「英雄伝説」の残る世界にTS転生した   作:TF最新作待ってます

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1か月以上空けた投稿だったにもかかわらず、ここすき・感想・お気に入り・しおり・評価いただきありがとうございます。嬉しくてちょっと頑張りました。

エウレアのデュエル回です。導入部と合わせて長くなりましたので前・後編に分けることにします。


#10 「幕を開けるジュニア対決! 姉代わりからの贈り物」

 

 

 2XXX年。アメリカ。ニューヨーク、ブルックリン区の内陸。

 

 日は落ちて、廃墟と化して久しい街には静寂が訪れていた。

 かつての摩天楼は窓もとうに砕け落ち、さながら骸のよう。

 夜風が吹くたび、瓦礫が金属の音を立てた。

 硝煙の匂いと散らばった鉄屑が、ここで何があったかを物語っている。

 

 俺はいつもの戦闘服のまま、ブーツの泥を落としもせずに瓦礫に座っていた。

 草木も寝静まる夜分にこうして地上に出るのは、落ち着かないときの癖だった。

 

 空を見上げる。雲でぼやけた月光がぼんやりと辺りを照らしていた。

 

 ──モーメントの暴走が原因とされる、機械軍による人類への侵攻開始から、4年。

 

 生き残った人間は地下に潜った。濾過した水と水耕栽培で得た食物で腹を満たし、銃を抱いて眠り、命を弾丸で繋ぐ暮らしを続けている。

 地上は奴ら──「機皇帝」が徘徊し、いつだって死と隣り合わせだ。

 ただ隠れてやり過ごし、大人しく先細りするだけの未来を享受する。もはや、それこそがこの時代での賢い生き方なのかもしれない。

 けれど俺は、そうしなかった。

 

 日常を壊され、両親を殺され、それで黙って耐えるなんて……そんな生き方、俺にはできなかったから。そうして銃と手榴弾を手に取り、戦場に立つことを選んだ。

 

 不意に背後から、冷えた何かが頬に押しつけられた。

 

 

「……フン」

 

 

 驚きはしない。慣れた手つきで受け取る。

 

 振り返れば、濡羽色の長髪が目に映った。

 髪型は、オールバックポニーテール。二房だけまとめ損ねた前髪が夜風に揺れている。

 灰色のジャケットの下にタンクトップ、膝に擦り傷だらけのカーゴパンツ。戦場を渡り歩いてきたにしては、まだ細い肩。

 少女だ。自己申告によるところ、16歳。俺よりも1つ上。

 

 ──彼女の名は、エウレア・パステル。俺の理解者であり相棒。

 頬に当てられたものは水筒だ。濾過した水を詰め、地下の流れで冷やしてきたやつだろう。

 

 

「やっほ。今日もおつかれさま」

 

 

 月明かりの下で、彼女がいつもの調子で笑う。

 いちいち言葉にはせず、返事は小さく頷くだけに留めた。

 視線を感じながら、容器のキャップを外して一口呷る。

 冷たい水が喉を落ちていくと、ほんの一瞬、世界が少しだけ遠のいた気がした。

 

 

「ありがとう……うまいな」

 

 

 そう答えると、彼女は一瞬目を丸くして、俺の隣に腰を下ろした。

 

 

「今日はどうしたの。やけに素直じゃん」

 

「俺はいつも正直だ」

 

「………………ウーン、ソダネ?」

 

 

 なんだ、そのぎこちない感じは。

 

 不服だと表情に出してみても、彼女は構わず笑うだけ。

 会話はそれっきりで、静寂が訪れる。

 しかし、居心地は決して悪くない。これが俺と彼女の距離感なのだ。

 

 不意に「エウレア」、と彼女の名を呼んだ。

 こてんと首を傾げ、「どしたの?」とゆるい言葉を返してくる。

 

 

「……お前は、よく笑う」

 

「あれ? なになに、今夜はおセンチな気分なの?」

 

