「英雄伝説」の残る世界にTS転生した 作:TF最新作待ってます
書きたいことを書いていたら2話分くらいの文量になりました。前・後編として分割するにも流れをぶった切ってしまって微妙なので1話にまとめて投稿します。ご査収ください。
エウレアとの約束の日が来た。
彼女の要望は「デッキ構築のアドバイスをしてほしい」──とのことだが、さてどうなるか。
現在時刻は16時過ぎ。デュエルアカデミアの初等部なら、もう下校の時間帯だろう。
内心独りごちつつ、テーブルスペースで頬杖を突く。
しっかり時間をかけてあの子の面倒を見てあげたい。
そう思って、今日のシフトは早上がりにしてもらった。
……ただ、どうにも落ち着かない。
手持ち無沙汰を誤魔化すように、ヘアバンドの位置を何度も直してしまう。
分不相応にも平穏な時間を過ごしていることへの、後ろめたさのせいなのか。
そんなときだった。
軽快なチャイム音とともに、ガラスドアがウィーンと音を立てて開いた。
顔を上げると、黒の長髪の女の子……ではなく青髪の青年と目が合った。
ジョニーだ。ジョニーがまた来てくれた。
うれし──いやちょっと待て。
「……次の試合、リーグ最終戦だよね。最後のオフの日をこんな場所で使っていいの?」
彼は現役のプロD・ホイーラーだ。
現在は11月下旬に差し掛かる頃。週末には今シーズン最後の戦いが控えている。
インタビューとか最後の練習試合とかでスケジュールはパンパンで、オフの日なんて今日しかないはず。
貴重な時間は集中力を高めるのに費やす──それがトップアスリートのあるべき姿であって、こんなところで油を売るのは良くないことなのでは?
そう思っての問いかけだった。
「ここ居心地が良くてさ……それに、みんな大好きジョニーちゃんが来たら嬉しいでしょ?」
返ってきたのはあっけらかんとした答えだ。私の少し責めるような口調なんて気にも留めちゃいない。
ひょうきんな物言いに、思わず肩の力が抜ける。
──まただ。
彼のこういう軽口には、本当に調子を狂わされてしまう。
マイペースだけど明るくて、スルリと心の隙間に入ってくる。
「……」
……やられてばかりというのも、なんか癪だな。
なんというか、こう……何かやり返してみたい。
別に彼のこういうところが嫌って意味じゃない。むしろ逆だ。
ただ、いつも余裕ぶってる彼を揺さぶったら、一体どんな顔をするのか? 気になる。
たまには優位に立ってみたい。そういう気持ちが沸々と湧いてきた。
……おあつらえ向きに、今世の私にはそれを可能にする「武器」がある。すなわち、この美少女ボディが。
ふむ……いいことを思いついた。
密かにほくそ笑みながら、ゆっくりと立ち上がった。
へにゃりとした笑みを浮かべる彼の前まで距離を詰めて、上目遣いで顔を見上げる。
澄んだ灰の瞳と目が合う。ジョニーの肩がびくっと跳ねた。手応えあり。しめしめ。
「あ、アナスタシア? どうしたの? もしかしてその、嫌だった?」
「ううん。そんなことない」
「なら、何っ──?!」
まだだ。さらに一歩、ぐっと踏み込む。さらなる緊張が彼に走る。けど私は止まらない。
彼が半歩だけ後退りしたが、そんなの無駄だ。そのぶん私も詰めるだけ。
目と鼻の先には互いの顔がある。
呼吸音も聞こえてしまうんじゃないかってくらいの近さだ。
これで私以外が視界に映ることはあるまい。
…………やっぱ背、高いな。
「……ちょ、近……」
「動かないでほしい」
高APPの暴力は、思った以上に効果覿面なようだった。
私なんかよりもずっと大柄な彼が、瞳をふるふると震わせて、こちらの嗜虐心を妙に煽ってくる。
……緊張と期待と、それらを抑えようとする理性? そんな感じの目だ。
対する私だが、わりと平静とは言い難い。
ドッドッと心臓が早鐘を打っているような感覚がある。この肉体に心臓なんてないのに。
わざとやっていたつもりだけど、こんなことやるのなんて当然初めてで。自然と緊張してしまっていたようだ。
だけど、むしろこれは、
ちらと少し意識して見つめる。
ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。やめてほしい。そんなガチガチになられたら、もっと期待してしまうじゃないか。
互いの熱を感じるような距離感で、そっと口元に手を添える。上目遣いは保ったままだ。
くらえジョニー。めいっぱい、私で、ドキドキしろ。
じっと見つめ続けて、囁いた。
「あなたが来てくれると…………す、すごく嬉しい……ありがとう」
「…………ぇ」
一拍、間が空く。
みるみるうちに赤くなる頬。泳ぎだす視線。
「…………へ、ぁ。そ……っか。
う、ん。キミに喜んでもらえたなら……そのっ……ボクも嬉しっ……い、かな」
長い時間をかけて、彼はたどたどしく返事を絞り出した。
初心だ。甘美だ。
良くない快感が背筋を駆け上ったのがわかった。
デュエル一筋と思えたジョニーに、しっかり効いたのだ。つまり私の完全勝利。
やばい、楽しい。くせになりそう。
「ご、ごめん……でも、ぷっ……くふふ」
感情を表に出さないように抑えようにも、無理な話だった。
てててっと小走りで彼の下から離れ、顔を逸らす。
