SKYRIM 闇夜を越える   作:Uwe

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1-3.魔を追う人々、古都にて

 ルークは家に戻るとすぐに荷物をまとめはじめた。

 少し大きさの合わない革鎧を無理やり身につけると、そのうえから大きな布をまとう。保存のきく食べ物に革の袋に入れた水、そしていまはこの村にいない両親から与えられている弓と矢、しまいこまれていた剣をまとめて背に負い、護身用の短剣を腰に挿した。

 そして、外の通りの大きな焚き火の前で松明を持って話し込んでいる大人たちがいなくなるまで、そのままじっと待ち続けた。

 

 誰もが屋根の下で体を休めるころになって、少年は村を飛び出した。赤く丸い月だけが彼を見ていた。

 

 

第4紀196年 暁星の月17日(1月17日) ウィンターホールド地方

 

 

 ルークにとって、獲物の痕跡を見つけ出し、あとを追うのは慣れ親しんだ行為のひとつに過ぎない。それがろくに移動した跡を隠しもしない相手ならばさらに話は簡単になる。とはいえ、大人ぶってはいるものの、大人と子供の差は覆すのが難しいことも分かっている。

 この過酷な銀世界で数時間の距離の差を埋めるのは容易ではないということを、少年は理解していた。

 

 しかし、村の大人にも、訪れた旅人たちにも、大人たちからはいままであんな輩の話は聞いたことがなかった。だからきっとこの土地の新参者であるに違いない。新参者たちがこの土地の入り組んだ氷の迷路を簡単に通り抜けられるはずがない。安全な道を探すのにも時間が必要だ。

 

 奴らが休んでいる間も道を探す間も歩き続ければ追いつける。

 少年はそう考えた。そうして村を出てから辺りにうっすらと明かりが差すまで休まずに歩き続けた。

 

 雪の勢いは穏やかになったが、轟々と響く地吹雪で軽いからだが吹き飛びそうになる。

 だが彼は休むわけには行かなかった。時間が経てば経つほど、風が痕跡を消していく。再び雪が降り始め全てが雪に覆い隠されてしまう前に、なんとか相手の姿を捉えられる位置まで追いつかなければならないのだ。

 

 空に舞う雪でかすむ太陽が西に傾いて、再び寒さが戻ってきたころ、前方から金属が打ち合う音が聞こえてきた。ルークは走り出し、人の姿が判るほどまでに近づくと、氷の陰に身を隠して、武器以外の荷をそっと降ろした。

 

 どうやら何者かが戦っているようだった。

 陰から様子をうかがうと、革や鋲の鎧のならず者たちとフード姿の人間たち3人が戦っている。

 数でならず者が有利かと思われた。

 

 何人かが雄叫びを上げながら、先頭に立っている黒い金属のメイスを持った人に向かっていった。

 

 メイスの男は最初のひとりを、その頭上から振りかぶった一撃によって仕留める。

 そしてそのまま一歩踏み出し、片手でメイスを持つと、体の外側に向けてなぎ払う。大剣を振りかぶっていた賊の横腹に直撃した。

 そのあまりの勢いに腰の引けた三人目と距離をつめ、測頭部にメイスをめり込ませる。

 

 あっという間に三人を打ち倒した男の足もとに矢が飛ぶ。後方で弓を持っていた賊が彼を狙っているらしい。

 ところがすぐに、別のフードの人物――弓を持った人物に射抜かれ、前のめりにどう、と雪の上に倒れた。

 

 そして隠密に優れていたのだろう、布の服を纏っただけの賊がローブ姿の射手に襲い掛かろうとしたところで、その更に背後から槍をもつ人が魔法を打った。

 

 なにやら片手が青く光ると、氷でできた太い矢のようなものがその人の手のひらから飛び、あっけなく賊は地に倒れる。

 そしてローブを身に纏った三人は周囲を見回すと武器を納め、広場に散らばって賊の物資や遺体の装備を物色し始めた。

 隙のない一行であった。

 

 初めて命のかかった戦いを見た少年は、目の前で起こった出来事にその場から動けずにいた。彼らが戦いの気配を納めて、ルークは自分の体が凍りつくように固まっていたことに気づいた。はやくこの場から立ち去らなければ。そう思って再び荷を背に負った。

 そのとき、遺体を検分していた槍の人がふと頭を上げたのを見た。

 

「そこに隠れているもの、その身にやましいことがないなら姿を現せ! 我らはステンダールの番人! デイドラをニルンから追放し、オブリビオンへの扉を開こうとする輩を阻止する誓いを立てたもの! 身を隠すものよ、お前がデイドラにかかわる悪しき企てを持たない限り、全ての人間は我らの親しき兄弟であるぞ!」