「茶化すな。真面目に答える気がないのなら、そう言えばいいだろう」

 

「ちょちょちょっ。ごめんって! 珍しいなって思っただけ」

 

 

 彼女はジタバタと慌てて手を振った。フン、最初から戯けたことなど言わなければいいものを。

 彼女は頭の後ろで腕を組み、ごろんと寝転がった。

 澄んだ紺青の瞳で、夜空を見上げだす。

 

 雲の切れ間から、ゆっくりと月の輝きが見え始めた。

 

 

「そうしないと忘れちゃいそうな気がして嫌なの」

 

「笑い方をか?」

 

「そそ。笑うことが多いのは、それだけが理由ってわけでもないけど」

 

 

 彼女は小さく頷いた。

 軽妙な口調とは裏腹に、真剣な表情だった。

 普段のやかましさを忘れたかのような静かさで、ぽつりと彼女が溢す。

 

 

「……『姉』みたいに慕ってた人がいるの。日本の、ネオ童実野シティに」

 

「それは……」

 

 

 初耳だった。一人娘だったという彼女に、「家族」のように想っていた存在が両親以外にもいたとは。

 

 ネオ童実野シティというと、決闘王誕生の地、あるいは「KC(海馬コーポレーション)」の城下町として有名だった。

 ただ俺としては、それら以上に「モーメント」を生み出した()()()()()的なイメージが強い。もっともこれは俺に限ったことではないだろう。

 

 

「一緒にいた時間はそんなに長くない。でも、すごく頼りになる人で、あたしの面倒をよく見てくれて、意外と抜けてるとこが可愛くて……一緒にいて、本当に楽しかった。

 ちょっと不思議なところも多かったけど、そういうところもなんか気になる人で……」

 

 

 懐かしむように喋りながら、彼女は胸元から1枚のカードを取り出した。

 デュエル文化は確実に廃れてきているが、カードを「魂」として持っている人間は多い。

 俺も一応だが40枚デッキを持っている。ほとんど紙束だが、彼女のデュエル好きに対抗したかったのだ。

 

 

「そいつがお前の姉貴分と何か関係あるのか?」

 

「このカード実はね、お姉ちゃんからもらった『お守り』なの」

 

「…………そうか。そいつが」

『クリクリ~♪』

 

 カードに描かれたイラストが視界に映った瞬間、お互い地べたにカードを広げて繰り返し演じた「死闘」が脳裏に蘇った。

 お守りのカードとやらは、最も勝利に近づくことができた時の俺を、底知れぬ絶望の淵へ沈めてくれたモンスターだった。忌々しい。

 

 

「また会えるかわかんないけど、もしそのときがあるなら──戦闘民族の仏頂面を見せるわけにはいかないじゃない? あたし、お姉ちゃんの『可愛い妹分』でいたいのよね」

 

 

 それが、彼女が笑顔を絶やさない理由……か。

 つまるところ、未来への希望が、彼女にそうさせていたのだ。こんな世界で、希望。

 ……だが、悪くない。彼女が言うのならそう思えた。

 

 俺も彼女に倣って腕を頭の後ろにやり、勢いよく寝転んだ。

 雲は粗方流れ切った。しばらく天上の輝きが陰ることはないだろう。

 

 

「……にしても日本か。遠いな」

 

「あーね」

 

「だがいつか、必ず行こう。お前には──俺がいる」

 

 

 言うつもりなんてなかった。なのに、口からはキザな言葉が勝手に出ていた。

 エウレアは目をパチクリとさせた後、こちらへと寝返りを打った。

 彼女の顔が目の前に来る。戦場ではどこまでも怜悧な瞳。それが、どこまでも少女らしい温もりを湛えて俺を見ていた。目と鼻の先で。

 

 

「……うん、1人なら難しくても、あんたと2人なら」

 

 

