「英雄伝説」の残る世界にTS転生した 作:TF最新作待ってます
デッキから引き抜いた初期手札5枚をじっと見つめる。
悪くない……悪くないが、先攻でこそ輝く手札だった。
尤も、
ここは先攻の権利を実力で
1ターン目。ブルーノが山札に手をかける。
この世界のデュエルは、エクシーズモンスターが存在しないことさえ除けば、基本的にはOCGで言うところの「マスタールール2」。
先攻1ターン目のドローがこの世界では可能だ。
「ボクのターン、ドロー! ボクは《
D・ホイールに接合された
青白い光と共にモンスターの
やがて、鋼の拳を握りしめたサイ型の機械獣が、静かに戦場に降り立った。
背のジェットエンジンが小さく唸る。いつでも突進できる構えだ。
《TG ラッシュ・ライノ BE-04》攻撃表示
星4 地属性 獣族(機械族)
攻1600 守 800
モニター上に表示されたカード名に、私は視線を走らせた。
「BE-04」──コードナンバーを付されたカード名。
彼のカードはOCG版ではなく原作アニメで登場した際のソレだ。
この世界の「デュエルモンスターズ」は、私の知る「遊戯王」とは細部が異なる。
OCGとはカードのテキストが違うこともあるし、未OCGのカードも普通に存在する。
──つまり、前世の知識が完全に通じるとは限らない。
「ヤツのカードはどんな能力なんだ……?」と推測しながら戦う必要がある場面にも遭遇する。
例えるなら、異能力バトルだ。
だが、初見のカードへの対応もまた「駆け引き」を加熱する要素の1つ……私はむしろ好ましく思っていた。
「ボクはカードを3枚セットし、ターンエンド! さあ『シンクロ狩り』、キミのターンだ」
先行する青紫のD・ホイールを囲むように、裏側表示のカード3枚が現れ、やがて姿を隠した。
モンスター1体に伏せが3枚……勝負前の激情とは打って変わって冷静で堅実な立ち上がりだ。
不用意に突っ込んでディスアドバンテージを負うのは避けたいな。
「──私のターン、ドロー」
デッキに指をかけ、静かに手札へと1枚引き入れる。
手の内に収まった新たなカードに視線を這わせ、考えを巡らす。
さあ、このターンはどう動こうか──、
「ドローフェイズ終了前に、永続
ここで姿を消していた彼のリバースカードの内、1枚がその姿を顕わにした。
カードが燐光を放つと同時に、ブルーノがハンドルを握り直す。
彼のD・ホイールが仄白い青のオーラを纏い、加速していく。
「このカードが存在する限り、スタンバイフェイズに《スピード・ワールド2》に乗るボクの
拳を固く握る彼を尻目に、スタンバイフェイズへ移行する。
D・ホイールが、お互いのSPCの増加を告げる電子音を鳴らした。
モニターに表示されたプレイヤーネームを見て、少しの間、瞑目する。
「組織」は始末対象となる予定のシンクロ使いをリストにまとめ、私に共有している。
無論、そこには彼も名を連ねていた。
私は、元々この世界での彼の存在を認知していたのだ。
まあ、それでも私にとって、彼は「ブルーノ」だ。
ハッキリ言って本名が耳に馴染まないし。
D・ホイールの操縦テクだけじゃなく、デュエルの方でも魅せてくれたなら……うん、考え直してもいいかな。
「私は《スクラップ・リサイクラー》を守備表示で召喚する」
宣言と共に、大地を割りながら
その頂上から、金属製のアームを生やした掃除用ロボットが飛び出し、車輪を軋ませながらハイウェイに舞い降りた。
《スクラップ・リサイクラー》守備表示
星3 地属性 機械族
攻 900 守1200
表側守備表示での通常召喚……この頃のアニメ特有のルールの1つだ。
アニメで主人公連中がやっていたのに、どうして紙の遊戯王だとできないの? なんて思っていた頃が懐かしい。
しかし私も今やこの世界の住人だ。そうするのが適切なら表側守備表示での召喚くらい普通にする。
「《スクラップ・リサイクラー》が召喚に成功したとき、効果発動。デッキから機械族モンスター1体を墓地へ送る……私は《サイキック・アーマー・ヘッド》を墓地へ送る」
デッキから排出された1枚のカードを墓地へ置くと同時に、私の場の
廃材の山の中から錆びついたヘルメットが掘り出され、その中に格納された。
「リバースカードを3枚セットして、ターンエンド」
モンスター1体と伏せカードが3枚……奇しくも先の1ターン目、ブルーノと同じ形に私も落ち着いた。
とはいえ、彼の場には攻撃表示の「ラッシュ・ライノ」とSPC上昇を加速させる《フルスロットル》……守勢に回った私とは対照的な攻撃的盤面だ。ここから先、リバースカードの使いどころは見極めなければならない。
「まずは様子見か……なら、こちらから行かせてもらう! ボクのターン!」
彼が次なるカードを導く。
目が光った。間違いない。いいカードを引いてきた。
「手札から、《
ヘイローと白い翼が印象的な美女が祈りを捧げ、ブルーノのデッキに光が灯る。
迷いなく彼はデッキからカードを手繰り寄せ、手札を整えた。
間髪を容れず、次の一手が繰り出される。
「よし! 現れろ!
