詳細な前書きは活動報告にて
一章あらすじ
辺境の村人の少年ルークは連れ去られた少女を取り戻そうと村を飛び出すのだが……
スカイリムの冬は長い。特に亡霊海の海岸沿では、北からの冷たい風が吹き寄せる。ウィンターホールドの西部、黒い大地の上に氷と枯れ草ばかりが目立つ土地に、その村――スノーコーストはあった。
第4紀196年 暁星の月16日(1月16日) スノーコースト
「おい、ルーク。ここは酒場。おとなの社交場だ。ガキはさっさと帰ってミルクでもあっためな」
こっそりフラゴンを持ち上げようとしたルークに、ヘンリク――彼はこの酒場の主人だ――が言った。酒を持った年寄りたちが笑う。
ルークは今年13になる。もう剣を腰に帯びて走り回れるようにもなったというのに、いまだ子ども扱いされているのが不満だった。
そもそも帰れといわれても、いまは夜。どうせ村人は全員この酒場に集まっている。冬に外でやる仕事といったら、狩りに出るか漁に出るかだが、それはもっと南の話だ。この辺りでは冬の太陽は貴重で、そうでない日は、真昼であっても迷い人が出るくらいに一面が白く染まる。自然の驚異を前に、力ない定命の者にはできることはなく、昼間はかくしゃくと働いている老人も、夜はハチミツ酒を傾けるくらいしかやることがないというわけだ。
「まぁ、それくらいにして、みなさま、一曲いかがですか」
吟遊詩人の助け舟に、ルークはほっとした。このまま暇な爺さん達にいじられるのはたまらない。
「おう。じゃあ何か景気がいいのを頼むよ、ウィル!」
ウィルは微笑んでうなずくと、リュートを爪弾き、伸びやかに歌い始めた。今回は船乗りたちの歌だ。周りの人間も一緒になって足を踏み鳴らす。フラゴンごと勢いよく腕をテーブルに叩きつける。フラゴンから酒が滴となって飛び、チーズが皿から浮かび上がった。
村の人間にとっては彼の訪れも、侘しい冬の数少ない楽しみになっていた。物腰の優雅なブレトンの吟遊詩人はこの冬の間、この村に滞在することになっている。毎夜の詩吟と引き換えに、ヘンリクの家で暮らしていた。
なにもないこんな村にくるなんて、物好きな人だな。冬は吟遊詩人たちはどこに行っても歓迎されるだろうに。一日も西に歩けば、すぐにペイル地方の中心地――ドーンスターがあるのに、わざわざこの村を選ぶというのがどうかしている。ルークがそう思うくらいには、ウィルの腕は見事なものだった。見てくれも悪くない。
「次は、戦いの歌がいいわ、ウィル。お願い!」
ナダが言った。ナダもヘンリクのところに世話になっている少女だ。ルークの幼馴染で、性格は典型的なノルドとしか言いようがない。とんでもなく気が強い。ルークはこの少女に、普通の喧嘩でも口の喧嘩でも勝ったことがなかった。
「いいですよ。では、ドラゴンボーンの歌なんてどうでしょう」
ウィルとナダは最近やけに仲がよくなっているようだ。ルークは気に入らなかった。
「吟遊詩人の兄ちゃんは、そんな歌も歌えたのか!もっと早く言ってくれ」
この酒場の向かいに住んでる爺さんが大きな声を上げて笑った。
夜も更けてきたころ、酒場のドアが勢いよく開いた。
白く凍てつく風とともに、鋼鉄の鎧姿の男が入り込んでくる。
酒場の中の人間は手に己の武器を持った。酒場の右隣に住んでいる剣の上手い老人は店の主と視線を交わす。
静寂。
その場にいる人間を代表して、
「おい、あんた。こんな雪の中よく来たな」
と、ヘンリクが男に話しかけた。
返ってきたのは――沈黙。
風がうなる。
そして、あたかも、男と店主の間で傍目には分からない何かの合意がなされたかのように、双方が肩の力を抜いた。
男は広間の中ほどまで歩みを進めると、剣の柄から手を離し側頭部から角の生えた兜を外した。
金の髪のノルド。堂々たる体躯。
中の人間も深夜の訪問者に対する警戒が解け、武器から手を放す。いっきに酒場の空気が暖まる。
「では、次の曲を」
そう言って吟遊詩人はまた楽器を奏で始め、長老夫婦が他愛ないおしゃべりを再開した。夜のざわめきが戻ってきた。
「どうだ。火に当たるか」
こいつはおごりだ。ヘンリクはそう言って、男にハチミツ酒を手渡した。
「ああ。助かる。この村に一晩泊めてもらいたいんだが」
ノルドの男が、つぶやくように、よく通る声で言った。
