あの光景が、目に焼き付いて離れない。
「サーヴァント、バーサーカー。真名、夜の嵐の女————リリス」
召喚陣の中心に、黒く、昏く、そして美しい女がいた。金混じりの灰色の翼と、鱗に覆われた黒い二本の角。夜風に靡く暗い銀髪の合間から見える、緑の瞳。それら全ては、男を惑わす魅惑を放つ。
「禁断の果実を植える者。生命の樹の守り人。蛇である貴方。あなたが伸ばしたその手を、僭越ながらこの私が掴ませていただきました」
鋭い爪を備えた黒い腕が、俺に向かって伸ばされる。
「問いましょう。貴方が私のマスターですか?」
星の瞬きのように風に揺れる銀砂の髪。月の光も無い闇の中でも際立つ黒い衣。呼び出された英霊のその姿に、俺は————。
「————」
ああ。そうだ。認めるとも。俺はあの時、どうしようもなく————。
■
「……————ん」
転寝を、していたようだった。
「……『
「!?」
うぉあ⁉え、柳洞寺ってこんな風通しが良かったっけ?と、突風に吹き飛ばされ……⁉
いや、違うわ。今のは、多分……。
「……ねぇマスター?」
「バーサーカー、今のはお前……がっ!?」
ぐぎっ……⁉あ、だだだだだっ⁉頬を引っ掴まれて顎骨がギシギシ音を立てているんですが……っ!
「なーんであんな大事ことをアテシに黙ってたのかなー?アテシショックだよー、んー?」
「は、あんなこと……?いだッ!ごっ!?」
俺を押し倒したバーサーカーが馬乗りになって、俺の後頭部を強かに何度も畳に叩きつけてくる。うぐっ。バーサーカーが何でこうも不機嫌になっているのか、顔面を鷲掴みにされながら脳に血を巡らせる。
……成る程。そうか、固有結界内で『俺のランダマイザ』に会ったのか?
「……俺の過去を見たわけか」
「そうだよ。いやー、随分と偽善ぷんっぷんでクソったれな人生を受け入れて来たもんだね?このアテシでも見抜けなかったなんてオミゴトだよ、あーキレそー。……でさあ、どうしてこうなってるか分かるかな?ねぇ、良い子ちゃんぶった親愛なるマスター?」
やっぱりそうだよなー。根底に沁みついた心の天秤ってヤツは治そうとしてるんだけど。人間のフリをしたロボット的なぎこちなさは無くならないか。
「……返答によっては?」
「ん?ぶち殺すよ?当然。冗談抜きにね」
バーサーカーは、感情の抜け落ちた激怒の表情で俺を見て来る。やっぱり、彼女にとっては祀り上げられた無垢な神子は吐き気を催す対象らしい。
「バーサーカー……いや、リリス。お前は俺の記憶を見たわけだろ」
「そうだね。それで、ちょっとはマスターの見てる景色も知れたよ。千里眼というか、万華鏡みたいな?情報が多次元的で、アテシの頭じゃ受け取れなかったところも所々あったけど……断片的な未来も見れるんだ。凄いねーマスターはー?」
あー、ここを二次元とすれば上位次元扱いになる
というか、未来のことも見えたのか……本来の第五次聖杯戦争のこととかか?
「ああ分かってる、分かってるよマスター。未来視とか、千里眼持ちは色々と制限があるんでしょ?でも聞かせてほしいな。平等な目線を持っていたあなた。自分のことを神様だと思わずとも、遍く全てへの無関心を是としたあなた。で、今のあなたの心はどう動くのさ」
……彼女は、静かに俺に尋ねてくる。
「あやふや。いい加減。曖昧。不正確。その不明瞭さが、私の好きな人間の性質。憎んで、哀れんで、共感して、憤って、許して、落胆して、失望して、そして————好悪の天秤は揺れ動く」
倒れた俺の腹の上に跨って座り、黒く染まった手で頬を撫でている。指先が髪を
小さな痛みが走る。ぷつり、と鋭い爪の先が皮膚を薄皮を刺し裂き、赤い水滴を生む。
「さぁ。あなたの天秤は、何にどう傾くのかな?」
俺の血が付いた彼女の爪。艶めかしく蠢く桃色の舌が形の良い唇の隙間から現れ、犬歯の隙間に滑り込んだ指の汚れを
水音がする。————それは、蝶が蜘蛛の毒牙にかかり、啜られるような。
首筋に滑りを感じる。————蝙蝠が、花の蜜を舐めているような。
「……」
俺の喉元に、女の顔がある。彼女に、血を啜られている。暗闇の中で緑の目が光る。ああ、そうだ。この銀砂のような髪の魔性を呼んだ時から、俺は————。
「……オーケー、白状しよう。俺自身の過去については、『どうでもいい』とはもう言えない。そうなった過程はしょうがないと言うしかないが、ああ、本当に————。
「……ふぅん?え、何でジャンヌ・ダルク?嫌いなの?」
「あー、それについては……ってそうじゃない。それは今関係ないやつだ」
うん、全く。ルーラーなんぞ他の聖杯戦争であったとしても滅多に出会うことはあるまいし。
「……それにしても、気持ち悪いか。人への憎悪とか、絶望とかではなく?」
ああ、リリス。憎悪よりも、絶望よりも、それが勝るとも。