 はにかみながら、笑いかけてくる。

 見惚れてしまう前に、俺は逆方向に身体ごと顔を逸らした。

 背筋に突き刺さる生暖かい視線を感じる……鬱陶しい。

 

 ──彼女の姉代わり。

 それは巡り巡って俺とエウレアを引き合わせてくれた人物、と言えるかもしれない。

 自然と興味が湧いて、俺は口を開いた。

 

 

「なあ……もしよければお前の姉のこと、もう少し教えてくれるか? まだ名前も知らない」

 

「──()()()()()()。それがお姉ちゃんの名前」

 

 

 アナスタシア。舌の上でその名を転がす。

 歴史上に実在した聖人の中にも同名の女性が存在する。綺麗な響きだと、何となく思った。

 

 不意に彼女が身体を起こした。振り返れば、「いいことを思いついた」と言わんばかりの彼女の顔が視界を埋めてくる。近すぎると窘めるより先に、彼女は嬉々として口を開いた。

 

 

「せっかくだから、お姉ちゃんからデュエルのイロハを教わった頃の初陣エピソードを教えてあげる! あのときはね──」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 平日夕方、エウレアにとっての決戦の時が来た。

 場所は、アカデミアから駅2つ分ほど離れたところにある公園内に設けられたスタンディング・デュエル用のコート。

 

 エウレアとボンボン──雌雄を決するチビッ子2人は、互いに自陣のセンターサークルに立って対峙していた。

 

 これから行うのは、健全とは言い難い「アンティルール」でのデュエルだ。

 人目が付くところで嬉々として興じてしまっては醜聞が立つ。エリートとして名が通っているボンボンにとってこれは都合が悪く、必然的に、エウレアとのデュエルは毎回アカデミアから離れた立地で戦うことが通例となっていた。

 

 コートの外には、少ないながらもギャラリーが集まっている。

 エウレアを見守りにきたアナスタシアと、対戦相手の少年・ボンボンの取り巻き数人だ。

 例のごとく似非シスターの格好をしたTS転生者の少女は、静かに事の成り行きを見つめている。

 一方、ボンボンの取り巻きは好き勝手にエウレアを野次ったり、エウレアが連れてきた謎の年上金髪碧眼片目隠れ美少女シスターにドギマギしたりしていた。とんだマセガキどもなのだった。

 

 

「──本当は『1枚もらった時点でやめておこう』って僕ちゃん思ってたのにさ、いいの?

 僕ちゃんにデュエル挑んじゃって──無駄にカードを()られちゃうだけだよ」

 

 

 デュエル前の余興と言わんばかりに、少年がエウレアへトラッシュトークを仕掛ける。

 言葉の上では、こんなことを自分は本心からは望んでいないと言いたげ。

 しかし表情にはエウレアへの侮蔑と、「サンドバッグを遠慮なく殴れる」ことへの醜悪な期待が滲んでいた。

 

 エウレアは瞼をピクリと痙攣させた後、ふっと息を吐いた。

 “いちいち反応していたら、それこそ相手の思うツボ”……彼女が内心姉のように慕っているシスターモドキなら、きっとそう言うはず。ここは耐え忍ぶべき時だと言い聞かせた。

 

 反応がないことが面白くないのか、ボンボンは別の切り口から揺さぶりに掛かる。

 

 

「ところで僕ちゃん、前から思ってたんだよね。1枚ずつ賭けるのってメンドーだなって」

 

「……なにが言いたいの?」

 

「お互いにオールインで賭けないか? 僕ちゃんは『招待状のカード』を3()枚、お前は2()枚」

 

 

 ──妙だ。周囲の全員が即座にそう思った。

 見下している相手に譲歩するような提案は、あまりにも彼には似つかわしくない。

 勝ちへの自信の表れとも取れるが──違う。それ以前の、彼の性根の悪さの問題だ。

 

 

「……あたしのが1枚少ないんだけど、どういうつもり?」

 

「はぁ……これだからドロップアウトガールは」

 

