「英雄伝説」の残る世界にTS転生した 作:TF最新作待ってます
(※補足)《TG メタル・スケルトン ZO-02》(アニメ効果)に関して、アニメ内での実際のテキストが未公開であることとOCG効果でも辻褄は合うことから、本作ではOCG版の(2)の墓地効果があるものとします。
……正直、拍子抜けしたんだ。
「シンクロ狩り」。
都市伝説みたいに語られる、正体不明のデュエリスト。
シンクロモンスターを問答無用で消して回る、冷酷無比な存在。
ボクは、てっきりそんな奴が出てくるもんだと思ってた。
でも──実際に向き合ってみたら。
口調は静かで、選ぶ言葉は随分と理知的で。
感情をあまり表に出さず、どこか自嘲めいていて……でも、カードを構える手には一切の迷いがない。
『シンクロ召喚が、モーメントの回転を無暗に加速させていることくらい、貴方も知ってるでしょ?』
先の語らいで奴が口にしたその言葉が、ボクの耳にこびりついている。
シンクロとモーメントの関係性。
そして、今のプロデュエル界に対する不信感……。
「シンクロ狩り」の指摘は、ボクにとって痛いところを突いていた。
否定しきれない現実が、そこにはある。
けれど奴の言葉は、まるで自分自身を
理性と狂気。
使命感と、どこか冷めた諦観。
一見すると相容れないはずの感情が、奇妙に同居しているような印象。
いずれにせよ……ボクは、シンクロの可能性を信じてるんだ。
だって、ボクたちが背負っているのは、「シンクロ狩り」が口にするような、ただの力なんかじゃないから。
シンクロは、“進化の象徴”で、希望で、未来の形だから。
デュエリストの魂であるカードを消すことが世界を救う道だなんて、そんなの絶対に間違ってる。だから、このデュエルで勝つことで、ボクはそれを証明してみせる。
……奴がターンを譲り、ボクの先攻3ターン目。
少し後方の位置に、黒いD・ホイールが見える。
そこにあるのは、無機質なヘルメットと、感情の読めない視線。
──でも、構わない。
静かに、デッキトップへ手を伸ばす。
指先に、自然と力がこもった。
ボクの
「ボクのターン、ドロー!」
決意とともに、新たなカードを招き入れる。
視線を盤面に戻す。
《バサラ》と《サイキック・アーマー・ヘッド》。
この2枚が揃った今、戦いが長引けばこちらが不利になるのは明白だ。
毎ターン、レベル5以上のモンスターを破壊されるとなれば、まともに闘うことすら難しくなる。
だからこそ、このターンで決める。
認めなければならない。
奴は──強い。並の相手ではない。
だけど、それでも!
ボクのデッキは、応えてくれている。
このターンでシンクロ狩りのライフポイント5900を、削り切ってみせる。
スロットルを引き、アクセルを強く踏み込む。D・ホイールの重低音が腹に響いた。
「ボクは《Sp-デッド・シンクロン》を発動する! SPCが5つ以上のとき、墓地のモンスターを素材にシンクロ召喚できる。ボクは、レベル4《TG ラッシュ・ライノ》に、レベル1《TG サイバー・マジシャン》をチューニング!」
虚空から幻影と化したモンスターたちが現れ、空間に浮かぶ軌道上に並ぶ。
「シンクロフライトコントロール! リミッター解放、レベル5! ブースター注入120%! リカバリーネットワーク、レンジ修正! オールクリアー!」
軌道上でリングとオーブが交わり、閃光が迸る──
「──GO、シンクロ召喚! カモン、《TG パワー・グラディエイター》!」
《TG パワー・グラディエイター WAX-1000》攻撃表示
星5 地属性 戦士族(機械族)
攻2300 守1000
深緑の鎧で身を包んだ重戦士が、右手に持つ戦斧を振るいながら戦場に降り立った。
そしてボクのフィールドには、《TG ハイパー・ライブラリアン》がいる。