こらえきれずに笑い声を漏らす私を見て、ジョニーは数秒固まったあと、ようやく自分が揶揄われたのだと理解したらしい。彼の頬の赤みが悔しさと羞恥の色を帯びていく。
「なっ……! キミ、もしかしてボクをからかったのかい!?」
「だって、ジョニー。いつも余裕そうにしてるから……少しだけ、困らせてみたくて」
まだ笑いの余韻が残る声でそう言うと、彼は「むぅ……」と子供のように唇を尖らせた。その反応すらも面白くて、また笑ってしまいそうになるのをぐっとこらえる。
度が過ぎれば嫌われてしまう。それだけは絶対に嫌だ。
それに、今のが「ただの悪戯」だっただけと彼に勘違いされてしまうわけにもいかない。
私は一つ息を吸って、ジョニーの瞳をまっすぐに見つめ直した。
心臓はなおもとくとくと小走りを継続中。だけど、ちゃんと伝えなければ。
「──でも、来てくれて嬉しかったのは、ホントのこと」
今度は、悪戯っぽさなど一切ない、ただ素直な声で。
気の置けない、この世界で初めての友人が忙しい中来てくれた。嬉しくないわけがない。
ジョニーの肩が、また少しだけ跳ねた。
「だから、もう1回だけ言わせて。──ありがと、ジョニー」
ジョニーは、今度こそ完全に言葉を失っていた。何かを言おうとして口をぱくぱくと動かすが、結局何も音にはならず、最後には気まずそうにそっぽを向いてしまう。
その耳まで赤くなっているのを見て、私は静かに微笑んだ。
しばらく悶々とした後、ジョニーはこちらへ向き直った。
顔を右手で隠しながら、ぽそりと溢す。
「……あの、さ。ボクが来たときテーブルスペースにいたよね。休憩時間だったとか?」
「エウレアにデッキ相談したいって言われて。今日は店長に頼んで早上がりにしてもらったんだ」
あの子の名前を出すと、ジョニーはわかりやすくその話題に食いついた。やれ元気にしてそうかとか、やれどんな話をしてくるのかとか。
今までのやり取りを忘れるのに丁度よかったのだろう。乗っかることにしてやる。しょうもないことをした私がそもそもの原因なわけだが、それはまあ置いておいて。
それに、何も話題逸らしだけが目的じゃない。彼の眼には、デュエリストとしての関心がありありと浮かんでいたのだ。あの子の面倒を見ようとする私への感心と、そのやり方に対する興味も。
正直、彼がいてくれると色々頼もしい。こちらから「エウレアが嫌がらなければ見ていってほしい」と告げると、一も二もなく返事がくる。やったぜ。これで勝つる。
口角を緩ませつつ、ジョニーを連れてテーブル席まで案内しようとして──足を止める。
──そうだ、彼に「渡したいモノ」があった。
ロングワンピースの袖口から、1本の「メモリースティック」を取り出す。
「──ジョニー、これあげる」
「……これは?」
「伝説のプロD・ホイーラー、不動遊星が参加したという『アメリカ横断ゴールデン・タッグ・トーナメント』の映像記録。彼の決闘は全部これに入ってる」
「ごっ、
「いえす。あなたが彼のファンだってことは有名だから……この前の強盗騒ぎのときのお礼ってことで、受け取ってほしい」
……原作でどうだったのかは、わからない。
でも、少なくともこの世界のGTTは、ジョニーの言うとおり“幻の大会”だ。
走行ルートが軍の機密に触れたとか、企業参画の当時の新型D・ホイールの技術流出を防ぎたかったとか……とにかくいろんな事情で、表向きには映像記録が残ってない。でも確かに、正史の遊星はジャックとコンビを組んでこの大会を制覇した。
大事なのは、この大会で──英雄「不動遊星」が
こんなモノを持ち出した理由は、きっとこのデータからジョニーが進化のきっかけを掴んでくれると思ったからだ。
アクセルシンクロは、この世界を救うための明確なアンサーだ。
焼け石に水かもしれないが、一刻も早くジョニーには習得してもらいたい。
私は、原作における彼が「アンチノミー」ないし「ブルーノ」としてアクセルシンクロと“さらにその先にある力”を使いこなしていた事実を知っている。勝算は高いはず。
だからこそ、危険を承知で組織と交渉し、彼に渡す許可をなんとかして勝ち取ったのだ。
……まあ「彼を懐柔するため」と
組織としては、私と交友を深めたがっているジョニーをうまいこと利用したいようだ。
そのくだらない奸計を、逆に利用させてもらう。見てろ総帥、いつか絶対にぶっ潰してやるからな……ジョニーが(他力本願)。
「……大切にするよ。ありがとう、アナスタシア」
「うん。そうしてくれると、私も嬉しい」
彼の言葉には、感謝の中に使命感のようなものが混ざっていた。
どうやらこれがただのプレゼントではないことを察したようだ。
手の内のメモリースティックを大事そうにする彼を見つめながら、私は静かに祈る。
……できることなら、この時代だけで、全部終わってほしい。
ジョニーにあんな未来は、背負わせたくないから。この世界のどこかにいる、他のイリアステルのメンバーにも。
それで原作の物語が生まれなくなるとしても……私は、構わない。
──と、そこで“本日の主役”がやってきた。
自動ドアが開き、ドタドタと騒がしく駆け込んでくる小さなシルエット。
