旧都陥落の日・Another   作:IamQRcode

23 / 48
接敵

 

 表街に足を踏み入れたナハトたちの目に飛び込んできたのは、すでにホロウに呑まれ始めた都市の風景だった。

 

 舗装された道路は歪み、アスファルトの隙間から黒い瘴気が立ち上っている。ビルの壁面は腐蝕したように崩れ、まるで生物のような脈動を見せる。それは現実の都市の残骸と、ホロウの異界が混ざり合ってできた、不気味な死の境界線だった。

 

 空にはいくつもの黒い渦が浮かび、次々と、エーテリアスが出現していた。

 

 その姿はまるで、異形の兵士。鎧のようなエーテル結晶を身にまとい、手には槍や剣のような武器を持ち、地面を滑るように高速で移動しては、手当たり次第に人を襲っていた。

 

「民間人は逃げるんだァッ!!」

 

 銃声。怒号。悲鳴。

 

 それらが入り混じる修羅場の中、治安官たちが応戦していた。小火器を構え、防弾ベストに身を包んだ数人のパトロール部隊。だが、どれだけ撃っても、敵は減らなかった。逆に、数を増やしながら、前線をじわじわと押し上げてきていた。

 

「だめだ! もう十体は抜けた! 背後のバスまで下がれ! 民間人がまだ残ってる!」

 

「弾がねぇ、リロード急げ!」

 

そのときだった。

 

「ああっ!」

 

 逃げている親子、子どもがつまずき地面に倒れる。

 

「お、お母さ――!」

 

 尖った槍を振りかざしたエーテリアス、トラキアンが、倒れた親子に襲いかかろうとしていた。その直前――

 

「させんっ!」

 

「ギャバァ!」

 

 ナハトは自身の身長程はある炸裂トンファーでトラキアンのコアを殴り、爆発を起こして吹き飛ばす。

 

「ンナナ!(くらえー!)」

 

 ラプターは頭部のリボルバーキャノンで、近づいてくる小型エーテリアスを掃討する。

 

「人助けは柄じゃないっての!」

 

 アテネは俊敏な動きでエーテリアスを翻弄し、電熱斧で一撃で仕留め、テルミット投斧で浮遊型を燃やし、叩き落とす。

 

「⋯⋯吹っ飛べ」

 

 ゼーレはライフルで中型エーテリアスを倒しつつ、近づいてくる小型のエーテリアスを電気を帯びた鉄柱やガントレットで叩き潰す。

 

「走れるか!」

 

 ナハトは二人を立ち上がらせる。母親が震える手でうなずき、子を抱きかかえながら走り去った。

 

 アテネはエーテリアスを蹴り倒すと、勢いそのままにナハトの背中へ声を投げた。

 

「兄貴、早く行こうぜ! 儀玄と儀降のとこ、時間ねぇって!」

 

 ナハトはトンファーの先にこびりついた黒い液を振り払うと、前方に蠢くエーテリアスの群れに目を向けた。

 

「この数を放置して行けるかよ。後ろにまだ民間人がいる。それに、こいつらを処理しておかないと、儀玄たちに辿り着く前に囲まれて終わりだ」

 

 ナハトの言葉に、アテネは舌打ちをしながらも構え直す。

 

「チッ、分かったよ。でも早く片付けよう。いつまでも持つ気しねえ」

 

 そのやり取りを聞いていた治安官の一人が、ナハトたちを目に留めた。彼の額には汗が滲み、ショットガンの残弾数を確認しながら叫ぶ。

 

「そこの連中、手を貸せるか!? あと数十体近く残ってる!」

 

 ナハトは頷き、応じる。

 

「こっちも同じだ。あんたら、誘導と支援を頼む。俺たちは前に出る」

 

「了解した。後方のバスの影に民間人が固まってる。絶対に近づけさせるな!」

 

 ナハトたちは前線に出て、治安官たちと連携して戦い始めた。

 

「こちとら、何度もエーテリアスと戦ってんだ!」

 

 アテネが先陣を切る。電熱斧の軌道が赤熱を描き、エーテリアスの硬質な鎧を切り裂く。その背後を、ラプターがサポートするように走り、射撃支援と物陰に隠れた個体の奇襲を封じる。

 

「ゼーレ、右から二体、来るぞ!」

 

「処理する」

 

 ゼーレが冷静に反応し、重十字ライフルを構えながら移動。電磁加速された弾丸が空気を裂き、正確にエーテリアスのコアを撃ち抜いた。続けて、接近してきた個体には膝蹴りを叩き込み、片腕で引き裂く。

 

 ナハトは群れの中心に飛び込み、炸裂トンファーを連打する。振るうたびに爆裂音が響き、衝撃波が空気を裂く。中型のエーテリアスには、炸裂刺突剣で突き刺し、内部から破壊する。エーテリアスの砕片が四方に飛び散る。