「プレイヤーがシンクロ召喚に成功したことで、《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果発動! ボクはデッキから1枚ドローする!」
「レベル4の《サイキック・アーマー・ヘッド》をリリースし、《バサラ》の効果をチェーン発動する。対象はレベル5の《TG ハイパー・ライブラリアン》」
冷静な声が飛ぶ。
「ハイパー・ライブラリアン」のドロー効果は、自身が効果処理時にフィールドにいなければ適用されない。それを踏まえてシンクロ狩りは《バサラ》の発動タイミングを窺っていたのだろう。
でも──、
「させない……!」
ボクはすぐに応じる。
「墓地の《TG メタル・スケルトン》の効果を使用する! このカードを除外することで、『ハイパー・ライブラリアン』の破壊を無効にする!」
火球と化した《サイキック・アーマー・ヘッド》は、白の司書官に衝突する寸前で水晶に阻まれ、爆発する。煙の晴れた先には、涼し気な表情で佇む司書官の姿があった。
「……《Sp-エンジェル・バトン》の効果で墓地へ送ったカードが、それだったと」
「その通り」
感心した様子の奴の言葉をボクは肯定する。
先攻2ターン目のあのときに「メタル・スケルトン」を墓地に送っていたおかげで、間一髪、この攻防を制すことができた。
そして、これで「ハイパー・ライブラリアン」の効果は有効だ。
ボクは山札に指をかける。
このドローカードが、このターンの勝利に必要な最後の鍵だ。
「──『ハイパー・ライブラリアン』の効果で、ドロー!」
引いたのは──《TG ワーウルフ》。
これで攻め手は揃った。
「《TG ワーウルフ》を召喚! そして、手札から《Sp-ファイナル・アタック》を発動! SPCが8つ以上のとき、自分フィールドのモンスター1体の攻撃力を倍にする! 対象は──《TG パワー・グラディエイター》!」
《TG ワーウルフ BW-03》攻撃表示
星3 闇属性 獣戦士族(機械族)
攻1200 守 0
《TG パワー・グラディエイター WAX-1000》
攻2300 → 攻4600
左腕が機械化した暗い毛並みの人狼がフィールドを駆け出し、深緑の重戦士が力を漲らせる。白の司書官は、2体のモンスターを指揮するように後方へ陣取った。
総攻撃力8200──これが、ボクの全力だ。
「バトルだ!」
叫びとともに、D・ホイールを勢いよくターンさせ、バック走行に切り替える。
漆黒のマシンを駆るシンクロ狩りの姿を真正面からボクは捉えた。
「……」
一切の感情が読めない。この盤面を前にして尚、全く臆していないようだ。ただ、じっとこちらを観察しているかのような、掴みどころのない気配だけが、伝わってくる。
でも、関係ない。
「《Sp-ファイナル・アタック》の効果で、『パワー・グラディエイター』は直接攻撃できない。だけど、モンスターへの攻撃は可能だ! 《マシンナーズ・ギアフレーム》に攻撃!」
ボクの言葉に応えるように「パワー・グラディエイター」が咆哮を上げ、シンクロ狩りのフィールドの《マシンナーズ・ギアフレーム》に肉薄する。
「──マシンナイズ・スラッシュ!!」
一閃──斧刃が闇夜ごと《マシンナーズ・ギアフレーム》を切り裂いた。
爆炎と共に橙の機体が鉄屑と化す。攻撃力4600の大打撃は、仮想上のソリッドビジョンでありながら激しくハイウェイを揺らした。濃い煙が周囲に立ち込め、視界を奪う。
その向こうで、黒い影が揺らめいた。衝撃で奴のD・ホイールがバランスを崩したのだろう。すぐに追撃を仕掛けることもできた。でも、それはクラッシュを誘発しかねない。
……ボクが望むのは、デュエルでの決着だ。だから、息を潜めて見守ることにした。
──ヂッ……!
