SKYRIM 闇夜を越える   作:Uwe

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R-15です
誰得レベルの性描写があります


2-2.術師たち

第4紀196年 蒔種の月14日(3月14日) ペイル地方 ドーンスター

 

 

 目を覚ますと、隣のテオドールが使っていたはずの隣の寝台は空になっていた。整えられた毛布の上にメモが一つ。それによると、テオドールは用事をすませるためにすでに町に出ているらしい。今日一日は少年の好きに過ごしていいそうだ。

 ルークが宿を出るころには日は高く昇っていた。

 

 テオドールの旅の目的をルークは知らない。番人の館でひたすら同じことを繰り返す毎日に焦りを募らせていたところで、テオドールから声をかけられた。そして誘われるままに旅路へと繰り出した。

 しかし、ドーンスターへの旅の間、食事の支度に野宿の準備など旅の途中の細々とした仕事をやらされただけで、期待していたような戦いが待っていたわけではなかった。

 ただ雑用をこなす人手がほしかったのならば、別にルークでなくてもかまわないではないか。館にいたほうが良かったのかもしれない。なぜ自分だったのだろうか、とルークはテオドールに対して理不尽な怒りを抱き始めていた。

 明日の朝にはドーンスターを立つことになっている。でも、この先もテオドールとやっていける気がしない。くすぶった炎を鎮める方法が分からないのだ。

 

 通りを行き交う成人したノルドのがっしりとした体格と比べると、明らかに線の細い少年は息を吐いた。人の流れに沿って、港に向かう急な坂道を下り、行商人が商品を広げる市場を通り抜ける。雑踏を掻き分けながら港のまわりをぐるりと歩いた。

 気持ちをもてあまして、ふらふらと港で時間を潰してしているうちに、薬師のフリダのところに顔を出していないことに少年は思い至った。

 

 長年の間海風にさらされた木の扉を開けると、店のカウンターの向こうから作業用の前掛けをまとった老婆が声を上げる。

「あぁ、スノーコーストのルークじゃあないか! よく来たね。ほら、もっとこの年寄りに顔を見せておくれ」

 梁から吊るされた葉のついた枝、籠からは色とりどりの花々が零れ落ちそうになっている。棚には置かれているワインやエールの瓶、ウサギの肉などは少年も見慣れたものだ。ただし、他にも青や緑に発光しているような奇妙の色合いの名前のわからない何か、更に丸に管を取り付けたガラスの容器や白い陶器の小さな入れ物が棒とともに並べられていた。

 肝心の売り物、薬入りの小瓶はカウンターの上に行儀よくおさまっている。

 その向こうからのぞいている記憶のままの姿に、ルークは顔を明るくして彼女のもとに駆け寄った。

「フリダおばさん、久しぶり」

 

「まあ、すっかり大きくなって。今日はどうしたんだい?」

 深く刻み込まれたしわをいっそう深くして老女は微笑んだ。大きくも何もない、と思いながらルークは答えた。

「えっと、元気にしてるのかなって」

 

 夏になると狩りの獲物や野山で集めた植物をやりとりするために、大人たちにつれられて、マデナの店にもよく顔を出していたものだ。だが、少年の神官風の服装の理由にも触れず、

「そうかい」

 と一言っただけだった。

 

 何も言ってはこない老婆に居心地の悪さを感じながら、少年は店の中を見回す。

「えーと、今日は薬を見せてほしいんだ」

「ようやく錬金術師のありがたみに気づいたのかねえ」

 しみじみと老女が言った。少年はとっさに返した。

「ゴールドをもらったけど、使い方を他に思いつかなかったんだよ」

 

 金は館をでるときに、同朋から気晴らしでもしてこいと言われて持たされたのだった。

 しかし、皆見知った人間ばかりの村で育ったルークである。物々交換で村の中では何とかなるような辺境で暮らしていから、自分の自由に使える金で自由にものを買うという経験がない。