「気持ち悪いさ。確かに、あの時の魂の無い肉塊は無垢だったんだろう。周りがそう望んだから、肉塊は受容的にそう振舞った。反射的行為だ。その身体には、そうするだけの才能があったし、周りの人間を魅了する力もあった。初めから持ち得ていたカタログスペックだけで、成長もせずにそうしてた」
そうだ。それは……度し難い。俺が成立したのがこの身体である限り、決して消えない十字架。人を不用意に救い続けた馬鹿な聖者。下らない人間たちの、背負わなくていい、下らない荷物。
「
顔が吐き気で歪む。本当はこんな事、思うだけでも
「確かに俺は過去の自分と人間の浅ましさに呆れ、哀れみ、失望したんだろう。けれど、憎むことはしない。……『できない』ではなく『しない』だ。だって、人間全部にその矢印を向けたら人類史以上の熱量を使うからな。それはもうさ、どうにか用意できるけれど、やっても得るものが無くて無駄じゃねーか。だから人に共感なんかしない。そういうわけで折り合いを付けた結果が、逃避に近い、怠惰的で堕落的な天秤の在り方ってわけだ」
口に出してみても、ほんっとろくでもない性格してる。俺。だが、自分の根底はそんなものだ。軸はブレブレ。助けたいものも勝ち取りたいものも特にない。人には共感はしないクセに、者の在り方には感動はすることもある。その感動のスイッチも完全ランダムだし、分析しようが無駄なものだし。
「……今はまだ、その答えで納得してあげるよ。どうあれ悪魔は約束を守るものだし。でも、もっと心の内と向き合ってほしいね、アテシ的には」
……、どうやらリリスは、まだ少し言いたいことがあるようだが。
「だからその言葉が嘘じゃないと思わせてくれる?ねぇ……、アダム・ルリア・アシュケナジー」
「————ああ。傍で見ていてもらえたら助かる。それに、本当に我慢ならないならすっぱり殺しに来てくれ。覚悟はある。俺はそれまでだったってことだしな。
————『でも、■いになられたくは、ないな』……」
「……は?」
「ん、どした?」
意外そうな顔して。
(……こいつ、何言ってんの……?)
過去と向き合うのは辛いんだが、客観視しなければままならないしな。
「————ああ。でも、俺の顔が綺麗なのは仕方ないのか」
「……。うっわ。自慢じゃないのがアレだね」
「事実だし。過去、
(わたしチ●チ●ビンビン!)
……んなこと言ってるから貴族から反感買って歴史家にあること無いこと書かれたんじゃねーのか、あの男の娘。まずもって社会民主主義的な政策が古代ローマには合わなかったんだろうけど、ドストレートにあっぴろげなのはどうよ。……ネロもカリギュラも似たようなもんか?
「別に
「うん。ほんっとよろしくなかった。てかちょっと脳みそぐちゃぐちゃになった。責任取れー」
「どうやってだよ」
「んー。慰めックス?」
「やめんか」
「なんでさ。散々ヤリまくってたじゃん。非童貞だったの地味にショックだったんだぞアテシ」
「人格というか魂が俺として創造されてからは経験無いわ!人は経験に紐づく記憶によって人格を成立させる!つまり俺はまだ童貞!オーケー⁉」
「ううん、オッケーじゃないよ?そりゃー引く手あまただもんねー、そんなもん持ってたらねー?」
クッソ!何で今日に限って食い下がってくるんだコイツ⁉
————何でこんな問いかけで、心の中の靄のような痞えが取れたんだろう?本当ならば、この程度で私の憎悪が止まるわけがないのに。
————目を背けたいのに、目を離せない。
————彼の存在そのものが、私の心を搔き乱す。
————
————
————
————顔が
————憎たらしいくらいに、■■しい。
————ああ。私の心の秘所に、あなたというものを捩じ込まないで。
————嫌だ。止めて。怖い。私の嫌いを裏返しにしないで。
————これ以上、私の在り方に触れないで。これ以上、私の価値観を歪めないで。
————ただの、
■
時は流れて、1月31日。いや、日付が変わって2月1日の深夜。
流石というかやはりというか、遠坂凛はうっかり陣を踏んで英霊召喚を行ったからか。上空から降って来た英霊のせいで、遠坂邸の屋根がブチ抜けた。ナンデサー!?という声が聞こえた気がした。
「うわぁ……酷いマスターだね。敵だけどご冥福をお祈りいたします」
「死んでない死んでない」
ノートパソコンのドローン映像を俺とバーサーカー、二人で見る。が、最近パートナーとの距離感をお互いに計りかねているというか。彼女もどことなくよそよそしい。表面上はいつも通りなんだが、そうか、やはり
「で、遠坂のサーヴァントは何じゃろなっと」
そう言って、バーサーカーはPCのウィンドウをズームし、アトラス院謹製のアプリケーションソフトをオンにした。