乾いた音が空気を裂く。
何かが飛んだ。飛び石だったのだろう。バック走行中のボクの視界、その正面から、硬い音が弾けた。D・ホイールの車輪に巻き上げられた小石が、ヘルメットに当たったのだ。
仰け反る影。咄嗟に声をかけようとして──やめた。
……ダメだ。情けは無用だ。相手は、シンクロを否定する敵なんだから。
煙の中からシルエットが飛び出す。
そして──その瞬間。
ボクは、息を呑んだ。
弾けたバイザー。
砕けた樹脂が宙を舞い、黒いヘルメットの中から──
それは、現れた。
照明灯の淡い光が差し込む。髪が、ふわりと揺れる。
煙のヴェールが晴れ、見えたのは──
ありえない、と思った。
声だけじゃない。仕草や体格、そういう"気配"の端々は感じていた。
でも、まさか本当に──。
首筋を這う髪は、亜麻色にアクアマリンの光を混ぜていた。
まつげの長さが、肌のなめらかさが、風の中で輪郭を浮かび上がらせる。
十字のハイライトが輝く瞳は、深い藍色。冷たいようで、どこか熱い。
想像していた正体とはまるで、別人だった。
いや、知らなかったんだ。ここまで、何も。
不意に彼女がこちらを見た。
顔をさらし、バイザーもない。
なのに──
犬歯が少しだけ覗いた、無邪気な笑み。
追い詰められたはずの、その顔が。
焦りも怒りもない。そこにあったのはただ──
純粋な喜びだった。
「……攻撃しないの?」
その声に、心が現実に引き戻された。
思考が止まっていた──戦いの渦中だというのに。
「……ッ! 《TG ハイパー・ライブラリアン》でプレイヤーに直接攻撃!」
「ハイパー・ライブラリアン」が放ったエネルギー波動が、彼女の下へ殺到する。
これが通れば彼女のライフは残り700。
さらに《TG ワーウルフ》で直接攻撃すれば、ボクの勝ちだ。
だけど、
「デュエル中に一度だけ、相手モンスターの直接攻撃で自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に、墓地の《カイトロイド》の効果を発動できる。
その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを──
──躱された。
デフォルメしたハンググライダー型のロボットが、遥か上空から滑空して割り込んで来る。「ハイパー・ライブラリアン」の一撃は紺の翼に受け止められ、彼女に届く寸前で弾かれてしまった。
リーサルを逃した……でも、戸惑っている場合じゃない。
取れるアドバンテージはここで取る。
「……《TG ワーウルフ》で、直接攻撃だ!」
狼人の爪牙が鋭い軌跡を描く。彼女のD・ホイールが揺れた。
それでも、無垢な笑みは変わらない。
このターンを凌ぎ切ったとはいえ、追い詰められているのは事実のはずなのに。
「どうして、キミは笑ってるんだ?」
気になって、思わず聞いてしまった。
「えっ?」
「…………まさか、自分で気づいていなかったのか?」
なんとも間の抜けた声に、毒気が抜かれる。
目をパチクリとさせる彼女は、本当にただの少女のようで。
顎に手を当てて、少し考えこむ横顔。
どこまでも無防備な表情を、ボクはじっと見つめた。
やがて、顔を上げた彼女の藍の瞳と、目が合った。
「──このデュエルが楽しいから、かな」
「たの、しい……」
「そう。
それは……いや。
このデュエルは、そんな気楽なモノじゃなかったはずだ。
デュエリストの魂であるカードたちを取り戻すために、ボクは彼女に挑んだんだ。
そして、相対する彼女もまた、使命を背負って戦っていたんじゃないのか?
