「英雄伝説」の残る世界にTS転生した   作:TF最新作待ってます

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今さらですが、オリ主の原作知識については「アニメ本編ならそれなりに覚えているものの、裏設定とかにはちょいちょい漏れがある」という想定です。またARC-V以降の知識はありませんが、劇場版DSODは見ているものとします


#7 ねえ、デュエルしなよ

 

 

 ──喧騒が辺りを支配していた。

 

 拳銃片手にショップを荒らす男が3人。

 破壊されたショーケース、散乱したガラス片。

 

 男たちの手には、展示から毟り取ったデュエルモンスターズのカードが握られていた。

 カードは、奴らが持ち込んできた大型のトレカ用ケースへと乱雑に突っ込まれていく。

 

 カウンターの物陰から、そんな店内の光景が見えた。

 幸い、奴らが私たちに気づいている様子はなかった。

 背後にいるジョニーに「待機」のハンドサインを送る。

 

 奴らの凶行への静かな怒りを孕んだ瞳。しかし、私の指示に首肯してくれた。

 デュエルを希望とする彼には、許せない光景だっただろう。

 組織の命とはいえ、大概あくどいことをやっている私だが、同じ気持ちだ。

 

 奴らは──デュエルモンスターズのカード強盗だ。

 「カード」を軸とした社会基盤が築かれているこの世界において、カードにはとんでもないレベルの資産価値が付随する。

 

 例えば、原作にてダイナソー竜崎が「プレミア価格で数十万」と語った《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》は、時代が進みデュエル文化が浸透しきったたこの未来社会では「億」の値打ちさえあるとされる。

 

 どうしてもデッキに欲しいカード、単純に“金”になるカード……。

 違法行為に手を染めてでもそれらを入手しようとする輩は後を絶たない。

 奴らもそのクチだろう。

 

 さておき、状況把握だ。

 

 ショップの全体を見渡す。

 地面に伏せた状態で両手を頭の上で組んでいる子供と大人が数人ずつ。

 何人か見覚えのある顔が混ざっている。逃げ遅れたお客様方か。

 “動けば撃つ。死にたくなかったら大人しくしていろ”……そんな風に脅されたのだろう。

 

 ここはモール内だ。店の外にも民間人が大勢いる。通報されるのは避けられない。

 代わりに、奴らはネオ・セキュリティへの牽制として店内の客を人質としたようだ。

 

 ここで、私はどうするべきか。

 “面倒事は保安局に任せ、大人しく助けを待つ。”

 そうするのがきっと賢明な判断だ。

 

 ……でも。

 

 私はアンドロイドだ。私には人を超越した力がある。

 なのにそれを、助けが必要な人を救うために使えなかったら──。

 本当の意味で、私は「ただの人形」になってしまう。

 

 私は、心だけでも、ずっと人間なんだ。

 そう信じたいから。

 

 ──息を潜めること数秒、いいタイミングが来た。

 

 3人の内の1人は、ショーケースの中身に夢中。

 もう1人は、出入り口側を気にしつつ、客を威圧している。

 

 そして──最後の1人は、奥の方で通信機らしきものを弄っていた。

 

 無駄口が多い。足元が疎か。

 状況への警戒が、ほとんど感じられない。

 

 動くなら──今だ。

 

 私は一息吸って、カウンターを蹴った。

 

 

「──ッ!」

 

 

 奇襲に気づいた男が銃を構えるより早く、私は足元へ滑り込み──

 肘打ち、膝蹴り、そして銃を蹴り飛ばす。

 

 

「がっ──!?」

 

 

 1人目、沈黙。

 

 反応した2人目に、飛び込む。

 ガラス片の上を強引に滑りながら、エプロンの内に潜ませていた折りたたみ式のスタンロッドを展開した。

 

 

「遅い」

 

 

 低く呟くと同時に、男の膝裏を薙ぎ払う。

 バランスを崩したところへ、電撃を一発。

 

 

「ぎゃっ──」

 

 

 2人目、脱落。

 

 あと1人──と、踏み込もうとしたその時だった。

 

 

「動くな!」

 

 

 ──凍りついた。

 

 最後の1人が、女の子のこめかみに拳銃を突きつけていた。

 カウンターでの私とジョニーのやり取りに割り込んで来た、あの子だ。

 デュエルディスクを胸に抱えたまま、彼女は震えていた。

 

 

「……チッ、余計な真似しやがって」

 

 

 男は唾を吐き捨てながら、私を睨んだ。

 

 

「なんだテメェ……その、ふざけた格好(似非シスター服)しやがって……武器を捨てな。少しでも妙な真似をしてみろ、このガキの命はねぇぞ」

 

 

 動けない。

 私は、彼女を見捨てられない。

 

 ジョニーは……私の背後。カウンターの陰にまだいる。

 動けば確実にバレてしまう。今、彼に何かしてもらうのも厳しそうだ。

 

