「英雄伝説」の残る世界にTS転生した   作:TF最新作待ってます

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#1 人は私を、“シンクロハンター”と呼ぶ(※呼びません)

 

 

 ある者は言った。

 

 ──D・ホイールがシンクロ召喚時、起こす波長がモーメントとリンクしている、と。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

> C:\DEL_SYS\agents\android\units\ANASTASIA.exe --boot

[SYSTEM]:ユニット《ANASTASIA》、起動シーケンスを開始

[SYSTEM]:システムチェック……完了

[SYSTEM]:全機能、オンライン

 

 

 意識が浮上する。

 暗闇から引きずり出されるような感覚だった。

 

 視界がぼんやりと滲んでいる。天井が見えた。白く無機質なそれは、見覚えのないものだった。光源はやけに強く、肌にじんわりとした熱を感じる。

 

 ゆっくりと瞬きを繰り返しながら、思考を整理しようとする。しかし、記憶は靄がかかったようにぼやけていて、何かがおかしいという違和感ばかりが膨らんでいく。

 

 かすかに冷たい感触が背に伝わる。どうやら私は硬質な手術台のようなものの上に横たわっていたらしい。息を整えながら、まずは手を動かしてみる。指先がなんだか細い気がする。肌も白くて滑らかだ。違和感に眉を寄せるが、なぜそう思うのかがすぐには分からない。

 

 ゆっくりと体を起こし、足を下ろそうとする。その瞬間、さらなる異変に気づいた。

 

 目線が低い。

 本来の自分なら、もう少し高い位置から世界を見下ろしていたはずだ。けれど、今の私はそれよりも明らかに背が低い。

 

 さらに、重心が妙に不安定だ。バランスを取ろうとわずかに身じろぎすると、胸元に違和感を覚えた。視線を下ろせば、服の布地が盛り上がっている。そこには、明らかに自己主張の強い膨らみがあった。

 

 何だ、これ……?

 頭がついていかない。身体の違和感はそれだけではない。肌に触れる衣服の感触も、どこか馴染みがなかった。

 

 白い──滑らかな生地。袖口や胸元に繊細な装飾が施されている。ドレスのような……けれど、機能性のある衣服。それが今の私の身を包んでいた。

 

 戸惑いながら周囲を見回していると、不意に声が響いた。

 

 

「目が覚めたか。調整は成功したようだな」

 

 

 驚いて顔を上げると、質の良いスーツを着た壮年の男がこちらを見下ろしていた。

 よく通った鼻筋が印象的な気品漂う顔つきをしているが、逆にそれが「この男を信用してはいけない」と直感させる怪しさを醸している。

 

 

「……ここは?」

 

 

 自分の声に、さらなる違和感を覚えた。高い。澄んでいる。

 こんなの、私の声じゃない。

 男は私の戸惑いを意に介さず、淡々と告げる。

 

 

「お前は、AR-Prototype:Anastasia(アナスタシア)──私が創り上げた最新型のアンドロイドだ」

 

 

 アンドロイド。信じられない言葉だった。だが、まぶたを閉じて自分の内側に意識を向けると、人間だった頃とは異なる感覚がある。体のどこかに血が通っているような気がするのに、なのに心臓の鼓動を感じられない。体温も、実際の肌のぬくもりというよりは、それを模倣した熱源のようだった。

 

 

「私が……アンドロイド?」

 

「そうだ。目覚めたばかりの今はまだ記憶が不安定だろう。だが心配はいらない。すぐに慣れる」

 

 

 そんなことを言われても、混乱は収まらない。

 

 ふと、視界に前髪が覆いかぶさった。柔らくて、繊細な、亜麻色の糸の束……こんなに髪が長いのも初めてだ。改めて胸元に視線を落とすと、やはり柔らかそうな膨らみがある。見間違いでも気のせいでもない。

 

 信じたくないんだけど、やっぱり私、女になってるよね……?

