俺がメディアさんから礼装を受け取り、一週間が経った。俺たちは今、東京で買った自動車に乗り、高速道路で西へと向かっている。
「んーッ!サービスエリア着いたー!あ、マスターお土産買って良い?」
「ああ三千円やるよ。好きなの買ってこい」
「ちぇー、けちんぼ」
てててててー、と小走りで店内を駆けていく
「……あー、もしもし。
『なんだ、アダムの爺さんかい。何か用か?』
電話口から聞こえた厳めしい声。日本から遠く離れたルーマニアの地でも煙草を燻らせているのだろう。狭い場所にいるのか、彼の言葉はどこかくぐもっている。
「爺さんて。体感的には百年ひと昔で、老いた気はしないんだが」
『何言ってんだ。あのダーニックよりも年上だろうがアンタ』
「……まぁ、それは事実だ。ところでトゥリファスにいるんだろ?一つ聞きたいことがあってな……今大丈夫か?」
大丈夫じゃない気がするがな。この長期間トゥリファスにいるという時点で予定外も良い所、普通じゃないはずだ。
『あー……、こっちは聖杯戦争に巻き込まれてな。あまりに手間な依頼は今受け付けてねぇんだが。ほら数か月前、こっちがきな臭いって話、あったろ。その調査に赴いたら————(おいマスターなにボサッとしてんだよ!なぁ外出ようぜ外ぉ!)……この通りだよ』
「ああ、成る程。そっちもマスターになったのか……」
いやぁ、運命的にそうなると思ってたけどな?
『そっち
「その通りだ。で、聞きたいことなんだがな————」
「————ルーマニアに『プレラーティ』がいるって目撃情報、あるか?」
『……ああ。こっちに居やがったぜ、あの老害』
……うっわ。獅子劫、お前大丈夫かコレ?
『どうやらここ、トゥリファスの聖杯もヤツの融資だ。冬木の大聖杯に匹敵する代物をプレラーティは用意したらしい、英霊が七騎呼び出されている』
そんなもんどこに隠し持ってたんだ、あの神霊崩れ。————いや、『あの系列』の神霊だからか?だとすると、願望機として機能しそうなのって……、まさか
「————マジか」
『マジだよ、はぁー……』
「あー……分かった。なら何が何でも生き残れ。そいつがいるなら、トゥリファスの聖杯も本当に願いが叶うか眉唾もんになって来た」
『そうさせてもらう。ったく、セイバーを宥めるのも頭が痛い。お互い健闘を祈るぜ。じゃあな』
————ルーマニアに召喚された英霊七騎、それと……。多分零番目の英霊、呼び水として召喚されたエクストラクラスのサーヴァントがいるはずだろう、これ。スノーフィールドの実験場か?
「————。仕事してくれよ、抑止力……」
「ただいまー……え、どしたのマスター。どうして知り合いに電話かけただけで、そんなに疲れた顔してんの?」
岡山名物のキビ団子を齧りながら車の中に乗り込んできたバーサーカーは、俺が浮かべた渋い表情に気が付いたらしい。
「……何でもない。ただ、ままならないなぁと思っただけだ」
くそ、あっちこっちで大変なことになってるな。やるせない胸のもやもやを振り払うために、俺は乗った車のアクセルをベタ踏みする他無かった。
■
陽が沈み出した刻限。俺は泊まることになったキャンプ場の片隅で、こちゃこちゃと魔術や武器の仕込みを行っていた。人除けの結界を張ってはいるが、このキャンプ場に人がいないのは有難い。果物や花の種、葉にシジルを刻んでいくのに、豊かな自然環境が補助となる。
「……ねぇ、これって何て玩具?」
隣にはそれを面白そうに見るバーサーカーがいる。彼女は玩具を与えられた子供のように、興味深そうに目の前に広げられた道具に視線を向けていた。
「ん?このカメラ付き偵察機か?これで撮影した英霊のステータスを写真越しに測定できる優れものだ。アトラス院という魔術結社にいる知り合いが作ってくれた。戦地で何度も使えるかどうか分らんが。こうやって飛ばすんだが……」
スクリーン付きコントローラーを起動させ、プロペラを稼働させる。すると、ふわりと無音で空に飛び立つアトラス院製高性能ドローン。光学迷彩と気配遮断機能を科学的アプローチで再現したこれは、恐らく2020年代後半になっても一般流通することはないだろう。第五次聖杯戦争ではなおさらだ。
……アトラス院で不用意に『便利な道具作りたいな(意訳)』なんて言ったりしたら、言い出しっぺの法則に引っかかってしまった。色んなアイデア出したら、結構未来を先取りした気がするぞ。それで良かったのか、シオン・エルトナム・ソカリス。
「へぇー。面白そう」
「やってみるか?」
「え、いいの。アテシ、ラジコンカーとかやったこともちろん無いけれど?」
「習うより慣れろってやつだ。はい」
今後の出来事次第では、こいつが冬木の聖杯戦争で使用することもあるかもだし。今のうちに慣らしておいて損は無い。
「おーし……よいしょー!いよっし!見てマスター、後方宙返りできた!」
「おー……え、すごっ」
