旧都陥落の日・Another   作:IamQRcode

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旧都陥落編
成長した二人


 

 儀玄と儀降、二人が雲嶽山の門下生となって数年の時が経った。幼子であった二人は、成長して十代後半となり、今では、どちらも雲嶽山の次期宗主の候補であると言われている。

 

 そんな、二人は黄嶺と何人かの同期の門下生と共にホロウに来ていた。

 

黄嶽山の門下生としての修行は、剣術や術法、座学だけに留まらない。

 

 今まさに、門下生たちは《実地演習》——ホロウの中での実戦訓練に臨もうとしていた。

 

「さて⋯⋯恐らく、初めてホロウに入り、不安を感じる者も多いだろう」

 

 黄嶺は、門下生たちを見渡しながら静かに言った。背筋を正し、足元の岩に手を置いてゆっくりと立ち上がる。

 

 ここは、都市外縁に存在するホロウの浅い層だ。比較的安定した領域だが、エーテリアスの発生が確認されている危険地帯でもある。

 

「だが、忘れるな。我らが目指すのは、知恵と技を併せ持つ者。脅威に対して、ただ恐れを抱くのではなく、観察し、判断し、必要な一撃を放てる者だ」

 

 門下生たちは真剣な表情で頷く。

 

 その中でも、儀玄と儀降の存在感は際立っていた。

 

 儀玄は、かつての幼さを感じさせない、鋭い目と落ち着いた所作を備えていた。白の髪は長く伸び、格闘と墨を使った術法に非常に長けている。

 

 儀降も姉としての威厳を保ちつつも、優しい表情は変わらない。儀玄と同じく、格闘と術法の成績は優秀で門下生の中でも一番の実力を持つ。

 

 ——この日、彼女たちは門下生の代表として他の者たちの指揮をとる立場にあった。

 

「儀玄、儀降。まずは班を率い、南から探索を開始せよ。過度な戦闘は避けろ。目標は“エーテリアスの観察と報告”だ」

 

「「はい、師匠」」

 

 二人は頷き、門下生を振り返る。

 

「皆、ついてきて。エーテリアスの気配を感じたら教えて」

 

「一人で判断しないこと。必ず、周囲に確認を」

 

 そう言って門下生たちはホロウの奥へと向かって行った。

 

 

 

 その頃——

 

 黄嶺は少し離れた地点で、別の人影に声をかけていた。

 

「どうやら、あの子たちの導き手には、やはりお主が必要なようだ」

 

 廃墟の影から姿を現したのは、ホロウレイダー——ナハト。

 

 二十代前半となった彼は、背丈も伸び、かつての少年然とした雰囲気は消えていた。鋭く研ぎ澄まされた視線と、機能性重視の黒いテックウェア。手には炸裂トンファー、腰には炸裂剣と蛇尾、視線は光学スコープの右目で冷静に周囲を測っていた。

 

「まあ、念のためってやつだな。あいつらに、無茶させる気はないが」

 

 傍らにはラプターがぴたりと寄り添い、頭部のリボルバーキャノンを静かに駆動させていた。さらに、少し遅れてゼーレとアテネの姿も現れる。

 

「いやー、ホロウで子守なんて初めてだな兄貴」

 

「今日の⋯⋯金」

 

「ゼーレ、たまにはこういう日もいいだろ? それに、修行見学ついでに、なんか拾えりゃラッキーってやつよ」

 

 ゼーレはライフルをいじり、アテネは斧を振り回しながら、今か今かと待っている。

 

「すぐには出るな。門下生たちが危険にさらされない限り、俺たちは手を出さない。それが、今回のルールだ」

 

「「了解」」

 

 四人は廃墟の高所に身を潜めながら、訓練の様子を見守っていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ホロウの浅層地帯における実地訓練は、順調に進んでいた。

 

 儀玄は術法による感知を駆使してエーテルの濃度を把握し、儀降は門下生たちの陣形を維持しながら、突然現れる裂目に入り込まぬよう慎重に進ませる。

 

 最初に遭遇したエーテリアスは小型で、門下生たちの術と連携で難なく撃破された。まさに教科書通りの展開だ。

 

「これなら、今日は穏やかに終わりそう」 

 

「そうね」

 

 儀玄と儀降がそう呟いた直後——

 

 空気が、変わった。

 

「なにか来る」

 

 儀降が目を細め、風の流れを読むようにして言う。その直後、地響きにも似た重い足音が、空間を圧して迫ってきた。

 

 

 ——ゴォン⋯⋯ゴォン⋯⋯

 

 

 濃い瘴気を割って現れたのは、二体の異形。

 

 漆黒の甲冑のようなエーテルに身を包み、頭部の部分にコアがあり、剣と盾を持った「騎士」のようなエーテリアス——デュラハン型エーテリアス。

 

「デュラハン!」

 

 門下生たちに一気に緊張が走る。

 

 相手は軍の小隊が相手するようなエーテリアスである。

 

「後退しなさい! これは、私たちの手に余る!」

 

 儀玄の声が響くと同時に——

 

 

 

「——撃て」

 

 

 

 その冷ややかな一声とともに、廃墟の高所からリボルバー音が響いた。

 

 ラプターのキャノンが、盾を構えたデュラハンの側面を撃ち抜く。弾丸は鋼の盾を歪ませ、衝撃でよろけた瞬間に、ナハトが蛇尾を振るいながら斜めから突っ込んだ。

 

「兄様!」

 

「こっちは任せろ。儀玄、儀降、お前たちは門下生の安全を確保しろ」

 

「はい!」

 

 ナハトは炸裂トンファーに握り、エーテリアスの継ぎ目に狙いを定める。叩きつけた爆発の一撃が、肉のようなエーテルでできた体を引き裂き、瘴気の噴き上がりとともにデュラハンの体勢を崩させた。