 一番体格の立派なメイスを持った人がこちらに向かって口上を述べる。

 

 一歩前に踏み出したその人を、少年は観察する。

 長い年月のあいだ雨と風にさらされたようなあせた黄色のローブ、ゆったりとしているはず着衣の上からでも分かる鍛えられた筋肉、そして遠目では黒檀かと思ったが、黒とも赤とも形容しがたい色が表面に揺らめいている不思議な材質のメイス。その声の重さから間違いなく熟年の男であると分かる彼は、古いノルドの物語の中から抜け出してきたような人物だ。

 どうやったってかないそうにない。

 

 ルークが大人しく姿を見せると、ステンダールの番人と名乗った彼らはわずかに驚いたような仕草をした。物陰に隠れていたのが子供であったからだった。

 

「お前のような子供がこんなところで何をしている?」

 ルークは男に目を合わせて言った。

「西の村からそいつ等を追いかけてきた」

「西とな? それにしても坊主はなぜこやつ等を追いかけていた? お前の村が襲われたにしても、過ぎ去った嵐をわざわざ追いかける必要はあるまい」

「ナダが……女の子が連れて行かれたんだ」

「ほう、それで助けようとしたのか」

 

 その言葉に少年がうなづくと男の口元がほころんだ。そして後ろの二人を振り返った。

「聞いたか ヒルド! オイアヴァール! これぞノルドの小さな英雄よ!」

 大きく風が吹いて、振り返ったひょうしにフードが外れた。灰色の髪を鬣のようだった。彼は厳しいしわに覆われた顔を喜色でいっぱいにしていた。

 

「まったく、また始まった」

 ヒルドと呼ばれた弓を持つ女は、男の調子にあきれた様子だ。一方槍を持ったオイアヴァールの方は男を冷ややかに一瞥すると遺体の方に戻ってしまった。

「ごめんよ、ボウズ。こいつはいつもこの調子なんだ。口を開けば出てくるのはイスグラモルだ、イスミールだ、オラフだ……。まぁ、悪気はないんだ」

 

 そういって今度は女が少年に声をかける。彼女はフードをはずしてルークに顔を見せると彼に手を差し出した。

「あたしはヒルド。番人のヒルドだよ。あの冷たそうな槍男がオイアヴァール。そっちの暑苦しいのはグスルだ」

 彼女は黒髪をしたノルドの女だった。遠慮なく彼に近づいてくる若鹿のような肢体におもわず息を呑み、差し出されたヒルドの手をこわごわと握った。武器を持つことに慣れている硬い手のひらだった。

 

「あ、あの、おれは、ルークです。スノーコースト村のルーク」

「おお、ルークというのか!」

 少年の手は大男の横から伸びてきた大きな手にとられて、ぶんぶんと勢いよくゆさぶられる。

 

「我らも、とある訳にてこやつらを追いかけておったのだ。おぬしも同じ者らを追いかけておるようだ。我らと共に来るといい」

 ルークは目を見張った。

「本当に!? 一緒にいってもいいのか?」

「ああ! いいとも! おぬしのような勇気あるものならいつでも歓迎だ!」

 彼の背後で女が苦笑するのが見えた。

 

 薄暗い中、ルークは大男と女に連れられて小競り合いの中心となった土地を歩いた。

 ここは少し開けた窪地になっていて、周りを氷の壁が覆っている。南側に2本、そしてルークがやってきた北側の道一本がその土地に出入りできる安全な道のすべてだ。

 

 男と女が豪快にあたりに転がる賊たちの遺体をまたいでいく。

 彼らは皆、一撃で止めを刺され事切れていて、皮肉にもその肉体で彼ら敵の腕前のみごとさを表していた。

 

 

 日が傾き始めるとあっという間に夜が来るのが北方の冬だ。

 少年と番人たちが話しているあいだにも、すぐに夜がやってきた。

 ステンダールの番人たちは、すこしも夜の準備をしようとしない。どうするのだろうと考えながら二人のあとを追いかけていると、黒い扉が目の前に現れた。大男はためらうことなく中へと踏み込んでいった。

 

「これって……」

「心配はいらない。あいつらも使っていたみたいだからな。私たちが使ったとしても文句は言わないだろうね」

 むろん死人に口が利けるわけもない。

 

 すり鉢上に掘り起こされた硬い雪の底にある黒い扉を開くと、石畳の通路が続いており、通路を抜けると半分が土に埋まっている広い空間に出た。

 地下には身の芯から凍りつくような寒さが及ばない。少年は体に巻きつけていた布を緩めると、見慣れたノルドの古い文様が彫りこまれた柱で支えられた空間を歩き回った。地面にはさまざまなガラスの道具が散乱している。他にも無理やり持ち込んだような家具や、棚からあふれ出した本がなんの秩序もない様なありさまで転がっている。