……、存外楽しんでるな。扱い方は簡略化しておいたけど、バーサーカーの翼は滑空に向いた構造だし、体感的に分かりやすかったのかね。
そんなこんなで、夜も更けてきた。さて、一通り今日の分の仕込みは済んだところで、バーサーカーに一つ頼み事をお願いしよう。
「バーサーカー、リリンについて相談したことがあっただろう」
「ん、あったねー。何か目途が付いたの?」
「ああ」
その為に、まずは……。
「霊体化してくれないか、バーサーカー。そっちの方が、創って開けた門を通しやすい」
そらよっと。フィンガースナップを一つ、パチンと。
「へっ……?」
「あとは、
バーサーカー……リリスは、瞳を開けた。
「ここは————」
星が瞬く、夜の帳の下にいた。
彼女の目の前に広がるのは、熟れた果実が垂れ下がり、生命力に満ちた蔓が巻きつく数々の大樹。苔むした岩の隙間から幾つもの木の根が隆起し爬行する大地。倒木の沈んだ
木々に茂る葉も、足元の小さな花も、しっとりと水気を含んだ苔も、仄かな淡い光を灯して、拍動するように点滅する。小さな光の球、細かに輝く粒子が植物全てから漏れ出し、天へと昇り消えていく。その光景は大自然のように美しくも冷たく無慈悲で、哀しげでありながらも気高くあった。
そこは、群体なれども、一個体の生命として生きているような……。
「
リリスの背後から声が聞こえた。
「だが。それを、アダム・ルリア・アシュケナジーは世界ではなく体内に、心象風景の一つを加工して展開している」
彼女が振り返った先にいたのは、何処かの民族衣装を着用する、緑髪に空色の眼をした男だった。
「ようこそリリス。俺の内なる世界、『
「……マスターの、アダムだよね?」
顔の造作も、纏う雰囲気も変わっていないが、何処か違う。アダム本人であることは明白だが、それだけではないような……————。リリスはそう思わずにはいられなかった。
「此処にいる俺はアダム・ルリア・アシュケナジーの頭脳体、オム・ファタールとでも言うべきものだ。この庭園の管理人にして、マクロコスモスに該当する本来の俺と連動しているミクロコスモスの自分だな。ああ、心配するな。俺と外側の俺は記憶も共有している」
案内人の彼は、リリスに果実を一つ投げ渡した。そして、付いてこいとばかりに顎をしゃくる。
「この固有結界は、星の内海の在り方を人間サイズに編み直したもの。疑似的な
「そりゃ、どうも?」
二人は土を踏みしめて、夜の園を歩く。
「ここは花園でありながら農園でもある。周囲から向けられる敵意、呪い、怨念、狂気、憤怒、憎悪、罪……いわば、この世全ての悪性。それを腐らせ、エデンの樹々から落ちた枯れ葉と混ぜて土と成し、全てを糧として別の物に昇華させる。旧きものから新たなものを花咲かせる。それが、アダム・ルリア・アシュケナジーに許された、唯一の魔術だ」
滔々と話すアダムに対し、リリスは何も言わなかった。
「まぁ、まともな昇華魔術とは根底から全く違うがな。モノを改造して新たなモノを生み出すんじゃない。新たなモノを改造する土壌ごと世界を生み出す……随分手間のかかる魔術だろ?それに、チャールズ・バベッジ、エレナ・ブラヴァツキー、ニコラ・テスラ、トーマス・アルバ・エジソン、フローレンス・ナイチンゲール……かつて同年代に生き、人類史に名を刻んだ創るものたち、活かすものたちに比べれば、一目瞭然。一人では何も活かせず、作り出すことができない半端な魔術使い。それが俺だよ」
リリスは何も言わない。それを、優しいまなざしで見つめるのみだった。彼の言葉に宿るのは、自嘲だけではないと知っているからだ。自負という高尚なもので無いとしても、それはとても人間らしい、心の受け入れ方だったから。
死の母として、人を試す悪霊として、ただ黙して彼の隣を歩く。
「————着いたぞ。此処だ」
森の一角にて、二人は足を止めた。樹々の天蓋が無く、闇の中に月光が差す空が見える場所だった。清涼な空気の中に、一本の樹が聳えている。
「ナリーポン、プランタ・タルタリカ・バロメッツ、人面樹、人参果……神や生物が果実として成る植物は世界各地に伝承として存在する。果実が命であるのならば、産み出される道が違えども、それも道理だ。そして、俺の昇華魔術はこのエデンの園の植物、全てに根付く」
己が魔術をサーヴァントに開示する。それが、魔術師としてどれ程常識外れなのか、リリスは知らない。だが、それが最大級の誠意だとは理解できた。
「……リリス。お前が魔力の胎から生み出すリリンたち、その在り方を昇華させる。あー……それでだな、神が成る果樹を子宮代わりにするんだが。少し、腹部を触らせてもらって良いか」
「……優しくシてね?」
「そーゆーんじゃ……、いや、どうだろうな……」
裾の長く、袖口の広い衣服から手が伸びる。ばさり、と羽織っていた上着を開け広げるリリス。乳房や鼠径部を布切れで覆うだけの姿で、彼の行いを受け入れた。