 

 真意を測るために投げかけたエウレアの質問に、ボンボンはわざとらしく肩を竦めた。

 子供らしくない底意地の悪い笑みを浮かべ、彼はエウレアの左腕をビシッと指差す。

 

 

「当然、それ相応の物を追加で賭けてもらうに決まってるだろ!」

 

 

 不穏な響きに、エウレアの肩がビクリと跳ねた。

 彼の人差し指の示す先には──彼女のデュエルディスク。

 

 その意味を理解した途端、エウレアの頬を冷や汗が伝う。

 

 

「──お前には、招待状のカード2枚だけじゃなく、その『クズデッキ』も賭けてもらおうかな!」

 

 

 負けたら、デッキを失う。

 先祖からの思いも受け継いでいる大事な相棒を、たったの1戦で奪われるかもしれない。

 肩にとてつもないプレッシャーを感じる。

 しかし、エウレアは口角を上げた。

 

 ──手間が省けた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アナスタシアが彼女に授けたOSK戦法は、繰り返し使うには不安が残るものだ。必然、3連勝して1枚ずつ取り返すよりも、1回で「全部」を狙うのが望ましい。各々が所有する「招待状のカード」の枚数に差がある以上、エウレアはその穴埋めとして自らのデッキを賭けることをアナスタシアと相談の上で決めていた。

 

 

「別にいいよ。その約束、ぜったい守ってよね」

 

「っ! お前、僕ちゃんに勝てると思ってるのか……!」

 

「最初から負けると思って戦うデュエリストなんていないわよ。ばーか」

 

「ぐぬ……ぜったいに後悔させてやるからな!」

 

 

 予想外にも揺るがなかったエウレアに歯噛みしつつ、ボンボンはデュエルディスクを構えた。合わせるようにエウレアも構える。

 

 ちらとエウレアは姉貴分を見た。

 

 

(見ててね、お姉ちゃん)

 

 

 彼女の内心をわかっているかのようにアナスタシアは小さく頷く。

 それだけで、エウレアの迷いは完全に晴れた。自分は正しい道を選べている、と。

 

 さあ、いよいよ、戦いの火蓋が切って落とされる時だ。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 互いに引き抜いた5枚の初期手札。

 視線は瞬時に手中のカードをなぞり、銘々が“今回の動き方”を大まかに組み立てる。

 エウレアのデュエルディスクに先攻を示すランプが灯った。

 

 

「──先攻はあたし! ドローよ!」

 

 

 山札に指をかけ、腕を振り抜く。

 手札は、悪くない。

 事前に決めた勝ち筋は一本。それに向けた試合運びを意識して──。

 

 

「あたしは《おろかな埋葬》を発動。その効果で、デッキの好きなモンスター1体──今回は、レベル5モンスター《騎竜》を墓地へ送る!」

 

「モンスターは場に出さなきゃ意味がないぞ~? デュエル開始早々にそれを墓地に送っちゃうなんて、まさに『おろか』だね……ドロップアウトガールにふさわしいカードだ!」

 

「はっ、好きに言いなさい! このカードの意味はじきにわかるわ、じきにね!」

 

 

 エウレアは、自身の滑り出しが快調だと理解している。

 以前までならいざ知らず、今の彼女は煽られようが手を止めなどはしない。

 

 

「続いて《強欲で謙虚な壺》を発動! このターンの同名カードの発動と特殊召喚を封じる代わりに、デッキの上から3枚のうち好きなカード1枚を選んで手札に加える!」

 

 

 2つの顔を強引に継ぎ接ぎした壺が現れ、3枚のカードを吐き出した。

 提示されたデッキトップ3枚は《増援》、《氷結界の修験者》、《ガード・ブロック》。

 この中なら一択だろう。淀みなく彼女は選択する。

 

 

「《増援》を手札に加え、そのまま発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える!」

 

 

 壺が役目を終えて爆発する中、デッキから排出されたモンスターカードをパシッと掴む。

 勝利に向かうためのピースの1つが、来た。

 

 

「手札に加えた()()()を召喚するわ。来て!