 ──ここは、私が踏ん張るしかない。

 

 そう思いながら、私は静かに構えを解き、スタンロッドを床に置いた。

 

 男がゆっくりと、しかし確実に私との距離を詰めてくる。

 拳銃はまだ、少女の頭に向けられたままだ。

 

 

「フッ、ヘヘヘ……お嬢ちゃんよ、ちょっと腕に自信があるからって、流石に()()()が過ぎたな。悪い子には『お仕置き』が必要だ……そうは思わねぇか?」

 

 

 ニタニタと笑いながら、男は首を鳴らした。

 見せびらかすように、空いた左手を握っては開いてを繰り返している。

 憂さ晴らしに、私を殴るつもりだ。

 人質を取ったままなら、私は反撃できない。そう踏んでいる。

 

 ──くだらない。

 でも、このままじゃまずい。

 

 あと三歩……二歩……。

 

 その瞬間、私は口を開いた。

 

 

「ねえ──デュエルしなよ」

 

 

 足音が止まった。

 男の目が、剥き出しの警戒を宿す。

 

 

「……あ?」

 

「私が勝ったら、その子を解放して。逆に、貴方が勝ったら──」

 

 

 私は、ゆっくりと人差し指を立てる。

 そして言った。

 

 

「“とある場所”を教えてあげる。そこには、金庫があるんだ」

 

「……は?」

 

「その中には──《真紅眼の黒竜(・・・・・・)》が保管されてる」

 

 

 店内の空気が、また凍った。

 人質になっていた者たちのうち、数人が小さく息を呑んだ音がした。

 

 ──《真紅眼の黒竜》。

 

 デュエルモンスターズの生みの親、ペガサス・J・クロフォードが“5本の指”に入ると称した伝説のデュエリストの1人──城之内克也が使用したエースモンスターの1体。

 

 今や市場に出回ることさえない、数億の値が付くとされる“伝説”のカード。

 ただのカードではない。この時代では、国家レベルの資産価値がある。

 

 ハッタリだ。

 でも、それを確かめる手段はこの場にない。

 

 

「ふざけるなよ。そんなもん、どこに──」

 

「本当にあるよ。私の管理下にね。

 金庫の場所と、その暗証番号。勝てば、全部教える」

 

 

 静かに、しかし揺るぎない声で。

 私は、男の目をまっすぐに見据えた。

 

 

「……っ、舐めやがって……!」

 

 

 怒鳴り返す男の目に、今度は別の色が浮かぶ。

 

 欲望。

 金。名声。カードコレクターとしての本能。

 

 ──揺らいだ。

 

 私は、さらに一歩踏み込む。

 

 

「私を殴っても、何も得られない。

 でも、私とデュエルすれば、あの『真紅眼』が手に入るかもしれない」

 

「……!」

 

「その銃をしまって、デュエルしなよ。

 貴方、“デュエリスト”なんでしょ?」

 

 

 私は、最後の一言を静かに──でも強く告げた。

 

 男は口元をヒクつかせた後、一度、深く息をついた。

 やがて考えがまとまったところで、口を開く。

 

 

「良いだろう。受けてやるよ、そのデュエル」

 

「なら早速」

 

「──()()()、条件がある」

 

「……何?」

 

「デュエルするとなると、俺の両手が塞がっちまう。そしたらこのガキは半ば自由だ。

 そうなると、今度はお嬢ちゃんの方の“デュエルする理由”がなくなる……違うか?」

 

 

 ……その通りだ。

 粗暴な見た目に反して、意外と男も考えている。

 デュエルの間、常に拳銃を人質のこめかみに突きつけたままプレイするのは現実的に考えて難しい。明らかに手の本数が足りないし、盤面に気を遣わなければならない以上、周囲への注意も疎かになってしまうだろう。

 

 そこで生まれる隙をジョニーに突いてもらおうと思っていたのだけど……。

 まあ、それも数あるプランの内の1つに過ぎない。これくらい想定内だ。

 

 

「仲間2人と同じように、リアルファイトで俺をぶちのめそうとするかもしれねぇよな。デュエルなんてそっちのけでよ」

 

「私はそんなことしないけど──で、貴方の提示する『条件』って何?」

 

 

 途端に、男はニヤニヤした笑みを浮かべ始めた。

 懐に左手を突っ込む男に、私は眉を顰める。

 

 ──絶対にロクなものじゃない。

 そう確信できた。

 

 やがて「こいつさ」と言いながら、男は()()()()()を取り出した。

 手のひらほどのサイズの、禍々しい機械。

 その機械が、女の子の首元に取りつけられた。

 

 ガタガタと震えながら顎下の異物に触れる彼女に、男は追い打ちをかけるように告げる。

 

 

「小さいが、『圧力起爆装置』だ。起動すれば──()()()

 首と胴が泣き別れって寸法だ……ククク」

 

「……悪趣味だね。貴方の提示する『条件』は、命綱代わりの人質をデュエル中も認めろってこと?」

 

「そう言うこった。まあ安心しな。スイッチを押さなきゃ爆発はしねぇよ。

 俺がデュエルに“負ける”か、このガキが俺の半径15メートルから離れない限りは……な」

 

 

 ちょっと待て。

 こいつ、()()()()()()()()()()()と言ったのか?