 

 少年はガラクタの山の中を散策した。

 木造の椅子、テーブル、壊れた荷運びのための木箱。飲み干した酒瓶や瓦礫に潰されたガラスの破片。これらはまだ新しいものが多かった。

 そして、たまに見つかるゴールドや小さなかけらになったルビーを少年は夢中になって拾った。

 少年の見つけたひときわ大きな収穫は、細い造りの指輪だ。

 

 ルークは宝探しに熱中しているうちに、ずいぶんと番人たちと離れた場所を歩いていることに気が付いた。途端に暗闇が不気味になって、慌てて番人たちを探し、少し道を戻る。一番立派なつくりの家具があった辺りに松明をもって彫像のようにたっている男がいた。オイアヴァールだ。

 

 ルークが彼に声をかける前に、まるで動物の毛を思わせるような髪をした大男、グスルが近づいていった。二人は小声で話始めたようだが、洞窟に音が反響して、二人の声はルークのところにまで届いた。少年は耳をそばだてた。

 

「どうやら当たりのようだ」

「なにかめぼしいものが見つかったのか?」

「これだ」

 

 そう言ってオイアヴァールはくたびれた紙の束を持ち上げる。はじめはただの書きつけっだに違いない。だが、なんども中身を書き足し、足りなくなっては紙を継ぎ足していったのだろう。不揃いな紙をなんとか紐でまとめて、かろうじて書のといえるような体裁を保っていた。

 

「中身は?」

「オブリビオンに関するメモだ。かつての蟲の王の騒動やオブリビオン動乱についてぎっしりと書かれている。かの古代アイレイドたちについても述べられていた。いかにデイドラと手を結んでいたのかなど、な。なかなかに興味深い。こんど機会があれば試してみようか」

 グスルはにやりと笑った。

「そういう冗談はよせ。おぬしを狩るのは骨が折れそうだ」

「いや、案外不足しがちな人手の代わりになるかもしれぬぞ」

 

 そういって彼は振り返った。ルークがそこにいることに気づいたらしい。深くかぶったフードから真白な髪がこぼれた。すぐに彼は髪をフードの中に入れて隠してしまった。

 

 

 一通り探索し終わった4人は、ガラクタの山の中からまだ使えそうなテーブルや椅子を探し出して並べ、その場に残されていた食べ物を使って料理した。それぞれが荷から食べ物を持ち出し、ならず者たちが持ち込んだ酒瓶を拾い上げて、松明の明かりの元で簡易な宴となった。

 

「出会いに」

 グスルがそういって杯を掲げるとヒルドとオイアヴァールもジョッキを持ち上げる。

 

 ルークのものにも酒が注がれ、彼らの号令と共にいっきに飲み干した。いったい何から作られているのか、どこの産物なのかも判然としない安酒が、腹を熱くした。

 

「どうだ? 初めての酒の味は!」

 となりに座っていたグスルに背を叩かれる。

「なんだか変な感じだ」

「子供にはまだ早いかしら」

「なに、明日からは共にあやつらを追う仲なのだ。よく飲み、よく食べ、よく眠れ!」

 その言葉にヒルドは敏感に反応した。

 

「ちょっと待って。その子を連れていくって話、冗談じゃなくて、本気?」

「わしはいつも本気だが」

「足手まといだ」

 

 頬杖を付いていたヒルドは、いらいらとした様子でテーブルを指で叩く。すぐに体をルークのほうに向けると、しかめ面をして言った。

「ルーク。あんたもこんな奴の口車に乗せられるな。いちいち伝説の英雄を引き合いに出す奴に、ろくな奴はいない」

「そういっても、おぬしとて乗せられた口だろうに」

 憮然とした顔でグスルが言い訳のようにぼやく。

「いまは私の昔のことは関係ない!」

 

 ヒルドは顔を真っ赤にして、先ほどから我関せずと、淡々と酒盃を傾け続けているもう一人の男を振り返った。

「オイアヴァール! 何か言ってくれ!」

「私は別にかまわぬが」

「二対一だぞ、ヒルドよ」

「長屋に戻ったテオの代わりが必要だ」

「おお、そうだ。追跡に手を借りねばならん」

 

 男たちが口々に女を説得しようとする。

 この話題を言い出した当の本人は、グスルの決定がもはやくつがえらないらしいことに、ふてくされた様子で安酒を一気にあおり、乱暴な手つきでチーズを切り落としていた。

 