《TG サイバー・マジシャン SC-01》
星1 光属性 魔法使い族(機械族)
攻 0 守 0
肩章つきの鎧に身を包んだ少年魔導士が虚空より現れる。
疾風にマントを翻らせながら、ブルーノを守護するようにその側に侍った。
チューナー……
「バトルだ! 『ラッシュ・ライノ』で、《スクラップ・リサイクラー》を攻撃!」
……シンクロ召喚しない?
そこで、はたと気づいた。彼の残りの伏せカード2枚の内、その1つの
思考している間に、「ラッシュ・ライノ」が私の場の《スクラップ・リサイクラー》へ迫る。
可能なら温存したかったけど……タイミングはここしかない。
「──リバースカード、永続罠《バサラ》。1ターンに1度、私の場のモンスター1体をリリースし、リリースしたモンスターよりも高レベルのモンスター1体を選択して破壊できる」
機械獣の凄まじい勢いの突進をくらう寸前、標的となった掃除用ロボットが激しく燃え上がった。突然の発火現象に「ラッシュ・ライノ」は仰天、急ブレーキをかける。
「私はレベル3の《スクラップ・リサイクラー》をリリース。破壊するのは、レベル4の《TG ラッシュ・ライノ》」
私が指差すと同時、火だるま状態の「リサイクラー」が、呆然としている「ラッシュ・ライノ」目掛けて逆に体当たりを仕掛ける。
その光景を眺めながら、私は内心で
本当は、これから彼が出してくるシンクロモンスターと1:1交換したかった。でも、コストの《スクラップ・リサイクラー》が戦闘破壊されてしまったら元も子もないから、やむなくこうしたに過ぎない。
「そうはさせない! 罠発動!」
……
開かれたリバースカードを視界に収め、小さく息を吐く。
私の読みは的中していた。
「《緊急同調》──このカードは、バトルフェイズにのみ発動できる。その効果により、今、この瞬間に
バトルフェイズ中に出したモンスターはそのターンの戦闘に参加できるから、一度「ラッシュ・ライノ」で攻撃した後、シンクロモンスターに繋げれば追加の攻撃ができる。
メインフェイズに彼がシンクロしなかったのはこれを狙っていたためだ。
不自然なプレイングだったから、彼の伏せの1枚が《緊急同調》なのは
けれど、現在の私の除去札は《バサラ》の1枚だけ。そのターン1の権利も使った。
今回は彼のエースの着地を見守ることしかできない。
「行くぞ、『シンクロ狩り』ッ! レベル4の《TG ラッシュ・ライノ》にレベル1の《TG サイバー・マジシャン》をチューニング!」
彼が吠えた直後、「サイバー・マジシャン」は内歯車を思わせる形状の光り輝くリングへと変化した。対する「ラッシュ・ライノ」は唸り声をひとつあげると、その身を4つの光のオーブに変え、リングの中心部へ飛び込んでいく。
その陰で、私の《スクラップ・リサイクラー》は道連れの対象を見失い、視界の隅っこの方で静かに朽ち果てていた……。
「リミッター解放、レベル5! レギュレーターオープン! スラスターウォームアップ、OK! アップリンク、オールクリアー!」
交わったモンスターたちを起点に、眩い閃光が迸る。
「──GO、シンクロ召喚! カモン、《TG ハイパー・ライブラリアン》!」
光の奔流が収束し、一人の青年が姿を現す。
紅色のインナーカラーが鮮烈な印象を与える、白を基調としたアカデミックドレス。
房飾りのついた角帽を軽く押さえ、丸メガネの奥の瞳が鋭く光る。
静謐にして賢なる司書官、とでも形容すべき出で立ち。
マントを大きく翻しながら、彼は静かにフィールドへ降り立った。
《TG ハイパー・ライブラリアン SCX-1100》攻撃表示
星5 闇属性 魔法使い族(機械族)
攻2400 守1800
「
「手札を1枚捨てて、《レインボー・ライフ》を発動する。このターン私が受けるダメージは無効化され、無効化した数値分だけ私のライフを回復する」
白の司書官が片手に持った端末から、無数の本を模った青白い波動が殺到する。
しかし私に衝突する寸前で、波動は光のヴェールに阻まれ、吸収された。