 

 その瞬間、伏せていた人質の1人──店長が叫んだ。

 

 

「なっ……話が違うじゃないか!」

 

「だ~か~ら~、ちゃんとこのガキを『解放してやる』って言ってるじゃねぇか。

 ──“この世”から、だけどなぁ~!」

 

 

 人質たちが息を呑む音。

 私に突き刺さる、助けを求める視線。

 

 拳を強く握り込んだ。

 胸の内が、氷みたいに冷たくなっていく。

 この男は、絶対に許せない。

 

 

「そっちがデュエルしようって言うから、条件を呑んでやったんだぜ? いまさらナシってのは通用しねぇ……いいか? お前が負けりゃ『真紅眼』は俺のモン。全部、そっちの提案通りだ」

 

 

 響き渡る男の嘲笑。

 完全に勝ち誇っていた。

 傲慢、愚劣、非道。

 

 だけど──、

 

 

「それで、話は終わり? さっさと始めようよ」

 

 

 冷や水を浴びせるような私の言葉に、男は固まった。

 視線が交錯して、数秒。

 

 

「……ケッ。カスの分際で粋がりやがって」

 

 

 唾を吐き捨てながら、男は女の子を突き飛ばした。

 

 受け身すら取れずに、床に倒れる彼女。

 鼻柱を押さえる手は震えていた。瞳はうっすらと、涙に滲んでいた。

 

 

「爆発に巻き込まれたら堪ったモンじゃねぇからな。クソガキ、俺から離れて適当に店舗内をうろついてな……」

 

 

 最低だな、こいつ。

 

 ゴミを見るように男を一瞥。

 それから、急いで女の子に駆け寄った。

 

 痛みに表情を歪める彼女を、ゆっくりと抱き起こす。

 

 俯く顔。静かな嗚咽。

 ぎゅっと抱きしめて、彼女の背中を擦った。

 

 

「……怖かったね。もう大丈夫」

 

「お、おねえさ、んっ……バ、ばく──爆だっ……」

 

「大丈夫だよ、大丈夫……深呼吸しよっか。ね?」

 

 

 吸って吐いてと、彼女の呼吸に合わせて優しく囁いた。

 数秒もすれば、震えは落ち着いた。……強い子だ。

 

 

「カウンターの裏に“彼”がいる。デュエル中に、コッソリ行って……きっと、助けてくれる」

 

「!」

 

 

 そっと、耳打ち。

 女の子は腕の中で、弾けるように顔を上げた。

 

 覚束ない足取りで歩き出す彼女を、静かに見守る。

 

 そっと背を向けて、私は戦いに向き直った。

 声には出さずに──心の中でだけ言う。

 任せたよ、ジョニー。

 

 ふっと息を吐いた。頑張らないといけないのは彼だけじゃない。

 視線を前へ。

 男は、私の背後を行く女の子を冷やかに見下ろしていた。

 

 

「どこに行こうってんだか……ま、せいぜい安全地帯を探して震えてな」

 

 

 キッと睨みつける。

 こいつを相手するのは、私の仕事だ。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 テーブル席を退け、デュエルに適したスペースを確保する。

 

 壁際に陣取った奴と、対峙。

 つくづく狡猾だ。背を見せることなく、店全体を見渡すのを徹底している。

 

 ……視線を少し下へ。

 肩掛けタイプの大型のデュエルディスク……GXのクロノス先生が使っていたような「デュエルコート」が、鈍く光っていた。

 こんな奴が持つには些か上等すぎる。これも、盗品か。

 

 対する私は、無手だ。

 それを揶揄して愉快そうに男が嗤う。

 

 

「なぁ、お嬢ちゃん……デュエルするには、デュエルディスクが必要なんだぜ?」

 

「あるよ──()()に」

 

 

 スカートの裾をずらす。

 露わになった細い腿と、そこに巻かれた機械式ホルスター。

 

 そして──ピタリと固定されている、折り畳み式の小型デュエルディスク。

 

 無駄のない装備。無駄のない動作。

 

 静かにそれを取り外し、左腕に装着する。

 そっと表面を撫でると、短く「認証完了」と電子音声が鳴った。

 瞬時にデュエルディスクが変形し、ブレード状のカードゾーンが形成される。

 

 

「……ん、始めようか」

 

「ハッ、吠え面掻かせてやる──()()()()()!」

 

 

 ……は?

