帝国は衰退の一途をたどっている。
かつては大陸すべてを支配地としていたタムリエルの覇者は、エルフ純血主義過激派、すなわちサルモールによって刻々とその命脈を削られていた。
タムリエルの魔術師ギルドは解体され、スカイリムにおいてはウィンターホールド大学が細々と存続しているのみだ。
良心をもって帝国に仕える魔術師は確実に数を減らしていた。
隠れ潜んでいた恐るべき魔術師たちの春。
春が到来したのだ。
第4紀196年 暁星の月17日(1月17日) ウィンターホールド地方
「お頭! あの陰険な耳長、頼みますからさっさと追い出してくだせぇ。いくら金もらったからって言っても、なんで俺らがいいなりにならなきゃならねぇんです? いい思いできるって聞いてこんな何もねぇところまで来たのに、やってることといやぁ、あの耳長野郎の言うこと聞いてるだけじゃあないですか。人はいるんすから、もっと、こう、でっかい街を襲いに行ったりですねぇ、……」
革鎧姿、戦化粧をした、いかにも山賊という雰囲気を全身から発している男が、無言のまま椅子に座って大剣をいじっている男に詰め寄った。
男は手を止めてちらりと目線をやると、何も言わずに再び剣をながめ始めた。
「お頭! ちょっとは聞いてくれたって」
「黙れ」
「……」
先ほどからわめいていた男はその一言で静かになった。不満そうな顔のままそばに控える。
岩陰に隠すように焚かれた火があたりを照らし出していた。ほかの火の周りでは、めいめいに酒を飲んでは猥談で盛り上がっているにもかかわらず、この集団で中核となっている人物が集まる一角では、肌が切れてしまうのではないのかというほどの緊張に満ちている。
面子も多彩で、レッドガードの男もノルドの女も、オークの戦士もブレトンの魔法使いも、そこらの街で見かけるようなインペリアルもその場にいた。共通しているのは、みな戦装束に身を包み、武器を身につけているということと、右手の中指に黒い石の付いた指輪をしていることだけだった。
重い空気が落ちている場に踏み入れるものがあった。身長は高いが、肉が付いていない。細長い体を、暗い色のローブで包んでいるその人物は、いまにも夜に溶け込んでしまいそうな静謐を我が物としていた。
大剣を持つ――お頭と呼ばれているならず者たちを束ねる男が口を開いた。
「……首尾を聞こうか」
「お前たちの協力で、ことは計画通りに進んでいる。この調子ならば刻限に間にあうことだろう。」
黄金の髪と肌をもつ魔術師が、世界すべてを嘲笑うような歪な表情で告げた。
「お前たちの望みも叶う。この私が保証しよう。お前たちこそ、私の要求を満たせるのだろうな?」
その声はあまりに沈鬱で、何も知らないものだったのならば、とても豪奢な黄金のエルフの口から発せられたのだとは、いや、生きている人間の喉によって生み出される音だとは信じられなかっただろう。
ただし彼の目には、その声の印象とは不相応な業火が宿っていた。
頭はその目を正面から見据えた。
「女だろう? 用意したぞ。まったく、やっと当たりをひいた」
彼はそばに控えている男に指示を出した。
すぐさま男はその場から去り、戻ってきたときには後ろに三人を連れていた。
大きな2つの人影に小さな少女が引きずられている。これまでに散々抵抗したのだろう。めかしこむ筈の年頃の少女の髪は散々に乱れていた。
「傷などつけていないだろうな。あれは大事な……」
「そっちの要求どおりだ。傷物じゃない女」
倦怠を滲ませる動作で手をふる男に、そうか、と異種の魔術師が頷くと少女に顔を寄せて、細く筋張った手で少女のおとがいを掴み、上向かせた。
魔術師の炯炯と輝く緑色を帯びた金の瞳が、少女を捕らえた。
「なっにすんのよ! この長耳野郎!」
少女は唯一自由な足で魔術師の顔を蹴り飛ばした。エルフ種の男は勢いを殺して後頭部から倒れるのをなんとか阻止する。
突然の反抗に、両脇の男が少女を地面に押さえつけ、静かだった辺りが騒然とする。頭の男ですら面白そうに事態を観察していた。
そのときだ。不気味な笑い声が魔術師の唇からこぼれた。踏み荒らされた雪面に膝を突き、両腕をたらして、うつむいた顔からたれる髪の間から、痙攣するように、ふ、ふ、と息が漏れている。
たしかに笑っている。笑っていると分かるのだが、その声が先ほどまでと変わらない暗然さを宿しているのだ。
