SKYRIM 闇夜を越える   作:Uwe

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1-4.追跡、そして

 デイドラ。

 少年にとって、それは御伽噺の中の存在だった。

 

 この世界――ニルンは秩序の神アヌによってつくられたのだという。

 それに対して、デイドラは、アヌに敵対する神パドメイの血から生まれたオブリビオン、ニルンの外の世界の生き物だ。彼らは、秩序の神アヌから生まれた世界、つまりニルンの生き物たちを憎んでいて、いつもニルンを滅ぼす機会をうかがっているのだと、ルークは幼い頃から寝物語に聞かされていた。

 

 他に知っていることといえば、デイドラには大公と呼ばれるとても力の強い存在がいること、大昔にあったオブリビオン動乱という騒動で、シロディールのあちこちにオブリビオンへの門が開いてしまい、村や町にたいへんな被害を出したこと、その騒動を治めるのに、昔の帝国の最後の皇帝がアカトシュを召喚したことくらいだった。

 

 

第4紀196年 暁星の月18日(1月18日) ウィンターホールド地方

 

 

「グスルたちは、どうしてあいつらをおいかけてるんだ?」

 地面の足跡の痕跡から目を放さずに、ルークは問いかけた。するとルークの隣を歩いている大男が答えた。

「もとはといえば、召喚術師を追っていたのだ。そやつはシロディールの方で散々やらかしたらしくてな、危険な魔術師がスカイリムにはいったという噂が耳に入ってきた」

 

 ステンダールの番人は、旅人の安全を祈り病を治す。その礼として旅人から情報を聞く。旅するものたちの間では、身の安全にかかわる情報は万金に値する価値があるのだと、後ろから女が大男の説明に付け足した。

 

「ファルクリースまでの足取りは取れておるのだが……それ以降ぱたりと噂がなくなった」

「誰も見てないってこと?」

 そうだ、と男は頷いた。

 ファルクリース、帝国の中心シロディールとスカイリムの鏡界に位置する山深い地方だ。人の目の届かないところに何があっても不思議ではない。

「そうなると、誰かが匿っておるということになる。いかに匿われたとて、高位の召喚師はスカイリムでは珍しいから、魔術に関する物品のルートからどこへ隠れたのか分かる……はずだったのだが、こればかりはこちらの見通しが甘かった」

 

 スカイリムでは街に住む市民や村人が高等な魔法を見る機会はない。せいぜいが、少しばかり周囲を照らす魔法だったり、初歩の戦闘魔法だったりを、魔法の素養に恵まれた人間が使っている程度だ。そんな状況だから、高度な魔術を扱う人間は珍しい。魔術に関連する品物は希少で値段も高かった。売買するのは店を構えることのできる商人ばかり、品を下ろす客も顔見知り、という状態が普通なのだ。

 そこへ見知らぬ客が来たとなれば、小さなコミュニティではすぐに話題になるはずだった。

 

「見つからないのか?」

 少年の言葉に男は重々しく頷く。

「街や村には影も形もない。そこで、市場に出回らない商品の流れというのをあたってみたのだ。そうすると、どうやらそやつは賊の集まりに匿われているらしいことが分かった」

  本来盗品を取り仕切っているはずの盗賊ギルドは、60年ほど前のリフテンの反乱の騒動から縮小の一途をたどっている。近年の表に出ない取引、いわゆる闇市場は、ギルドに代わって各地のならず者の有力者が台頭し、その膝元でとり行われるという状況になっているらしい。

 そして魂石を大量に買っていく山賊のような連中がいるという話をグスルは耳にしている。

 

 あさっての方向へ向かってルークは氷の塊を蹴飛ばした。

「つまり魔術師が山賊に匿われてるのか? なんだか、それって、かっこがつかないなぁ」

 ステンダールの番人たちが追いかけているのがどんなあいてなのか、少年は想像できなかった。山賊にかくまわれている魔術師というのがすごい魔法を扱うように思えない。でも、ひょろひょろとした錬金術師のような人物がノルドの山賊と仲良くやってるのも信じがたい。

 

「どうだろうな」

 グスルは後ろを振り返ってヒルドと視線を合わせて笑った。

「かなりやり手の頭がいる。それは間違いない。最近まで要塞から遠い村を狙って襲撃をしては、ホールドの境界を越えて逃げる、といったようなことを繰り返しておった。そのうえ各地の首長に討伐されずに、北に移動しながらどんどん集団を大きくしていったのだ。」