 

 男がカードを引く。その動作自体は、ごく普通の“初手ドロー”。

 だが、タイミングがおかしい。

 デュエルディスクが先攻・後攻の()()()()()()()()()()──いや、そもそもその演出すらスキップしていた。

 

 視線を落とすと、私のディスクには「後攻」を示すランプが点灯していた。

 だがそれは、男が既に動いた後のことだ。

 

 ……完全に順序が逆だ。

 まるで全部“わかっていた”と言わんばかりの立ち回り……否、先回りだった。

 

 ──なんだろう、この感じ。イヤな既視感がある。

 

 過去に「シンクロ狩り」として戦ってきた相手の中には、犯罪者が一定数いる。

 イカサマ常習犯もいた。あいつらと対峙したときみたいな“あの感覚”──

 盤面とは関係のない、「異質な手触り」とでも形容すべき不自然さ。

 

 その異様な気配が、今、漂っている。

 

 

「手札から《天の落とし物》を発動! 互いにデッキから3枚ドローし、その後、手札を2枚捨てる!」

 

 

 禁止カード《天使の施し》の効果を両プレイヤーに与えるカード……確か、漫画版GX産のカードだ。

 両者の山札に光が灯った。

 視線を男から逸らすことなく、カードを捲る。

 

 注意深く、不審な動きを一切見逃すことのないように。

 奴が捨てたカードは──《スキル・サクセサー》と《デュアル・ゲート》か。

 

 

「大盤振る舞いだね。一見するとイーブンだけど、私の手札だけ1枚増えちゃうのに……そんな向こう見ずでいいの?」

 

「これっぽっちも関係ねぇな。何せ、俺の手札もドローも──『完璧』なんだから」

 

 

 完璧な手札に、完璧なドロー……ね。

 まるで「自分はカードに選ばれし真の決闘者だ」と言わんばかり。

 だけど、間違いなくこいつはそんな器じゃない。

 眉を顰めずにはいられなかった。

 

 

「次だ。俺は《デュアル・ゲート》を発動する! このカード自身と、墓地に捨てた同名カードの合計2枚を除外し、デッキから2枚ドローッ!

 そんで、こいつだ! 発動、《魔の試着部屋》ァ!」

 

「《魔の試着部屋》だって?!」

 

 

 店長が驚いたのも無理はない。

 意気揚々と叩きつけられたのは、運任せのカードなのだから。

 

 ──《魔の試着部屋》。

 その効果は、“800ライフポイントをコストとして払い、デッキトップ4枚から、レベル3以下の通常モンスターをすべて特殊召喚する”……というもの。

 

 デッキ内のカードの順番は、両プレイヤーにとって完全な非公開情報だ。

 故に、そのままこのカードを使ったところで博奕にしかならないのである。

 

 でも──私には確信があった。

 

 この男は、()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

「俺はライフを800払い、デッキの一番上からカードを4枚確認する! フッフヘヘヘ、来た来た来たァ!!

 1枚目、レベル3通常モンスター《ジェネクス・コントローラー》!

 2枚目、レベル1通常モンスター《大木炭18(インパチ)》!

 3枚目、レベル1通常モンスター《大木炭18》、2体目!

 そして4枚目ぇ! レベル1通常モンスター《大木炭18》──3体目だッ!」

 

「そんな馬鹿なっ! 4枚全部が特殊召喚できる通常モンスターだなんて?!」

 

 

Enemy

LP

40003200

 

 

 小さなボディに不釣り合いなほど大きな頭部を乗せたオートマトン《ジェネクス・コントローラー》。

 それを取り囲むように現れた、3体の燃え尽きてしまった巨木の化身《大木炭18》。

 

 何らかのカード効果による仕込みなしで4体特殊召喚ね……。

 わかってはいたけど、()()()()な、こいつ。

 

 

「これが真のデュエリストの運命力ってことだ。そして、《ジェネクス・コントローラー》はチューナーモンスター! 俺は、レベル1《大木炭18》3体に、レベル3《ジェネクス・コントローラー》をチューニング!

 目ん玉かっ開いてよく見てな! これが、“シンクロ召喚”だ! 来い、《大地の騎士ガイアナイト》!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1+

1+

1+
3=
6

 

 

 魔馬を従え、屈強な騎士が戦場へ躍り出る。

 両の手に持った巨大なブレードを振るうと、激しく烈火が舞い散った。

 

 

《大地の騎士ガイアナイト》攻撃表示

星6 地属性 戦士族

攻2600 守 800

 

 

「シンクロ召喚だって?! プロと保安局を除いたら、シンクロモンスターのカードは所持だけでも『禁シンクロ法』で重罪のはずだぞ!」

 

 

 店長の悲鳴──その単語が胸を刺した。

 

 ()()()()()()

 モーメント暴走の予防を盾に、市民から“力と未来”を奪った権力の檻。

 プロと保安局だけが独占するその不平等は、欲望を燻らせる温床になった。

 

 

「なァに言ってやがる、オッサン」

 

 

 男はニヤついたまま肩をすくめる。

 

 

