「英雄伝説」の残る世界にTS転生した   作:TF最新作待ってます

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後編です。


#11 「信じる心! 4枚に懸けた勝機」

先攻3ターン目終了時

エウレアLP:2900 手札1

《闇魔界の戦士 ダークソード》 攻1800

《強欲なカケラ》(強欲カウンター:0)

伏せ×3

 

vs

 

ボンボンLP:4000 手札0

《竜の尖兵》① 攻3800

《魔導師の力》(対象:①)

伏せ×2

 

 

 

 

 減らず口を叩き続けるエウレアに、ボンボンは腹立たしそうに貧乏ゆすりをした。

 ──生意気、生意気、生意気だぞ、こいつ! 僕ちゃんは、エリートなんだぞ!

 

 

「……3連敗中のドロップアウトガールの分際で、一体どれだけの狼藉をはたらくつもりなんだ! 見てろ、僕ちゃんのタァァーンッ──…………ヌオッ!?」

 

 

 ドローしたカードを見るや固まったボンボンに、彼の取り巻きがどよめいた。

 一体どうしたというのか。会話の上では、彼が心理的な優位に立てていないように見えただけに、不安が波紋となって広がっていく。

 

 

「ナハハッ。皆の衆、慌てるな。静粛に!」

 

 

 ボンボンが一喝すると、場は一斉に鎮まった。

 見るからに小物っぽい彼だが、取り巻きからの信頼は厚いようだ。静観を決め込んでいたアナスタシアが密かに感心する。

 

 ボンボンはエウレアの方へ向き直り、ニヤリと勝ち誇った笑みを見せた。

 

 

「エウレア・パステルくん……口を開けば『ご先祖がどうたら』と喚く君の“思い出ごっこ”はもう終わりだ。

 代わりに僕ちゃんが本当の『フェイバリットカード』の何たるかを教えてあげよう! デュエリストのお気に入りってのはね、ちゃんと強くてカッコイイ必要があるのさッ!」

 

「……引いたのね。あんたの、()()()()()()()()を」

 

「その通りだともッッ!!

 このカードは、僕ちゃんの墓地に眠る光・闇属性のモンスターを1体ずつ除外することで特殊召喚できる──《エレメント・ドラゴン》と《ランサー・ドラゴニュート》を除外!」

 

 

 ──そのカードの特長は、「特殊召喚のしやすさ」と「優秀な能力」の両立というシンプルに高いカードパワーだった。

 

 エウレアの背筋が凍ると同時、敗北を喫した3度のデュエルの記憶が脳裏に蘇る。

 彼女のライフをゼロに叩き込んだのは、どの戦いも、前触れなく現れるこのモンスターの攻撃によるものだった。

 

 

「星の光を宿せし聖なるドラゴンよ、身の程知らずのおろか者に今宵も裁きの鉄槌を下したまえッ! さあ来い、《ライトパルサー・ドラゴン》!」

 

 

 どこからともなく湧き出した光線の束が、白亜の巨竜を形作っていく。

 胸部にぽっかり空いた凹みが心臓の鼓動のように明滅し、やがて竜は瞳を開いた。

 

 身に纏いし数多の光の筋が、生誕の歓喜に打ち震える──瞬間、響き渡るは轟咆。

 

 

『■■■■■■────ッッ!!』

 

 

《ライトパルサー・ドラゴン》攻撃表示

星6 光属性 ドラゴン族

攻2500 守1500

 

 

「っ……!」

 

 

 ──身が竦む。膝の震えが止まらない。怖いっ……!

 

 その威容にエウレアの脳が本能的な警鐘を鳴らす。

 「いつかこいつも出てくるだろう」と覚悟はしていたが、怖いものは怖い。負けが込み過ぎた彼女にとって、この白竜はちょっとしたトラウマになっていた。

 

 

「フィナーレといこうじゃないか! まずは《竜の尖兵》で《闇魔界の戦士 ダークソード》を攻撃だぁ!」

 

 

 はち切れんばかりに筋肉を膨張させた竜人が、槍を大きく後方に構えた。半身になって、バネを圧縮するように腕を折り畳んでいく。

 対峙する「ダークソード」は、双剣を握る手に力を込めた。せめて、これから来る一撃からマスターを守れるように、と。

 

 一方、定まらぬ視界の中でエウレアは呆然と立ち竦み──やがて、一か所だけ明瞭に見える場所があることに気づく。

 

 

(──……お姉ちゃんっ!)