「いた、って昔の話? じゃあウィンターホールドにいるっていうのはただの勘なのか?」

「勘では……いや、そうかもしれん。それにしてもなかなか目端が利くな。よい話術の使い手になりそうだ」

 歩きながら笑うグスルに、ルークはほほを膨らませて言った。

「続きを早く話してよ」

 

 そんな少年の様子に含み笑いをもらしながら更に続けた。

「あちこちの地方で被害が出ていたにもかかわらず、ウィンターホールドだけはそれがなかった。」

 旅がしやすい季節は都会の噂話を聞くことも多い。たしかに、ルークはウィンターホールドで山賊が出たという話は聞いたことがなかった。

 グスルの言葉をルークは真剣な顔で繰り返す。

「この辺だけは、何もなかった」

「それなのに、ウィンターホールドに大きな山賊の根城があるという話を最近あちらこちらで耳にするようになった」

 

 物騒な噂があれば、まともな感覚のある人間は避けて通る。グスルも先日行き違った旅人から忠告されたものだ。ウィンターホールドの荒野は山賊の巣になっているらしい。命が惜しくば近づくな、と。

 だがその噂は山賊が自らの根城に人を寄せ付けないための策かもしれなかった。番人として行かないという選択肢はない。

 

「それで、とりあえず様子見に来た」

「その通り! そこに昨日の山賊だ。わしらにとっては、まったくの幸運よ。あとを追っていけば、奴らの根城が判明するかもしれん」

 ルークは背後で大男が獰猛な笑い声を漏らしたのを聞いた。

「そうすればあとは殴りこむだけだ」

 

 

 4人は、少年とグスルを前列、ヒルドとオイアヴァールを後列にして、アンソール山の登山道の入り口まで辿りついた。一行はそこでしばしの休息をとることになった。

 グスルとオイアヴァールは雪面に腰を下ろし、ヒルドは突き出た岩にもたれかかる。ルークは岩の上に上ってあしをぶらつかせる。

 

 少しだけ山に入ったところで今日は野営をすることになるだろう、とルークは思った。

 しかし、ならずものたちの足跡を追いかけて、いまから山にはいるのは危険が大きかった。雪山か闇夜か、どちらか一方ならば彼らは追跡の手を緩めることはないかっただろう。夜の雪山を無理に進もうとすれば、たとえ優れたノルドの戦士であろうとも命を落としかねないのだ。

 

「ろくに人の通らない雪道を歩くのがこんなに大変だなんてな」

 そういってヒルドが足を軽く叩いた。

「南の出身?」

「ホワイトランだよ。雪だって降るさ。でも道の雪はどけられているか、均されてるのが普通だったからなぁ」

 衛兵に感謝だな、ヒルドはそうひとりごちている。

 

「このへんの人間だって、普通の人はこんな季節にこんなところを歩かないよ」

「そりゃあそうだ」

「わしらの追いかけている連中はどうやら常識を知らんらしいな!」

「案外、やつらの根城に通じる道を、真面目に均しているかもしれぬ」

 グスルが道化た風で軽口をたたき、オイアヴァールは仏頂面のままで言葉を放った。

 

 なら、と少年は振り返った。

「オイアヴァールはどこの人なんだ?」

「ここからだと……そうだな、西の生まれだ」

「ハイヤルマーチ? ハーフィンガルとか、あ、もしかしたらリーチ?」

「リーチだな。ちなみにグスルは……」

 オイアヴァールの言葉の先をグスルが引き継いだ。

「わしは、シロディールはブルーマの出身だ」

「えーっと、クヴァッチの英雄の石像があるんだっけ」

「そうだ。ブルーマへ行くとなれば、わしに声をかけよ。案内するぞ!」

 彼は雪の中に倒れこみながらそう言った。

 

 飛び降りて、岩の根元に腰を下ろしたルークは、雪の中に倒れこみ仰向けになってみる。疲れてほてった体に冷たい風が気持ちいい。

 相変わらず空には太陽が輝いている。真冬に晴れの日が続くのは珍しい。

 

 やることも考えることもなくなると意識に空白がやってきて、すぐに悪い想像ばかりがルークの頭の中にあふれてきた。

 ナダに追いついているのか。ステンダールが少年の祈りに応えてくれたように、ナダの祈りもどこかの神が聞き届けてくれるだろうか。せめてルークが助けに行くまででもいいから、誰かが守ってくれはしないだろうか、と。

 