 マイフェイバリットカード──《闇魔界の戦士 ダークソード》っ!」

 

 

 彼女が宣言した瞬間──大地から禍々しい稲妻が立ち上った。

 雷撃を内側から裂くように鉤つきの双剣が突き出され、使い手たる一人の剣士が姿を現す。

 紅色の外套が大きく翻り、肩から棘の生えた漆黒の甲冑(メタルシルバー・アーマー)が露わになった。

 

 

《闇魔界の戦士 ダークソード》攻撃表示

星4 闇属性 戦士族

攻1800 守1500

 

 

「来たか、前回は手札事故で出すことすらできなかったザコモンスター! 召喚だけはできて良い記念になったなぁ!」

 

「この子は弱くないし、デュエルを記念なんかで終わらせるつもりもないわ!

 手札から《タイムカプセル》を発動よ。デッキから好きなカード1枚を裏側で除外することで、タイムカプセルに封印する!」

 

 

 虚空より濃緑色の石棺が現れる。ゴゴッと重たそうな音を立てながら蓋がずれ込むと同時、エウレアのデッキから1枚のカードが飛び出して中へと取り込まれた。やがて逆方向に蓋が動いて内部を密閉し、石棺は空気に溶けるように掻き消えた。

 

 

「これは……《光の護封剣》みたく、フィールドに留まるタイプの通常魔法か」

 

「ええ。発動後2回目のあたしのスタンバイフェイズに、この封印は解かれるわ。あたしはリバースカードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 

 ターンを終えると同時に、エウレアは息を整え、思考を整理する。

 このターンにカード効果でデッキから別の場所へと移動させたカードの合計枚数は「4枚」。

 以前までの坊主めくりだったら4ターン掛かっていた内容を、このターンに詰め込めた。

 OSK用のパーツの方はまだまだこれからだが、迎撃用の罠も用意した。

 

 ──今回は、ちゃんと戦える。

 緊張に身震いしつつも、胸に灯る確かな実感にエウレアは頬を緩ませた。

 

 

「なーんか色々考えてるみたいだけど、所詮そんなのはドロップアウトガールの『猿知恵』ってことをわからせてあげるよ、僕ちゃんの……タァーンッ!」

 

 

 ボンボンが新たな手札を招き入れ、不敵な笑みを浮かべる。

 ──明らかに只者じゃない綺麗な女性(ひと)をアドバイザーに迎えたようだけど、本人のデッキ内容がそう変わらないのなら結果はこれまでと同じさ! 捻り潰してやる!

 

 慣れた手つきでカード2枚を手に取る。

 1枚は墓地へ、もう1枚をディスクに置いた。

 

 

「まずは進軍準備だっ。手札のレベル8モンスター1体を墓地へ送り、《トレード・イン》を発動! 効果でデッキから2枚ドローする!」

 

 

 繰り出したのは、デッキの回転を支える優秀な手札交換カード。

 整った手札に目を落とし、ボンボンは高らかに吠えた。

 

 

「こいつこそが僕ちゃんが誇る鉄砲玉さ──《竜の尖兵》を攻撃表示で通常召喚!」

 

 

 引き締まった肉体のリザードマンが躍り出る。

 荒事はお手の物と言いたげに、両の手に持つ円盾(ラウンドシールド)と長槍を構えた。

 

 

《竜の尖兵》攻撃表示

星4 地属性 ドラゴン族

攻1700 守1300

 

 

 呼び出したモンスターは、打点では「ダークソード」に劣る。

 しかし慌てることなくボンボンはカードを手に取っていく。彼の中で対処の仕方は既にできあがっている。まずは下拵えだ。

 

 