 

 

 姉貴分の少女。

 アナスタシアは、口を真一文字に引き結んでエウレアを見つめていた。

 視線はエウレアの顔と彼女のフィールドを行ったり来たりしている。

 

 そこでエウレアはハッとした。

 ──リバースカードだ。ボンボンからの苛烈な攻撃を迎え撃つための備えが、場にはちゃんとある。落ち着いて対処すればいいのだ。

 

 

「奴のザコモンスターを貫けェ! ジャベリック・ドラゴン・スローッ!!」

 

 

 溜まりに溜まったエネルギーを解放し、《竜の尖兵》が大きく振りかぶる。

 瞬間、空気が爆ぜた。

 それは音をも置き去りにする勢いの投擲だった。

 

 「ダークソード」は迫る一槍を捕捉、被害を最小限に食い止めようと動きだす──が、彼の下へ到達する前に、飛来する絶影は中空で突如ひしゃげて砕け散った。

 

 ボンボンが狼狽の声を上げる。

 

 

「バカな、何が起こった!?」

 

「あたしは、バトルステップに《あまのじゃくの呪い》を発動した!

 発動ターンの間、モンスターのステータス・アップの効果は、すべてが『ダウンする効果』として適用される!」

 

「……《竜の尖兵》は、自身の効果と《魔導師の力》の効果で合計2100ポイント攻撃力が上昇している──ってことは、まさか!?」

 

 

《竜の尖兵》

攻3800 → 攻1700→ 攻 0

 

 

「そうよ、攻撃力はゼロ! 返り討ちにしちゃえ、《闇魔界の戦士 ダークソード》っ!」

 

 

 エウレアがGOサインとして右腕を思い切り前へ突き出した。

 直後、戦士「ダークソード」は大地を強く蹴り、反動で身動きを取れなくなった《竜の尖兵》に急接近する。

 

 刹那の内に虚空を走る剣閃。「ダークソード」の絶技が竜人を物言わぬ肉塊へと変えた。

 その陰で、ボンボンは悔し気に地団太を踏む。

 

 

「ぐぎぎぎぎっ! リバースカードオープン──永続罠《スピリットバリア》!

 僕ちゃんがモンスターをコントロールしている場合、またはモンスター同士が戦闘を行う場合、僕ちゃんへの戦闘ダメージは無効になる!」

 

 

 戦闘の余波は霊体化した《竜の尖兵》によって包まれて霧散してしまった。

 思い通りに行かない現状に動揺こそしているが、これで依然としてボンボンは無傷。

 

 優位は未だ変わらない。自らにそう言い聞かせて、彼は一息おいた。

 ゆっくりと目を開き、シモベに命令すべく彼は腕を振り下ろす。

 

 

「《ライトパルサー・ドラゴン》、お前が代わりにあのザコモンスターを始末しろ!

 ──ユニバース・ライトヴァイスッ!!」

 

 

 白亜の竜の顎より、圧縮された光が熱そのものと化して放たれた。

 迫りくる実体を得た殺意に、エウレアは落ち着いて対処する。

 

 

「その攻撃宣言時、《ライトパルサー・ドラゴン》を対象として罠カードを発動よ、《運命のサイコロッセオ》っ!」

 

「こ、今度はなんだよ!?」

 

「6面ダイスを振り、出目によって異なる効果を適用するわ!