 期待はできなかった。

 昨日まで頼りになると思っていた大人たちでさえ、大きな力の前に怯えて立ちすくむ。物語の中でさえ神様は気まぐれだった。いただいたステンダールの加護だって偶然かもしれない。益体もない不安と焦燥ばかりが押し寄せてくる。

 

 ルークはぐるりと首を回して辺りを見た。

 人一人いる気配のない真っ白な雪原に、世界にいるのはルークとステンダールの番人たちだけのような気分になる。彼らは各々武器を確認したり、荷を詰めなおしたりしているところだ。

 それを見て、少なくとも3人、いま頼りになる人たちがいるじゃないか、と暗くなりかけていた気持ちに渇を入れた。そして、ナダを助ける。それでいい。

 

「そろそろいくぞ」

 ルークはグスルに促されて、ステンダールの番人と共に雪の山に分け入った。

 

 

 それは彼らが火の周りでささやかな夕餉をとっていたときに起こった。

 

 小さな白い雪が風に乗って舞い降りてくる。澄み切った星空の下に、アンソール山は忍び寄る闇よりさらに黒々とした威容を晒していた。

 少年とステンダールの番人の一行は、道を外れたやや緩やかな斜面で火を起こし、スノーベリーをかじって寒さを誤魔化しながら寝床の準備をした。

 

 そして、番人たちは酒を飲み、ルークがチーズをかじろうとしていたときだった。

 突如、後方の岩陰から鬨の声が上がった。

 声の方向を見ると、ありあわせの革鎧を身にまとった山賊たちが駆け下りてくる。山賊たちの持っている松明の明かりが周囲を照らし出し、長く濃い影が落ちていた。

 ルークは突然のことに、山賊が剣を振りかざしてこちらを目掛けて駆けてくるのを見つめることしかできなかった。

 

 番人は武器をもって立ちあがる。

「立て! ルーク!」

 険しいしわを顔に刻んだグスルの声に少年も遅れて立ち上がった。

「逃げるぞ」

 

 ルークはかろうじて弓と剣だけを身につけ、とっさに荷物を手に取ろうとした。

 が、その手をヒルドに掴まれ、そのまま街道にむけて走る。

 前のめりになりながら背後を振り返る。一人、二人、三人……あとは数えられない。

 圧倒的に敵の方が人数が多い。

 

 ルークが熾した火が山賊たちの足で踏み消されていった。

 踏み均された道に出るまでのたった数十秒が数時間にも感じた。

 背には冷や汗がしたたっている。

 右手を握っているヒルドの手も湿っているのが分かっる。

 道に出ると、ヒルドに背中を突き放される。先頭を走っていた槍を持った男にぶつかった。

 

「オイアヴァール! お前はこいつと行け。西だ」

 

 ヒルドの言葉に、ルークは自分がその場で石になってしまったかのようだった。

 グスルやヒルドとこのまま別れてしまうのがいやだった。自分が敵から逃げているというのも許せなかった。

 なんとか声を出して、手をつなぐなんてことで自分を子ども扱いしたことへの文句を言おうとしたが、顔がこわばって何も言えない。

 

「分かった」

 そうオイアヴァールが応える。

 

 こういうときに、話に聞く英雄は恐れずに立ち向かっていくものだろうに、生まれて初めて誰かに殺されそうになって、ルークはそれを恐ろしいと思った。それでも恐ろしくて足がすくみ、それでやはりも立ち向かわなければならないという思いがあふれる。

 心の中で二つの感情が火をあげ、心の感じるままに足を前と後ろの両方に動かそうとした。

 

 「行くぞ」

 少年の様子に業を煮やしたらしいオイアヴァールに肩を掴まれて数歩分引きずられる。少年が歩き出すと男の手は肩から外された。

 歩き出して、ルークは後ろを振り向いた。

 

 グスルとヒルドがこちらを見ている。

 グスルは何も言わずにルークに向かって静かな視線を投げかけた。

 彼は背を向けてその場で武器を抜き、ルークたちとは反対方向に歩き出す。ヒルドもやはり無言で弓をかまえてグスルに続いた。

 

 敵の怒声の前にメイスをもってグスルは立ちはだかった。

 男の巨躯の後ろから敵を射抜いた女に問いかける。

「おぬしは行かんのか」

「ステンダールの番人は二人一組。そうだろう」

 

 

 ルークも何も言わずに前を向いた。

 前には背の高い男の背中。遠くは西の山端に小さな白い月が沈んでいく。

 二人は真っ暗な山道をひたすら西に辿った。

 