「“用量・用法を守ればOK”──そう言っておいて、プロ連中も『ただの力』として振り回すだけじゃねぇか。なら、そんなクソみてぇな法律なんざ守る価値もねぇ!」

 

 

 ……便利なものを禁じれば、裏で余計に転がる。

 現実の歴史で「禁酒法」が証明した道理だ。

 シンクロを規制した「禁シンクロ法」も同じ──そして(シンクロ狩り)は、その歪みを狩る牙。

 

 私のターゲットは3つ。

 シンクロ使いのプロ、保安局、そして今目の前にいるような違法デュエリスト。

 

 元より勝つつもりだが、──負けが許されない理由が、また1つ増えた。

 

 

「──さぁて、俺のターンはまだ終わらねぇ! ライフを800支払い、2枚目の《魔の試着部屋》を発動! ()()、デッキの上から4枚は全部レベル3以下の通常モンスターだ!」

 

「ふざけるな! 完全にイカサマじゃないか!」

 

「証拠もねぇのに吠えるなよ、オッサン!

 俺はチューナーモンスター《ウォーター・スピリット》と、《マーダーサーカス・ゾンビ》3体を特殊召喚する!」

 

 

Enemy

LP

32002400

 

 

 わらわらと湧いてくるモンスターたち。

 男は迷いなくそれらのカードを素材として墓地へと叩き込んだ。

 

 事前にリハーサルでもしていたみたいに、すべての動きに澱みがない。

 

 間違いない。典型的なイカサマだ。

 先攻・後攻判定への干渉に、デッキの積み込み……デュエルが始まる前から、ここまでの流れは必然だったのだ。

 

 奴のデュエルコートを押さえないことには、証拠なんか出ないだろう。

 でも──そんなモノ、必要ない。

 

 爆弾はジョニーがなんとかしてくれる。

 

 私はただ、こいつに勝てばいい。イカサマごと、全部ぶち抜く。

 

 

「レベル2《マーダーサーカス・ゾンビ》3体に、レベル1《ウォーター・スピリット》をチューニング!」

 

 

 氷水の精霊がリングへと身を変え、3つの生ける屍がオーブとなった。

 軌道上に並んだ星々が、眩い閃光を導く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2+

2+

2+
1=
7

 

 

「──シンクロ召喚! 来い、《スクラップ・デスデーモン》!!」

 

 

 地の底より、鋼鉄の悪魔が翼を広げて飛来する。

 堅牢な四肢。捩れた双角。

 廃材で作られた金属マスクの奥、真紅の瞳が獰猛にぎらついた。

 

 

《スクラップ・デスデーモン》攻撃表示

星7 地属性 悪魔族

攻2700 守1800

 

 

「どうだ、お嬢ちゃん……俺の連続シンクロの味は? サレンダーするなら今の内だぜ」

 

「別に。終わりならターンを頂戴」

 

「……可愛げがねぇな。デュエルが終わったら、特別に俺が“躾”をしてやる──だが、その前に、3枚目の《魔の試着部屋》だッ!!」

 

 

Enemy

LP

24001600

 

 

 ──そりゃ当然、3枚目も握ってるわな。積み込みなんだから。

 意気揚々とデッキトップを捲る男を、私は冷めた目で眺めていた。

 

 1枚目、レベル3通常モンスター《チューン・ウォリアー》。

 2枚目、レベル3通常モンスター《ジェリービーンズマン》。

 3枚目、レベル3通常モンスター《ジェリービーンズマン》、2体目。

 

 4枚目は……魔法カード《死者蘇生》。

 これは《魔の試着部屋》の効果でデッキに戻してシャッフル。

 

 

「ククク……行くぞ? レベル3《ジェリービーンズマン》2体に、レベル3《チューン・ウォリアー》をチューニング!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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3+

3+
3=
9

 

 

 三度、行われるモンスターたちの同調。

 1つの道筋が描き出す光の奔流。

 

 

「咆哮せよ! シンクロ召喚、大自然の力──《ナチュル・ガオドレイク》!」

 

 

 空間を爪牙が切り裂き、花冠の(たてがみ)を持つ獅子が現れた。

 植物から成る新緑の鎧、そこから伸びる筋骨隆々な脚。

 大地を踏みしめ、獣の王が雄叫びを上げた。

 

 

《ナチュル・ガオドレイク》

星9 地属性 獣族

攻3000 守1800

 

 

 《大地の騎士ガイアナイト》、《スクラップ・デスデーモン》、《ナチュル・ガオドレイク》──OCG史上で3体しか存在しない「バニラのシンクロ」が揃い踏みだ。

 積み込み野郎が相手とはいえ、光景そのものは圧巻だった。

 

 

「先攻1ターン目から、シンクロが3体……? で、でも! ライフは残り1600だ。直接ライフにダメージを与えるカードなら、勝利を狙えるかも……!」

 

「オッサン、俺が爆弾をつけたガキのことを忘れてんのか? 俺が負けたらあのガキは“ジ・エンド”! お嬢ちゃんに勝ち目なんてハナからねぇのよ!