「テオ? おれはそいつの代わり?」

 一方少年は、同行を反対されたということよりも、誰かの代わりということに少々傷ついていた。

「ああ、そうだった。そのことだ。おぬしが賊を追ってきたと聞いて、これは、と思ったのよ! まっことステンダール様の思し召しということ!」

 

 灰髪の大男の鼻の頭が赤くなっている。彼は酔い始めているのか、話の要領が得ないので、ルークはオイアヴァールを見た。

「ステンダールの番人は、普通二人一組で行動する。グスルとヒルド、テオと私という二つの組が共同でこの任務に当たっていた。テオは平地での近接戦闘には分があるのだが、いかんせん山となると、どうもな。西のペイル地方からウィンターホールド地方へと、山を越えるときに足をひねったらしい。どうしようもないので戻らせたのだ」

 ルークは、どうして自分がテオと呼ばれる見知らぬ人の代わりになるのか分からなかった。素直に首を傾げる。

 

「テオは戦士というよりも、腕のよい狩人と言ったほうが正確だろう。どいつもこいつも、脳味噌まで筋肉でできているような番人たちのなかで、そのような技術を持つものは珍しいのだ。我らもここまでは追ってこられたからよいものを、この先、本当にどうしようかと」

「そこでおぬしの出番だ! ここまで追うことのできたというその技術を役立たせてほしいのだ」

 酒精によって赤くなった顔をほころばせながら、大男が少年の背を思い切り叩いた。あまりの強さに息が詰まる。

「そういうことになった。ヒルドよ、いいな」

「番人としてもあんたが先達だ。従うよ」

 

 

 気がつくと朝になっていたらしい。ルークは連日の緊張のためか、それとも光の変化がまったくない地下という環境のせいなのか、ヒルドにたたき起こされるまでぐっすり眠ってしまった。パンのかけらをかじって、ヒルドに促されて遺跡の外に出る。

 もう日が高く上っていた。

 ルークは足元を見た。昨晩の雪は少なかったようで、まだ足跡が僅かにくぼんでいることが分かる。これならば、簡単にあとを追えるだろう。

 務めがたやすく果たせるものと知り安心していると、広場で立ち止まっていたルークにグスルが近づいてきた。

 

「ルークよ。そこに跪いてくれんか」

 いったい突然なにを言い出すのだろう、とルークがグスルの顔を見ると、彼は今までにない真剣な表情をしている。

「ステンダールの番人の習いだ。新たに旅に同行者を迎えるときのな」

 グスルは首から提げていたステンダールのアミュレットを手に取ると、ルークの頭上にかざす。少年はその場に跪いた。

 

 厳かな声で彼は言った。

「旅立つものよ。我らと道を共にするものよ。ステンダール様の慈愛において祝福を授ける。ステンダール様に祈りを捧げよ」

 少年は目を瞑り、両腕を空に掲げる。

 

 そして。

 それは、空から落ちてきた。

 

 

  ――慈悲をもちてことを成せ――

 

 

 声だ。

 力のある老人の声。

 

 ルークが驚いて目を開くと、視界いっぱいに広がる青い空から一筋の光が落ちてきたのが見えた。グスルの持つアミュレット目掛けて落下し、その瞬間、ルークの体が淡い光に包まれる。

 光の波濤が空間に広がる。

 

 ルークは体のずっと奥の方――もしかしたら心の中からかもしれない――から力が湧き出してくるのを感じた。

 

「……なんだ、なんだいまの」

 ルークはただ唖然としていた。

 

 たしかに、大昔にノルドはキナレス様から力を授かったといわれているし、聖アレッシアはアカトシュ様の力を借り受けていたらしい。スカイリムの都にある大聖堂では神々から祝福を受けられるのだと、噂を聞いたこともあった。でも、そういうことはどこかずっと遠い話だとルークは思っていた。

 厳しい雪と氷だけの世界に、人間のために加護を授ける神が本当にいるなんて。

 

「ステンダール様御自ら御加護を授かるとは、なかなか有望なことだ。まったく、まだまだわしの目も捨てたものではない」

 一の神の司祭が、かかと笑った。

 

 

 

  ▼加護:ステンダールの勇気 を獲得しました

 

 

 

 




 加護について
ステンダールの勇気は、前作OBLIVIONでステンダールの祠に祈ると取得できる。
SKYRIMでは、物乞いに1ゴールドを渡すと慈悲の贈り物の効果を得ることができ、アーリエル神の声を聞いていた(らしい)方が登場する。
そうであるならば、本当に神の声を聞くような司祭なら今回のようなこともできるかもしれない、という作者の捏造。
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