ただそれだけ。
哀しい………
「ボクのターン!ドロー!」
先行を獲り、デッキから勢い良くカードを1枚手札に加える。
…よしっ、イイ引きだ。
コレなら最高の出だしになる!
「メインフェイズ!1000LP払って手札から魔法カード『簡易融合(インスタントフュージョン)』を発動!EXデッキからレベル5以下の融合モンスターを特殊召喚できる!」
ボクはデュエルディスクのコンソールを操作して、EXデッキから対象となるモンスターを出力する。
「召喚するのはコイツだ!来い『プラグティカル』!!」
『プラグティカル』
星5/地属性/恐竜族/ATK1900/DEF1500
LP4000→3000
「更に!自分フィールドの恐竜族モンスター1体をリリース!手札から魔法カード『大進化薬』を発動!相手のターンで数えて3ターンの間、ボクはリリース無しで恐竜族の上級モンスターを通常召喚できるようになる!」
フィールドに出現したツノの生えたオオトカゲを、そのまま墓地に送り、コストに替える。
コレで、切り札が出せる………!
「『大進化薬』の効果で、ボクは手札から最上級モンスターを召喚するッッッ!!」
口元に笑みを浮かべ、敢えて焦らすように手札をなぞり、"ソイツ"をディスクに叩きつけるように出す。
「地を割り!砕き!蹂躙せよ!来いッッッ!!『究極恐獣(アルティメットティラノ)』ッッッ!!」
『究極恐獣(アルティメットティラノ)』
星8/地属性/恐竜族/ATK3000/DEF2200
(1)自分バトルフェイズに攻撃可能な『究極恐獣』が存在する場合、『究極恐獣』以外のモンスターは攻撃できない。
(2)このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。
そそり立つ威容!鈍く輝く鱗!黒い巨体が発する咆哮に全身に戦慄が迸る!!
勝った………!!
負ける筈が無い。知らずニヤけ、舌舐めずり。
この怪物の放つ圧力に、嘸や怯えているだろうと“アイツ”の方を見た。
「ふぅん」
無気力な眼差し。
ありえない。
それはボクが期待した恐怖におののく醜態ではなく、完全な“無”
勝ちだとか負けとかじゃない。
全く興味を感じていない表情だった。
「………あー、あ。終わった?」
コチラの視線に気付いたのか、やる気無さげな声で訊ねてくる。
一瞬で頭に血が昇った。
「~ッッッ!!!更に!手札の永続魔法『一族の結束』を発動!フィールド上のモンスターの攻撃力は800アップだ!」
『一族の結束』
永続魔法
(1)自分の墓地の全てのモンスターの元々の種族が同じ場合、自分フィールドのその種族のモンスターの攻撃力は800アップする。
「あーなるほど。『大進化薬』でコストを支払ったのとシナジーを狙ったのか。イイじゃん」
「………ターンエンドだ」
したり顔で頷くアイツを殴り付けたい衝動を隠し、ボクは1ターン目を終える。
手札に残った1枚は『暗黒恐獣(ブラック・ティラノ)』。
本当は『大進化薬』の効果はコイツに使う予定だったが、最初のドローで『究極恐獣』を引けたので、そちらを優先した。
コイツは次のターンに出そう。
「ふぅん。じゃ、今度こそ此方のターンだな。そうだよね?」
余裕そうな顔に心底ハラワタが煮えくり反る。
「………おい、ボクが勝ったら本当に何でもするんだな?」
「んー?ああ、ほんとほんと。キミが勝ったら“何でも”してあげるよー」
頬に指を宛て、どうでも良いように応える。
「レアカードが欲しいなら何枚でも、お金が欲しいなら幾らでも、それとも―――――」
悪戯っぽく笑みを浮かべ、スカートの裾を僅かにたくしあげる。
「―――――もっと“刺激的なの”がお好みかなあ?んん?」
左の腕を回し、わざとらしく胸を持ち上げて揺らしてボクに見せつけてくる。
「へへ、へへへ」
ボクは知らず下卑た声を出していた。
思わず喉が鳴り、唾を飲み込んだ。
アイツは蠱惑的な唇の端をぺろりと舌で舐めた。
「おやおや、その歳で女子高生のおっぱいに興味深々とは。なかなかのエロ戦車じゃあないか。まあもっとも―――――」
糸のように細められていた目が、猫の眼のように大きく見開かれた。
「キミに次のターンなんて来ないワケだけど」
「は?」
今、何て言われた?