 温まっていた少年の体が冷えて震え始めたころ、男がやっと足を止めた。と、思ったら、彼は少しの間空を見上げて、そのままルークには目をくれずに背後を振り返った。

 それにつられて少年も後ろを見る。

 小さないくつかの明かりがだんだんと大きくなってくる。

 野営地から逃げ出したときよりも数は少なくなっているようだが、山賊たちに後をつけられていることは確かだった。

 

「来た」

「できるだけ離れていろ」

 オイアヴァールは地面に槍を突き立てて、大鷲のように腕を広げた。

 

 ―― SHANTAVOY VIN, FRYSAVOY NEN,

 

 辺りの気温がぐっと下がり、空中にちいさな氷のつぶてが生まれる。

 目鼻立ちが見える距離にまで接近していた山賊。その松明の明かりが荒れ狂っている白い氷を照らし出し、地上から見上げる星空のようにちらちらと輝いた。

 

 ―― AV MAGIKA AV KYNDCEL, TOIVOAVOY NAI ADABALA

 

 ルークは何もないはずの彼の周りに、目には映らない何かの流れを感じた。

 

 ―― OI LETTADUELL!

 ―― O EZIINTVA LUMINSKYABALA!

 

 青く発光する腕を地に向かってたたきつけた。

 すると彼を中心にして発生した青白い光の嵐が山賊たちをおそった。

 

 光の筋に肌をなでられたところから体が凍りついていき、慌てた山賊たちはなんとかして死の風から遠ざかろうとした。

 しかし握る武器の重さで腕が崩れ、足を踏み出せば凍りついた足にひびが入り、顔だけでも守ろうと体をひねれば胴体がミシリといやな音を立てる。

 そうして、あとを追ってきた山賊は、たったひとつの極大の魔法を前に、なす術もなく全滅した。

 

 

 神像にたどり着くことのできなかった信徒のように凍りつき倒れた骸の前で、霜のついたローブを纏った男だけが立っている。

 ルークは山賊の持っていた松明を拾い上げて火をつけ、まさに凍りついたように動かない彼に声をかけた。

「おれたちは戻らなくていいのか」

 オイアヴァールは思いがけない何かに出会ったかような表情でルークを見た。そして、

「……後続が来るかもしれない。しばらく様子見だ」

 呑み込むようにそういって、雪から突き出している岩を背にして気だるげに座り込んだ。

「松明の火はそのままでもかまわないが、離して置いておけ」

 

 ルークは言われたとおりに少し離れたところ、ちょうどオイアヴァールの座っている岩が淡い光で照らし出されるくらいの距離に松明を置き、男の隣で岩にもたれかかった。

 

 雲のない空から舞い降りてくる小さな白い雪が、炎に照らされて内側からほのかな光を発しているように見える。ぽつぽつと灯る光の他はひたすらの闇。

 むかし一度だけ見たことのあるドーンスターの星祭りのようだ、とルークは思った。

 

 あの日もまったく雲のない晴天の空だった。

 ひたすら漆黒の空に星だけが輝いて、同じく漆黒の海の上の小船に小さな明かりがいくつも灯っていた。

 あのときはまだ大人の腰の高さもなかったルークも、街の人間と同じようにちいさなキャンドルを渡されて、隣にいた少女――ナダのキャンドルから火を分けてもらい、あれはたぶんアーケイの司祭だったろうと思う、その司祭の祝詞を不思議な気持ちでながめた。

 そして司祭の声が途絶えたとき、手元の火から不可思議な光が立ち上って空へと消えたのを見た。そしてキャンドルはふっと消えたのだ。

 

 炎は魂だった。

 だれかはわからない。

 でもきっとルークの親しい人だった。

 

 なぜ、あの遠くに広がる漆黒が氷ではなく海だと見分けられたのだったか。

 西の方から風が地面を吹き抜けていった。ざあっという音を立てて雪が風に舞い上がり、松明の明かりの元から飛び出ていく。

 

 ルークはその様子を目で追いかけて東を見た。

 だが、ただ闇と星空が広がっているだけだった。

 風花の舞う、静かな夜だった。

 

 

 夜が明けて、二人は来た道を慎重に戻った。

 そして、さほど時間もかからずに昨夜の野営場が見える場所までたどり着いた。雪が踏み荒らされているだけで、そこには人の気配も誰かの遺骸もない。

 