タックルさながらの勢いで抱きついてきた彼女──エウレアを、私はしっかりと受け止めた。
「えへへっ、お姉ちゃ──さん。あたし来ましたよっ!」
「いらっしゃい、エウレア。待ってたよ」
私に抱きついたまま、今日あった出来事を一気にまくし立てるエウレア。
ぎゅうっと密着してくる身体は、まるで湯たんぽみたいにあたたかい。
胸元にふっと吹きかかる息がくすぐったくて、私はやんわりと離れるように頼んだ。
「ん……今日はデッキ相談だったよね」
「あっ、ですです! コレ、あたしのデッキで! コッチはとりあえず持てる限り持ってきたカードで! それからコッチは──」
「とりあえず、テーブル席に行こう」
この場で学生鞄からカードケースとストレージボックスを取り出そうとするのを私は制した……が、構わずエウレアはそれらを抱えて歩き出した。いやホントに元気いっぱいだな、この子。
ピッタリ張りついてくる彼女に、ジョニーが同席してもいいか確認を取ると、大歓迎といった様子で頷いてくれた。相手は現役プロなわけだし、まあ当然か。
そんなこんなで、テーブル席の広いスペースを陣取り、3人で額を突き合わせることになった。
早速、机の上に広げられたデッキとストレージボックスの中身を順に手に取る。
エウレア曰く「持てる限り持ってきた」というストレージのカードの中から、“彼女のデッキでやりたそうな動き”と相性が良さそうなカードを抜き出しては、頭の中で構築の方向性を組み立てる。同時に、今のデッキから外した方が良さそうなカードにも優先順位をつけていく。
思えば、誰かのデッキを見るなんて今世では初めてだ。
それとなく、エウレアの顔色を窺う。花の咲いたような、本当に楽しそうな笑みだ。
──だけど、初めて会ったとき、この子は言った。「強くなりたい」と。
今日のこの無邪気な笑顔と、あの時の真剣な眼差し。そのギャップの奥に、彼女が強さを求める本当の理由があるのだろう。
そして今、そのための「武器」であるデッキを、この子は迷いも警戒もなく、私に全部見せてくれている。
デュエル至上主義なこの世界では、デッキとは己の精神の象徴であり、唯一無二の切り札だ。詳細が割れてしまえば対策を立てられ、デュエリスト生命が窮することもある。だからこそ、本来は信頼できる仲間にしか見せない。
その絶対的な信頼を、私に預けてくれた。
ならば、私も彼女の覚悟に真剣に向き合わなければ。中途半端なアドバイスでは駄目だ。
この子との関係がまた一つ変わるのは間違いない──でも、知りたい。彼女の戦う、本当の理由を。
意を決して、私は尋ねた。
「エウレア──強くなりたい理由を、聞いてもいい?」
「……えっと、それはー……」
気まずそうに視線を落とす。沈黙。
……踏み込みすぎたか、と思ったそのとき、それまで空気に徹していたジョニーが口を開いた。
「彼女は、きっとキミのことを受け止めてくれる。弟子入りした『先生』のこと、信じてあげて」
「……ジョニー。うん、そうだよね……すみません。お姉さん。話します、ぜんぶ」
肩の力を抜き、エウレアは学生鞄を探る。
小さなカードケースを取り出し、現れたのは2枚の古めかしいカード。
通常モンスターと同じ黄色いフレームで縁取られたそれらは、何重にも重ね掛けされたスリーブで丁寧に保護されていた。
「……これ、お姉さん……見たこと、ありますか?」
「見たこと、ある」
アニメで。
1枚は金銀財宝の絵、もう1枚は真っ白なイラスト欄。
横から覗き込んできたジョニーが静かに息を呑んだ。
──《王の右手の栄光》と《王の左手の栄光》。
初代決闘王・武藤遊戯が、ペガサスに奪われた
その参加者に配られた「招待状のカード」だ。まさか現存していたなんて。
「『決闘者の王国』──ご先祖様が参加者の1人だったんです……予選で負けちゃったんですけどね。
それでも……ずっと、大事に保存してきたものなんです。あたしが生まれる、ずっとずっと前の時代から」
語る声は、そこまでは明るかった。
だが次の瞬間、エウレアの表情に翳りが差す。
「2人はきっと知ってますよね。『招待状のカード』は
小さく頷く。ここにあるのは、2枚の「栄光」カードのみ。
これらは決勝戦の参加資格だ。招待状のカードはあと3枚ある。
《王国への船出》。
《王国》。
《
トーナメントそのものに関する情報を記すそれらが、ここにはなかった。
だがまあ、所在については、察しがつく。
「
「…………はい。クラスの男子に、因縁をつけられて」
ぽつぽつと、悔しさを滲ませながらエウレアが語り始める。
エリート意識の強いクラスメイトに、「お前の家にこのカードは勿体ない」とイチャモンをつけられたこと。
最初は無視を決め込んでいたが、彼らにデッキを嘲笑され、挑発に乗ってしまったこと。
3度のデュエルで連敗し、1枚ずつ奪われたこと。
「──そいつの名前、“ボンボン”っていうんですけど……。
そいつと取り巻きにすごい笑われて。『こんなカード使ってるから弱いんだ』って。
……あたしの家で、ずっと受け継いできたデッキの子たちまで、バカにされました」
自らの不甲斐なさと情けなさへの怒りに唇を噛む彼女は、真っすぐに私を見る。
「だから……強くなって、ぜったい取り返すんです。3枚ぜんぶ!