 

 ショックだった。けれど、今の状況ではそれを口にすることすら躊躇われた。訳の分からないことを言って、この男の機嫌を損ねるのが怖かったからだ。

 

 

「お前には重要な役割がある。『組織』の研究成果の結晶として、この世界にて崇高なる使命を果たすのだ」

 

 

 男は得意げに言う。

 

 

「……使命?」

 

「そうだ。だがまずは訓練だな。基礎動作のテストと戦闘演習、そして何より……()()()()の準備をしておくように」

 

「へ? でゅ、デュエル……?」

 

「……『デュエルモンスターズ』のことだ。いつまでも呆けてもらっていては困るな」

 

 

 思わぬ単語の登場に、思考が凍りついた。

 

 デュエル──デュエルモンスターズ。

 

 その言葉が意味する事物に、私は確かな心当たりがある。

 前世で慣れ親しんだ、()()カードゲームだ。

 

 でも、まさか、ありえない。

 だって、もしこの男の言うことが私の想像する通りだとしたら──、

 

 

「デッキは自分で構築したまえ。詳細はデータバンクにある。では、私はしばらく席を外す」

 

 

 そう言い残し、男は背を向ける。私は呆然と彼の姿を見送った。

 

 ……デュエルモンスターズ。

 

 それは、遊戯王カードのアニメ作品内での呼称だ。

 なら私は、遊戯王の世界に迷い込んでしまったとでもいうのか?

 

 しかも元男なのに、なぜか女の子型のアンドロイドとして? ……嘘でしょ??

 

 起き抜けに襲い掛かってきた急転直下の事態、頭を抱える私。

 助けを求める私の心に応えてくれる誰かは、当然ながらどこにもいなかった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 あれから1か月と3日。

 

 目覚めたばかりの頃は、信じたくなかった。

 けれど、今はもう疑いようがない。

 

 私がアンドロイドで、この世界が──遊戯王5D'sの世界だということ。

 

 最初に「まさか」と思ったのは、「ネオ童実野シティ」の名前を聞いた時だった。

 それは私の記憶の中にある「遊戯王5D's」に登場する都市の名前と一致していた。

 

 次に確信へと変わったのは、私を生み出した組織のデータバンクだった。

 コンソールを開いて表示されたホログラムに映っていたのは、「プロデュエリストの年間獲得賞金ランキング」。

 ──プロデュエリスト。

 「デュエルモンスターズ」がただのカードゲームではなく、スポーツやエンターテイメントとして完全に社会に根付いている証拠だった。

 賞金額も異常なほど高い。一般の労働者の生涯年収を、ほんの数か月で稼ぎ出す者すらいるらしい。

 

 極めつけは、「ライディング・デュエル」という単語だ。

 D・ホイールと呼ばれる二輪型の乗り物に乗りながら、デュエルをするというシステム──。

 

 どこの世界なら、遊戯王カードが「デュエルモンスターズ」の名で世を席巻していて、わざわざ二輪駆動を乗り回しながらそいつで遊ぶのが流行っているというのか。

 こんなの遊戯王5D'sの世界以外にあるわけないだろう。

 

 だけど、だからこそ──違和感があった。

 私はこの世界を知っているはずなのに、私の知っている「遊戯王5D'sの世界」と違う部分がある。

 

 ……何かが、おかしい。

 

 それでも、考え続ける時間はなかった。

 私は、生まれたばかりのアンドロイドで。

 この体に慣れることが、何よりも先決だったのだから。

 

 最初の数日は、ただ自分の体を動かすことで精一杯だった。

 見知らぬ感覚。異常に鋭敏な知覚。制御しきれない演算速度。

 戸惑うことばかりだったけれど、少しずつ慣れてしまった。

 

 それが、私が人間ではなくなってしまったことの証明なんだろう。

 目的のために動作は自動で最適化され、環境変化もデータとして処理できてしまう。

 ()()()()()()作られているのだ。

 

 私は、ターゲットを抹消するための存在。

 私は、敵対者を殲滅するための兵器。

 私は、ただの……道具。

 

 ──そんなものに、思考なんて必要ない。

 自分のものじゃない身体に、そう訴えかけられているように感じた。

 

 けれど、だからこそ、必死に考えようとした。

 私は、一体どこにいるのか?

 なぜ、こんな姿になっているのか?

 

 この1か月、私は断片的な情報を集めながら、自分の置かれた状況を整理しようとしてきた。

 デュエルが重要視される価値観。

 この世界に確かに存在する「ネオ童実野シティ」という都市。

 ライディング・デュエルというルール。

 

 ……そうして私は、この世界の「ある事実」にたどり着いた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「不動遊星……200年前にこのネオ童実野シティに実在したプロD・ホイーラー────」

 

 

 自らのメモリーにアクセスし、表示された情報を目で追う。

 彼の名前を最初に見つけたのは、目覚めてから1週間後のことだった。

 それから何度も、私はこのデータを見返している。

 

 ──不動遊星。それは遊戯王5D'sの主人公の名。

 