 1・3・5なら、対象を破壊。

 2・4・6なら、対象の攻撃力はこのターンのダメージ計算時のみ1000アップする」

 

 

 熱線は「ダークソード」の目前で巨大な立方体──サイコロに遮られ、四方八方へと逸れた。その後も地面の上で不規則に転がり続けるサイコロを見ながら、ボンボンは口元をひくひくと震わせる。

 

 この《運命のサイコロッセオ》──奇数ならボンボンの自慢のエースを除去し、偶数ならこのターンのみエースの打点を1000強化してくれる……()()()()

 

 

「《あまのじゃくの呪い》の効果は、もちろん継続中よ」

 

「お前、お前ぇ……っ!」

 

 

 心底忌々しそうな声を彼は絞り出した。

 

 エウレアが発動した《あまのじゃくの呪い》によって、強化は弱体化へ反転する。

 「ダークソード」の攻撃力は1800。

 一方、《ライトパルサー・ドラゴン》の攻撃力は、1000アップの逆──1000ダウンしてしまえば1500。

 

 つまり奇数なら《運命のサイコロッセオ》の効果で破壊、偶数なら「ダークソード」からの返り討ちに遭って破壊──ボンボンのエースは生き残る道を完全に断たれたのだ。

 

 

「ぐぎぎぎぎ……!」

 

 

 ギリギリと音を立てて、奥歯を噛みしめる。エースモンスターの死に方さえもが運否天賦に任され、指を咥えて見守るしかできないのは屈辱の極みだった。

 

 皆が出来レースを承知で結果を待ち続け、果たして出目は──「2」。

 サイコロが展開し、内部から湧き出た禍々しいオーラが白亜の竜に憑りつく。

 

 

《ライトパルサー・ドラゴン》

攻2500 → 攻1500

 

 

「これで《ライトパルサー・ドラゴン》の攻撃力が『ダークソード』を下回った!

 もっかい返り討ちにしちゃえ! ──ダークソード・デカピテーション!」

 

「!?」

 

 

 疾風が駆け抜ける。次の瞬間、「ダークソード」はボンボンのすぐそばに立っていた。

 カチン──納刀の音。遅れて、竜の首が地に落ちる。

 

 まさに一刀両断。《スピリットバリア》でダメージこそゼロだが、思わぬジャイアントキリングにボンボン陣営は唖然としていた。

 エウレアは俯き加減で完全に固まった対戦相手の少年をビシッと指差し、強く言い放つ。

 

 

「ご自慢のモンスターは、あんたがザコ呼ばわりした『ダークソード(この子)』がみんなやっつけちゃったわよ! なにか言うことないの!?」

 

「…………」

 

 

 現実を直視したくないのか沈黙を貫く少年相手に、エウレアが胸の内に蓋していた感情が、一気に零れだしていく。

 ずっと、この少年のことを見返してやりたかった。

 固く拳を握り、眦を吊り上げ、彼女は激した口調で詰めた。

 

 

「取り消しなさいよ、あたしの大事な友だちをバカにしたことを! あたしのデッキを『クズデッキ』呼ばわりしたことを!」

 

「…………」

 

「おい! なんとか言えッ……!」

 

 

 誰も見たことがないほどにエウレアが声を荒げ、自陣のセンターサークルから足を踏み出しかけたそのとき、ボンボンは顔を上げた。

 

 

「──イヤだね。だって()、間違ったこと言ってないし」

 

「なっ」

 

 

 まったく悪びれた様子のない声に、少女が絶句する。

 

 ボンボンは彼女をつまらなさそうに一瞥した後、自身のデュエルディスクの墓地ゾーンに手を伸ばした。滑らかに排出されたカードを手に取り、ふっと息を吐く。

 これまでの少し賑やかな語り口とは打って変わって、彼の雰囲気は明確な冷たさを纏っていた。まるで知らなかった彼の一面を目撃して、エウレアは嫌な予感を覚える。

 

 

「破壊された《ライトパルサー・ドラゴン》の効果を発動するよ。自分の墓地のレベル5以上のドラゴン族・闇属性モンスター1体を選択して、特殊召喚する」

 

 

 大地を割って、屈強な肉体を持つ三本角の陸竜が現れた。

 

 

《トライホーン・ドラゴン》

星8 闇属性 ドラゴン族

攻2850 守2350

 

 

「ウソ、まだこんな大型モンスターを呼び出してくるなんて……」

 

「……まさか、お前ごときを相手に『切り札の、さらに奥』を使うことになるとは思わなかったよ」

 

「……それって、この《トライホーン・ドラゴン》のこと?」

 

 

 ──バカが。そんなわけないだろ。高ステータスとはいえ、たかが通常モンスターだぞ。

 

