 

『……()()一つの物語群(TYPE-MOON)という言葉に纏められるのは、嫌だろうよ』

 

 

 

 その少年は再び目覚めた。————そうして、誰でもないものは、アダム・ルリア・アシュケナジーになっていた。

 

 そう。結局、俺の身の上に起こったのは簡潔に言い換えられることでしかなかった。魔術師たちも、魔術を使えぬ人間たちも、俺を求めた。だから与えた。そのような反応をするように、魂無き俺の体は設計されていた。

 ただそれだけの、しょうもないこと。どうでも良いことなのだ。

 

「俺には本来、自我など生まれるはずもなかった。その段階では、生命無きただの肉人形として、照応宇宙の観測装置としての運用を求められていたように思う」

 

 そして、設計は新たなバージョンへとアップグレードされた。

 

「……コーバック・アルカトラスが創り出した、聖典トライテンに近しい人間。生命無き宇宙のモデルケース……いや、根源に似たものを作り出そうとでもしたのか?俺の先祖は。こうなることも含めて計画通りってか」

 

 体内には固有結界が生じた。知識は根源とは異なる視点から授けられた。生命の意思無き肉人形は、固有結界内の自然循環を模した莫大な生命を有することになった。形は違えど、旧くも新しき霊長になったらしい。

 

「俺は根源接続者ではない。疑似的な根源とすら言えない、例えるなら観測点世界の再現(このものがたりをみるどくしゃしてん)などというある意味での失敗作(とくいてん)も良い所だが。それでも宇宙を創る過程で、内なる世界に星が生まれ、樹々が芽生え、生命が生まれるのは必定だった。それは、神の御業の再現にして、神と同一の————」

 

 この思考のベースになった人格が何処から来たのかは不明だが、それはまあどうでも良いことだ。

 

「故に、言峰綺礼が俺のことを嫌悪するのは当然だった。俺は、あの天に座す神、主であると言っているも同然なのだから。だが、勘違いしてほしくないな。俺の中に僅かでも神を見出したのは他ならぬ言峰綺礼本人の信仰なのだから。俺は、断じて神などではない」

 

 所謂人でなしだが、それでも俺が人間である前提は覆らない。

 

「それに。……主ってやつがこんな凡庸な人格だったら笑っちまうよな?なぁ、リリス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の出来事だった。喉元を過ぎ去った果実は、ようやく臓腑に到達する。

 

「……」

 

 リリスは、齧った歯形がくっきり残る果実を見つめていた。

 

「————はぁ。なんだ。そっか」

 

 その嘆息は誰のために漏れたのか。彼女は、果実から滴る果汁を接吻のように啜り舐めとった。

 

「……アテシは。私はアダム、あなたを————」

 

 リリスの鋭い犬歯が、彼女の掌の果実に深々と突き立てられた。

 




 はい。エロゲ要素はリリスじゃなくてマスターの方でした。
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