でも……ただ勝つんじゃなくて、今のあたしが持ってるこの子たちで勝ちたい。あの人たちが笑った、あたしのカードで……!」
紺青の瞳には、11歳の少女とは思えないほどの、確かな闘志が宿っていた。
それに対する私の答えなんて、当然決まっている。
「──いいね。だったら、ぎゃふんと言わせてやろう」
「っ! ……はい!」
その声に、もう迷いはなかった。
私は笑みを返してから、一度テーブル上のカードを整理し、空きスペースを作った。
「ねえ、その“ボンボン”って子とのデュエルログって、見せてもらえる?」
「あ、はい……あります。でも、どうして?」
「『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』って言うでしょ」
「テキ、お尻……え?」
固まったエウレアにジョニーが苦笑しつつ、助け舟を出してくれた。
「自分と相手、双方の『強み』と『弱点』を把握して準備すれば、どんな戦いも勝てる……っていう有名な言葉だね」
「お、おー! なんか頭良さそうです! あいつとのデュエル内容はデバイスに入ってるので、見てくださいっ」
……なんとも間の抜けたリアクションだけど、この子の年齢を考えれば年相応だろう。
手渡された携帯端末のアプリを起動すると、データの羅列が表示された。
ざっと流し読みする。
……ふむ。デッキを見せてもらった時点で察してはいたが、彼女のデュエルでは手札事故が頻発しているようだ。不自然に多く投入された装備カードや発動タイミングの限られた罠カードをドローしてしまい、流れを掴めないまま高打点モンスターに押し切られている。
……なるほど、これは重症だな。
対する仮想敵・ボンボン少年のデッキはというと、所持カードの都合なのか粗削り感は否めないが、【ドラゴン族】デッキとしてそれなりにまとまっているようだ。
優秀な手札交換カードの《トレード・イン》、自己蘇生能力を持つダブルコストモンスター《ミンゲイドラゴン》、容易に特殊召喚可能な2500打点の《ライトパルサー・ドラゴン》……この世界の一般通過小学生の中なら間違いなく上澄みだろう。よく組んだものだ。
黙々と分析する私を見て不安に思ったのか、おずおずとエウレアが声をかけてくる。
「ど、どうですか? あたし……勝てそうですか?」
「うん。勝てるよ」
「ホントですか!?」
事もなげに断言すると、エウレアだけでなくジョニーも感嘆の息を漏らした。
除去札の類は揃えが悪いものの、この子のストレージボックスには優秀なカードが多い。
この程度の相手なら問題なくいけるだろう。ましてや、相手は彼女のことを「格下」と油断しきっているのだから、なおさら。
……もっとも、このままでは取りこぼす可能性が高い。
勝つためには、彼女のデッキの根本的な部分にメスを入れる必要がある。
私はデッキとストレージからそれぞれ1枚ずつ抜き取り、机の上に置いた。
一方は攻撃力800アップの装備魔法《稲妻の剣》、もう一方はデッキトップ3枚の中から好きなカード1枚を手札に加える通常魔法《強欲で謙虚な壺》だ。
「例えば、この装備魔法を抜いて、こっちのカードを入れるって考えたことある?」
「……? ないです」
「どうして?」
「えっと……《
やはり、そこがわかっていないか。
伝えたいことはシンプルなのだが、こういうのは伝え方が大事だ。
少し遠回りな質問で、道筋を示していくことにする。
「じゃあ質問。デュエルって、決着がつくまで往復何ターンくらいだと思う?」
「あ、あんまり気にしたことないです……どのくらいでしたっけ?」
「適当に『このくらい』って感じの数字を言ってみて」
「…………10ターン、とか?」
うんうんと唸った末の回答。しかし、悪くない見立てだ。
「いい感覚。同格どうしのデュエルは、その往復10ターンで決着がつくとしようか」
「……はい」
「じゃあ、自分のドローフェイズは何回くる?」
「往復だから、その半分……5回?」
「そう。で、初期手札は5枚。ドローカードとの合計は?」
「合わせると10枚、です」
「うん。つまりデュエル中に触れられるカードは、その10枚だけってことだね」
私が言い切ると同時に、エウレアが訝しそうに見返してくる。
良い兆候だ。これが単なる質問じゃなくて、明確な意図をもって行われているやり取りだと、勘づいた。
「エウレアのデッキは、40枚デッキだよね。これを想定して考える。
デュエル中に触れられるカードが10枚とすれば、デッキの中の4分の3は見ないまま勝ち負けがつく。
だから、その触れる4分の1のカードが、なるべく