 首を傾げるエウレアを内心で強く罵倒する。

 デュエルディスクのスイッチを軽く叩き、ボンボンは力強く宣言した。

 

 

「墓場からドラゴンが復活したこの瞬間、セットしていた速攻魔法《金剛剣の復活》を発動できる! そのドラゴンをリリースして、デッキから《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》1体を特殊召喚するッ!」

 

 

 虚空に浮かぶ穴から巨大な竜の大顎が飛び出し、三本角の竜をバクンッと丸飲みにした。

 太く長い首、空を覆う翼、頑強な四肢、しなやかな靭尾……巨体が時間をかけてゆっくりとこの世界へと顕現していく。

 

 ──で、デカすぎでしょ……!

 

 視界を埋め尽くす翠玉の身体から発せられる暴力的なまでの生命力に、対峙する少女は言葉を失った。

 

 

《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》攻撃表示

星8 光属性 ドラゴン族

攻 ? 守2800

 

 

「攻撃力が、定まってない……?」

 

「《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》の攻撃力は、《金剛剣の復活》でリリースしたドラゴンの攻撃力に1000をプラスした数値になる。つまり──」

 

 

《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》

攻 ? → 攻3850

 

 

 それは、このデュエルにおける最高打点。エウレアは頭をガンと殴られた衝撃を受けた。

 首の皮一枚で怨敵の切り込み隊長を倒し、エースモンスターも撃破した。なのに、まだこんな切り札中の切り札を隠していたなんて……。

 

 いや、それよりもこの状況は──エウレアにとって非常にマズい。

 

 

「まだ()()()()()()()()()()()だ。やれ、《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》」

 

 

 翠玉の巨竜が首をもたげ、エウレアの相棒「ダークソード」に向けて尻尾を軽く振る。

 それはただ叩きつけるだけの動作だった。圧倒的な質量を伴っていた、という点を除けば。

 

 双剣を抜いた漆黒の戦士の決死の抵抗は、もはや抵抗の体を為さない。

 瞬く間に彼は鏖殺され、その余波がエウレアを蹂躙した。

 

 

「──あっ、きゃ……あああぁぁぁぁあああッッ!!?」

 

 

Eurea

LP

2900850

 

 

 再び膝をつく少女。ぐらつく視界。浅くなる呼吸。

 

 甲高い悲鳴に不快そうに表情を歪め、ボンボンはターンエンドを宣言する。

 サレンダーを勧める気は、ない。

 彼も彼で誇りが傷ついたと感じている。相手を叩き潰すまで止まる気はなかった。

 

 

(ほら、さっさと立ってターンを回せ。もっと痛めつけてやる……──は?)

 

 

 逆上によって芽生えた加虐欲求に浸り始めたそのとき、彼は絶句した。

 ──わ、笑ってやがる、こいつ。

 

 エウレアは、笑っていた──これはむしろ「チャンス」だ、と。

 もうボンボンの場には《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》と《スピリットバリア》しかない。さらに手札は依然としてゼロ。見えていない情報は完全になくなり、丸裸だ。

 おかげで反撃に移ったときに、妨害を受ける可能性は極めて低くなった。

 

 ライフは1000を切ったが、デュエルは「死ななきゃ安い」のだ。

 OSKの準備も着実に整ってきている。

 あとは、「デッキを信じてとにかくカードを引く」だけ。

 

 

「いくわ、あたしのターン! ……リバースカードを1枚セットして、ターンエンド」

 

 

 通常のドローとリバースカードのセットに留め、彼女は静かにターンを終えた。

 

 

「……ふーん、もう仕舞いか。なら、僕のターン!

 永続魔法《一族の結束》を発動だ。自分の墓地に存在する元々の種族が一種類の場合、同じ種族の僕のフィールドのモンスターの攻撃力は800アップする!」

 

 

 水面下で進む相手の戦略など露知らず、ボンボンは力強くカードを引き抜いてそのまま発動宣言する。

 翠玉の竜は、ディスクに叩きつけられた魔法カードから湧き立つオーラを吸収し、さらに力を漲らせた。

 

 

《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》

攻3850 → 攻4650

 

 

 いよいよその攻撃力は圧倒的。伝説の決闘者・海馬瀬人が「史上最強にして華麗なる究極のモンスター」とまで称した《青眼の究極竜》をも凌駕した。

 

 少年は口角を鋭く釣り上げた。

 ──かなり手こずらされたけど、ロクに除去カードも持っていないドロップアウトガールに、この《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》は絶対に突破できない! 僕の勝ちだ!