やがて吸収されたエネルギーが温かな光となり、私を包み込む。
「……凌ぐどころか、回復までしてきたか。やるな……ボクはターンを終了する」
褒められこそしたが、個人的には嫌な盤面だ。
場に《TG ハイパー・ライブラリアン》がいる限り、その効果でシンクロ召喚の度にブルーノはデッキからドローできる。さっさと片付けないと、取り返しのつかないアドバンテージ差をつけられてしまう。
とはいえ、私の場には、永続罠《バサラ》がある。
ダークシグナー時代のボマーが使っていた、フリーチェーンのお手軽1:1交換カードだ。
これのおかげで私は毎ターン彼の盤面を荒らしに動ける。
どちらにも勝負の天秤が傾き得る状況と言えるだろう。
まあ、考えたところでドローしなければデュエルは進まない。
私はデッキに手を伸ばし──、
「キミは、どうしてこんな真似をしている?」
ハイウェイに響く低い声に、私はピタリと動きを止める。
横並びになったD・ホイール。
視線を向けると、ブルーノが歯を食いしばってこちらを見ていた。
「こんな真似、とは?」
「シンクロモンスターを消して回ることだ!」
まるで叫びだす寸前のような声色だった。
私は黙って、彼の次の言葉を待つ。
「シンクロは……人類の進化の象徴だ。かつて『不動遊星』という伝説のデュエリストは、シンクロの力で世界を救った。シンクロは、希望なんだ」
サングラス越しに灰色の瞳が、まっすぐこちらを射抜く。
「なのに、なぜキミはそれを消して回っている? キミの目的はなんだ?」
目的。
そう聞かれて、一瞬だけ言葉に詰まる。
意識しないようにしていた過去の任務が、頭の中に甦る。
影の中で行ったデュエル。問答無用で消去したシンクロモンスターたち。
呆然とする相手の顔。怒りに震え、叫ぶ者。膝をつき、力なくカードを拾い集める者。
──私は。
「……シンクロ召喚が、モーメントの回転を無暗に加速させていることくらい、貴方も知ってるでしょ?」
ブルーノの視線を避けるように、私は少し顔を背けながら続ける。
「だから私が、消して回ってあげてるわけだ」
「っ!」
彼の肩がピクリと震えた。
私の言葉を否定したいのだろう。しかし、彼自身、シンクロ召喚時に発生するエネルギー波長がこの世界にもたらす悪影響を知らないわけではないはずだ。
それでも──彼は叫んだ。
「でも、だからこそ! ボク
「……貴方は
私は、ふっと息をつく。
「他のプロD・ホイーラーがそんな高尚な気持ちを持ってるって……ホントに思ってる?」
ブルーノは一瞬、言葉に詰まった。
「それは……!」
強く反論することはできない。
シティのプロデュエル界にいる者たちが、全員が全員、シンクロ召喚の意義を理解し、その責任を負っているわけではない。
むしろ、その力を乱用しているデュエリストのほうが多いのではないか──それが、今まで私が見てきた現実だ。
せめてデュエルは楽しくやろうと思っていたのに、いざ蓋を開けてみれば、雑に手札を消費してシンクロモンスターを立てるだけ。リバースカードがあってもロクにケアもせず、イノシシみたいに脳死で突進してきて、勝手に崩れるようなプレイヤーばかり。
シンクロモンスターを「少ない手順で素早く出せる大型モンスター、
施設のシミュレーター相手の方がよっぽど面白かった。
本当にこの世界にあの「不動遊星」がいたのかと頭を抱えたい気分だ。
この時間軸では、彼こそが「クリア・マインド」──「アクセルシンクロ」の開祖で。
そして、この時間軸でも、彼はシティを守るためにダークシグナーと闘った。
そんな英雄がいたはずなのに、彼の献身があったはずなのに、この体たらく。
……だが。
「でも……それでも!」
ブルーノは歯を食いしばる。
「ボクはそれでもシンクロの可能性を信じているんだ! ボクは、今のプロデュエル界も絶対に変えてみせる!」
──真っ直ぐな瞳。
自分の信念を貫こうとする、強い意志。
……へえ。
私は内心、少しだけ感心しながら。