そこまで言ったところで、エウレアはハッとして机の上に視線を落とした。
デッキを手に取り、食い入るように1枚ずつ確認していく。
……この分だと説得はスムーズに行きそうだ。
「……装備魔法は、装備するモンスターがいないと使えなくて……それから、こっちのトラップも──」
「そう。負けた理由はそこにある。今のエウレアのデッキは、大事な場面で不要なカードが偏って手札に来てしまって、身動きが取れない状況に陥りやすい」
「……っ」
じゃあ、どうすれば……と言いたそうにエウレアは眉尻を下げる。
そんな彼女に見せつけるように、私は《強欲で謙虚な壺》を手に取って指差した。
「でも、ドローやサーチカードがあれば話は変わる。デッキからカードを引けば、有効札を掴めるかもしれない。サーチカードは、デッキの特定のカードに変化するトランプのワイルドカードみたいなもの……こんな具合に、デッキにアクセスする行為はチャンスに繋がる」
そこで一度、言葉を区切った。
あくまでも演技っぽさが伝わるようにしたうえで、ちょっと声を低くして畳みかける。
「逆に──ドローもサーチもできなくて、戦術にも関係ないようなカードを引き込めば、それはそのまま敗北へのカウントダウンになる。だから、デッキ構築に無駄は許されない」
「……デッキ構築の段階で、もう戦いが始まってるってことですね」
「そう。だから、『自分のデッキでは役割を持たせにくいカード』よりも、ドロー・サーチをするカードを入れましょうってこと」
「……はい」
考えを理解してもらえた手ごたえは、ある。
けれど、エウレアは急に表情を曇らせ、押し黙ってしまった。
一体なぜかと思うこと数秒。
どこか申し訳なさそうに《邪悪な儀式》や《はさみ撃ち》のカードを見つめる彼女の顔を見て、私はその理由を察した。
「エウレア。これは、
そう告げると同時に、エウレアは肩を大きく跳ねさせた。やがて、ゆっくりと私の顔を見上げてくる。
その反応を見て、やっぱりかと思った。
私のデッキ構築の物差しが、ボンボン君とやらと同じ「カードの強弱」に基づくものだと、彼女に感じさせてしまったのだ。
「……違うんですか?」
「違う。“どんなカードでも存在する以上、必要とされる力がある”。強弱なんてない」
原作主人公のセリフを借りて、疑念を真っ向から否定する。
本当のことをいうと、確かに、医学会が匙を投げるほどの…………その、クソカードだって、存在するけど。
……でも彼女のデッキ構築に関しては違うと断言できる。弱いから抜くわけじゃない。
「なら、どうして──」
「ただ、デュエリストには、ひとりひとりの戦い方があるんだ」
そう告げながら、私はエウレアのデッキから1枚のカードを抜き取った。
レベル4・闇属性・戦士族の通常モンスター。攻撃力は1800。
デッキに3枚フル投入されたこのカードが、彼女の戦術の中核と見て間違いない。
そのモンスターカードをひらりと持ち上げ、目の前に差し出す。
彼女は壊れ物を扱うみたいに慎重にカードを受け取り、胸元辺りで手のひらの中にぎゅっと包み込んだ。
「その子が、あなたのデッキの主役なんでしょ?」
「……はい。この子が、あたしの“フェイバリットカード”……です。
曾お祖父ちゃんのお祖父ちゃんの、さらにお祖父ちゃんの相棒だったって、聞いてます」
「7世代前」
デュエルモンスターズの歴史、長ぇな……いや、感心してる場合じゃなくて。
一度咳払いして、気を取り直す。
「あなたが活躍させたいカードは、もう決まってる。デッキの他のカードは、その力を最大限発揮させて、勝利を手繰り寄せるための選抜メンバー──言ってしまえば、『精鋭部隊』。
私はそんな風に考えてるんだけど、エウレアは納得できない?」
「……選抜メンバー」
彼女の瞳に光が灯り始めた。もう一押しだ。
「色んなカードを採用してあげたいっていうあなたの気持ちは、優しくて尊いものだけど。
でも、一つのデッキになんでもかんでも取り入れることは、絶対にできない」
「……でも、使ってあげられなかったカードは、ずっとそのままになっちゃうんじゃ?」
「そうとは限らない。今回選ばれなかったカードには、また別の相応しい舞台がきっとある……私のデッキみたいに、ね」
「お姉さんのデッキも? それってどういう……?」
「……まあ、いつか教えてあげる」
口元に人差し指を立て、曖昧に笑う。
実をいうと、先日このショップで強盗を倒したときの《ダブルクロス・アーマー》で戦うデッキは、「シンクロ狩り」としてのデッキには入れてあげられなかったカードたちを活躍させたくて組んだ予備デッキだ。
