エリー都中央部
エリー都の中心はホロウ災害の被害を真っ先に受けていた。
中央は様々な交通機関が集まり多くの人間が行き交う分、巻き込まれる人間の数も多い。パトロールをしていた治安官たちと、派遣された儀降と儀玄率いる雲嶽山の者が必死にエーテリアスと戦っているが、全員を守り切れない。
治安官の一人、マルコフが近づくエーテリアスをショットガンで吹き飛ばす。
「エーテリアスが!」
ズドン! ジャコッ! ズドン! ジャコッ!
「クソッ! ワラワラと湧いて出て!」
ショットガンの発砲音とポンプアクションの音が鳴り響く。
黒いエーテル結晶を鎧のように纏ったエーテリアスが、波のように押し寄せる。撃っても撃っても数は減らず、迫る距離はじわじわと詰まっていく。
「くっ、弾が⋯⋯」
マルコフはリロードをしながら悪態をついていた。だが、彼は残弾に注意がそれ、自身を狙う二体のタナトスに気づいていなかった。
ヒュッ――ッ!
ズグンッ!
「ぐあッ――!」
足に何かが突き刺さる衝撃。見れば、禍々しいエーテルの矢が太ももを貫いていた。視線を上げた瞬間、二体のタナトス型エーテリアスが前方から突進してくるのが見えた
「――クソが……ッ!」
膝をつきながら、マルコフは叫び、懐から取り出したスタングレネードをタナトスに投げる。
爆音と共に閃光が発生する。怯んだタナトスに対してリロードを終えたショットガンで散弾を雨のように浴びせる。だが、もう一体のタナトスは閃光を避け、マルコフに向かって矢を放つ。
「危ない!!」
儀降が咄嗟に庇おうとするが、遅かった。
ザクンッ。
頭部にエーテルの矢を受けたマルコフの身体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
「——ッ!」
儀玄は残ったタナトスを早急に倒し、マルコフの元へと駆け寄る。頭部は辛うじて存在しているが、顔の大半は吹き飛ばされており、誰だがわからない程だ。
「⋯⋯ごめんなさい」
儀降は、まるで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。マルコフだけじゃない。周囲では、治安官や雲嶽山の門下生たちが、エーテリアスの猛攻に次々と倒れていっていた。
どこを見ても、追い詰められている。
「くっ、なんて規模なんだ!」
儀玄も必死に戦っているが、エーテリアスの数は多い。
それでも、誰も退かない。誰一人として背を向けようとはしなかった。
「⋯⋯ッ、青溟剣を」
背負った禁じられた刀に儀降の手が触れる。鞘の奥から感じる、強大な力の脈動。
この刀なら、この戦況をひっくり返せる――。
だが、その瞬間。彼の脳裏に浮かんだのは、かつてのナハトの声だった。
『その剣は──絶対に使うな』
『呪いでも、宿命でも、古き教えでも──それを超えて、前に進んで初めて、“未来”って言えるんだ』
「⋯⋯」
そうだ⋯⋯兄様と儀玄と約束した。この剣は二度と使わないと⋯⋯もう二度と、黄嶺様のような犠牲者を出さないと。
「姉様!」
「っ! 全員聞いて! このままじゃ、エーテリアスの波に呑まれて全滅する! 防衛戦を一ブロック下げます!」
兄様がきっと助けてくれはず!
「治安官と弟子は市民を連れて後退! より強固な防衛線を築きます!」
治安官と門下生たちは頷き、急いで行動に移す。
「私が殿を務めます!」
「姉様! 私も殿を!」
「儀玄⋯⋯でも、貴方まで殿に立たせるわけにはいかない!」
儀降の声に、儀玄は一歩前に出る。顔は傷だらけで血に濡れ、呼吸も荒い。それでも、その眼差しはまっすぐだった。
「姉様、私たち雲嶽山の門下は、“誰かの盾”になるために鍛えてきたはずです! 民を守るために、私がここで戦うのは当然のこと!」
「儀玄⋯⋯」
「姉様が前線を支えるなら、私が背を守ります。姉妹で⋯⋯背中を預けて生き抜きましょう!」
儀降は言葉を失ったまま、儀玄を見つめる。そして、ゆっくりと頷いた。
「⋯⋯わかったわ。なら、共に殿を務めよう」
「はい!」
二人は再び、肩を並べて立ち上がった。
燃え盛る炎、崩れ落ちる瓦礫、そして四方から押し寄せるエーテリアスの群れ。
だがその中で、儀降と儀玄は一歩も退かず、地を踏みしめる。
「行くぞ、儀玄!」
「はい、姉様!」
儀降の術式が、エーテリアスの脚部を切り払う。倒れた個体を、儀玄の術式と格闘で潰す。息の合った連携に、一瞬だけ敵の波が止まる。
「その程度か!」
叫びと共に、彼女たちは戦い続けた。――それは、まるで絶望の中に灯る、最後の希望の炎のようである。
「急げ! さっさと退避するぞ!」
「弾薬も持っていけるだけ持っていけ!」
「怪我人は俺たちが運びます!」
門下生や治安官たちもこの地獄から生き残るために、できることを必死にやっている。
そんな光景を離れた場所から一人、観察する者がいた。
「ふむ⋯⋯雲嶽山に治安官か⋯⋯存外によくやる」
ガスマスクとフードで顔を隠し、手に大型ナイフを持った男、ファーターである。
「もっと、早く死ぬと思っていたんだがな」
ファーターは、瓦礫の影から双眼鏡を下ろした。そして、狂気的な笑顔を浮かべる。
「だが⋯⋯これで計画が少し楽になる」
彼の目線の先には、なおも必死に殿を務める儀降と儀玄の姿があった。傷だらけの体でなおも戦い続けるその姿に、一瞬の興味すら覚えたが――彼にとってそれは“消耗する対象”でしかない。
「そうだ。お前たちは“囮”になれ⋯⋯ナハトを呼び寄せる餌としてな」
ファーターは足元の端末に視線を落とす。表示されたホロウ拡散予測マップには、中心部からさらに広がる赤い侵食領域が描かれていた。
「ゼロ号ホロウの進行は順調⋯⋯問題は軍の先遣隊や治安局のSATだが⋯⋯まあ、ニネヴェに任せればいいだろう」
ファーターはマスクを外し、煙草に火を付ける。
その姿はまるで混沌を楽しむ魔王のようである。
「それに⋯⋯こいつもある」
ファーターはポケットから注射器を取り出す。いざとなれば、これを使ってでも計画を成功させる。
「さあ、ナハト⋯⋯急げよ」
その瞬間。
――ズドンンンッッ!!!
空間が震えるような音と共に、中央区の上空に爆風が走る。
黒煙を裂きながら、まるで流星のような何かが、戦場のど真ん中に叩きつけられた。
それを見たファーターの表情が、わずかに動く。
「来たか⋯⋯派手な登場だな」
「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?
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時間をかけてもいい。どっちも書け