次の瞬間、アイツは左手のデュエルディスクを構え、勢い良くカードをドローした。
「take my turn。ドロー」
「プライマー・オーティスのメインフェイズ。私は手札から『サイバー・ドラゴン・ネクステア』を通常召喚!!」
『サイバー・ドラゴン・ネクステア』
星1/光属性/機械族/ATK200/DEF200
「さ、サイバー・ドラゴン!?お前、まさか『サイバー流』!?」
驚愕するコチラの動揺を無視するように、アイツはどんどん手を進める。
「サイバー・ドラゴン・ネクステアのモンスター効果を発動。このカードを召喚・特殊召喚したメインフェイズに、手札からモンスターカードを1枚墓地に送る。」
「このターン中、ネクステアのカード名は『サイバー・ドラゴン』になる。」
「私は手札の『サイバー・ドラゴン』を墓地へ送り、ネクステアは『サイバー・ドラゴン』になる」
「更に、ネクステアの効果で墓地の攻撃力2100の機械族『サイバー・ドラゴン』をフィールドに特殊召喚」
『サイバー・ドラゴン』
星5/光属性/機械族/ATK2100/DEF1600
「続いて、自身のフィールドに機械族モンスターが居る時、手札から『サイバー・プロセッサー』を特殊召喚。サイバー・プロセッサーの効果発動。フィールドのカード1枚墓地に送ることで、このカードはこのターン中カード名が『サイバー・ドラゴン』になる」
『サイバー・プロセッサー』
星5/光属性/機械族/ATK1500/DEF1600
「私はフィールドのサイバー・ドラゴンをリリース。プロセッサーはサイバー・ドラゴンになる」
「その後、自身の墓地に『サイバー・ドラゴン』が存在する時、そのモンスターを特殊召喚する」
「甦れ、サイバー・ドラゴン!!」
何が起こっている?
まるで意味が分からない。
一瞬でフィールドに『サイバー・ドラゴン』が3体並んだ?
なんだそのインチキ効果………
「私は手札から『レジェンド魔法』、『パワー・ボンド』発動」
『パワー・ボンド』
レジェンド(レジェンドカードはモンスター・魔法・罠、それぞれのカテゴリで1種類かつ1枚ずつしかデッキに入れる事が出来ない)
魔法
自分の手札・フィールドから素材モンスターを墓地に送り、機械族フュージョンモンスターをフュージョン召喚する。
このフュージョンモンスターの攻撃力は[そのモンスターの元々の攻撃力]だけアップし、このターンのエンドフェイズに、自分は[この効果でアップした攻撃力の数値]だけLPにダメージを受ける。
空間が歪み、渦巻き、フィールドに並んだ3体のサイバー・ドラゴン達が飲み込まれてゆく………
収束する歪みを背に、アイツは濃紫に縁取られたカードを掲げる。
「時を越え、異なる空を渡り、因果の律を破却するっ!!」
カードが輝き、光がフィールドを引き裂く!
「伏して拝み、仰ぎ見よ………シロガネの皇帝、その羽ばたきをッッッ!!!」
「フュージョン召喚!!」
3対に並んだ、鬼灯色の眼(まなこ)がアギトを拓いた。
「貫く革命!『サイバー・エンド・ドラゴン』ッッッ!!!」
『サイバー・エンド・ドラゴン』
フュージョンモンスター
星10/光属性/機械族/ATK8000(4000)/DEF2800
「うぅっ、あああ………!」
狼狽える。
聞いてない!ありえない!
サイバー流なんて、それも1ターンで『サイバー・エンド・ドラゴン』を出せるレベルの決闘者なんて………!
全力だったのに、負けるワケないと思ったのに………!!
なんで………!!
「全力だからさ」
「は?」
「『相手の全力には、それを超越する全力で迎え撃つ』それが、『サイバー流』の『リスペクトデュエル』、だろう?」
嘲笑。
無機質だったアイツの目は嘲りに揺れ、口は三日月を描くように裂けていた。
「『サイバー・エンド・ドラゴン』の永続効果!サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃は貫通する!!」
「プライマー・オーティスのバトルフェイズ!!」
三つ首の龍が牙を剥いた。
「サイバー・エンド・ドラゴンで、キミの究極恐獣に、攻撃!!」
巨翼の巻き起こす疾風が、目も眩む閃光を宿した。
『超越のストリデント・ラッシュ・バースト』
豪砲、轟音。
サイバー・エンド・ドラゴンの放った光撃に洗い流されるように、ボクの究極恐獣は断末魔も無く、呆気なくフィールドから消滅した。
LP3000-4200→LP-1200
デュエルディスクがゲームエンドを告げる。
負けた。
なんだコレ。
「ふぅん、どうやら私の勝ちのようだね」
コツコツと、小気味良く踵を鳴らしてアイツが近づいてくる。
「さて、それじゃあお待ちかね。嬉し恥ずかしのアンティTIMEとイこうか♥」
「あ?」
アンティ?