あまりの不気味さに、一同はふたたび沈黙した。
ひとしきり笑い声を漏らすと、魔術師はおもむろに少女に手を伸ばした。
「なにすんのよっ! はなして、はなせっ!」
傷つけられことはないとわかっているのか、いないのか。
少女は気丈にもふたたび声を上げて、腕を自由にしようともがく。だが努力はむなしく、実ることはなかった。
魔術師はいまだその顔に笑みを貼り付けている。
「ああ、その気高さよ。それでこそ我が主の娘にふさわしい」
気味が悪い。
声と表情と瞳と、そのふるまいすら。すべてが噛み合っていない。
魔術師の手のひらで両側から顔を抑えられて、少女は背筋を振るわせた。
魔術師の男の口から低い詠唱のささやきが零れ落ちた。
少女は自分が毛皮の上に横たわっていることに気づいた。
目尻が凍り付いている。私は泣いていたの? 自分の頬を手で撫でてみたが、その理由は思い出せない。
灰色の毛皮から体を起こして、パリパリと音のしそうな睫毛をほぐし、なんとか目を開ける。
長く閉ざされていた目はすぐに暗がりの中にもいろいろな物が置かれていることを捉えた。
さっと辺りを見回す。山賊たちはいない。
思わずほっとしてもう少し余裕を持って周囲を見渡した。
少女が横たわっていたのは天幕の中だった。
広さはヘンリクの酒場の広間と同じくらいある気がした。薄ら明かりが風ではためく幌の隙間から差し込んできて、はっきりと置かれている荷を見ることが出来た。
木箱は直に雪の上におかれている。しかし透明なビンや内側から光を発しているような不思議な器具の数々は、毛皮や絨毯の上に丁寧に安置されていた。高価なものなのだろう。
辺境の雪原にこんな高価な品物の持ち主がいるはずがない。天幕も裕福な旅人の所持品なのだ。
どこから盗んできたのか、少女は疑問に思って首をひねった。そして直前に会った不気味な魔術師を思い出した。
あいつのものに違いない。
村から連れ出され、屈強な男にまるで荷物のように扱われ、さらにそれがハイエルフの魔術師の要求だったと知ったのは、少女にとって不愉快な事実だった。
しかも顔を抑えられて金色の目をみた後の記憶がなかった。
明らかにおかしい。いったい自分が何をされたのかが分からない。胸の内にはそんな不安も確かにあった。
しかしそれよりももっと、腹の底から湧いてきた感情のほうが少女にとって重要だった。
この天幕の中のものはあいつの持ち物か、そう考えると途端周りのものが憎らしくなってきて、今すぐ幕に使われている布を切り裂いて、ガラスや繊細な魔術の器具を叩き壊して、何もかもめちゃくちゃにしてやりたかった。
少女は自分の気持ちに従って、すぐそばの木箱を蹴飛ばそうとした。
ところが少女の足は箱を蹴るために伸ばすことができなかった。
ギャリと金属がこすれる音が聞こえ、少女の足を後ろから押さえるものがあったのだ。少女の足首に見慣れぬ黒い固まりが付いていた。
枷だった。
天幕を支えている中央の柱から鉄の鎖が延びて右足の足首に繋がっている。周りに人がいなかったのはこれが理由だった。少女が逃げ出さないように見張る必要もなかったのだ。
鉄の枷を少女が引きちぎれるか。天幕の柱を倒せるか。
どちらも否である。
しばらくの間、少女は鎖を引っ張ったり、足を鉄の輪から引き抜こうとしてみたり、はたまた足輪についている小さな錠前に挑戦したりしたが、鉄の鎖はびくともしなかった。
「ねぇ、何をしてるの」
少女がそんなことをしているとき声をかけられた。天幕の入り口から小柄な影が入ってくる。ナダはそれを無視して鎖をひっぱった。
「そんなことしても、それを外すのは君には無理だと思うけど」
その小柄の影の言うとおりだった。
魔法が使えればもしかしたら可能性はあったのかもしれない。しかしなんの特別な力も持たない子供の力では、鉄のかせをはずすなどということは出来ないことは分かっていた。
それでも、諦めるというの少女の小さな矜持が許さなかったのだ。
「はい。食事を持ってきたよ」
少女がそんな思いを抱いているとも知らずに、フードをかぶった子供は少女のすぐそばにパンを添えたスープの皿を置いた。そして少女が木箱の上に登って少女が見下ろせる位置に陣取ると、彼は自分自身の食事を始めた。
ナダはその様子をじっと見つめていた。