 

 

「これでトドメ! 《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》で直接攻撃だァ!!」

 

「リバースカードオープン、《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを無効にして、1枚ドローする!」

 

 

 巨竜の尻尾による薙ぎ払いは見えない壁に弾かれ、空を切る。

 

 静かに手札を補充する少女を見つめながら、ボンボンの背筋を嫌な汗が伝った。

 

 ──これで今日、何度目だろうか。決定的な攻撃を罠でいなされるのは。

 ダメージレースでは明らかに勝っている。強力なモンスターを立てて盤面に圧も掛けた。なのに、どうして彼女の目から光が失われない? なんで諦めない?

 

 

(まさか……この状況を確実に打開できる『何か』があって、それを待っているのか?)

 

 

 それは、終始エウレアを侮っていたボンボンが、初めて目の前の彼女について真剣に考えた瞬間だった。

 これまでの彼女の不可解な動き……攻撃を罠で凌ぎ、キャントリップ・サーチ・手札交換を駆使してデッキを掘り進めるプレイングの、その意味。

 

 それらが特定の「パーツ」を集めるためと考えれば、辻褄が合う。

 

 彼の推理はど真ん中の正解を射ていた。

 そこまで自力で辿り着けたのは、曲がりなりにも「エリート」を名乗るだけの才が彼にあったことの証左。

 しかし、彼は頭を振った。

 

 

(……いや、ありえない! あのドロップアウトガールが、そんな計算高いプレイングをできるはずがない!

 そうだ、ぜんぶ偶然だ。無秩序なプレイングが偶然そう見えただけに違いない!)

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 

 勇ましくカードを引くエウレアを見て、ボンボンの内心で、今しがた打ち消したばかりの疑念が再び鎌首をもたげる。

 だが、もはや思考する時間はない。

 彼女のターン──否、ファイナルターンは、もう始まってしまったのだから。

 

 

「《強欲なカケラ》を発動してから、これであたしは2回の通常ドローを行ったわ!

 強欲カウンターは2個になり、『禁断の壺』が完成する!」

 

 

 2ターン前に設置された陶器の破片は、いつの間にか修復され、その全体像が露わとなっていた。完成した()()()()()の、その見覚えのあるデザインにボンボンは驚愕する。

 

 

「これは……ご、《強欲な壺》!?」

 

「せーいかーい! カウンターを2つ乗せた《強欲なカケラ》は、禁止カード《強欲な壺》と同等の効果を持つわ! メインフェイズに墓地に送って、あたしは2枚ドローするっ!」

 

 

 デッキを捲り、新たに加わったカードを見て、エウレアは一瞬固まった。

 それは、この3日間、家中をひっくり返して見つけたドローソースの内の1枚だった。

 

 彼女が今よりもさらに小さかった頃、その「発動に伴う代償」が怖くて、デッキに入れないで物置に封印してしまった魔法カードで──しかしアナスタシアに「絶対に入れた方がいい」と圧を掛けられ、投入を決断したモノ。

 

 そんな経緯のカードだが、今のエウレアにはこのカードの秘める「強さ」がよくわかる。

 

 なぜなら──、

 

 

「手札から《流転の宝札(・・・・・)》を発動っ!」

 

 

 ──「姉」が、そう教えてくれたからだ。

 

 

「デッキから2枚ドローするわ。ただし代償として、このエンドフェイズにあたしは手札を1枚墓地に送るか、3000ダメージを受ける!」

 

 

 確かに発動すれば代償が伴う。しかし、処理のタイミングはエンドフェイズ。

 リーサルターンに使えばこんなのただの《強欲な壺》である。そうでなくとも、手札を捨てる方のデメリットを適用すれば消費ゼロの手札交換だ。

 アナスタシアが「入れろ」と迫るのも納得のパワーカードだった。

 

 ボンボンは怒涛の連続2ドローに唖然としつつも、虚勢を張る。

 

 

「クズデッキにはクズカードしか入ってない! 何枚引いてもムダさ!」

 

「すぐに答えはハッキリするわ、見てなさい!」

 

 

 山札に指を掛け、エウレアは目を閉じた。

 ──あと「1枚」。あと「1枚」引ければ、勝てるの……お願い!