 

 反対側では、ゼーレとアテネがもう一体を受け止めていた。

 

「盾持ちだろうが、ぶち破るだけだ!」

 

 アテネが爆発反応装甲を纏わせた盾でデュラハンを殴り、ゼーレが鉄柱を盾に叩きつける。激しい火花と振動音がホロウに響く。

 

「潰す——右側、空いた」

 

 ゼーレが敵の動きの隙を見極め、ライフルを放つ。続けてアテネが回転しながら電熱斧を勢いよく叩き込むと、盾ごとデュラハンの腕が吹き飛んだ。

 

 ナハトの方も、ラプターのサポートを受けながら相手の武器を刈り取り、義尾を突き刺して内部構造を粉砕していた。

 

 

 ——わずか数分。騎士たちは、跡形もなく崩れ落ちた。

 

 

 

 ◇ 

 

 

 

「やっぱり、兄様はすごい」

 

 戦闘を終えた直後、儀降が感嘆のように呟いた。

 

「一瞬の判断で⋯⋯あそこまでの連携を。しかも、ホロウの中で」

 

 儀玄もまた、戦いを見届けた瞳に畏敬の色を浮かべていた。

 

「こっちは大丈夫か」

 

 ナハトが戻ってきて、門下生たちの無事を確認する。

 

「うん。全員無傷。ありがとう、兄様」

 

「礼は後にしろ。とっととこの場から離れるぞ」

 

 ナハトがそう言い、ラプターが周囲の瘴気濃度をスキャンしていると——

 

 ラプターが「ンナ⋯⋯!(何か来る!)」と警告を発した。

 

「接近反応、複数⋯⋯これは——」

 

 瓦礫の影から、フードを被った何人かの人影が現れる。ガスマスクやバラクラバで顔を隠し、防弾ベストに身を包み、背中にはミリタリーリュック、各々の手には改造された拳銃やアサルトライフル、鉈などの近接武器が握られている。

 

 空気が凍りついた。

 

 廃墟の瓦礫越しに現れた十数名の武装集団は、いずれも服に返り血やエーテル結晶が生え、歴戦のホロウレイダーであることを全身で物語っていた。

 

「⋯⋯めんどくさい連中が来やがったな」

 

 アテネが静かに、しかし確実に手にした斧を微かに傾け呟く。ゼーレも重十字ライフルを、いつでも撃てるよう態勢を取った。

 

「門下生たちを後ろに下げろ」

 

 ナハトが儀降に低く指示を出す。彼の視線は、相手の一人——スコープ付きのSMGを携えたリーダー格らしき男に注がれていた。

 

 互いに、何も言わない。

 

 しかし、ホロウレイダー同士で顔を合わせたときの常識は、既に共有されていた。

 

 ——ここはホロウ。

 

 ——殺しても、誰も咎めない。

 

 ——武器を下ろさなければ、即戦闘に移行してもおかしくはない。

 

 一瞬の静寂。

 

 ラプターが低く唸りながら、キャノンの砲身を動かす。ナハトは一歩も動かず、炸裂トンファーと義尾でいつでも相手を殺せるようにする。

 

 互いに、睨み返していた。

 

 すると——

 

「⋯⋯チッ、雲嶽山のガキが混ざってるのかよ」

 

 相手のリーダーが舌打ちし、銃を下ろした。

 

「変な誤解で撃ち合いになるのは、ゴメンだ。お互い、今日は厄日じゃなかったってことでいいか?」

 

 ナハトは無言で頷く。その意思を確認したように、相手のレイダーたちもそれぞれ銃を収めた。ゼーレとアテネも武器を下ろし、警戒を解く。

 

「よし、なら取引しようぜ。こっちは軍規格の工作キットとエーテル掘削装置がある。そっちは?」

 

「⋯⋯深層部で拾った旧時代のスコープだ。高倍率で、スキャン時の誤差も低い」

 

 ナハトがラプターの背から取り出したパックを、相手に放り投げる。相手も小さな金属ケースを転がすように投げ返してきた。

 

 二人がそれを受け取って中を確かめる。

 

 中身に偽りはなく、微かな満足の息が漏れる。

 

「今日は互いに幸運だったな」

 

 ナハトが言うと、相手の男は鼻で笑う。

 

「なあに、運は使うためにある。⋯⋯それじゃあな、“黒蛇のナハト”。ガキの目の前で血飛沫を撒き散らすのは趣味じゃねぇ」

 

 ナハトは眉一つ動かさず、それを黙って見送る。

 

 ほどなくして、武装集団は姿を消した。

 

「ここでは、会話が通じることの方が少ない。基本的には、出会えば殺し合うことになる。だが⋯⋯今日はたまたま、それが通じただけだ」

 

「運が良かっただけ?」

 

「そうだ⋯⋯明日は、どうなるか分からない」

 

 ナハトのその言葉に、儀玄も儀降も、そして門下生たちも黙ったまま頷いた。

 

 これが、ホロウの現実。

 

 そこには希望も正義もない。ただ、力と判断だけが生き残る鍵なのだ——

 

「世の中は善人だけではないということだ」

 

 そう言いながら、背後から黄嶺がやってくる。

 

「さて、そろそろ戻るか。確か⋯⋯⋯⋯」

 

「こっちだ。案内する」

 

 こうして門下生たちは全員無事に訓練を終え、雲嶽山へと帰還することになる。

 

 

 

 

「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?

  • シルバー小隊を率いる若き指揮官の話
  • アストラの幼馴染でイヴと共に彼女を守る話
  • 時間をかけてもいい。どっちも書け
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