こんなところでなかったら、この子供の持ってきたパンになにも思わずにかぶりついただろう。食事を持ってきたこの少年は、ここにナダを連れてきた連中とも、あのなんだかおかしな様子の魔術師とも違って、いたって普通の村にいる子供のように接してきた。けれど、こんなところで普通の子供のようにしていることが逆に警戒心を抱かせた。
暗がりでみる少年の体格はナダと同じくらいか、それより少し幼いかというほどの大きさで、すっぽりと頭を覆うフードのせいでどんな顔をしているか判別することは出来ない。
顔のみえない相手だということが、さらに少女の胸のいらだちをかき立てた。
ナダの頭の上から無遠慮な声が降ってきた。
「食べないの?」
少年にそう言われると、急におなかが空いてきたような気がしてきたが、ナダはそれでも手をつけなかった。
「あんたたちの食べ物なんか、食べれるもんか」
「君がそう言っても、僕は君の世話をしろってマスターに言われてるんだよ」
少年は困惑をにじませてため息をついた。
「それに、君って、昨日一日筋肉だるまに担がれてなあーんにも食べてないって聞いてるけど、ノルドはそれくらい食べなくても平気なの?」
「・・・・・・そんなわけないでしょ」
「だよね! 君らがそんな化け物だったら僕ら、困っちゃうよ」
少年は、あ、と思いついたように声を上げた。
「もしかして、パンとかスープは食べないのかな? ボズマーの彼らみたいに生肉がよかった?」
「バカ言わないで! それ、食べるわ」
啖呵を切った勢いに乗ってナダはパンを手に取って豪快に口に入れた。
パンはいままで想像したことがないほど柔らかかった。辺境の村人が常食するような硬い黒パンではない、白くふわふわとした幸せの味がした。
少女がおもわず口元をほころばせると少年は小躍りしそうな雰囲気を漂わせた。
馬鹿馬鹿しい質問を大真面目な表情で聞く。人質が食事を食べたことを自分のことのように喜ぶ。なぜ自分のことをこんなに心配するのだろう。少年に対してナダは困惑していた。
ナダの村は身代金が取れるほど裕福ではないし、そういう目的で連れ去られたわけではないということは嫌でも分かっていた。
「あんた、私を連れてきたあいつ等と感じが違うけど、やっぱり仲間なの?」
「仲間? 協力者だよ。もしくは利害が一致しているだけともいうね」
少年の様子は一変して、実に心外と言わんばかりに不機嫌になった。
「マスターがあいつらが必要だって、我慢しろって言うんだ。師匠に言われたら僕は従うことしか出来ないよ」
「仲間? 協力者? あいつらと手を結んで何か悪さをやってるっていうんでしょ。どう違うのよ」
「君の言うとおりだ。でも僕としては、違うんだよ。まぁ君にとっては一緒かもね」
少年が微笑したのが口調から分かった。水底から響いてくるような声の深さにナダはどきりとさせられた。
わけの分からない気持ちの揺れを振り払うように、少年の持ってきた食事を平らげて皿をつきだした。
「とりあえず、ご飯はおいしかったわ」
「口にあったみたいでよかったよ」
突き出された皿を前に、少年は本当に嬉しそうに笑った。外見相応の笑顔だったろうとわずかに見える口元から想像できた。こういう姿を見てしまうと、安心してしまいそうになる。
「マスターはあんな感じで、まともに話が通じてるのかよく分からないし、山賊みたいなあの連中も酒を飲んでは武器を振り回してるばかり。ここに来て僕の料理を誉めてくれたのは君が初めてだ」
自分を傷つけるものには容赦はするな。傭兵を生業とする村の老人は、将来の新兵にそう教えこんでいた。とはいえそれは腕っ節や剣の話で、朗らかに人質に話しかけ、身内のならず者の態度を避難し、ときには自身の師匠にまで舌鋒を向けるような敵にどうしたらいいかなんて教えてもらっていない。
やっかいな相手だ。少女のノルドの戦士としての心構えが告げていた。
少女は、とりあえず情報の収集に専念することにした。
「マスターって?」
「ほら、アルトマーの魔術師だよ。君も会ってるだろう? あのなんともいえない不気味な男さ。アリノールの方ではそこそこ有名な人なんだ。とはいえ僕は弟子になってからそう経ってなくてね。うまくやっていけるかはまだ分からないな。雑用ばっかりさ」
アルトマーとはハイエルフが自分たちを呼ぶのに使う言葉だ。