「それなら、ヘンリク!いいよな!」
元気よくルークは声を上げた。彼は退屈な日常の中への突然の乱入者に興味でいっぱいだった。ナダも彼の兜や剣の傷跡に興味をそそられていた。
大戦以後、スカイリムはとにかく物騒だ。大戦に従軍していた人間が、食うに困って山賊になったとか、旅人がファルメルと呼ばれる醜い怪物に襲われるなどといった類の話は珍しくない。村に住んでいても、身を守る術は子供ですら持ち合わせている。しかし、このノルドの男の剣技はそういうものではないに違いない。そう思わせる雰囲気を漂わせていた。
ルークの声に、ヘンリクはかるく頷いた。この村に宿はない。宿屋が必要なほど人が来ない。かろうじて誰かを泊められるのは、ヘンリクの持つ建物くらいだったからだ。子供二人の視線をあえて無視して、男に告げた。
「もう二人も居候がいるが、もう一人くらい人間が増えても問題ないぞ。旅人さん、あんたがいいならだが」
妙に迫力だけはある無愛想な男だったが、まとわりつく子供には何も言わない。
「かまわん。先に代金について交渉したい」
本当で気にしていないようだ。
男とヘンリクは、人の輪から外れて交渉を詰めはじめた。二人の子供がついて行こうとしたが、老婆が呼び止める。
「ほら、おまえさんたちはもう寝なさい」
もう夜も遅い。旅の人は疲れているだろううから子供の相手をさせるのは悪いだろう。酒場の向かいに住んでいる婆さんは子供達を寝かせることにした。
ショーはそもそもシロディール出身だった。ウィンターホールドに訪れたのはもちろん仕事のためだった。そうでなければ、こんなところに来たりしない。寒さに強いノルドであるとはいえ、北方を真冬に旅するというのは正気ではない。
実際に、彼は遭難していた。
ドーンスターを出発したときは何事もなかった。しかし、数刻もしないうちに日が翳りだし、すぐに吹雪となった。なんとか前に進もうとしたものの、内陸をを抜ける予定だったはずが、気がつけば目の前に見えるのは海岸。思わず九大神に祈った。効果の程は知れないが、やけになって東へ進んだら、目的地のスノーコーストにたどり着いた。最低でもあと四日かかるはずだった。
ショーはいま、いい加減に進んだのにもかかわらずたどり着いてしまったことへの理不尽さと、人の住んでいる村にたどり着いた安堵で脱力感に襲われていた。
「ホーカーのシチューだ。温まるぞ」
ヘンリク――彼はこの酒場の主人だ。赤毛のノルドで、見知らぬ他人であるはずのショーにもよく世話を焼く。熱いハチミツ酒は本当に生き返る思いだった。
「ショーっていったな。傭兵か」
ひと心地ついていると、ヘンリクがショーの前に座った。
「いや、賞金稼ぎみたいなものだ。犯罪者を追いかけてる」
大戦の後、多くのノルドはスカイリムに戻った。故郷に戻るものもいれば、心機一転しようとするものもいる。傭兵や賞金稼ぎは戦って死ぬことを誉とするノルドには珍しくない職業だった。なにより何かと仕事があるのだ。猛獣退治に旅の護衛。人は死ぬが、仕事はなくならない。
「獲物がこの辺にいるかもしれなくてな。そいつはエルフなんだが、何か知らないか。見知らぬ人影を見たとか」
家に帰るという老夫婦に声をかけてからヘンリクが応えた。
「残念ながら、年が明けてから村に来た旅人はあんただけだよ。まったく、おまえさんみたいな奴に追いかけられるとは、そいつも災難だ。ところで最近中央のほうはどうなってるんだ?」
主要街道から外れたこの村には行商もなかなか訪れない。春になれば帰ってくるだろう出稼ぎの人間くらいが情報源だ。たまに訪れるこういう人間は貴重な情報の宝物庫だった。金髪のノルドのほうも当然それを分かっていて酒の肴になるような話を仕入れてきていた。
「そうだな、ソリチュードのゴシップだったらいくらでもあるぞ」
「そりゃあ、楽しみだ。都のお貴族様がこんどはなにをしたんだ?」
「上級王とその奥方がな、将軍と……」
こうして冬の夜は過ぎていく。
酒場の客は、吟遊詩人と話している老人だけになっていた。
そのうちに、祭りの後のような静けさが広間を覆い、やがて誰も居なくなった。凍てつく風が家屋を軋ませる音だけが響いていた。
この村で長老夫婦と綽名されている彼ら、ブロルとブリタは無言で真白に染まる冬道を歩いていた。
――――!