「ドラゴン族モンスターを自分がコントロールしているとき、《スタンピング・クラッシュ》を発動できる。このカードは相手の魔法・罠カード1枚を対象として、そいつを破壊できるのさ! しかも、500ダメージのサービスつき!」

 

「ぐっ、要らないサービスばかり充実してるわね! どれを選択するつもり?」

 

 

 バック除去のカードにエウレアが動揺する中、彼は芝居っぽく顎に手を当てて考える。

 結論が出るまでにそう時間は掛からなかった。

 

 

「封印したカードごと《タイムカプセル》をぶっ壊すのもアリだけど……それが囮ってくらい僕ちゃんにはお見通しなんだよ! リバースカードを破壊だ!」

 

「なら、あんたが選択した伏せカード──《ゲットライド!》をチェーン発動するわ!

 『ダークソード』はドラゴンを操る力を持つ戦士……墓地に埋葬したユニオンモンスター、《騎竜》を対象に取り、《ゲットライド!》の効果で“ユニオン装備”することができる!」

 

「墓地のカードを対象にチェーンだと……ドロップアウトガールのクセに生意気だぞっ」

 

 

 魔法陣から流線型の翼竜、《騎竜》が顕現し、その背中に「ダークソード」が飛び乗る。

 これから真の力を見せてやると言わんばかりに、戦士は剣を天高く掲げた。

 

 

「《騎竜》のユニオン能力によって、『ダークソード』の攻撃力は900アップよ!」

 

 

《闇魔界の戦士 ダークソード》

攻1800 → 攻2700

 

 

「だが《スタンピング・クラッシュ》の破壊は止まらない! 表になった《ゲットライド!》を粉砕し──食らえ、500のダメージをっ!」

 

「きゃあっ」

 

 

Eurea

LP

40003500

 

 

 死角から突如出現した巨竜の足が《ゲットライド!》を踏み砕いた。破壊に伴う風圧がエウレアを襲うが、彼女はわずかに仰け反っただけで持ち直す。

 

 

「……ふんっ、いくら攻撃力を上げようが僕ちゃんにはムダさ! 《竜の尖兵》は、手札のドラゴン1体の生命を糧とし、攻撃力を300アップさせることができる。そして、この効果は1ターンに何度でも使用可能!

 2体のドラゴンを手札から墓地へ送り、《竜の尖兵》の攻撃力を600アップさせる!」

 

 

《竜の尖兵》

攻1700 → 攻2300

 

 

「それでも攻撃力は『ダークソード』の方が上よ!」

 

 

 敵は意味のないプレイングをきっとしない。そう思いつつも、エウレアは強がってみせる。

 ボンボンは彼女の言動を鼻で笑い、ディスクにカードを叩きつけた。

 

 

「ドロップアウトガールには『早とちりしていい特権』があったなんて、初めて知ったよ!

 リバースカードを1枚セットし、《魔導師の力》を《竜の尖兵》に装備する! 僕ちゃんの魔法・罠カード1枚につき、《竜の尖兵》の攻撃力は500アップする! これでさらに1000ポイントアップゥゥ!」

 

 

《竜の尖兵》

攻2300 → 攻3300

 

 

 彼が信を置く鉄砲玉のリザードマンは、その身を大きく膨れ上がらせた。その巨躯は《騎竜》を乗りこなす「ダークソード」を単身で圧倒するほど。

 縦に裂けた瞳孔に睨みつけられるだけで、大気の圧が高まったようにエウレアは感じた。

 

 

「──さあバトルだ! 《竜の尖兵》、奴ご自慢のザコモンスターをお掃除してやれっ!」

 

 

 肥大化した剛腕から繰り出された神速の一閃が、「ダークソード」に迫る。

 咄嗟に《騎竜》は主人に背中から飛び降りるよう一鳴きする。闇戦士は忸怩たる思いを抱えながらシモベの背を蹴った。

 

 

