旧都陥落の日・Another   作:IamQRcode

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善行

 

 ナハトたちは中央部を目指し、地獄とかしたエリー都を進んでいた。災害初期であるため非常に混乱しており、多くの市民たちがエーテリアスから逃げようと、必死に走っている。

 

 中央部へと向かう道は、すでに“都市”と呼べるものではなかった。

 

 かつて整然と並んでいた高層ビル群は、半数以上が倒壊、もしくは異形化していた。コンクリートの外壁はねじれ、建材の間からは禍々しいエーテル結晶が突き出ている。道路は波打ち、地面からは黒煙とともにエーテリアスの影が湧き出していた。

 

 それでも――ナハトたちは進んだ。

 

「左から三体、ホプリタイとタナトスだ!」

 

「任せろ!」

 

 アテネが電熱斧を両手に構え、駆け出す。斧の刃が赤熱し、振り抜かれた一閃がホプリタイの胴を断ち割った。その爆発に紛れて、ナハトが前へ躍り出る。

 

「ラプター、囲まれる前に後方処理!」

 

「ンナナァ!」

 

 ラプターのリボルバーキャノンが火を噴き、小型のエーテリアスが次々と爆ぜていく。ゼーレは静かに移動しながら、コアを正確に撃ち抜き、接近してくる個体は鉄拳で粉砕していった。

 

 異形の波を抜け、ようやく一息つける廃ビルの裏路地へ踏み込む。そして、呼吸を整えて休憩する。

 

 急いで中央部に行きたいが、疲労困憊で行っても途中で殺されるか、着いたとしても激戦に巻き込まれて死ぬ。体力を温存しつつ、中央部に向かわないとな。

 

「ちっ⋯⋯こんな所にまでエーテリアスが来てるのかよ」

 

 アテネは爆発反応装甲盾の装甲をリロードしながら、悪態をつく。

 

「兄者⋯⋯このままじゃ⋯⋯エリー都は⋯⋯陥落する」

 

「恐らく、今回のゼロ号ホロウ災害は軍の全戦力を出しても抑えられるかどうかだ⋯⋯治安局は全戦力を投入しているらしいが、もってどれくらいだろうな」

 

 ナハトたちは今回の災害を予想しながら裏路地を進む。だが、ナハトは一瞬、空気の“違和感”を感じて足を止める。

 

「待て。前方に誰かいる」

 

 建材の陰から、ゆらりと立ち上がる影。

 

 ナハトの目が鋭く細まる。

 

 その人間の手には旧時代のセミオートマチックのスナイパーライフルと腰には、鉈を装備している。背中にはミリタリーリュックを背負い、腰には予備武器であろう拳銃がある。

 

 統一性のないバラバラな戦闘服に古い銃器だ。

 

「⋯⋯その武装⋯⋯ホロウレイダーか」

 

「あー⋯⋯同業者か」

 

 ナハトは警戒を解かず、一歩前に出た。

 

 その人影――ボロボロのフード付きのマントを羽織った若い男が、持っていたライフルの銃口をわずかに下ろす。表情は疲れ切っていたが、目にはまだ火が宿っている。

 

「どこから来た?」

 

 ナハトの問いに、男はわずかに苦笑を浮かべた。

 

「どこから来たって言ってもね⋯⋯朝からゼロ号ホロウに潜ってたんだよ。んで、出ようとした瞬間に災害に巻き込まれた」

 

 ということは、恐らくではあるがこのホロウレイダーは今回の災害の波を最初に受けた人間だ。

 

「よく生きていたな」

 

 男は背中のリュックを一度地面に下ろし、壁にもたれかかる。

 

「最初は、ただの振動だった。空間が不安定になって、気温が急激に下がり始めた。それが、いきなり滲み出してきたんだ。――まるで、ホロウそのものが世界を飲み込もうとしてるように」

 

「仲間は?」

 

 男の表情が沈む。

 