なんだそれ、聞いてないぞ?
「いやいや、なにすっと呆けてんのさ。私はキミに言った筈だよ。『負けたら“何でも”する』ってね」
クツクツと忍ぶように喉を鳴らす。
「ゲームはイーブンでないと詰まらないだろう?当然、私がBETしたのと同じだけ、キミにも賭けて貰わないと、ね?」
そう言い手を翻す。
地を揺らしてナニか大きな遺跡のようなモノが地中から現れる。
「そうだなあ、キミにやって欲しいことって残念ながら特に無いんだよねえ」
「けど、そうだなあ。デュエルをして、ちょっと喉が渇いたかな。そう言えば、『この世界』には、カップ一杯3000¥の高級珈琲『ブルーアイズ・マウンテン』って飲み物が在るんだって?」
口の端を舐める。
ボクを見る視線が、その意味を変えた。
まるでクラスの女子達がスイーツを前にしたような………
「決めた、キミは罰ゲームとして『アツアツのブルーアイズ・マウンテンが入ったポットに成れ』」
遺跡が、いつの間にか目の前に屹立している。
そのクリスタルが光を放ち、そして………
ボクの意識は途絶えた。
――――――――――――――――――――
「あーあー、聞こえてるかな?コチラ、プライマー・オーティス『劉 彩葉(リウ サイハ)』」
「『独立次元』へのオーティス因子転送に成功」
「『コチラ』での私の身分は、アカデミアと呼ばれる特殊な進学校に所属する女子高生らしい」
「調査の結果、コチラの次元は『第7世界』とほぼ同水準の文科レベルであり、我々が移住し適応するのに容易な環境であるようだ」
「また、調査中、偶発的だが現地文明人とコンタクトが発生。同地のルールに基づき、決闘を行った」
「我々のタクティクス及びカードプールは現地でも充分に通用すると判断した」
「遺跡の稼働効率も安定、『知性体を無機物と置換する』機能も試用した」
「………いや、地球起源種以外の知性体には遭遇していない」
「六葉町及びゴーハ市、王道家やギアカンパニーなどの『第7世界』に由来する関連項目も確認できていない」
「私、『プライマー・オーティス(独立したオーティス)』は提起する」
「この次元は我々の移住先として、侵略するのに最も適していると判断する」
――――――――――――――――――――
「ふう」
公園のベンチに腰掛け、アツアツの珈琲が入ったティーカップに口着ける。
まずは一口、素の風味を味わう。
旨いッッッ!!
鼻腔に抜ける爽やかな酸味と、舌先に拡がるまろやかな苦味!
そして喉越しに感じる深いコク!
GOOD FEELING!
まさしく最高級!
取り合えず1杯、飲みきって。
「おかわりだ!」
2杯目をカップに注ぐ。
ふむ、しかし1杯目はストレートを試したのだから、この2杯目はミルクも楽しみたい。
うぅむ、ミルク、ミルクか………
ミルクは用意してないな。
「私はまだ母乳が出るような身体でもないしなあ………」
「何を行ってるんだ、お前は」
「おや、リョーくん」
思案していると、コートを着た長髪の青年に声をかけられた。
サイバー流の同輩、丸藤くんだ。
「公衆のど真中で不審な発言は控えろ。師範にも注意されただろう」
「ふむん、丁度良い所に来たね。ちょっと頼みがあるんだけど」
「なんだ?」
「キミ、ミルク持ってない?出来れば恵んでくれると嬉しいな♥」
私がそう言うと、彼は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「お前、そう言う所だぞ」
私はシニカルに笑って見せた。
ああ、侵略戦争。
ひょっとしたら、リョーくんがこの世界の『主人公』なのかな?
それなら私を倒すのは彼かも知れない。
ああ―――
「楽しみだなあ」
『劉 彩葉』/リウ サイハ
日本人、童実野町出身、16歳♀
デュエルアカデミア高等部ラーイエロー所属
サイバー流デュエル道場門下生
最近オーティスの因子に覚醒した。
六葉町・ゴーハ市にもモブとして存在していた。
プライマー(独立した・単独の・区別される・似て非なる)