今操作しているドローンに内蔵されるカメラは、英霊のステータスを分析する機能が搭載されている。それは
このドローンが透視できるのは、サーヴァントが保有するスキル群である。ある意味ルーラークラスにも似た力であるが、こちらは科学的なアプローチによって対象を分析する演算機。なんと、『人を騙すための隠蔽能力もエレクトロニクス故に無効化する』ことが可能な、破格の性能のフォトニック機構であった。ようは超単純化した、現代科学で再現された劣化版ムーンセルなのである。
……ほんと、機能一つだけに絞っただけのものとは言え、アトラス院おかしいな?この世界が発展しすぎてんのか、それとも元々このスペックの奴らがゴロゴロいるのか?怖っ……。
もちろん、こんなオーパーツを使うのにノーリスクであるはずがないのだが。幾らアトラス院でも、演算機を稼働させるためのエネルギーリソースの問題が解消できなかった。簡単に言えば分析に莫大な魔力を食うのだ。なんと一時間の稼働に、令呪一画分という高燃費である。俺以外だと使えんな、これ……。
「えぇっと……何、このサーヴァント?」
「成る程。
だって、これだぞ……。
クラススキル
偽装工作B+
単独行動B
道具作成(剣)EX
保有スキル
心眼(真)EX/偽装時:心眼(真)B
鷹の目B+/偽装時:千里眼C
回路接続EX/偽装時:魔術C-
……なんか、聖杯探索の世界線を通過なされてませんかね。あんた。
ちなみにリリスとの会話で話題に上がったヘリオガバルス云々が出たトライアルシステム・グレイルウォーPPMの参加メンバーはこんな感じ。
アダム・ルリア・アシュケナジー
アーチャー:ピタゴラス
マリー・キルシュ(第三次聖杯戦争時、間桐から逃れた娘の子孫)
ランサー:ラ・イル
ラニ=Ⅵ(ラニシリーズのホムンクルス)
バーサーカー:ヘリオガバルス
ライノール・グシオン(アダムの学友。この聖杯戦争の後、ある理由で自殺)
セイバー:アルテラ
ペーパームーンセル中枢
キャスター:アルキメデス
アーチャー
真名:ピタゴラス
性別:女性(オリンポス十二機神ヘルメスが機体をカスタムした結果こうなった)
身長:162㎝
体重:??㎏
出典:史実、ギリシャ神話
地域:ギリシャ・イオニア地方サモス島
属性:混沌・中庸・人
ステータス
マスター:アダム・ルリア・アシュケナジー
筋力:C
耐久:C
敏捷:B
魔力:B
幸運:B
宝具:A
クラススキル
対魔力B
単独行動A
忘却補正EX
保有スキル
神性D+
万物は数なりA-
天球の音楽B
アイタリデス転生体B
宝具
未来測る飛翔の鏃(アバリス・ヒュペルボレオス・アポローン)
ランク:A
種別:対人宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人
追憶宿る聖域の楯(ロー・エウポルボス)
ランク:B
種別:結界宝具
レンジ:1
最大捕捉:1人
ランサー
真名:ラ・イル(エティエンヌ・ド・ヴィニョル)
性別:男性
身長:156㎝
体重:49㎏
出典:史実
地域:フランス
属性:中立・中庸・人
※片足を負傷する前の少年期を全盛期としているが、びっこ引いてる。敏捷性には影響がない。
ステータス
マスター:マリー・キルシュ
筋力:B
耐久:C
敏捷:A
魔力:D
幸運:B
宝具:B
クラススキル
対魔力B
保有スキル
憤怒の化身A
略奪B
軍略B+
王侯に非ず公伯に非ずA
宝具
神よ汝が我ならば、我が望みを我が為に(セイント・ウォーオーダー)
ランク:B
種別:対軍宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1人
バーサーカー
真名:ヘリオガバルス(マルクス・アウレリアス・アントニヌス・アウグストゥス)
性別:男性(男の娘である)
身長:159㎝
体重:51㎏
出典:史実
地域:ローマ
属性:混沌・悪・人
※紫の服を着た姿は皇帝に即位した当時のもの。ローマ史上最悪の皇帝は永遠の14歳。
ステータス
マスター:ラニ=Ⅵ
筋力:C
耐久:EX
敏捷:D
魔力:C
幸運:C
宝具:B
クラススキル
狂化EX(C相当)
騎乗B
保有スキル
皇帝特権EX
太陽神の加護(独)A+
被虐体質A+
無辜の怪物(偽)A+
※知らない逸話が滅茶苦茶ついてる……と本人談。でも高度なNTRプレイ等は本当らしい。
宝具
征服されざる黒陽の神晶(バエティルス・ソル・インウィクトゥス)
ランク:B++
種別:対人宝具
レンジ:1~50
最大捕捉:500人
揺蕩う太陽の薔薇神殿(モンス・パラティヌス・エラガバリウム)
ランク:C~A
種別:対陣宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人