 ──それに、俺のライフは1600じゃねぇ。《至高の木の実(スプレマシー・ベリー)》を発動! 俺はライフを2000回復するッ!」

 

 

Enemy

LP

16003600

 

 

 視界の端の方で、店長が項垂れた。

 “終わった。後はひたすら嬲られるだけ。”

 表情が、そう物語っていた。

 

 ……甘いな。

 3体シンクロを出しただけで「おしまい」なんて、目の前の敵はそんな甘くない。

 男の手札は、残り3枚。余っているのだ。

 積み込みしているなら、まだ“何か”あるに決まっている。

 

 

「最後の仕上げだ! 永続魔法《絶対魔法禁止区域》を発動する! このカードがある限り、フィールドの『効果モンスター以外のモンスター』は、魔法カードの効果を一切受けつけない!」

 

 

 バニラのモンスターへの、魔法耐性の付与……。

 《ブラック・ホール》等、全体除去を行う汎用魔法カードに対するケアだろう。

 憎たらしいほどに抜け目ない。

 

 しかしこれで、奴の手札は残り2枚。

 

 

「……ムカつくな、お前の顔」

 

 

 じっと観察していると、男は不意にプレイする手を止めた。

 先ほどまでのニタニタした笑みは鳴りを潜め、不愉快そうに私を睨んでいる。

 

 

「ずーっと、すまし顔だ。こんなに完璧な盤面を俺が作り上げてるってのに──綺麗なツラしやがって、逆にムカつくんだよ」

 

 

 そんなこと言われても困る。

 

 この身体は、そう設計されたモノだ。潜入捜査用で、()()()に。

 嫉み僻みなど、私の知ったことじゃない。

 

 第一、ムカついているのは私の方だ。

 こんな、めちゃくちゃしやがって……デュエルを何だと思ってるんだ。

 

 

「そんなに悔しいなら、このデュエルに勝てば?」

 

「──ッ!! 俺は、リバースカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 怒髪衝天。

 怒りの形相を浮かべる男に、私は肩をすくめた。

 

 ……ふーっ、ターンが回ってきたか。

 視界を下ろせば、信頼するデッキがディスクに収まっている。

 指を掛けようとして──。

 

 

「ククッ、フフフ……特別に、教えてやる」

 

「………………今度は何」

 

 

 鬱陶しいけど……一応、聞いてやることにする。

 

 

「伏せカードの1枚は、《聖なるバリア -ミラーフォース-》だ!」

 

 

 相手の攻撃宣言をトリガーにして、敵陣を一掃する定番の罠。

 

 

「そしてもう1枚は、《トラップ・スタン》! 発動ターン中に使われた罠は、すべて無効化される!」

 

 

 つまり──攻めても、守っても潰される、と。

 そう言いたいわけだ。

 

 ふーん……で、だから何?

 

 

「──どうだッ! 勝ち目なんざ、初めからなかったってことが、これでわかったろッ!?」

 

 

 ……聞いて損した。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

「こ……このガキィッ!!」

 

 

 引き込んだのは、《速攻のかかし》。

 相手の直接攻撃時に手札から捨てて、バトルフェイズそのものを終了させるカード。

 さらに手札には──さっき、ジョニーからもらった《ジャンクリボー》がある。

 防御は、盤石。

 

 でも肝心なのはそこじゃない。

 ()()攻勢に出るか、それだけだ。

 

 攻めるか、守るか。

 状況を見極めようとした、そのとき──

 

 「何か」が背後から弾丸のような速度で飛来した。

 

 空中で軽く旋回し、壁へ──ピシィッと突き刺さる。

 私の視線が、その“カード”に吸い寄せられる。

 

 ──《罠はずし(・・・・)》。

 

 ニッ、と口角が上がる。

 ありがと、ジョニー。

 これで──遠慮なく、いける。

 

 

「メインフェイズ、手札から《カード・ヘキサチーフ》を発動する。この効果処理時に相手フィールドに伏せられていたカードは、()()()()()()()()

 

「なんっ……?!」

 

 

 地面から夥しい量の鎖が飛び出し、リバースカードに巻き付いていく。

 これで、奴ご自慢の罠はすべてただの紙切れと化した。

 

 

「完璧な手札に、完璧なドロー……ね。

 ふふ、いくら何でも吹かし過ぎだよ。カードを4枚セットして、私はターンエンド」

 

「…………」

 

 

 瓦解する戦略。

 落ちる沈黙。

 けれど──男の口元は、ニイッと弧を描いた。

 

 

「──クハッ! 偉そうに言っておいて、肝心のシンクロには手も足も出ずじゃねぇか!」

 

 

 哄笑。勝ちへの確信。

 

 私は何も答えない。答える必要もない。

 

 すぐに、“結果”が教えてくれる。

 

 