「グスルたちはウィンターホールド側の街道に出ているはずだ」

 オイアヴァールはそういっているが、本当にそうであったらいいとルークも思う。

 でも、もしかしたら、という言葉は心の中に留めておいた。

 

「なんでナダがさらわれたんだろう」

 何の意味もない一言だ。ならず者の求めるものといえば、酒と金と快楽と相場が決まっている。そうルークも納得していた。

 ところが、何気ない少年のつぶやきに、思いがけない返答があった。

 

「贄だ」

 少年は絶句した。そして振り返ってオイアヴァールのフードで隠れている顔を凝視した。

 ステンダールの番人は誤魔化しも躊躇いもしなかった。

「贄でデイドラの気を引いて、門を開こうとしている」

 少年はすぐさま反駁した。

「九の神、アカトシュ様が、ニルンとオブリビオンを分けてくださっているはずだ。デイドラがアカトシュ様に勝てるはずがない」

 

 帝国の大半の人間は九大神、いやスカイリムのノルド以外は、五の神タロスを除いた八大神を信仰している。エイドラと呼ばれる彼の神々は、聖堂で人々の病を癒し、ときには特別な加護を与え、そして九の神、竜神アカトシュ――彼の神はかつてニルンとオブリビオンを隔てて、人間をデイドラの支配から解き放った、と伝えられていた。

 ニルンの大地に生きるものはエセリウスの神々から加護を受けている。その生を通じて祝福されている。

 

 そのはずなのに、なぜわざわざオブリビオン、いわゆる地獄への扉を開こうとするのか。

 ルークは思わずこぼした。

「おかしいじゃないか」

「頭のおかしい魔術師はどこにでもいる」

 デイドラにかかわるような人間は、そうでない人間の理解できる理由で動いてはいない。オイアヴァールの魔術師評は事実の一端を示していた。

「……そんなこと、グスルは言っていなかった」

 少年は思わず大きくなりそうな声を押し殺した。

 二人の間に沈黙が落ちる。

 

 ステンダールの番人の彼らが魔術師を退治している間に、山賊からこっそりナダを取り返せばいい、とルークはいままで楽観していた。

 けれど、どうやらそれだけでは済まないらしい。

 きっと、もっと、何かをしなくてはならないという予感がした。

 

 そして、義務感や仲間意識からでもない。

 ルークの心から噴出してくるものがある。

 怒りだ。

 あのときと同じで何かに対する怒りが少年の胸に広がり。何も出来ないかもしれないという不安は、気がつけば少年の中から吹き飛んでいた。

 

「どうやったら、オブリビオンの門が開くのを止められる?」

 

 雪雲にさえぎられたかすかな陽光が、二人の上に降り注ぐ。

 

 オイアヴァールがルークの方を見たのを感じる。

 彼は端的に答えを与えた。

「方法は二つ。一方は儀式に必要な印石を壊すこと。もう一方は術者を殺してしまうことだ」

 

 方法は分かった。沸き立つ感情にまかせて少年は立ち上がった。

「教えてくれてありがとう、オイアヴァール。短い間だけど一緒に旅が出来てよかった。グスルとヒルドにも、そう伝えてほしい」

 

 




 「世界」について
地の文ではとくに注釈のない限り「世界」とは作品の舞台になっている場所――ニルンを指す。ニルンの大地に生きている登場人物たちの会話中では、「ニルン」「オブリビオン」というようにできるだけ発音に忠実に記述していく。

 4E196 暁星の月 ロレダスの16日(第4紀196年1月16日土曜日)
できる限り捕捉を入れていく。
ほとんどの方はご存知と思いますが、念のため。

 日付、曜日、月の満ち欠けなどについて
ゲーム作中(Vanilla)から計算する根気がないので地球の暦から流用。UESPのカレンダーを見る限り地球の太陽暦から流用が可能だと思われる。
 
 魔法
魔法には詠唱がつきもの。
タムリエルでは誰でも簡単に魔法を覚えられるにもかかわらず、各地に研究機関が存在し、一般人には魔法の呪文の改造(構呪)ができない。本作中ではこの理由の一つを、詠唱に使われる言語が一般の人間が話している言葉(シロディリック)とは異なるためということにする。
ドヴァキンさんはきっと丸暗記。

 星祭り
暁星の月16日にスカイリムの都市ドーンスター行われる収穫祭兼、鎮魂際のこと。UESPによるとFestival of Lights とのことなので、都市の名前に関連したものを勝手に命名。
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