「あなた、ハイエルフなの?」
「あれ、気づいてなかった?」
少年はその場でフードをはずしてみせると、明かりの魔法を使った。
薄暗かった天幕が白い光体に照らし出される。
そうしてやっとはっきりノルドの少女に少年の姿が見えるようになる。
人間(men)と比べると長くとがった耳が顔の両脇でそりかえっている。髪も肌も金。それは彼がハイエルフであるれっきとした証だった。
ハイエルフは敵だ。帝国の。スカイリムの。そして遠い父祖の。
ナダはとっさにそう思った。
なんでこんなところで山賊の仲間になっているかはわからない。
しかし、ナダはノルドだった。もうおぼろげにしか覚えていない彼女の両親も、話にしか聞いたことのない祖父母もみなノルドだった。
祖先の誉れを汚すような態度をとることはできないと自分を叱咤する。
ナダはさらに慎重になって会話を続けた。できるだけ敵意を表に表さないように。
「ふーん。それであいつらとは感じが違ったのね」
「あれ、君は僕を罵ったりはしないのかな」
「なんでよ」
「普通のノルドは僕らの姿を見ると、耳長って言って避けていくんだ」
「仕方ないと思う。だってあなたたち、白銀協定で私たちに何をしたか忘れたの?」
白金協定で禁止されたタロスの崇拝。取締りに乗り込んできたサルモール。
ノルドのスカイリムにとって大打撃だと大人の誰もが話していた。
「ま、そうだけど。君は?」
「ハイエルフなんて、見るのも初めてだもの」
そう言うと少年は何がおもしろかったのか、声を立てて笑った。
「僕らは数が少ないからね。大戦でもっと少なくなっちゃったし」
ナダはぎょっとした。ノルドの少女に対してハイエルフの内情を話してしまうなんて、敵にしていいことじゃない。
少女はハイエルフを敵と考えることに何の疑問も感じていなかった。
「そんなこと、ノルドのわたしに言ってもいいの?」
少女は朝焼けの海に臨む挑発的な表情をしていた。それを横目で見て、たいして気にもせず少年は言ってのける。
「知ってる人は知ってると思うよ」
そして、君、その顔の方が魅力的だね、と少女に親しげに手を振ると、軽い足取りで天幕を去っていった。
軽くあしらわれたのだ。そうと分かると少女の胸にはひどい敗北感が生まれた。
次の日の朝も少年が食事を持ってきた。昼も、そして夜も。
少年と少女は顔を合わせるたびに他愛のない言葉のやり取りで互いをつつきあった。
どんなにナダが揶揄しても、いったいこの天幕がどこにあるのか、彼らが何をたくらんでいるのか、少年は一向に口を滑らせなかった。むしろナダの方がやり返され、少年の一言に顔を赤くしたり青くしたりと散々な目に会う羽目になった。
夕餉を終えて少年がいつものように天幕を去っていってからしばらくした頃だ。
外がにわかにうるさくなり、大人数の足音と怒声が近づいてきた。
いったい何の用事でやってくるのか知らないが、どうやら今度の客は先ほどの少年とは違ってならず者連中の一員らしい。
ナダは毛皮の上に身を横たえて寝ているふりをした。
遠慮もためらいもない足音がして、天幕に何人かの人が入ってくるのを全身で感じる。声のする高さから大人だろうと分かった。
獣くさい。毛皮の鎧か。
それとは別に金属の擦れる音と錆びた匂い。剣と血。
「おい、こいつは縛っとくか」
「放っといても逃げらんねぇよ。その辺に転がしておけばいいだろう」
どさりと何かが落とされる音がした。
「ほんと、手ぇだしちゃならねぇってのがたまらねぇなぁ」
「町に降りて花でも買ってこい。それか内輪で相手を探せ。なに、それともこっちか? 俺の槍でも磨いてみるか?」
勘弁してくれ、窯がいいに決まってんだろ、という男の声。女の、お前なんかこっちからお断りよ、という笑い声。他にも様々な不愉快な音が頭上を通りすぎていく。
彼らが天幕から去ると、少女は起きあがって運ばれてきた荷物の正体を見た。
黒髪の女だ。ほとんど何も身につけていない肢体が雪の上にぐったり横たわり、おざなりに手当された傷口から雪面に血が滴り落ちている。血潮が雪を溶かしていくさまが、その体がいまだ熱あるものだと示している。
ナダはそっと近づいた。女に手が届く前に右足に付けられている鎖が延びきってしまい、傍から様子を確認することはできなかった。