「俺のターン、ドローッ!」

 

「貴方のスタンバイフェイズに、リバースカードオープン──《バトルマニア》。

 今、貴方のフィールドにいるモンスターはこのターン、攻撃しなければならない」

 

「なーに寝ぼけたことほざいてやがる! そんなモンなくても俺のシンクロで轢き殺してやるってんだよ! ──バトルだ!!」

 

 

 威風を纏うシモベたちが、間合いを詰めてくる。

 

 でも、奴の手札はこのターン新たに引いた1枚だけ。

 あの1枚をメインフェイズに切らなかった──それだけで十分だ。

 

 さっきの「ミラーフォース」と違って“見せ札”にすらできない──それまでのカードってことだから。

 

 

「《大地の騎士ガイアナイト》で、直接攻撃だァッ!!」

 

 

 ──おかげで通したい効果が、全部通せる。

 

 

「リバースカードオープン」

 

「今さら何をしても無駄ァ!」

 

 

 真紅の双剣が迫る──が、()()()が寸前で受け止めた。

 騎士を力強く押し返し、「真打」がその姿を顕わにする。

 

 

「──《マグネット・アーマー》の効果で、墓地の《ダブルクロス・アーマー》を特殊召喚した」

 

 

 鈍い光沢を放つダークレッドの“強化外骨格(パワードスーツ)”。

 私を守る鎧であり──鉾。

 無人操縦モードに移行し、伽藍堂の身体が動き出した。

 

 

《ダブルクロス・アーマー》守備表示

星6 地属性 機械族

攻 0 守 0

 

 

「攻守……ゼロだぁ? バカにしやがって! 粉砕しろ、『ガイアナイト』!」

 

 

 振るわれる紅蓮の刃。迎え撃つ拳。

 衝突は一瞬、焦熱より速く──爆ぜたのは、《大地の騎士ガイアナイト》。

 

 象徴たる剣は砕け、胸には風穴。鋼の騎士は爆炎に呑まれて崩れ落ちた。

 

 

「なっ、なんでッ……?!」

 

「《ダブルクロス・アーマー》の効果──ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える」

 

 

 瞬間、「ガイアナイト」の身体が爆発。

 次いで巻き起こった衝撃に、男は吹き飛ばされた。

 

 

Enemy

LP

36002300

 

 

「……その後、このカード自身も破壊されちゃうんだけどね。自分からも攻撃できないし」

 

「が……はっ……なに、言ってやがる……お前の《ダブルクロス・アーマー》は健在じゃねぇか──まさか、イカサマかッ?!」

 

「そんなまさか。貴方じゃあるまいし──」

 

 

 男の言葉を鼻で笑い、私は無傷の《ダブルクロス・アーマー》を見上げた。

 

 

「──《ダブルクロス・アーマー》の特殊召喚成功時、私は《メタル・コート》を発動していた。このカードは、自分のモンスターの装備カードとなり、効果破壊から守る。

 ……これで、《ダブルクロス・アーマー》の自壊を防いだってわけ」

 

 

 そこで、再び視線を男に戻す。

 先ほどまでの自信はどこへ行ったのやら、すっかり狼狽えていた。

 ……所詮、三下の小物か。

 

 

「なっ、なら攻撃するだけ損じゃねぇか……俺はバトルフェイズをしゅ──」

 

「《バトルマニア(・・・・・・)》の効果」

 

 

 忘れたとは言わせない。

 ──相手フィールドのモンスターはこのターン、攻撃しなければならない。

 逃げ場はない。攻撃するしかない。

 

 鋼鉄の悪魔《スクラップ・デスデーモン》が、ゆっくりと動き出す。

 

 振るわれる黒鉄の剛腕。

 暗赤色の機械人形は軽やかな身のこなしで回避し、懐へ潜り込んだ。

 そして放たれる拳打の嵐──瞬く間に、巨体は鉄屑へと様変わりした。

 

 砕けた鉄塊が、鈍い雨となって男に降り注ぐ。

 

 

「そ、そんな──ぐっ、うぉああぁッ……!!」

 

 

Enemy

LP

2300950

 

 

「──さあ《ナチュル・ガオドレイク》、おいで?」

 

 

 私が声を掛けると、新緑の獣王が瞳をギラリと光らせた。

 その攻撃力は3000……半分を反射すれば男のライフはゼロだ。

 

 

「まっ、待てよ! 忘れたのか?! 俺が負けたら、さっきの女の子の首輪が爆発しちまうんだぜ……お嬢ちゃんは、それでもいいのかなぁ……?」

 

 

 思い出したかのようなニタニタした笑み。

 しかしそれは瞬く間に崩れ、恐怖一色に染まった。

 

 振り返ってみれば、あの女の子。

 横にはジョニーもいる。

 

 彼の手のひらの上で、「圧力起爆装置」は既にその機能を失い、ただの構成部品の集まりへと姿を変えていた。

 

 