 いざ、やってみるとなるとこれがなかなか難しかった。使い方を思いつかなかったのだ。

「そういうことにしておくよ」

 フリダは笑みを深くした。

 

 少年は一つずつ小瓶の中身を確認していく。彼が質問をするたびに老婆は律儀に答えていった。

「これは?」

「体を寒さに強くする薬さ」

 寒さに強いノルドの少年は呆れたように赤い小瓶を持ち上げた。

「こんなもの必要なのか?」

「南の連中には必要なものなのさ。それにノルドだって使うことはあるよ。吹雪の中をどうしても移動しなければならないときなんかにね」

 

 釈然としない表情で元の場所に小瓶を戻すと、今度は緑の小瓶を指さした。

「じゃあ、これは?」

「それもよく使われる薬だね。病気を良くする薬だよ」

「なんか、普通の薬ばかりだ。もっと何かないの? 死人が生き返るようなものとか」

「まったく、この子は錬金術をなんだと思ってるんだろうね。そんなものあるわけないじゃないか。魔法薬ができるのは、もともと人間が持っている力を使いやすくすることだけなんだよ。死んだ人間はかえって来やしない。魔法でだってできないことなんだから。……あちらへ行ってしまったものは戻ってこないんだ」

 

 魔法薬は人間から力を引き出す。いざというときの戦士の切り札、あと少しマジカを使いたい魔術師の秘薬として昔から使われてきた。

 錬金術とは素材から力を取り出す方法の名である。素材をかじるよりは効率がよく、効果を選別できるが、料理をしているのと変わりはない。それに、魔法薬でできることは大抵魔法でもできるのだ。むしろ魔法のほうがずっとできることは多い。その魔法で死者は蘇らないというのだから、死んだ人間の魂を呼び戻せる方法などあるはずがない。

 そんなもの、あってたまるものか、とフリダは思う。

 

「錬金術ってもっと特別なものだと思ってた」

 あまりに強く老婆が言い含めるものだから、ルークは気が抜けてしまった。

「料理とそうかわりゃしないよ。素材から最高の効果を引き出すのが錬金術師の腕の見せ所なのさ」

 フリダはカウンター上に並べられている小瓶から2つ手に取り、少年に押し付けた。

 

「ほら、持っていくならこれにしときな。寒さに強くなる薬と解毒の薬だ」

「ありがとう」

「それじゃ、保温の薬96ゴールドに解毒の薬31ゴールド。しめて127ゴールドだ」

「え、金をとるのか?」

「当然だろう? あたしゃ商売をしてるんだから」

 今のは、村だったならただで薬を譲ってくれる流れだった。だが、ここはドーンスターの薬屋で、物々交換ではなくゴールドを払う必要がある。少年は衝撃に声も出なかった。しぶしぶと小物袋の口を緩めてゴールドを差し出す。

 フリダはカウンターの上に広がった黄金の硬貨を数えて山を作っていく。

「27ゴールド足りないねえ」

「じゃ、じゃあ、これ返すよ」

 値切るということを知らないのか、素直な少年が薬を押し返そうとした。少年を押しとどめながらフリダはカウンターから身を乗り出す。

「この年寄りのお願いを聞いてくれるかい。そうしたら、値段をまけてあげよう」

 

 申し出に少年は少し考える素振りを見せてから、ゆっくり頷いた。

「いいよ。でも明日には街を発たなきゃならない」

「時間がかかるもんじゃないから安心しな。ちょっと届け物をしてほしいのさ。この老骨にかわってね」

 茶目っ気たっぷりに言って、大き目の籠をひとつ持ち出し、どん、と大げさな動作でカウンターの上に置いた。籠の中身ががさりという音を立てる。

「店に顔をださないどころか、家から出てすりゃいないみたいでね。ちょっと様子を見てくるついでにこいつを届けて欲しい」

「それくらいなら」

 