余り物の寄せ集めと侮ることなかれ、あれもあれで真剣に組んだデッキである。
とにかく、一旦見送ったアイデアが、いつかは別の形で再利用される……そんなことだって全然あるわけだ。
「エウレア……今まで話したことは、わかってもらえた?」
「はい……はいっ、わかりました。お姉さんのいうこと、ちゃんと納得しました」
「うん、じゃあここまでを踏まえて。いよいよ『選抜メンバー』を決めよう」
その言葉に、エウレアが目を輝かせた。ジョニーも口角をニッと上げる。
とはいえ、ここから先の決定は、この子の大事なカードの命運を左右する。責任重大だ。
一度、唇を湿らせてから、はっきりとした声音で私は告げた。
「さっきは『勝てる』って言ったけど、仮想敵と真正面からやり合うのは、実をいうとエウレアのデッキには少し荷が重い」
机の上のカードを軽く整え、主役の戦士族モンスターを含めた「4枚」を抜き取る。
手にしたカードを1枚ずつエウレアの前に置きながら、視線を合わせた。
「だから、今回は勝ち筋を一本に絞ろうと思う」
曇りなき瞳が、小さく頷く。
信頼と覚悟の籠った、強い眼差しだ。
「耐えて、耐えて、この『4枚』を揃えて、1ターンで一気にケリをつけるんだ」
つまり最終ゴールは、
畳みかけるように、私は宣言した。
「──勝利の鍵は、“デッキを信じてとにかくカードを引く”こと。必要なパーツは、全力で掘り起こす」
エウレアにデッキの新たなコンセプトと回し方を粗方伝えたところで、今日は一旦解散となった。改めて家にドローソースの類がないか確認して、それも踏まえて微調整を加えたいそうだ。
肝心の決戦は、3日後にするつもりらしい。エウレアは私の目の前でメールを送って、さっさと約束を取り付けてしまった。
随分と性急だとは思ったけど、「もう間もなくターゲットが交換学生として他校に留学してしまう」と聞けば、私も押し黙るしかなかった。
「ボクたちも帰ろうか」
「うん」
ジョニーの言葉に頷く。
モールの外に出ると、夕陽はどっぷりと沈んでいた。
けれど、通りは喧騒に満ち溢れている。ネオ童実野の街はまだまだ眠らない。
2人で横に並んでゆっくりと歩きだした。「家こっちなの?」と聞けば、短く肯定の言葉が返される。それ以上は聞かなかった。
遠くでクラクションの音が鳴る。行き交う車のヘッドライトの残光に目を細めた。
視線を横にスライドすると、当たり前だけどジョニーがいる。
さらに上を見れば、逆光に陰る彼の横顔。ジョニーは私をちらと一瞥すると、さっと目を逸らしてしまった。
また悪戯心がぶり返しかけて──すぐにやめる。
なんというか、今はそういう雰囲気じゃないから。
「「──あの」」
声が重なった。
なんとなく沈黙が嫌で口を開いたのだが、彼も同じことを思っていたのだろうか。
ジョニーが先に「どうぞ」と譲ってくる。私は「今日のことをどう感じたか聞こうと思っただけだから……どうぞ」と譲り返した。
少しの間ジョニーは口をもごもごさせ、やがてぽそりと零した。
「『どんなカードでも存在する以上、必要とされる力がある』……って、言ってたね」
「いいこと言ったよね、私」
「うん。とても」
そりゃそうだ。これは君が大好きな「不動遊星」のセリフなんだぜ。
この世界の遊星と面識のない私がそんなこと言えば不自然だから、口にはしないけど。
「えっと……それだけ?」
問いかけると、ジョニーは乾いた笑いを漏らしながら、頬をぽりぽりと掻いた。
「言いたいけど、言いにくいことがある」……直感的に、私はそう理解する。
彼の心の準備が整うまで、ただ静かに見守ること数秒。
自嘲するような口調で、彼は切り出した。
「『シンクロ召喚があれば』……って
「……それはまた、なんで?」
怖いというのは、少し妙な表現だ。
小さな女の子が、ただ「シンクロ召喚をしてみたい」って口にするだけのことの何が怖いというのか。
「──シンクロは、ただの力なんかじゃない。ボクはそう信じているけど、でもみんながその考えについて来てくれるわけじゃない。
身近な子供さえもが、『力の象徴』としてシンクロを見ているんじゃないかって、そう想像したら……ね」
絞り出すような彼の答えに、得心がいった。
ジョニーが“ただのショップバイト”としての私の正体を探ろうとしたとき、彼は言っていた。
『カードとカードが、力を合わせて困難を超える。ボクにとって、シンクロモンスターって、そういう“絆”の象徴なんだ』
それが彼の理想。けれど同時に、彼はそうじゃない現実をしっかりと捉えてもいる。