 赤き竜に選ばれたシグナーの一人。

 モーメントの生みの親「不動博士」の息子。

 そして、200年前のこの街が輩出した……()()D()()()()()()()

 

 何度確認しても、情報は変わらない。

 この世界の歴史の一部として刻まれている、疑いようのない事実。

 

 だけど、納得できるわけがない。

 

 だって、私が知っている遊戯王5D'sの物語では、不動遊星は世界を股に掛けるプロD・ホイーラーなどではなかったのだ……断じて。

 

 ゾーンたちイリアステルとのモーメントを巡る戦いの果て、遊星は研究者の道を選び取り、モーメント制御システムのメインフレーム「フォーチュン」を作り上げた。

 そうして、彼の時代から200年後に訪れるはずだった人類滅亡の未来は、回避された──それが原作のストーリーのはず。

 

 ならば、今の私はどこにいる?

 ……ここは、原作終了後の()()()()()()ではないのか?

 

 最初はそう思った。

 あるいは、そう思い込みたかった。

 

 200年前の記録の中に「不動遊星」の名を見た時、最初は驚いたものの、すぐに納得しようとした。

 これは原作の未来だ。不動遊星が戦い抜き、希望を勝ち取ったその先にある世界なのだと。

 彼とゾーンの戦いを目撃して、民衆の心は正しい方へと導かれ始めた。彼の研究活動によって、人類はエネルギー機関「モーメント」との共存が可能になった。

 だから、私がいるこの未来は、きっとその()()なのだと──。

 

 ──……でも、違う。違った。

 

 

【不動遊星:主なデュエル戦績】

・第一回フォーチュンカップ《優勝》

・レジェンド・オブ・デュエリストキングダム《優勝》

・ライディング・イン・ザ・バトルシティ《優勝》

・アメリカ横断ゴールデン・タッグ・トーナメント《優勝》(ジャック・アトラスとのペア)

・ペガサス・J・クロフォード杯 トリニダート・ライディング・デュエル・グランプリ《優勝》(炎城ムクロ、十六夜アキとのチーム)

 

 

 私はこの文字列を知っている。

 原作にて、最悪な形で描写されたこれらを知っている。

 

 それは、ゾーンの回想の中に現れた、英雄「不動遊星」のデュエル記録。

 この世界が原作終了後の未来ならば、あってはいけないはずのモノ。

 

 最終話でのジャック・アトラスとのラストデュエルの後、原作通りに不動遊星がネオ童実野シティに残ることを選択したのならば、決して存在しないはずの()()──。

 

 そうだ──この世界は、イリアステルの介入前の「滅びを迎える未来」そのものだった。

 

 ここにはまだ、イリアステルは存在しない。

 施設のデータバンクで検索しても、ヒット件数は0。

 暗部組織なら名前くらい知っていそうなものなのに……。

 

 そうして私は悟った。

 この世界では、近いうちにモーメントが暴走すると。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 施設の奥深く、「シャフト」と呼ばれる地下区画に、その機体は待機していた。

 薄暗い照明の下、幾重にも組まれた鋼鉄の足場。その隙間を縫うように無数のケーブルが這い、静かな機械音が響いている。整備用のアームが天井から伸び、無機質なコンクリートの床には油の染みが点々と広がっていた。

 

 そして、その中央に鎮座する一台のD・ホイール。

 黒を基調としたフォルムは鋭く、まるで獲物を狙う獣のようだった。

 私用に用意されたモノだ。

 

 ──ハッキリ言って、この世界はクソだ。

 

 私を取り巻く環境はいかにもって感じの悪の組織。

 信頼できる仲間もいないし、ここでの「生」は組織の都合一つで簡単に終わる。

 街を見れば、貧富の格差は広がる一方。弱者は踏みにじられ、強者だけが生き残る世界。

 

 そもそも、未来は滅亡することが決まっている。十数年後には人類のほとんどが消える予定で、どうせそれを止めるのは私じゃなくて、歴史改変後の過去の時代の不動遊星だ。

 

 なのに、私はここにいる。

 

 ここは、原作の続きじゃない。正史通りの滅びが約束された、じきに終わる未来。

 こんな世界で生きて、いったい何が楽しいというのか。

 

 

『そろそろ時間だ、アナスタシア』

 

 

 低く響く電子音が、私の思考を中断させる。

 意識を現実へ引き戻し、メモリーへの接続を切った。

 