手段が正しいとは言えないけど、シンクロモンスターを消して回っているのも未来を憂いているからこそだと、そう口にしていたのに……。
──そうだ。
だから、「楽しい」だなんて、彼女の言っていることは間違っている、はずだ。
おかしいはず……だけど。
「……」
頭を振り、前方へ向き直る。
次のターンに備えなくてはならない。
ボクに残った最後の手札は、《Sp-シンクロ・リターン》。次のターンに使う可能性のあるカードだけど、このターンに使えるカードじゃない。
SPCを8つすべて消費すれば、《スピード・ワールド2》のバーン効果を2回使うことができる。でも、それでトドメを刺せるわけじゃない。この選択肢もインセンティブが低い。
「……ボクはこれで、ターンエンドだ」
結局、できるのはその宣言をするくらいだった。
ただ、
次のボクのスタンバイフェイズでSPCは12。《スピード・ワールド2》のバーン効果を3回使える。そうすれば、彼女の残りライフ1900を削り切れる。
……。
けれど同時に、うっすらとこの時点でイメージが湧き始めていた。
「ここで罠カード発動──《ショック・ドロー》」
──
「私がこのターン受けたダメージ1000につき1枚、デッキからドローする。
このターン中のダメージは合計で
目の前で彼女は山札を捲っていく。
見る見るうちにボクの顔は青ざめた。
1枚しかなかった彼女の手札は、これで5枚……いくらでも攻めようがあるということだ。
対するボクの盤面と墓地には、もう防御札なんてない。
──否、それだけじゃない。
「ところで、《Sp-デッド・シンクロン》と《Sp-ファイナル・アタック》……どっちのデメリットを適用する?」
「……《Sp-デッド・シンクロン》の効果で、このエンドフェイズに《TG パワー・グラディエイター》は除外される」
戦斧を携えた重戦士が、霧のように掻き消えた。
このターンボクが使った魔法カードは、いずれも対象モンスターに自壊デメリットを付与するモノだ。「デッド・シンクロン」なら除外、「ファイナル・アタック」なら破壊……といった具合に。
除外されたシンクロを帰還させる《Sp-シンクロ・リターン》とのシナジーを考えて、今回は前者の自壊デメリットを先に適用して、後者のデメリットを踏み倒したのだ。
言ってみれば些細な選択だった。なのに、
「破壊じゃなくて除外ね……なら、その最後の手札は《Sp-シンクロ・リターン》あたりかな」
まるで、予定調和のように彼女は言い切った。
「……」
正確な一点読み。
ただの思いつきじゃないと、わかってしまう。
情報を集め、見抜き、選び、斬り込んでくる目が、何よりも物語っていた。
ぐっと堪えた。笑いそうになった自分を、自嘲するように。
まだ負けたわけじゃない。
「私のターン、ドロー」
「スタンバイフェイズ、墓地の《サイキック・アーマー・ヘッド》が自己再生──そのまま《バサラ》でリリース。《TG ハイパー・ライブラリアン》、今度こそ消えてもらう」
これで3度目。
とうとう司書官は火球の餌食になり、その身を散らした。
「《バサラ》の追加効果。モンスターが破壊されたなら、そのコントローラーに800ダメージを与える」
「なっ──ぐ、ぁっ!」
「《サイキック・アーマー・ヘッド》は再び復活する」
《サイキック・アーマー・ヘッド》攻撃表示
星4 地属性 機械族
攻 0 守 500
これでボクのフィールドは、《フルスロットル》と《TG ワーウルフ》だけ。
それでも──デュエルは終わっていない。
決して、諦めて首を垂れなどはしない。それが、ボクの信じるデュエリストの姿だから。
「メインフェイズに移行。《スピード・ワールド2》の効果を発動する。自分のSPCを4つ取り除くことで手札の『Sp』1枚につき、相手に800ダメージを与える──私の手札の『Sp』は、《Sp-ハイスピード・クラッシュ》の1枚」
ライフが削られる。黙って耐え忍ぶしかない。大丈夫だ、次のターンが来れば……。
「貴方に見せた《Sp-ハイスピード・クラッシュ》を手札から捨てて、リバースカード──《高速詠唱》を発動する。発動のために捨てた魔法カードの効果をコピーし、適用する。私の《サイキック・アーマー・ヘッド》と貴方の《TG ワーウルフ》を対象とし、破壊」
「……《TG ワーウルフ》が破壊されたとき、同名モンスターをデッキから手札に加える」
ボクを守るモンスターが、いなくなった。
それでも……まだだ。ボクは負けてない。
強がる心の奥底で、後ろ向きな願いが膨らんでいく。
……これ以上、カードを出さないでくれ、と。
でも。
嘲笑うように、静かに、淡々と。
彼女は、止まらなかった。