「《騎竜》のもう1つのユニオン能力っ……自身を、装備モンスターの戦闘破壊の身代わりにでき──っ、きゃぁああぁっ!!」

 

 

 《騎竜》が身を挺して凶刃を受け止める。しかし衝撃を完全には殺しきれず、エウレアの視界が白く滲んだ。

 ソリッドビジョンの迫真の演出に思わず尻もちをつく。恐怖・不安でドッドッと心臓が鼓動を速くするのを自覚しつつ、彼女は自分の心を奮い立たせてゆっくりと起き上がった。

 

 

Eurea

LP

35002900

 

 

「ハハッ、そーれ見たことか」

 

 

 戦いの渦中で膝を震わせる少女を指差し、ボンボンは嘲笑する。

 

 

「“ユニオンモンスターと対応する装備対象モンスターを揃えて戦う”のがお前のデュエル……でも、それでやることは『微弱なステータスの強化』と『しょっぱい能力の付与』!

 前より安定するようになったようだけど、所詮は出力の知れた『クズデッキ』! そんなのに僕ちゃんが負けるわけないでしょっ、ナハハハハッ!」

 

 

 相棒「ダークソード」のソリッドビジョンは彼の侮辱に眉を顰め、すぐさま自らのマスターを務める少女を甲冑の奥から心配そうに見つめた。

 視線に気づいたエウレアは相棒にだけ──それが“よく動くだけ”の立体幻像に過ぎないと認識したうえで──柔らかな笑みを向ける。直後に彼女は表情を引き締め、スカートについた砂埃を払い落とした。

 

 今日までの3日間、彼女はデッキ構築以外にもデュエルに対する「心構え」をいくつか教えてもらった。その中には、どんな状況にも通ずる一つの言葉があった。

 

 

(『死ななきゃ安い』……だったよね、お姉ちゃん)

 

 

 曰く、どれだけライフを削られようとも、「手数が多い方がゲームメイクをしやすい」のがデュエルの真理である、と。

 ボンボンがフィールドに用意した3300打点を突破するのは難しいが、このターンで彼の手札はゼロになった。不確定要素はリバースカードの1枚だけ。今後しばらくは《竜の尖兵》で単調に攻撃宣言するしかないはず。

 

 むしろ今はチャンスだと、エウレアは瞳の中に闘志を燃やす。

 一方、ボンボンはあまりにブレない彼女を不気味に感じつつも、ひとまずはターンを譲るしかないことに苦虫を噛み潰した。

 

 

「なんなんだ、その目……くそっ。僕ちゃんはこれで、ターンエンドだ」

 

「いくわ、あたしのターンよ。ドローカード!」

 

 

 エウレアのやることは変わらない。デッキを掘り、耐え忍びながら一撃必殺の準備を整えるのみだ。

 

 

「《馬の骨の対価》を発動するわ。効果モンスター以外のモンスター1体──『ダークソード』を墓地へ送ることで、デッキから2枚ドローする」

 

 

 「ダークソード」が足元から光の粒子へと変化し始める。

 双剣を鞘に収め、彼はエウレアの前に恭しく跪いた。

 

 

「ありがとう、『ダークソード』。このドロー、ぜったい無駄にしない」

 

 

 エウレアは力強く拳を握り、忠君へ向けて宣言する。

 その決意の籠った視線に安心しながら、漆黒の戦士は己が生命力を光へ変えていく。

 

 ──マスター、どうか我が命を糧とし、勝利をその手に……。

 

 

「あ、《戦士の生還》をドローしたの。

 これで墓地へ送った『ダークソード』を手札に戻すわ」

 

『…………』

 

 

 湿っぽい別れの雰囲気は一瞬で霧散した。フェイバリットモンスターは少し気まずそうな雰囲気を滲ませながらスッと立ち上がり、カード化してマスターの手中へと収まった。彼はこのデッキの過労死枠だった。休みなんてものはない。

 

 

「モンスターとリバースカードを1枚ずつセットしてターンエンドよっ」

 