「あいかわらずいい子だねえ」

 少年はむっとして言い返した。

「子供扱いしないでくれよ。もうステンダール番人の一員になったんだぞ」

「ははは。あたしみたいな婆さんにとっちゃいつまでも子供だよ」

「どこに届ければいいんだよ」

 顔を背けてぶっきらぼうに聞いた。

「ああ、東の端にある大きな家だよ。アロンディルっていう名前の魔術師が住んでるから、そいつに届けておくれ」

 アロンディル。ルークは口の中で小さく繰り返した。

 

 目的の家は街の北東、海に面した海岸沿いにあった。人通りのない桟橋の上を歩いて突き当たりの手前の大きな屋敷だ。魔術師の家と聞いて想像するような鬱蒼とした気配はどこにもなく、むしろあちこちに施されている伝統な装飾が華々しい。

 

 ルークは屋敷の戸を叩いた。

「アロンディル? アロンディルはいるか?」

 声を張り上げたが返事はない。

「どうした」

 生成りのシャツに無精髭、手に酒瓶を持っている通りがかりの男が少年に声をかけた。

「返事がないんだ」

「うーん」

「出かけてるのかな?」

「アロンディルが?」

 男は目を見開いた。

「そんな、まさか! あいつが出かけるなんて、例えソブンガルデがニルンに落ちてきたってあり得ない。酒で潰れてるのさ」

 男はそう言うと何が面白いのか笑い出し、ふらふらとした足取りで去って行った。

 

 少年は酔っ払いを見送ると、駄目もとで扉を押した。すると手の動きに抵抗をせず、古めかしい悲鳴を上げて飴色に磨かれた扉が開いた。

 思わず瞬きをし、ルークは後ろめたさに辺りの人影がないことを確認する。そうして足音を殺して扉の隙間から家屋の中に滑り込んだ。

「おーい! アロンディル!」

 ルークは足元に注意しながら声を上げて家の中を歩き回った。

 人を迎える大広間の大きな暖炉は、火がすっかり小さくなってしまっていて、灰に埋もれた薪が赤い光に輝いている。ルークは灰を掻き分けて、薪を足した。これで、しばらく種火は消えない。

 テーブルの上には銀の水差しが一つ。厨には保存用の食糧ばかりが置いてある。不躾であると分かっていたが、寝室にも踏み入った。他にも食料庫、屋根裏、家の裏戸までのぞいたが人影はない。

 フリダも先ほど出会った男もアロンディルが家にいるはずだと考えているようだったが、留守にしているのだろうか。

 

 一度フリダのところに戻ろう。

 ルークは踵を返そうとした。

 家を出て行こうとしたところでがたりと何かが音を立てた。気を引かれて音の方へ首を巡らせるが、ルークが絶っているところからは何も見えない。

 どうしようか迷っているともう一度、足元から何かが重い音を立てて崩れ落ちるような音がした。それはどうやら下から聞こえてきている。ルークは籠をテーブルにおいて、床に耳を当てた。規則的に木が軋む音がする。間違っても風ではない。

 この屋敷にも大きな地下室が作られているのだろうか。村の建物にはなかったが、ステンダールの館には大きく地下室が作られていて、寝室は地下にあった。地下室は夏は涼しく、冬は暖かい。普通は食糧の貯蔵庫として使われるのだが、家主は魔術師だというし、地下で実験でもしているのかもしれない。

 

 ルークは土に埋もれた遺跡から宝を探し出しているような気分で、床の継ぎ目に注意しながら家中を歩き回った。どこかに地下への入り口があるはずだと確信していた。

 あっさりと、寝台のすぐ傍に四角い切れ込みを見つける。切れ込みの端の方にに力を入れると簡単に落とし戸の蓋が開いて、むっと甘い香りが下から押し寄せてきた。

 顔を覆ってしばらくやりすごし、匂いがましになったころで、緊張しながら地下を覗きこんだ。

 薄暗くてよく見えない。

 