「《マシンナーズ・フォートレス》は、手札の機械族を合計レベルが8以上となるように捨てることで、手札・墓地からの特殊召喚が可能──私はレベル7の『フォートレス』自身とレベル2の《マシンナーズ・ピースキーパー》を捨てて、召喚コストとして墓地へ送られた《マシンナーズ・フォートレス》自身を特殊召喚する」
──地殻を砕き、大地の底から
無慈悲にすべてを踏み潰す無限軌道。
鈍く光る頑強な装甲。
天を衝かんばかりに長く伸びた砲身。
戦車というよりも、もはや小さな「城」だ。
暗く輝く1対のカメラアイが、ボクを冷徹に見下ろしていた。
「攻撃力……2500?」
ボクの残りライフは、2400。
そんな──、
「直接攻撃」
D・ホイールを停める。
エンジン音が消え、夜のハイウェイに静寂が戻った。
──目の前の彼は、敗北を噛み締めていた。
「……っ……くそ……!」
拳を握りしめ、悔しそうに顔を伏せる彼。
強い覚悟を持って挑んできたデュエルだったのは、しっかりと伝わってきた。
でも、今回は私の勝ちだ。
私はD・ホイールを降り、ゆっくりと彼に歩み寄る。
ハイウェイの照明が、青紫のボディのD・ホイールと、それを駆っていた男の姿を照らし出した。
この姿、この声。
私にはよく知っている人のソレに見えていた。
だけど。
──今の彼は、まだ「ブルーノ」じゃない。イリアステルの「アンチノミー」でもない。
デュエルの中で、それがよくわかった。
アクセルシンクロを狙うべき場面で、彼はそうしなかった。
先攻3ターン目、彼が《Sp-デッド・シンクロン》で呼び出したのが《TG ワンダー・マジシャン》──シンクロチューナーモンスターだったなら、バックの除去をしつつ諸々の自壊デメリットも踏み倒し、さらに場持ちの良いアクセルシンクロモンスターへと繋げる……そういう“強い動き”ができた。間違いなくそうすべき局面だった。
──勝ちを急いだあまり、「
今の彼は、まだ「クリア・マインド」の境地に至っていないのだ。やらなかったんじゃなく、
彼は、この時代を生きる、一介のD・ホイーラー。
確かな強さを持つが、それでも未熟なデュエリスト。
それが結果であり、事実。
だけど、彼とのデュエルはとても楽しいモノだった。
カードの応酬、知略を巡らした駆け引き……私がずっと求めていたものが、そこにあった。
これまでのデュエルでは感じられなかった熱を、彼がこの胸の内に灯してくれた。
そして、今。
敗北し、膝をつく彼を見下ろして、私は口を開く。
「……プロD・ホイーラー、『
彼の肩が、ピクリと動く。
……そう、今の彼はJohnny──ジョニーだ。
プロのD・ホイーラーとして活躍し、チーム・
メカニックとしての腕も超一流で、自分のD・ホイールをプログラムからエンジンに至るまで、すべて自身の手で調整していることで有名なデュエリスト。
私は静かに息を吐く。
組織の使命に従うなら、この瞬間、彼のシンクロを抹消しなければならない。
──でも、私は。
> C:\DEL_SYS\agents\android\modules\nullphage.exe --scan active --absorb
[SYSTEM]:アクティブなエネルギー反応を検出……
背後の空間がかすかに揺らぎ、電子ノイズが耳の奥を震わせる。
起動しかけた抹消プロトコルを、私はわざとらしく、指を鳴らして遮った。
[SYSTEM]:手動インターラプト信号を受信
[SYSTEM]:nullphage.exe の強制停止中……
[SYSTEM]:抹消処理、中断されました
「──今日は、これで終わり」
歪みが消える。音も、光も、気配すらも。
まるで“最初から何もなかった”かのように。
ジョニーが訝しげにこちらを見上げる。
私は、何も言わない。ただ、微笑むだけだ。
私は──何もしなかった。
最初から、そうするつもりだった。
「……楽しかったよ、プロD・ホイーラー」
言い残し、踵を返す。
組織には適当な理由でどうにか誤魔化すしかない。でも、それでいい。
彼のシンクロは、彼の未来は、こんなところで終わらせてはいけない。
原作の物語を破綻させないため? それもあるけど、それだけじゃない。
D・ホイールに跨がり、エンジンをかける。
遠ざかる視界の端で、ジョニーがまだこちらを見つめているのがわかった。
振り返ることなく、私は軽く手を振っておいた。
──お互い気兼ねなくデュエルできる日が来ることを祈って。
ここまで読んでくださりありがとうございます。色々と初めてだったので恐縮ですが、なんとかデュエルを書き上げることができました。
もし面白いと思っていただけましたら、評価や感想をいただけると、今後の励みになります。