ブリタは立ち止まって耳を澄ます。
何か聞こえる。
人の叫び声?ありえない。
口を開けばあまりの寒さにたちまち舌まで凍りつく。ここはそういう場所だ。
不吉なものを感じて彼女は自分の夫の手を握ろうとした。が、その前に夫は駆け出していた。
彼はこの年になってもまだ雪の上を走ることのできる幸運をタロスに感謝していた。腰の獲物、彼が長年愛用している鉄の片手斧を手に取り、村の東の入り口に向かって駆けた。
先ほどの声。かつて戦場で聞いたことがある。襲撃の合図だ。
ノルドの神、タロスの信仰が禁止されて久しくとも老いた彼はノルドだった。
戦いこそ己が望み。戦いの先にこそソブンガルデはある。
敵の声を聞いて高ぶった彼の理性には、自分が何のために戦おうとしているのかはもうどうでもよかった。
戦いだ!
程なく村の入り口にたどり着き、白い闇に目を凝らす。ブロルは斧を片手に怪しい人影を探そうとして――
――彼の首は、胴体から離れて転げ落ちた。
その男はブリダの前で、彼女の夫の首を剣で突き刺して掲げるとこう言った。
「――聞け!ババア!この村を焼かれたくなければ、ありったけのゴールドと、女を連れてこい!いいな、期限は夜が明けるまでだ。もし少しでも遅れたり足りなかったりしてみろ。この村にいる全員が死よりもひどい目に会うことになる!」
第4紀196年 暁星の月17日(1月17日)
ナダは突然たたき起こされた。周りでは大人たちが険しい顔をして話し合っている。
「起きたかい」
長老婦人が真っ青な顔をしてたずねた。皆同じような酷い顔色をしてこちらを見た。
何があったというのだろう。なぜみんなここに集まっているの。ナダはわが身に降りかかる不運の予感に身を震わせた。
「じゃあどうしろって! えぇ!? みんな仲良くここで死ねって言ってるのか!」
ヘンリクだ。ノルドの男にしては珍しく温厚な彼がこんなに声を荒げているのを見たことがない。言い争っているのは日中は物静かな吟遊詩人のウィルだった。
「そういうわけではありません!ですが、彼女はまだ少女です!彼らに女性を渡したら、どんなことになるかは目に見えている!」
ああ。
いまだ成熟していない彼女は事態を察した。周りの村人たちが自分に何を期待しているのかも。青白い顔をした老人達の爛々とした視線が少女をその場に繋ぎ止めていた。
冬の村にいるのは老人と子供ばかり――健康な男女は傭兵として出稼ぎにいってしまうこの村に、山賊団と戦える人間が残っているはずもない。
……あの人は?そうナダがひらめいたとき、ウィルがヘンリクと言い争ったそのままの勢いで迫った。
「あなたは!あなたはどうなんですか!」
この吟遊詩人は彼女の味方だ。あのノルドの男はどうだろうか。
ナダも少し期待したのだ。この、明らかに腕の立つだろう男に。
期待はすぐに裏切られた。
「俺一人でそんな人数を相手にできると思うのか。生き残るためにゴールドを出すのはやぶさかではないが」
ショーは隙間から外をうかがう。荒くれ者達が向かいの家を叩き壊して焚き火を挙げていた。
松明を持つ男だけでも少なくとも六人。見えないところにもっと潜んでいるだろう。装備の質が悪いが、全員が皮鎧や鋲を打ちつけたものに弓と剣を持っている。暗闘ならともかく、正面から打って出たとして勝てる人数ではなかった。
相手のことを考えると、きっちり貢物をしたとしても生きていられるか微妙なところだ。そっと拳を握って指の感覚を確かめた。
不自然な沈黙がその場を支配する。
自然と人の視線は話題の中心、つまりナダへと集まった。
言わなければならないのか。自分で? 理不尽だ。大人たちは誰もが自分のせいにされたくないんだ。
ナダは唇をかんだ。なんとか心を奮い立たせようとした。
ここでわたしが行くと言えば、村は守られる。そうでしょう?