 

 さらに、細かなエーテリアスたちは義尾で対応する。鞭のように動く義尾は、まるで一つの生命体のようで、近づくエーテリアスを突き刺し、切り、吹き飛ばす。

 

「この程度か!」

 

 怒号とともに、一体、また一体とエーテリアスが地に崩れ落ちていく。その隙に、治安官たちが後方の民間人を次々と誘導していく。

 

「バスまで急げ!」

 

「右、まだ来るぞ!」

 

 銃声と爆裂音が交差する死地の中、ナハトたちは着実に前線を押し返していた。

 

「来いよ、化け物共!」

 

 アテネの怒号と共に、エーテリアスの一体が叩き斬られる。その切断面から、黒いエーテルが霧のように噴き出し、地面を溶かしていく。ラプターはその隙を逃さず、キャノンで後続を削りながら、治安官の側面を援護した。

 

「くそっ、足が⋯⋯!」

 

 銃撃の中、治安官の一人が膝と腹を撃ち抜かれ、うめき声を上げて地に崩れ落ちた。その瞬間、黒い剣を構えたエーテリアス、デュラハンが彼に向かって跳躍する。

 

 ――しかし、その剣が振り下ろされる直前に、ナハトが飛び込んだ。

 

「させるかッ!!」

 

 トンファーの一撃がエーテリアスの腕を叩き砕き、続けざまに炸裂刺突剣が胸部のコアを貫く。爆発と共に、化け物の骸が粉砕され、エーテル粒子と化して消えた。

 

 ナハトはすぐにしゃがみ込み、倒れた治安官の足元に手を伸ばす。

 

「アテネ、止血帯!」

 

「あいよ!」

 

 アテネが即座に戦術パックから応急キットを取り出して投げ渡す。ナハトは破れた服の下から、撃ち抜かれた足の傷口を確認し、躊躇なく止血帯を巻きつけた。傷口からは血が溢れていたが、圧迫止血で何とか流出を抑える。

 

「落ち着け、まだ助かる」

 

 震える治安官は、ナハトの動きを見て驚いたように目を見開いていた。

 

「お、お前⋯⋯あんたら、ホロウレイダーじゃ⋯⋯」

 

「今は関係ねぇだろ。ここで死にたくなきゃ、黙ってろ」

 

 冷たく言い放ちながらも、ナハトは丁寧に止血処置を終え、包帯を巻く。その視線はひとときも周囲から外れていなかった。仲間がまだ戦っている。時間はない。

 

「ここで何が起きてる?」

 

 ナハトの問いに、治安官は息を整えながら答える。

 

「⋯⋯ゼロ号ホロウが急激に異常拡張を始めた。エーテリアスも⋯⋯制御できないレベルで現れてる」

 

「ゼロ号か⋯⋯また何で急に」

 

「ダーラン長官が全治安局に命令を出した。都市全域に出現するエーテリアスの掃討と、避難の誘導。けど、ホロウの影響で無線は機能不全に陥っている所もある⋯⋯今じゃ、現場指揮官がバラバラに動いてる状態だ」

 

 ナハトは苦々しい表情で息を吐いた。

 

「儀降と儀玄は? 雲嶽山の二人、あいつらはどこにいる?」

 

 治安官は少し考えてからうなずく。

 

「中央区方面中枢に展開してるはずだ。あの辺りは戦況が一番厳しい」

 

「⋯⋯そうか」

 

 ナハトは静かに立ち上がり、視線を空の渦へと向けた。そこには、次のエーテリアスが姿を見せ始めていた。

 

 そのとき、治安官がふとナハトの背中に声をかけた。

 

「お前、本当にホロウレイダーなのか?」

 

 ナハトは振り返らない。

 

「そうさ。俺たちは罪人だ。だからこうして、報いの一つでも返してるつもりだ」

 

「⋯⋯生き延びろよ。俺は見なかったことにする」

 

 ナハトも、それに応えるように短く頷くと、仲間たちのもとへと走った。空ではまた新たな黒い渦が生まれ、次の波が都市を侵そうとしていた。

 

「中央部を目指す。儀降と儀玄を見つけて、状況をひっくり返すぞ」

 

「へいへい、俺ら無法者には似合わねぇ正義の戦だな」

 

「だが⋯⋯悪くない」

 

「ンナナ!(燃えてきた!)」

 

 ナハトは一歩、また一歩と戦火の中を踏み出す。瓦礫の影に潜む化け物たちへと、臆することなく。

 

 黒煙と叫びが混じる戦場で、影のように駆けるホロウレイダーたちの姿は、まるで都市を蝕む悪夢への、逆襲の狼煙だった。

 

 

 

 

「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?

  • シルバー小隊を率いる若き指揮官の話
  • アストラの幼馴染でイヴと共に彼女を守る話
  • 時間をかけてもいい。どっちも書け
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。