 もっとよく見てみようと、暗がりに引き込まれるように少年は階段を下りた。

 床に足つけたもののやはり視界は暗い。

 あいかわらず、規則的な不吉な音は聞こえてくるし、甘い匂いはますます強くなってくる。無人の館の不気味さは増すばかりだ。

 

 少年は明かりがない地下を手探りで歩いた。

 感触からして床と壁は石造りだ。湿り気の多い地下室を目の前が壁に突き当たるまで前に進み、方向を変える。

 そういうことを繰り返しているうちに、階段が置かれている場所は大きな広間のようになっていることが分かった。広さはちょうど一階の広間と同じくらい。階段側からちょうど反対側の壁に、奥へとつながる通路がある。

 行くか、戻るか。

 ルークは迷った。いつの間にか、例の後ろめたさが胸を満たしていた。

 ここは、見知らぬ他人の家だ。こんなところまで無断に入り込んで、見つかれば泥棒呼ばわりされても仕方がないくらいだ。

 しかし、この先にあるものはどうも普通のことじゃない。

 そんな気がする。

 

 ルークは耳を澄ましてみた。規則正しい、ぎ、ぎという不吉な音はまだ続いている。

 音の源にひかれるようにして、少年は更に奥へと歩き出す。

 うねるような道。たまにぬかるみがあったり、壁に水が張っていたりする通路を慎重に進む。先へ進めば進むほど、どんどんと気温が下がり、いつの間にか床と壁は氷で覆われていた。

 花のような香りはますます強く、冷気は真冬の吹雪のように冷たくなっていた。

 いったいなにが起こっているのだろう。アロンディルが魔法を使っているのだろうか。そうでなければ家の地下に氷が張るなんてことは説明できない。

 

 少年が疑問を抱き始めたころ前方に光が見えた。

 あそこにアロンディルがいるのだろうか。盗人になった気分で木の扉に近づき、鍵穴からつきあたりの小部屋の中を覗き込んだ。

 なんだろう。あれは。

 ルークは自分が見たものを理解できなかった。

 

 寝台の上で人影が揺らめいている。

 どうやら女のようだ。

 長い髪を氷のような青ざめた裸身にまとわりつかせた女が寝台の上で揺れている。

 女が蠢くたびにぎし、ぎし、と木が軋む音が聞こえてくる。その音は徐々に速さを増していき、最後にひとつ男の呻き声が聞こえたかと思うと、反り返った女の体が大きな音を立てて地面に倒れこんだ。

 寝台から男の人影が立ち上がっても、地面に伏した女は動かない。ゆっくりと立ち上がった影はサイドテーブルにおかれていた水差しをひとつ傾けると、隣に羊皮紙か紙でも置いてあったのかもしれない、羽ペンをせわしなく動かしてから、部屋の奥へと向かっていく。

 しばらくして、人影が戻るとその腕に大きなものを抱えていた。

 

 死体だ。

 悲鳴を上げそうになって口を手で押さえる。奥歯をぐっと噛みしめた。

 女の死体だ。

 さっきの倒れた女が動かないのも、すでに死んでいたからなのだ。

 男が寝台に死者をそっと寝かせなにごとかを呟きくと、紫のマジカの光が小部屋に溢れた。するとどうだろう。死んでいたはずの女が起き上がり、陸にうち上げられた魚のような目で男を見つめた。

 ここでようやくルークは男の正体を理解した。

 この男は死霊術師なのだ。

 

 少年は扉から離れると、後ろの廊下の壁にずるずると背を預けてしゃがみこんだ。

 ルークは混乱していた。

 アロンディル、アロンディルはどこへ行ったのだろう。この男がアロンディルなのか?