 D・ホイールに跨る。

 シートの感触は嫌というほど身体に馴染んだ。最適化されたフレーム、無駄なく配置されたハンドルとペダル──すべてが、私のために調整されている。

 組織が私専用に作っただけあって、まるで最初から私の一部だったかのようなフィット感だ。操るまでもなく、意識するより先に応えてくる。

 これが、私の「相棒」──いや、「枷」。

 

 スロットルを軽く煽ると、エンジンが喉を鳴らすように唸った。

 

 フルフェイスのヘルメットを手に取ると、内蔵HUDが自動で起動し、視界にミッション情報がオーバーレイされる。

 ターゲットの情報、走行ルート、接触予定地点──すべてが無機質なデータとして映し出された。

 

 ──でも、この世界のすべてが嫌いなわけじゃない。

 

 ヘルメットをかぶると、HUDの隅にデュエル記録のログが表示された。

 

 昨日の戦績。勝率。ターン数。

 そして──自分のデッキのカードリスト。

 

 この世界のデュエルは、唯一、私の中で過去と今を繋いでくれるものだった。

 前世で慣れ親しんだ「遊戯王OCG」がその名を変えつつも、この世界に存在する。

 それがある限り、私は「今の自分」が何者であれ、ギリギリ正気を保っていられる。

 

 デュエルの時間だけは、ただ自分のために在れる。

 アンドロイドでも、暗殺者でもない──ただのデュエリストとして。

 

 

「行ってくる」

 

 

 小さく呟き、スロットルをひねった。

 排気音が闇を切り裂く。黒い影は、ネオ童実野の夜へと消えていった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

________________________________________

【調査記録:ネオ・セキュリティ 保安局 事件記録 No.2035-4178】

発行者: ネオ童実野シティ保安局 捜査部

分類: 未解決事件(通称『シンクロ狩り』)

機密区分: レベル2(関係者のみ閲覧可)

________________________________________

事例1

発生日時: 2XXX年 9月12日 22:15

被害者: ネオ・セキュリティ隊員(巡査・男性・27歳)

発生地点: ネオ童実野シティ・工業地帯 第16区

概要:

違法デュエルの取り締まり中、黒いD・ホイールのデュエリストと接触。

強制的にデュエルへ移行し、敗北。

デュエル終了後、エースシンクロモンスター《ゴヨウ・ガーディアン》が消失。

被害者は「デュエル前のやり取りしか覚えていない。気づいたら負けていた」と証言。

ヘルメットのHUDカメラ映像は強いノイズにより解析不能。

 

~~~

事例5

発生日時: 2XXX年 9月19日 19:50

被害者: プロD・ホイーラー(男性・31歳)

発生地点: ネオ童実野シティ・バイパス沿い 立体駐車場P3

概要:

練習帰り、黒いD・ホイールのデュエリストと遭遇。デュエルを挑まれる。

敗北後、エースシンクロモンスター《ギガンテック・ファイター》が消失。

被害者は錯乱状態に陥り、「もうシンクロモンスターは持っていない、許してくれ」と連呼。

 

~~~

事例8

発生日時: 2XXX年 9月26日 18:30

被害者: ネオ・セキュリティ隊員(巡査・女性・25歳)

発生地点: ネオ童実野シティ・デュエルアリーナ裏手 廃棄区画

概要:

プロD・ホイーラーとの練習試合後、黒いD・ホイールのデュエリストと接触。デュエルを強要される。

敗北後、エースシンクロモンスター《ヘル・ツイン・コップ ジョー&キック》が消失。

現場の監視カメラ映像は強力な電磁ノイズにより無効化。

被害者は「デュエル中の記憶が曖昧で、展開を思い出せない」と証言。

 

~~~

事例13

発生日時: 2XXX年 10月3日 01:20

被害者: 違法デュエリスト(男性・年齢不詳)

発生地点: ネオ童実野シティ・地下トンネル跡(旧78号線)

概要:

非合法のハイステークスデュエル中、黒いD・ホイールのデュエリストが乱入。

敗北後、エースシンクロモンスター《コンバット・ホイール》が消失。

被害者は「何が起きたのか思い出せない。本当だ、信じてくれ」と酷く狼狽。

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【総括】

本件の被疑者(通称『シンクロ狩り』)は、過去1か月の間にネオ童実野シティ各地で複数のデュエルを行い、敗北した相手のシンクロモンスターを消失させている。

特筆すべき点として、被害者の証言が断片的であり、また現場のカメラ映像が解析不能であるケースが多発している。

本件の調査は継続中。被疑者の捕縛を最優先事項とする。

 

 

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