 

 

(それでいい、エウレア。今のあなたなら、デッキに眠る『盤面への解答』を絶対に引き当てることができる……)

 

 

 コートの外で見守るアナスタシアは、この局面で弟子が独力で「答え」を掴み取ることを、確信していた。

 だってこの世界では、人間の「強い意思」が、勝敗に影響を及ぼすのだから。

 

 彼女の残りのデッキ枚数は21枚。対するボンボンは28枚。

 その7枚分の積み重ねた偶然の差も──「運命」を確かに後押しした。

 

 

「ドローっ!」

 

 

 幼い少女が目をカッと開く。

 ──来た! 最後の「1枚」!

 

 

「まずは『1枚目』! あたしは《思い出のブランコ》を発動するわ。墓地の通常モンスター1体を特殊召喚する! ──これが最後の戦いよ。お願い、『ダークソード』!」

 

 

 フェイバリットモンスター、本日三度目の出動である。

 沈みゆく夕陽をバックに、闇魔界の双剣使いが颯爽と参上を果たした。

 

 

《闇魔界の戦士 ダークソード》攻撃表示

星4 闇属性 戦士族

攻1800 守1500

 

 

「次に『2枚目』!セットしていた《ゲットライド!》を『ダークソード』を対象に発動する。墓地の《騎竜》を『ダークソード』にユニオン装備するわ!」

 

 

 中空に魔法陣か浮かび上がり、《騎竜》が飛び立つ。

 間もなくして漆黒の戦士の近くに降り立った緑眼の赤竜は、再会を喜ぶようにクルルッと喉を鳴らした。

 

 

「これで『ダークソード』は攻撃力が900アップ……って言いたいところだけど、今回は《騎竜》をリリースして、その『最後のユニオン能力』を発動する!

 このターン、《騎竜》をユニオン装備していたモンスターは()()()()()()()となる!」

 

 

 戦士が従える竜は顔を上げ、全身を激しく燃焼させた。

 炎は力となって「ダークソード」の内に流れ込み、彼の背中から翼となって顕現する。

 

 

「いくら直接攻撃してこようと、《スピリットバリア》と《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》がある限り──」

 

「ライフを500払い、《ツイスター》を発動するわ! フィールドの表側表示の魔法・罠カードを選択して破壊する。当然、あたしが選択するのは《スピリットバリア》!

 これであんたに直接攻撃したときの戦闘ダメージは無効にならない!」

 

「チッ!」

 

 

Eurea

LP

850350

 

 

 少女の命を変換して生み出された竜巻が、ボンボンを守る不可視の障壁を破壊し尽くす。

 彼女にとっては、ともすれば《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》よりもこのバリアの方が厄介だった。バック除去のカードは、彼女のデッキだと気合いで「素引き」するしかなかったからだ。

 

 しかし、彼女は自分のデッキを信じてこのターンを迎え、繋いでみせた。

 

 

「そして、『3枚目』……! 手札から《漆黒の闘龍(ドラゴン)》を通常召喚する!」

 

 

 全身を棘の生えた黒い甲殻で覆われた飛竜が戦場に舞い降りる。

 カード名が示す通りの漆黒の色合いは、主人である「ダークソード」と揃っていて何とも映える。

 

 飛竜は首を垂れ、主人に跨るように促した。

 

 

「このモンスターも《騎竜》同様に『ダークソード』が従えるユニオンモンスターのドラゴンよ。早速、『ダークソード』にユニオン装備させるわ。そのユニオン能力で、攻撃力は400アップ!」

 

 

《闇魔界の戦士 ダークソード》

攻1800 → 攻2200

 

 