 死霊術は違法だ。このまま男の前に出て行ってはいけない。見つかってはいけない。では、ここでこの男を殺してしまうのはどうか。それもいけない。

 ただでさえ勝手に家に入っているのだ。ここで家主を襲ったら、ただの強盗になってしまう。

 

 怒りが湧き上がってくるより前に、訳のわからないおぞましさに少年は体を震わせる。しばらくその場にうずくまり心を落ち着かせようとした。

 そして、ふとルークは顔を上げた。

 死霊と目があったような気がした。

 身が凍るような無感情な視線が少年に注がれている。

 その瞬間、少年は本能に突き動かされて立ち上がり、衝動のままに足を動かした。

 

 

 はっと気が付いた時には、目の前の男にぶつかっていた。反動でルークは背後に倒れた。

 抱え込んでいた籠から、赤と青の花、乾燥された木々の葉があたりに散らばっていく。

「おっと、気をつけろ。よ……ルーク? こんなところで何をしているんだ?」

 頭上から落ちてきた声は少年の知っているものだった。

「テオドール」

 真っ青になってそのままわなわなと口を震わせる少年にテオドールは異常を察した。少年をつれて人混みから外れ、商人たちの店の裏手に出る。

「何があった」

「テオドール、アロンディルだ。街に死霊術師がいるんだ。どうしたらいい」

「死霊術死だと?」

 死霊術は廃れて久しい。かつて帝国ギルドで死霊術が禁止されたからだ。いや、正確には禁止されたのは死霊術ではなく、死体の所持である。死霊術の使用は犯罪にならないが、死体に死霊術を駆けた場合は死体の持ち主から死体を奪ったことになるとかで、もうほとんど屍を使った術を見かけることはない。

「ほんとだ、嘘じゃない」

 少なくとも、こんな街中では。

 テオドールはそう考えた。しかし、ルークは法螺を吹くような性格ではない。もしも少年の言葉が真実ならば衛兵が出張るくらいの大事だ。

「首長のところへ行くぞ」

 

 頑固もので知られているドーンスターの首長は二人の言葉を取り合わなかった。街の住人にはあるていどの首長の信用がなくてはなれるものではない。住人と旅人、そのどちらに首長の信用があるかは明白だ。

 宿に戻ったころにはすでに日は暮れかけていた。

「ルーク、諦めろ。今はどうしようもない」

 うろうろと部屋の中を歩き回っていつまでたっても落ち着かない少年の姿に口を出した。

「でも!」

「明日の朝には街を出るんだ」

 ルークとテオドールは睨み合う。

「じゃあ、死霊術師を野放しにしていていいのか!?」

「生きている人間を連れ去っているわけじゃない」

 いままでテオドールが出会ってきた悪質な魔術師たちに比べれば、アロンディルとかいう魔術師はたいしたことはしていない。せいぜいどこから死体を盗み出した程度だろう。生きている人間が消えたのならば、今度こそ首長も衛兵を動かす。街の中のことはデイドラがかかわっていない限りは衛兵たちの領分なのだ。

「じゃあ、たとえば今からその魔術師の悪行を暴くとして、それは本当にお前がやらなくてはいけないことなのか?」

 テオドールの言葉にルークは返す言葉を持たなかった。ルークは拳を握りしめて俯いた。

 