「理想」と「現実」──ありふれていて、しかし人間が絶対に逃れることのできない二項対立の摩擦。
ジョニーはそれにずっと苦しんでいた。
彼の心に寄り添いつつも、なるべくフラットであることを意識して、私は言う。
「そっか……ジョニーは前に、シンクロモンスターは絆の象徴だって、言ってたね」
「アナスタシア……覚えていてくれたんだ」
「まあね。相手はみんな大好きジョニーちゃんだから」
「茶化さないでよ、アナちゃん」
「アナちゃんやめて」
くだらないやり取りに、お互いぷっと噴き出す。
ジョニーはわざとらしく咳払いを挟んでから、話を続けた。
「……デュエルモンスターズにおいて、『カードとカード』あるいは『デュエリストとデッキ』の絆を表す記号は、何も『シンクロ召喚』だけじゃない。
アドバンス召喚、儀式召喚、融合召喚……いや、モンスターの召喚法に限ったことじゃないか。モンスター・魔法・罠──カードすべてが互いに補い合い、大きな力を生み出すんだ」
「ジョニーは、それを『絆』だって、考えているんだね」
「うん。ボクにデュエルを教えてくれた人が、そう言っていたんだ。シンクロも、その絆のひとつの形だったってね」
──ひとつの形
そこで彼の声色がわずかに沈む。
街の喧騒は相変わらずなのに、不思議と遠くに感じられた。
ジョニーは不意に歩みを緩め、通りから外れた細い路地を指した。
そういう気分なのだろう。私はこくりと頷いて、ただ彼の背中についていく。
「──でも、世間はそうは思わなかった」
「それは……『禁シンクロ法』に関すること?」
この世界で名の通った悪法の名を口にした瞬間、ジョニーの目がほんのわずかに伏せられた。
「……そうだね。ボクが物心ついてから2年くらい経った頃に、世界中で施行された法律。いや、モーメントの存在を考えれば、『禁シンクロ法』ができるのは必然だったんだろう。
だけど……始まりはきっと『禁シンクロ法』よりも、もっと前だ」
声がほんの少し低くなる。言葉を探すように視線を泳がせ、路地の奥に一瞬だけ目をやると、またこちらに戻ってきた。
「デュエリストとカードを結ぶ『絆』は、ずっとあった──でもそれは、シンクロの“便利さ”という一面を切り取ったときに、蜃気楼みたいに霞んだんだ」
融合なら融合魔法、儀式なら儀式魔法と儀式モンスター。
既存の召喚法は、素材以外にも“特定のカード”を手札に要求する。それも、この世界の一般人でも手が届くカードプールに絞ると、──素引きがほぼ前提の。
デッキを信じて引き当てる、その瞬間ごとの重みこそが、デュエルを支えていたのだ。
けれどシンクロは、場に素材が並びさえすれば、EXデッキから直接呼び出せてしまう。システムの時点で、その「利便性」が約束されていた。
「……その手軽さはデュエルの進化だったけど、多くの人から『デッキを信じてカードを引く心』まで奪った。やがて、一部はもっと楽に、もっと強く……って、欲を膨らませていった」
言いながら、ジョニーは歩みを緩め、最後には足を止めた。
力なく息を吐き、壁に背を預ける。視線は足元を彷徨い、さっきまでの張りを失った声が静かに落ちてくる。
「そんな頃なのかな。世界を繋ぐ『モーメント』の回転が不安定になっているって初めてニュースになったのは……まあ、知っているよね」
「……うん」
シンクロ召喚という、欲望の温床の管理。
それが、禁シンクロ法の生まれた理由。そして、私という「兵器」を組織が生み出した理由。
冗談みたいだけど──カードのせいで世界がヤバい。
目覚めてから間もなく、大真面目な顔でそんなことを教えられたときには失笑してしまいそうになったものだ。本当にどうかしてる。
「でも肝心の『禁シンクロ法』も、決して褒められたモノじゃなくて」
ジョニーは右手の甲をこちらに向け、人差し指と中指の二本を立てた。
それを見つめる目から、感情の色が徐々に薄れていく。淡々と事実だけを並べるような声音で、彼は続きを語った。
「デュエル犯罪者を逮捕するため、警察組織の隊員はデュエルで勝てなきゃいけない。
カードゲーム界は、『プロリーグのエンターテインメント性の維持』を主張した」
中指、人差し指の順にゆっくりと折りたたむ。
その動きのたびに、彼の肩がほんのわずかに沈んでいった。
「『警察』と『プロデュエリスト』──制度には、当然のように二つの例外が用意された。
そして、それに対する民衆の答えは『格差への怒り』と『力への羨望』」
彼は一瞬だけ私を見た。けれど、その目の奥はどこか遠くを見ているようだった。
「……キミがこの間やっつけた強盗も、きっとそうした心の闇に憑りつかれてしまった人の内の一人……だったんだろうね」