 背に戦士を乗せ、大空へと飛竜が飛び立った。

 人竜一体となった2体のモンスターは、《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》の周りを旋回しながら機を窺う。

 

 これで準備は整った。エウレアが腕を振り下ろし、攻撃命令を出す。

 

 

「バトルよ! 《闇魔界の戦士 ダークソード》でボンボンに直接攻撃! 食らいなさい! ──スカイフォール・デカピテーション!」

 

 

 竜戦士が急降下を開始する。翼を使い、万力を込めて宙を蹴った。重力を利用した急加速が、濁流染みた風を纏う。

 暮れなずむ空の赤が、棚引く雲が、遠くに見える街灯が──すべてが「ダークソード」の視界の中で置き去りとなって、帯状の色の塊へと変化していった。

 

 瞬息の間に──《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》の翼の下を潜り抜け、漆黒の竜戦士が敵指揮官たる少年を切りつける。

 

 

「ひぁ──ぐわっ!?」

 

 

Bongbong

LP

40001800

 

 

 これまで無傷を保っていたライフを遂に削られ、ボンボンが額に青筋を浮かべる。

 拳をぷるぷると震わせ、唾を飛ばしながら叫んだ。

 

 

「よくも、よくも僕のライフポイントをッ……。だが、これでお前のモンスターは攻撃を終えた!

 《思い出のブランコ》で呼び出した『ダークソード』はエンドフェイズに破壊される! 次のターン、《ダイヤモンド・ヘッド・ドラゴン》でお前のライフを派手にオーバーキルしてやるゥゥ!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 ピシャリと撥ねつけるエウレアの言葉に、ボンボンは短い悲鳴を上げる。

 ここまで来れば、彼も完全に理解せざるを得なかった。

 この少女が本気で勝つつもりでいること。その準備が先のドローで完成していたこと。

 

 ──そして、防御札のない自分には、それを止めるすべがないこと。

 

 

「最後の『4枚目』っ……! 手札から速攻魔法《コンビネーション・アタック》を発動!」

 

 

 最後のキーカードを、エウレアが盤面に突きつけた。

 疲労の滲んだクタクタになった表情で、掴み取った「答え」への歓喜に口を歪めて。

 

 

「ユニオン装備を解除し、──装備モンスターの2()()()()()()を可能にする!

 これでおしまい! 『ダークソード』でもっかい直接攻撃っ!」

 

 

《闇魔界の戦士 ダークソード》

攻2200 → 攻1800

 

 

 漆黒の戦士が、従者の竜から飛び降りる。

 背中から燃え上がる《騎竜》の遺した翼で滑空し、彼はボンボンの目の前に着陸した。

 

 巻き上がった砂煙を背景に、じりじりと「ダークソード」が歩み寄る。

 ボンボンの顔に、その倍以上の背丈の屈強な戦士の影が落ちた。

 

 

「ひっ……やめ──」

 

 

 戦意はすっかり喪失していた。目尻に涙を浮かべながら情けなく頭を抱え、蹲るしかない。

 

 対する「ダークソード」は背中につけた鞘に右手を伸ばす──、

 ──と、見せかけて……ゴチン!

 

 

「あっ、あががぁっ、が……」

 

 

 漆黒の戦士は、余った左手で彼の脳天に拳骨を落としていた。

 

 

Bongbong

LP

18000

 

 

 デュエルとは、カードを交わした対話だ。

 

 カードを、デッキを、そして相手を侮辱した彼には、剣ではなく拳で「わからせる」必要があった。エウレアの内なる気持ちが、「ダークソード」にそうさせたのだ。

 

 ともあれ──これにて決着。

 激闘を制したのは、エウレア・パステル。

 

 




(捕捉)
リクルーターによる特殊召喚成功時に《奈落の落とし穴》を打てないように、特殊召喚成功がトリガーの《金剛剣の復活》も「ダメステには発動できないのでは?」と思われそう……というか私も思っていましたが、アニメDM本編での
「《命の綱》によるダメージステップ終了時でのモンスターの特殊召喚をトリガーにレベッカが《金剛剣の復活》を発動している」
描写から、本作ではダメステにも発動可能という裁定としました。細かい点ですが一応。
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