しかし言葉にはせず、そっとデッキに手を添え直した。
「……なら、その覚悟、試させてもらおうかな」
ドローする。
デュエルは、まだ続く。
「スタンバイフェイズ、墓地の《サイキック・アーマー・ヘッド》の効果を発動。自身を墓地から攻撃表示で特殊召喚する」
「《スクラップ・リサイクラー》の効果で墓地へ送っていたモンスターか」
《サイキック・アーマー・ヘッド》攻撃表示
星4 地属性 機械族
攻 0 守 500
ブルーノが呟く中、白と青がメインカラーのSFチックなヘルメットが現れる。
「リサイクラー」が回収したときの錆は取り払われ、ピカピカに磨かれた状態だ。
──それがいきなり炎に包まれた。
「《バサラ》の効果を使う。レベル4の《サイキック・アーマー・ヘッド》をリリースして、レベル5の《TG ハイパー・ライブラリアン》を破壊する」
「好きにはさせない、シンクロは守る! 罠発動、《シンクロ・バリア・フォース》!」
火球と化した《サイキック・アーマー・ヘッド》の猛追。
しかし「ハイパー・ライブラリアン」の眼前で、それは光の防護壁に阻まれた。
「フィールドのカードを破壊する効果を無効にし、自分フィールド上のシンクロモンスター1体につき相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与える!」
「……そう」
最後のリバースカードは、バーンのおまけつきの破壊無効だったか……中々やってくれるじゃないか。
しかし、ブルーノの使った《シンクロ・バリア・フォース》は「無効にして破壊する」効果ではない。破壊効果を無効にしただけだ。
おかげで私の《バサラ》は依然として盤面に残っている。これを除去できるカードを引けなかったこと、存分に後悔させてあげよう。
「どうだ! シンクロの希望を、キミに摘み取らせはしな──」
「なに安心してるの? スタンバイフェイズはまだ終わってないよ……墓地の《サイキック・アーマー・ヘッド》の効果発動」
「なッ……まさか!」
──そのまさかだ。
私の側、肩のあたりに再びSFヘルメットが出現する。
《サイキック・アーマー・ヘッド》の自己再生能力にターン1の制限などない。
スタンバイフェイズに墓地にいれば、それだけで復活が可能だ。
OCGの《黄泉ガエル》なんて目じゃない無限コスト。擁護しようのないインチキ効果。
けれど、誓って言うが、勝ちに拘っているからコイツを使っているわけではない。
アニメで見たときからこのカードにロマンを感じていた。
そして、アニメ産カードが現実にあるこの世界で握ってみて、やはり手に馴染んだ。
だから使っている。
私は、自分の使いたいカードを輝かせてデュエルに勝ちたい。
《サイキック・アーマー・ヘッド》攻撃表示
星4 地属性 機械族
攻 0 守 500
「……、…………」
言葉を失う、とはまさに今の彼のことを言うのだろう。
その頬を冷や汗が伝うのが、確かに見えた。
永続罠《バサラ》とレベル4の無限コスト《サイキック・アーマー・ヘッド》が揃ったことの意味に気づいたようだ。
後者をコストに前者の効果を使えば、実質の消費ゼロでレベル5以上のモンスターを除去できる。しかも、それが毎ターン可能……私のデッキでやりたかったことのひとつだ。
このターンは「ハイパー・ライブラリアン」を始末し損ねたが、ブルーノの場にもう伏せカードはない。守るのもそろそろ限界のはず。
「メインフェイズに移行する。私は《マシンナーズ・ギアフレーム》を攻撃表示で召喚」
橙色の装甲に身を包んだマシン兵が出現、ハイウェイに足をつけて滑走を開始する。
《マシンナーズ・ギアフレーム》攻撃表示
星4 地属性 機械族
攻1800 守 0
「召喚成功時の効果で、デッキから『マシンナーズ』モンスター……《マシンナーズ・フォートレス》を手札に加える」
銀白の
「リバースカードを1枚セット。私はこれでターンエンド」
次のターンが、このデュエル最大の分水嶺となるだろう。