「十人で潜った。今、生きてるのは⋯⋯俺を含めて、四人だけだ⋯⋯まあ、ばらばらだから、もう俺だけかもしんねえがな」

 

 言葉の端に、抑えきれない怒りと悔しさが滲んでいた。だが、声は静かだった。

 

「俺は、“運が良かった”だけだよ。ホロウの出入り口のすぐ近くにいた⋯⋯運が悪かったら、今ごろあの瘴気の中で灰になってた」

 

 ナハトは深く息をついた。

 

「どうだった? 今回のゼロ号災害は」

 

 レイダーはわずかに首を横に振る。

 

「今までとは“まるで違う”。比較にならない。あのホロウは⋯⋯もう“静かな異常”なんかじゃない。今のゼロ号は、“生きてる”ようにすら感じたよ。怒り、恐怖、拒絶、そういう“感情”の塊みたいだった」

 

 レイダーは煙草に火を付ける。副流煙がナハトたちの方に流れるが、誰も気にしない。もしかしたら、最後の一服になる可能性があるからだ。

 

「これは感だがな⋯⋯この災害は自然じゃねえぞ」

 

「⋯⋯人災か?」

 

「おそらくな。自然災害にしては、兆候が無さすぎる」

 

 だが、人災だとして一体どこのどいつが⋯⋯この街は人類最後の希望なんだぞ。それを、消してまで達成したい何かがあるのか?

 

 会話の隙間に、ビルの崩落音が遠くから響いてくる。誰かの悲鳴が風に乗って流れてきた。

 

 ナハトは一拍置いて、静かに尋ねる。

 

「――お前は、これからどうする?」

 

 しばしの沈黙があった。

 

 そのあとで、男は笑った。自嘲気味に、だが少しだけ穏やかな声で。

 

「もう帰る家なんてねぇんだ。スラムの屋根は潰れちまったし、仲間も⋯⋯仲間の居場所も無くなった。生き延びたとしても、新エリー都に行けば“過去”を暴かれて干されるだけだ」

 

 男は懐から、写真を取り出す。

 

 父親と母親らしき人物との家族写真である。

 

「俺には、何もない。名も、未来も、明日もない。あるのは、今この瞬間だけだ。⋯⋯だから、せめて最後は、少しでもマシな地獄に行けるようにしたい」

 

 写真をしまい。煙草を地面に擦り付け、火を消す。

 

「誰か一人でも助けて、あの世で笑って死ねるなら、この腐った命には充分さ。さっき、治安官の無線を傍受したら、東通りに流れた避難民がいるらしい。避難経路を確保する。少しでも多く逃がしてから⋯⋯それで終わりだ」

 

 その言葉に、ナハトは目を細めた。

 

 ほんの僅か――かつての自分を見ているようだった。

 

「⋯⋯わかった。だが無理はするな。せっかく生き延びた命だ。使い方は、お前が決めろ」

 

「おう。お前もな」

 

 男はライフルを肩にかけ、ゆっくりとその場を去っていった。背中には疲れが、しかし足取りには迷いがなかった。

 

「そうだ。あんたの名前は?」

 

「俺はナハトだ」

 

「そうか⋯⋯俺はギア⋯⋯また、地獄で会おうぜ」

 

 ギアの背中少しずつ小さくなってゆく。

 

 ラプターが小さくつぶやいた。

 

「ンナ⋯⋯(カッコよかったな、あの人)」

 

「⋯⋯同感だ」

 

 ゼーレが短く応じる。

 

 ナハトたちは黙ってその背中を見送った。

 

「⋯⋯さて、俺たちも行くぞ。時間はない」

 

 再び、戦場へと足を踏み出すナハトたち。 

 

 その先には、中央部。

 

 そして――儀玄と儀降が待つ、最も危険な戦場があった。

 

 

 

 

「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?

  • シルバー小隊を率いる若き指揮官の話
  • アストラの幼馴染でイヴと共に彼女を守る話
  • 時間をかけてもいい。どっちも書け
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