 沈黙が舞い降りた室内にノックの音が響いた。

「いるかい」

「ああ」

 テオドールが扉を開けると宿の亭主が顔を出した。

「お客人だよ」

 宿の亭主の後に続いてローブ姿の女が現れた。

「マデナ・メリリスと申します。ここドーンスターで宮廷魔術師として首長に仕えています」

 そう告げると、彼女は宿の亭主に軽く手を振った。男は頷いて部屋を後にする。

 扉が閉まると女魔術師は静かな声で話し出した。

「約束もせずにこのような時間に訪れたことを、まずは詫びましょう」

 上品な仕草で礼をとる。

「なんの用だろうか」

 首長の側近がただの旅人のもとに日が暮れた頃にに訪ねてくる。これは、やましい事情があると言っているようなものだ。

 テオドールはいったい何を要求されることになるのかと身構えた。

「昼のことです。あなた方二人の話を私も聞いておりました。なんでも、街に住む召喚術師、アロンディルは死霊の術の使い手であるとか」

 はっとルークは顔を上げた。

「そうだ……そうなんだよ……!」

「ええ、分かっていますよ」

 マデナは少年をなだめる。

「どういうことだ」

 一方テオドールは怪訝な顔をした。

「前々から怪しい噂の多い方でした。夜中に大荷物を抱えて通りを歩いているとか」

 マデナは意味ありげな微笑をみせる。

「いま衛兵が彼の家に詰めかけている頃です。明日の朝になる前にはアロンディルに沙汰が下るでしょう。いかに有用であろうとも、法を犯すものを置いてはおけません。ここは帝国に近すぎる。危険な火遊びはできない」

「なぜそれを俺たちに話す」

「理由などありませんよ。……あえていうなら、顛末が気になるだろうと思ったまでです」

 この女が何を考えているのかテオドールには分からなかった。

 

 女魔術師はおや、と首をかしげてルークを見やった。

「それを見せてみなさい」

 女が指さしたのは少年の首に揺れている金の指輪だった。あくまでも穏やかな雰囲気を崩さず彼女は掌を差し出す。

 少年はわずかに戸惑い、得も言われぬ迫力に押し負けて、しぶしぶと指輪を差し出した。

 魔術師は指輪をゆらめく蝋燭の火にかざして、踊るように色を変える黄金を見つめる。

「これは、どこで?」

「ノルドの古い墓で見つけた」

 どこか遠くを見つ得るまなざしで魔術師は告げる。

「ひとつでは効果はないようだけれど、これは魔法のかかった品です。お前のところに来たということは、何かあるのでしょう。大事にしなさい」

 マジカを用いたものではない、何か不思議な力が存在するような気にさせられる口調だった。もしかしたら本当に話しに来ただけなのだろうか。そう警戒したままのテオドールに女魔術師が別れの挨拶を告げる。

 そして、彼女は振り返った。

「ああ、そうでした。フリダには私から話をしておきますからね。安心しなさい」

 その夜は喧騒が止むことはなかった。女魔術師の言ったとおりに捕り物が行われたようだった。

 

 翌朝、東の空が薄く紫に染まり始めるころ、二人の旅人が港と街を背にして道の上に立つ。

 街が目覚める前のしんとした静けさ。息をするだけで肺に突き刺さる寒さ。

 ルークは荷物を背負いなおしているインペリアルの青年を仰いだ。

「どこへ?」

 紺碧の空に声が吸い込まれていく。

「ウェイノン・ストーンズだ」

 まずはやるべきことを。そして生き残る。いまのところ、それが望みをかなえる一番の近道なのだろう。少年は顔を上げた。

 

 

 

   ▼保温の薬を手に入れました

   ▼解毒の薬を手に入れました

 

 




 ドラゴンファイア
ニルンとオブリビオンとを隔てていた炎。聖アレッシアとアカトシュの契約により、アレッシアの血筋を継ぐ者が王者のアミュレットを身に着けている間、オブリビオンからニルンへの侵略を防いでいた。前王朝の皇帝たちはアレッシアの血筋だった。
第4紀にはこの炎はすでに消えていて、ニルンは無防備な状態にある。

 フリダ
錬金術師。「乳鉢と乳棒」の店主。ゲーム中での種族はElder(お年寄り)。亡き主人の形見である純合金の指輪を回収するクエストがある。
昔からドーンスターに住んでいるということからノルドであると設定した。

 アロンディル
死霊術師。ネクロフィリア。ゲーム中では、研究のせいでドーンスターを追放されユングビルドに隠れ住んでいる。
彼について詳しく知りたい方は「アロンディルの日記」をどうぞ。

 マデナ・メリリス
魔術師。ドーンスターの宮廷魔術師として首長に仕えているブレトンの女性。ドーンスターの良心。
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