天幕のまわりからあの下衆な連中がいなくなっていることを願って、ナダはそっと小さな声を投げかける。
「ねぇ、ねぇったら」
わずかに呻き声が少女の耳に届いた。
「うぁ・・・・・・あ」
「お姉さん! 起きて、お願い」
村から連れ出された夜からずっと忘れていた。ぎゅっと胸がつまり目頭が熱くなる感覚。ナダの瞳から涙がこぼれそうになったそのとき、女は少女の方へとなんとか身返りをうった。血の気を失いすぎて女の顔は真っ青だった。
「ああ、ルークの、そんな、こんなこと」
唇を震わせてやっとそれだけを口にすると、そのまま気を失った。
いくら天幕があるとしても、このまま放って置いては体の芯から凍りついて死んでしまう。
ナダはこの場で味方になってくれるかもしれない唯一の存在を、どうにかして助ける方法を考えなければならなかった。
第4紀196年 暁星の月19日(1月19日) ウィンターホールド地方
アンソール山、ウィンターホールド側の登山道入り口に人が立っている。
白い大地に吹き付ける風があたりに散らばる赤い氷を巻き上げて遠くへとさらっていく。
遠く遠く太陽の燃える青い天上まで。
顔を打つ氷のかけらが暖かな色に輝いていることでグスルは夜がすでに明けていることに気づいた。武器を握っていた手は固まってかじかみ、身形はひどい有様だろうと言うことが想像しなくても分かる。
長い夜だった。
二人で敵を引きつけアンソール山の麓方向へと撤退した。相手の隊列が長く延びたところで先頭の人間を手に持ったメイスで潰す。グスルはひたすらそれだけを繰り返しながら山を下った。そうしてなんとか生き残った。
いまやグスルは一人だった。気がついたときすでに援護の矢はなく、それが指し示す事柄は明白だ。
若鹿のようなあの女にはもう今世でまみえることはあるまい。せめて彼女がショールの目にかなう恐れなど欠片もない勇敢な死に様を遂げられたならばよいと、彼は両腕を掲げて瞑目した。
ルークとオイアヴァールはどうなっただろうか。
槍使いは長い動乱の時代をも生き抜いた知恵者だ。勝ち目なしと見ればすぐに引く度量を持ち合わせている。
だが、たとえ彼らが無事であったとしても、戦場ともいえるこのアンソールの山中で再びあいまみえることが難しいことは、多くの戦いを知っている男にはよく分かっていた。
敵は多い。
儀式を行うはずの魔術師の姿さえ確認できていない。
もはや使命を果たすことは困難極めるだろう。薄氷の上を目隠しをして無事に渡りきるよりも難しい。
己の命をどう扱うことが最善となるのか。
グスルは心を決めかねていた。
そのとき、遠くに人が見えた。
朝焼けが雪で煙る中、そのまぶしいほどのきらめきの向こうから人が歩いてくる。
ステンダールの番人である男はただ立って、だんだんと影が大きくなっていく様子を見ていた。
なぜだか、北の大地に吹く風が、寒さに耐性のあるノルドである男の身にしみた。
背筋がぞっと粟立つ。
賭けるのは男の命ひとつ。
あれがただの旅人ならば番人としての義務を果たし、盗賊ならば戦うのみだ。
だが、ウィンターホールドの衛兵であればまだ目はある。
はたして、カイネはグスルに微笑んだ。
アリノール
ハイエルフの母国。タムリエル大陸の西南に位置するサマーセット島を主な領土としている。アルドメリ自治領と言う場合は、大陸の南のヴァレンウッド、エルスウェーアを含めた地域を指す。
ショール
ショールの髭にかけて!でみなさまご存知の神。ロルカーンの別名としても知られる。この神については諸説あり、エイドラであったりデイドラであったりと種族によって扱いは様々である。長くなるので興味のある方は(ry。ノルドの神話においては主神の立場にあり、ゲーム中ではソブンガルデに迎えられた戦士達を取りまとめている様子がうかがえる。
ゲーム本編ではご尊顔を拝することはできない。なんでも定命のものには姿が見えないのだとか。
カイネ
ノルドの嵐の女神。ショールの伴侶。ただし未亡人。人間には手の及ばない自然の理不尽さの側面を司っているのではないかとの推測が有志によってなされている。エイドラの一柱、九大神にも数えられるキナレスと同一視され、帝国の国教のキナレスとしては天候や自然、動物の守護を司るお方。狩人や農民が主に信仰している。
Uwe > スカイリム半分くらい滅ぼすまでガンバルヨ