「──行け、アナスタシア!」

 

「……もちろん!」

 

 

 心地よい声援に、自分でも予想外に弾んだ声が出た。

 

 《ダブルクロス・アーマー》が、獣王の顎目掛けて飛び込む。

 爪牙を拳で受け止めた──その直後。

 装甲に走った磁束が逆流し、攻撃力の半分1500がそっくり跳ね返った。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

Enemy

LP

9500

 

 

 決着──でも、私は止まらない。

 

 風を切り、奴の前へ踏み込む。

 

 狙いは一点、頬。

 

 

「オラァッッ!!」

 

「があぁぁああっ!!!?」

 

 

 錐揉み回転で壁まで吹き飛んだ影を見届け、私は息を吐く。

 

 

「──……ふーっ。すっきりした」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

【通信ログ:ID-01204】

『まさか相手がシンクロモンスターの使い手だったとはな。それで──どうする?』

 

【ANASTASIA】:

『衆人環視下での抹消は不適切と判断。後日、対象を再取得すべきかと』

 

【ID-01204】:

『……お前の案を採用しよう。ご苦労だった』

 

< 通信終了 >

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 彼──ID-01204とのやり取りを終えると同時、世界に色とざわめきが戻る。

 

 ──いきなりの通信は心臓に悪い。

 私の視覚・聴覚ログが共有されるまでにはタイムラグがある。どうもリアルタイムで監視する手段が他に用意されていたようだ。

 でも、やり取りは穏便に済んだ。今回は“問題なし”と判断していいはず。

 

 こめかみに残る微かな熱を押さえ、私はゆっくりと振り返る。

 

 視線の先には、ジョニーとあの女の子。

 怯えた彼女の前に私はしゃがみ込んだ。

 

 

「もう安心──うわっとと……」

 

 

 優しく声を掛けようとした瞬間、小さな衝撃。

 よろけかけたが──きゅっと抱きとめる。

 

 抱きついてきた彼女。

 私の首筋に顔を埋める小さな温もり。

 そっと後頭部を包み、指で髪を()く。

 

 ──この子が無事で、本当に良かった。

 

 ふと、視線を感じた。

 見上げると、ジョニーが穏やかに微笑んでいた。

 そんなにじっと見られると──少し、照れる。

 

 目を逸らしつつ、小さく告げる。

 

 

「……ありがと、ジョニー」

 

「ボクは当然のことをしただけさ。キミのほうこそ、お疲れ様──それにしても、アナスタシアって、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 賞賛である以前に、まるで“私の戦いを初めて見た感想”みたいな言葉。

 呆気にとられ、次いで──口元が緩んだ。

 

 まったく、とんでもない役者だ。

 腹芸は苦手そうだと思っていたのに、いい意味で大誤算である。

 

 

「別に、今回はたまたまハマっただけだよ」

 

 

 視線が交わるだけで、呼吸が揃う。言葉にせずとも通じ合う。

 その確信が、静かに胸に灯る。

 

 そんな空気の中で──小さな震え声が割って入った。

 

 

「──あの。お、お姉さん……」

 

 

 顔を上げた少女が、頬に涙の筋を残したまま、真っ直ぐにこちらを見ていた。

 不安と緊張に揺れる瞳。それでも、その奥に強い光を宿している。

 彼女はすっと私の腕から離れ、意思を示すように、目の前に立った。

 

 

「お姉さん……その……すごく、すっごく、カッコよかった……!」

 

 

 そう言って笑った顔には、涙が残っていた。

 泣き顔なのに、笑ってる。その矛盾が、まっすぐで、眩しい。

 

 

「あたしっ……あたしも、お姉さんみたいに強くなりたいですっ! だから──」

 

 

 一瞬、呼吸を整えるように目を閉じる。

 ぐっと拳を握った。

 

 

「──あたしのデュエルの先生になってくださいっ!」

 

 

 予想外の言葉が来た。

 思わず固まってしまう。

 

 

「…………え?」

 

 

 少し詰まりながらも、彼女はまっすぐに言い切る。

 

 

「ほん、ほんきです……! あたし、変わりたいからっ!」

 

 

 そのまなざしに、偽りはなかった。

 ぎこちなくても、想いだけは真っ直ぐで──真剣だった。

 

 どう反応すべきか迷って、思わずジョニーに目をやる。

 

 ……が、彼は肩をすくめて、目で「がんばって」とだけ返してきた。

 急に他人事……。

 

 

「……そう。じゃあ……その、前向きに、検討する……ね?」

 

 

 少女の顔がぱっと華やぐ。

 応えられないかもしれない期待に、胸の奥が、ほんの少し痛んだ。

 

 

「えっと…………まずは、名前を教えてくれる?」

 

「あっ、はいっ!」

 

 

 ──これが、彼女と私の出会い。

 

 

「あたし、エウレア──『エウレア・パステル』っていいます! よろしくお願いします、お姉さんっ!」

 

 

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