「……うん。私も、そう思う」
「ボクは、そんな世界を……変えたかった」
低い声。短く吐く息。
ジョニーは視線を落としたまま、両手を合わせて指先を組み、きゅっと握りしめた。
「だから必死に努力して、アカデミアを首席で卒業して──そうしてプロデュエリストになった。
プロデュエリストになれば、『カードの絆』を正しい意味で世界に向けて発信できる。みんなに夢と希望を与えられるって、信じて……
「っ……もういいよ、ジョニー。もういいから」
そこで続きを遮った。
「でも」の先なんていらない。彼の苦悩は、十分に伝わってきた。
これ以上、自らの傷を抉るような吐露をさせたくないと、咄嗟に思った。
「……アナス、タシア」
「ジョニー……聞かせてくれて、ありがとう」
知らぬ間に、私は彼の手を両手で包んでいた。
彼の指先は冷たくて、なのに汗ばんで震えていた。
こんなになるまで、私は黙って突っ立ったまま、ただ聞いていたのだ。
「大丈夫。大丈夫だよ。ごめん。ジョニー」
「…………うん」
何が大丈夫なのか、言っている私自身わからない。
けれど祈るように囁き続けていると、次第にジョニーの発汗と震えは収まっていった。
やがて、彼は私の手からそっと自分の手を外した。深く息を吸い、吐く。
ほんのわずか、目元にいつもの柔らかさが戻ってきた。
「……『キミたちを見ていたら、ボクも頑張らなきゃって思った』──本当はそう言うつもりだったのに、なんでかな……真逆なところを見せちゃった。ごめん」
「別にいいよ。ううん、見せてもらえてよかった」
まあちょっと驚いたが、こういうところを見せてくれるのも信頼関係というヤツだろう。
それに、その相手が彼というなら、私はむしろ嬉しい。とても。
短いやりとりの後、私たちはまた歩き出した。
夜気が、少しひんやりと頬を撫でる。足音だけが並んで響く。
大通りの明かりが見えてくると、ジョニーはふと立ち止まり、こちらに向き直った。
「不動遊星……ボクは『正しいシンクロ』のあり方への答えが、『彼』がこの世界に残してくれた足跡の中にあるって思っているんだ」
「……あなたがそう思うのなら、そうなのかも」
正解なら知っている。だけど、曖昧に言葉を濁した。
本当は、それで合っていると言いたい。私の持てる情報もすべて彼に共有したい……だけど、この会話は後で確認されてしまう。
知っていたら不自然なことまで口走り、この身を危険に晒してしまうなんて事態は避けたかった……この時点では、まだ。
「アクセルシンクロ……彼が見出し、提唱したとされる、『シンクロ』のさらなる進化。ボクもそれを見つけることができれば、きっと──なんて。思ってるんだけど、ね」
「できるよ、ジョニーなら」
尻すぼみになっていく彼の言葉に被せるように、私は即答した。
ジョニーが小さく目を見開く。
すぐに表情を緩めて、ふっと笑った。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
高層マンションが並ぶ区画に足を踏み入れる。もう少しで私のセーフハウスだ。
彼も、この辺りにお住まいということなのだろうか?
視線が合う。灰の瞳はよく見知った落ち着きをすっかり取り戻していた。
突然立ち止まって、彼が口を開いた。
「……3日後のエウレアのデュエル、残念だけどボクは見に行けない。
彼女にとってはキミが一番の頼りだ。ちゃんと見守っててあげてね」
「言われるまでもないよ。私はあの子の『先生』、だからね」
その答えに満足したのか、ジョニーは淡く微笑んだ。
こちらからも言っておきたいことを思い出し、彼の名を小さく呼ぶ。「うん?」と彼は首を傾げた。
「リーグの最終戦、頑張って。応援してる」
「……ああ、もちろん」
街灯の明かりの下で、互いに短く笑い合う。
彼は一度手を上げると、静かに踵を返した。
元来た道を歩いて帰って行くジョニーの背を、私は長いこと見つめ続けた。
彼の姿が、振り返ることなく、夜の街のざわめきに紛れて遠ざかっていく。
「やっぱり、家こっちじゃなかったんじゃん。……ばか」
溢した言葉は、じんわりと空気に溶けていった。
>《邪悪な儀式》や《はさみ撃ち》のカード
これでどうやって戦えばいいんだ……!(ATM並感)
《邪悪な儀式》は裁定が邪悪過ぎると思います。なんすかアレ。
設定に関しては色々ツッコミどころがあるかもしれませんが、フィーリングで納得してもらえると助かります。真面目にどうしてシンクロしちゃダメなんだ。答えてみろルドガー!
次回はデュエル回です。