ソブンガルデの父と母よ。どうか私にほんの少しの勇気をお貸し与えください。
祈り、そして立ち上がった。
「行くわ」
たちまち老人たちはナダを誉めそやした。
「そう言ってくれると思っていた!さすがは、レズルの娘だ!」
「ああ。あんたは勇敢な娘だよ」
ヘンリクとブリダはさっそく準備を始めた。
にわかかに活気だった屋内を見つめながら、若い吟遊詩人は安堵と自嘲のこもったため息とともにこぼした。
「いったい誰が、ルークに話して聞かせればいいのでしょう」
彼もまた自分が可愛いどうしようもない人間なのだ。暴力と数の差を前には無力だった。
準備はすぐに終わった。そもそもゴールドを大量に持っているのはヘンリクくらいだったからだ。あとは旅人と吟遊詩人の分。それが全てだ。物入れに使う袋を一ついっぱいにすることもできない。
昨日の昼から続いていた吹雪は少しましになっていた。人影が見えるくらいには。
この村への侵入者は焚き火の前で集まっていた。
「ゴールドよ」
ナダはゴールドの入った袋を突き出して、精一杯の虚勢を張った。
隣ではブリダが震えている。たった数時間しか経っていないのに、彼女の姿はまるきり違ってしまった。まるで何年も突然年をとってしまったかのようだ。
「ありがとよ、嬢ちゃん。それで女はどこなんだ?」
鉄の大剣を背負った男が唇を歪めた。周りの男達にも浮ついた空気が漂う。
「わたしよ」
「なんだって?よく聞こえなかったな」
男の嘲笑に周りの人間達も野卑な笑いをこぼす。
ナダは彼らをぐっと睨みつけた。
「だから、わたしがあなた達と行くっていったの」
もし第三者がその場にいれば、そのときの男の顔は見ものだったと噂しただろう。憤った顔と笑い出しそうな顔を足して割ったような、なんとも奇妙な表情をしていた。きっとデイドラの王子のシェオゴラスはこんな顔をしているに違いない。
拍子抜けした男は、袋の中を覗いてゴールドを確認した。
「ふん、少ないな。女もこんなチビじゃ楽しめるようになるまでどれくらいかかる。あぁ?それとも、嬢ちゃんが一人で俺たちの相手をしてくれるのか?」
獣欲に塗れた視線が少女を舐めあげて、ナダとブリダはびくりと背を揺らす。
ブリダは慌てて言い募った。
「この村にはそれだけしかありません。人だってみんな出稼ぎに行っております。どうか、どうかこれで私どもをお見逃しください」
周囲が静まる。
大剣の男の周りの人間が極度に緊張した。
そして老婆の訴えに、男は真顔になって、
「仕方ない」
そう言って大剣でブリダの首を切り落とした。
白い雪に混ざって赤い氷のつぶてが宙を舞い、どっと倒れ付した彼女の体からいまだ動く心臓の鼓動にあわせて鮮血が溢れる。冷たい地面の上に暖かい血が降り注ぐが、すぐに赤黒く凍りついた。
「こいつの首で手打ちにしてやる。今度来るときまでにはもっとましなものを用意しとくんだな!」
だれもが怯えて屋内に潜んでいる。もう、この村に戻ることはないんだろう。賊の一人に抱え上げられたナダは諦めとともに、故郷の光景を記憶に留めようと顔を上げた。
そのとき、一戸の民家から小さな人影が駆け出してきた。
「ナダ! ナダ! なんなんだよ、あんたたち!」
ルーク。
ガチガチと触れ合う男達の剣。
「おい、待て!」
帰って。おねがい。
打撃音。鈍い音。
「このガキっ」