「守りを固めたか……そんなもんすぐに崩してやるよ、僕ちゃんのターァンンッ!」

 

 

 ドローカードを見て、舌打ち一つ。セットモンスターを破壊できれば、《竜の尖兵》の直接攻撃でトドメを刺せたのに、と少年は臍を噛んだ。

 

 

「リバースカードを1枚セットだ……《魔導師の力》の効果によって、《竜の尖兵》の攻撃力はさらに500ポイントアップする!」

 

 

《竜の尖兵》

攻3300 → 攻3800

 

 

 そこにあるだけで殺気を感じるほどの力の高まりを感じつつも、エウレアは冷静だ。

 彼女にしてみれば、元々《竜の尖兵》の打点は自身のライフを上回っていた。ボンボンは誇らしげにしているものの、この打点上昇に大した意味はない。

 

 

「《竜の尖兵》、セットモンスターを八つ裂きにしろっ」

 

 

 竜人が正体不明の影に肉薄し、刹那の内に刃で細切れにした。

 戦闘によって“黄土色の破片”が地面に散らばり、仄かに光を放ち始める。

 

 

「セットモンスターの正体は《闇の仮面》! ダメージ計算後にリバース効果が発動するわ。あたしの墓地の罠カード1枚──《ゲットライド!》を手札に戻す!」

 

「チッ……ちょろちょろと鬱陶しいなぁ! ターンエンドだよ!」

 

「あたしのターン、ドロー!

 ──これで《タイムカプセル》発動後2回目のあたしのスタンバイフェイズ!」

 

 

 彼女が虚空を見上げると同時、時空を越えて石棺が蘇る。

 封印が解かれる時が来たのだ。

 

 

「《タイムカプセル》は破壊され、その効果で除外していたカードをあたしは回収する!

 そして、封印から解き放たれた《強欲なカケラ》をそのまま発動!」

 

 

 砕けた石棺の内から、妖しいオーラを纏った陶器の破片が現れた。

 カケラは確かな存在感を放っているものの、フィールドに目立った変化が起きる気配はない。

 

 ボンボンからすれば肩透かしもいいところ。彼はわざとらしく大きなため息を吐いた。

 

 

「なんだ……何も起きないじゃないか。単なるコケおどしか?」

 

「ふんっだ。せっかちなのが『エリート』とやらの特権なのね」

 

「なにおう!?」

 

「あたしが通常のドローをする度、このカードに強欲カウンターが1つ置かれる。

 あとは……いちいち説明するのもメンドーね。あんたで勝手に想像しなさい!」

 

「おい待て、そこまで言ったならもう全部言っていいだろっ!」

 

「モンスターを通常召喚するわ!」

 

「無視するな!」

 

 

 どうせ時が来たら追加説明をする、なら構うものか、とエウレアは高らかに叫ぶ。

 その指先にあるのは、彼女のフェイバリットカード。本日2度目の出陣だ。

 

 

「もう一度あたしと一緒に戦って! 《闇魔界の戦士 ダークソード》っ!」

 

 

《闇魔界の戦士 ダークソード》攻撃表示

星4 闇属性 戦士族

攻1800 守1500

 

 

 双剣を引き抜き、漆黒の戦士が静かに構える。相対するは手の施しようのないほどに強大となった巨躯の竜人(竜の尖兵)だが、信じてくれるマスターのため、彼は不退転の覚悟を決めた。

 

 

「リバースカードを2枚セットして、ターンエンド! この罠が怖くないなら、かかって来なさい!」

 

 

 相棒の想いに応えるように、エウレアもまた啖呵を切って見せた。

 デュエルは過熱し、静かに佳境を迎えていく。

 

 




対戦相手のモブ少年のイメージは某国民的猫型ロボット作品に出てくるス●夫です。
書いているうちに●ネ夫とは全然違うキャラになった気もしますが、まあそんな具合です。
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