「『ויתפרו עלה תאנה』」
天獄の門を開く為の
「『אזוב』」
魔術回路は根のように、接触している女体の奥深くまで分け入っていく。
ぞぶり、ぞくり。リリスは異物感に眉をひそめた。肌が優しく蹂躙されていき、練られたオドと英霊のエーテルが絡まり合う。
桃色の刺激が背骨の中をゆっくりと昇っていくような、暖かくも湿り気に満ちた淫靡で心地好い痛み。思わず、男の腕を握り締める。
「んッ……お、あっ……!あ、あ、は————あ————⁉」
自覚は無かった。故に驚く。自分の口から、このような声が漏れ出ていたことに。
「っ、~~~……、くぅ……ッ、はぁッ、は————ぁ、えあ?……終わった?」
気が付けば、アダムは腹部から手を離していた。
「あー……。えっちっちノルマ達成ってことで、良い?」
「……、とりあえずはな。今のでお前の在り方をこの樹々に植え付けた。まぁ流石にサーヴァントの全能力を丸々転写できはしない。できたのはリリンを生み増やす機能のみだ」
ほんのり上気した頬を見せたくないのか、そっぽを向きながら説明をする男。
「この樹とパスが感じられるか。この樹は、エデンの園にあった智慧の果実を模している。つまりはクリフォトだ。リリス、お前の『
「……うん。そうだね。マスターとの繋がりもより強固になったみたい」
いつの間にか樹の下に出来ていた石碑には、絡みつく蛇が刻印されていた。ぺたりと樹皮を手で触れて、魔術的な繋がりを確かめ合うリリスは気付く。
「!……これ、リリンを創るのに使う魔力も、効率化されてる……?」
「ああ。それと、アトラス院で学んだ基本思想の秘匿技能を組み込んである。『分割思考』の補助機能も内包する智慧の果樹だ、蔵知の司書スキルなどと同様の効果を得られるだろう」
魔力の熾りが樹に集められていく。しかし、通常通りにリリンを生産する為の量ではない。その十分の一にも満たない量である。
————緑生い茂る樹に、
「一度にリリンをこれだけ生めるなんて……。でも、こうもアテシと同じ顔が
巨木から幾つもの房として垂れ下がる
「とりあえずリリス。ご苦労様だな。付き合わせて悪かった」
「ううんオッケーオッケー、大丈夫だよー。あ、でも何か欲しいかも。ご褒美、みたいなー?」
「それは外にいる俺が用意している。アップルパイを買っておいたからな」
「やりぃ♪じゃ、まったねー」
「おう。門は開いておいた。本日の所は楽園追放、ってやつだ。また来い」
「え、何それアダムジョーク?生憎アテシ、イヴじゃないんでー、ははっ」
リリスは再び霊体化すると、固有結界の門を辿って現実世界へと戻っていった。
「……行ったか。じゃあ、リリンのステータスは、っと……」
バーサーカー(アルターエゴ)
真名:リリン(リリスの娘)
ステータス
マスター:リリス
筋力:D
耐久:B
敏捷:B
魔力:A
幸運:C
宝具:?
クラススキル
狂化EX
保有スキル
神性B
憎悪C
宝具
なし(
「これは……。百貌のハサンの宝具『
アダムの頭脳体、オム・ファタールはこのアドバンテージを有効活用する為に考えを巡らせる。
「これは俺の指揮の腕が問われるな……。いざとなれば、このリリンにメディアさんから貰った礼装の術式を組み込んで、冬木の住人の魔力を吸精させたりもできるだろうが————」
亜種聖杯戦争とはいえ、勝者になった葛木メディアと相談を交わした際の言葉を思い出す。
「まずは冬木の地に入ってからだな」
頭脳体の民族衣装は、大体DJサ●ラ。
※ちなみに劇中で言ってたトゥリファスの聖杯
プレラーティ……というか彼女の本来の姿の頃から持っていたピトスの試作モデル、「偽・この世全ての贈り物」が大聖杯の代わりとなっている。実はこっちも冬木の汚染聖杯並みのクソヤバ案件。これが失敗したらフランチェスカはスノーフィールドに高跳びする。
プレラーティ「冬木のアルトちゃん見たかったなぁー……」
臓硯&アダム「「来るなボケ」」
参戦者
獅子劫界離
セイバー:モードレッド
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア
アーチャー:ダビデ
ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア
ランサー:ヴラド三世
レティシア
ライダー:ゲオルギウス
薄井緑子(亜種聖杯戦争で勝利し受肉した源義経)
キャスター:常陸坊海尊
六導玲霞
アサシン(バーサーカーの
カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア
バーサーカー:坂田金時
フランチェスカ・プレラーティ
ルーラー:パンドラ
なお、獅子劫さんはフィオレ、カウレス(&ムジーク・ユグドミレニア系の面々)とレティシアの協力の下、ルーマニアの聖杯戦争を何とか勝ち抜けします。
ライオンGO「っしゃあおらァ!」