ナダは目を閉じた。
「どうしやす」
みぞおちを殴られてあっさりと崩れ落ちたルークは雪の上に押さえつけられいた。
薄着のまま飛び出してきた少年の手足はあっという間に冷えた。体が冷えて動かなくなればなるほど、怒りが燃え上がるように彼の手足を焼いた。もがいてもまた押さえつけられる。あと少しで手の届くところに彼女がいる。
「放っておけ。そんなガキには何もできねぇ」
ナダを抱えている男を睨みつけたが、睨みつけること以外なにもできなかった。
彼もまた無力だった。
ならずものの集団は朝が来る前に東へと消えた。
村が静まり返り燃え上がる炎の音だけが響くころ、やっと少年は起き上がった。そして薄く扉を開いてこちらのほうを覗っていた酒場の主人につかみかかった。
「なんで、ナダをあいつらに渡したんだっ」
すると酒場の奥のほうから、
「小僧!この親不孝者!あんなところへ飛び出していきやがって、命が助かっただけ幸運と思わんか!長老の夫婦は二人とも殺されちまったんだぞ!」
酒場の隣に住んでいるオーケ爺さんが言った。この村の誰もが、この少年があの不運な少女に淡い恋心を抱いていることには気づいていたが、些細なおせっかいよりも自分の命のほうが遥かに重い。誰かが命を落とさねばならないのなら、悲しむものは少ないほうがいい。そして少女の両親はすでにこの世にいないが、少年の両親は生きている。多くの戦場を歩いてきた老人にとっては簡単な計算だ。
そんな村の大人に、若いルークは憤っていた。自分がなぜそれほど怒っているのかも分からないまま叫んだ。
「俺たちはノルドなんだぞ。あそこで戦わないでいつ戦うんだ。ノルドは勇敢に戦うんだっていつも言ってたじゃないか!」
「おれは一人でだってナダを助けに行く」
開始:海辺の村の少女を助ける
▼ 山賊の頭を倒す
十人から七人になった人間達は湿った風の吹きすさぶ海辺に薪を積み上げ、その上に首と胴の離れた遺体を安置する。老いた者も若い者も、みな押し黙って魂を送る場を整え、一人が薪にカンテラを投げた。
「祈りの言葉を」
どこからとなく聞こえた言葉があった。煌々と輝く炎の柱を前に詩人は口を開く。
「エセリウスへ送らるる汝の魂に、」
ブレトンの深く豊かな声はその先を歌いあげることができなかった。彼らの崇拝せし九大の神。しかしそのうちの一柱、タロスはエルフの手により唯人へと堕とされた。
彼は敬うべき死者達を前に、愛惜と恐怖の間で懊悩した。
そして――
「九大神の慈悲あらんことを」
――輪の外側に立つ鎧の男が続けた。言葉は沈黙の中にこそ星のごとく響く。
ノルドは唱和した。
――汝らはニルンの塩なれば
我らの愛するタムリエルの炎ぞ絶えざりぬ
天空の光よ、命定められし人の子の魂を導きたまはなむ――
祈りの言葉について
オープニングで八大神の司祭が告げる言葉は、「エセリウスへ送らるる汝の魂に、八大神の慈悲のあらんことを、汝はニルンの塩なれば、我らの愛する…」という部分までであるが、司祭の様子から間違いなく続きが存在すると思われる。本文中ではオリジナルの二節、「タムリエルの炎ぞ絶えざりぬ。天空の光よ、命定められし人の子の魂を導きたまはなむ」を加えて全文とした。
また、この村のノルド達はタロスを神として崇拝しているので、この場では八大神に代えて、九大神としている。