儀降たちが奮闘する中央の戦場、そこに何かが降ってきた。
エーテリアスたちは儀降たちへの攻撃を止め、その何かが落ちてきた場所へと体を向ける。それは、儀降たちも一緒であった。粉塵でよく見えないものの、そこにいるのは人間の形をした何かだ。
「ギュアア?」
「グルル?」
数体のエーテリアスが近づいた瞬間——
粉塵の中から鉄の蛇のようなものが現れ、近づこうとしたエーテリアスたちを仕留める。
それを見た儀降と儀玄は安堵の表情を浮かべた。
「ああ、来てくれたんですね」
「⋯⋯兄様」
粉塵が晴れ、そこにいたのはナハトだった。
「待たせたな」
儀降たちの背後から、ラプターとアテネ、ゼーレも現れる。
「ンナナ!(セーフ!)」
「こっからが本番だけどな」
「⋯⋯沢山いる⋯⋯ちょうどいい」
再び、戦場に緊張が走る。
粉塵の中から現れた“異分子”に、エーテリアスたちは本能で危険を察し、唸り声を上げて包囲を再開する。それを見た儀降たちも構えるが、ナハトに止められる。
「バカ、怪我してるなら大人しくしてろ」
「けど⋯⋯」
「これでも、十年近くホロウレイダーやってるんだ。安心しろ。こいつらを片付けたら、一緒に後ろに下がろう」
「⋯⋯わかりました」
儀降と儀玄は後ろに下がる。
「よし、ラプター。二人の治療を頼む」
「ンナナ(はーい)」
ナハトたちが一歩前に出る。
「ここをどこだと思っている⋯⋯ここは、エリー都、人類最後の希望の地だぞ」
ナハトの一歩一歩が力強い。
「消えろ化物!」
エーテリアスたちが狂ったように襲いかかる。
「兄様、どうかお気をつけて!」
儀降が声にナハトは短く頷く。
「おう」
次の瞬間、ナハトが炸裂トンファーを両腕に展開する。機構が起動し、トンファーの芯に詰め込まれた炸薬がカチリと音を立てる。
「はぁッ!」
ナハトの身体が跳ねるように前進し、最も近くにいたタナトス型に接近する。タナトスも即座に矢を放ち、迎撃するがナハトはそれをトンファーで弾く。
バンッッッ!!!
炸薬が弾け、トンファーが衝撃波と共にタナトスの腹部を砕く。宙に跳ねたその巨体に向けて、ナハトも飛び、義尾を鞭のように伸ばし、コアに巻きつけた。
「落ちろ」
義尾がタナトスのコアを締め上げ、潰した後に地面に叩きつける。
そのままナハトは空中で体勢を変え、炸裂刺突剣を右腕に持つ。そして、地面にいるゴブリンへ、垂直に急降下して一撃。
ズドンッ!!
爆発を伴う突き刺しによって、エーテリアスのコアが破壊される。エーテル結晶が散らばる。地面にクレーターが穿たれた。
「数だけいてもね!」
アテネも電熱斧でエーテリアスのコアを切り刻み、テルミット投斧で足止めを行う。
「グアアア!」
「ちぃ! 邪魔だクソ犬!」
ハティがアテネに飛びかかるが爆発反応装甲盾で受け止められる。さらに、その衝撃で爆発反応装甲が反応し、ハティは爆炎に包まれ吹き飛ぶ。
「フゥッ!」
吹き飛んだハティをゼーレが鉄柱で地面に叩きつける。そして、放電させて周囲のエーテリアスを含め一気に消し去る。
「ナイスだゼーレ!」
「⋯⋯弱い」
三人がエーテリアス相手に善戦する様子を、儀降と儀玄はラプターの治療を受けながら思わず見入っていた。
「凄い⋯⋯これだけの数のエーテリアスを次々と」
「ンナナ(治療終わったよ。安静にしてね)」
「ありがとう。ラプター」
ナハトたちの奮戦により、戦場の喧騒はようやく沈静化しつつあった。爆発音も、咆哮も、断末魔も、今はただ瓦礫の風音と、焼け焦げたエーテルの匂いだけが残る。
「よし、殲滅完了」
ナハトが軽く肩を回して、軽くため息をつく。
「これで中央の戦線はひとまず落ち着いた。儀降、儀玄、今のうちに後方へ——」
そう言いかけた矢先だった。
「グルルル」「ギァ⋯⋯!」
視界の先、廃ビルの影から、新たなエーテリアスの群れが現れる。中型と小型が混合した群れで数は少ないが、確実に殺意を宿していた。
「ったく、切りがねえな」
アテネが斧を構え直し、ゼーレも無言で前へ出ようとした。
——が。
その必要はなかった。
「⋯⋯んなッ!?」
アテネの言葉の続きを待つ間もなく、襲いかかってきたエーテリアスたちは一瞬にして、何も残さず吹き飛んだ。
そして、エーテリアスたちがいた場所に一人の男が降り立つ。
「やれやれ⋯⋯これだけの数のエーテリアスをものともせず殲滅するとはな。やはり、お前だけだよナハト」
「⋯⋯ファーター」
ラプターとアテネ、ゼーレはエーテリアス以上に警戒心の籠もった目でファーターを睨みつける。そして、儀玄と儀降の二人は、兄の命を狙う男が目の前に現れ、驚いていた。
「あの人が⋯⋯兄様の命を狙っている」
ファーターは他の者を無視し、ナハトにだけ目を向け語りかける。
「こんな状況でも逃げず、仲間の為に残り、更に生き残っている。お前程、実験に適した人間はいないよ」
「⋯⋯このホロウ災害⋯⋯お前がやったのか?」
「それを知って何になる?」
「言えッ!」
ファーターは一瞬だけ無言になり、マスクの奥で目を細めたかのような空気が流れる。
「まあ、いいだろう⋯⋯正確に言うと俺だけじゃない。俺の所属している組織がやった」
「⋯⋯この災害で」
「ん?」
「このホロウ災害で⋯⋯多くの人間が家を失った。スラム街だけじゃない⋯⋯表街の人間も家族や家、帰る場所を失った。お前は⋯⋯お前は何とも思わないのか。エーテリアスに殺される人間を⋯⋯子どもを見てもその組織とやらに拘るのか?」
ナハトの声には少しの期待が込められていた。
殺すと決意したとは言え、ファーターは自分を救ってくれた男である。最後にもう一度、敵対しない希望を抱いていたのだ。
「⋯⋯ホロウ克服のためだ」
「⋯⋯そうか」
ナハトは思わず俯く。フードを目深に被っているため、表情はわからない。
「ナハト⋯⋯この惨状を見てみろ。燃える街、散らばる死体、そして溢れ出るエーテリアス⋯⋯人類は全くと言っていいほどホロウに対応しきれていない」
「⋯⋯」
「このままでは、全てが飲まれる⋯⋯人類は次のステージに進化しなければならないんだ。ホロウレイダーのお前ならわかるだろう?」
ファーターはナハトに向かって右手を差し出す。
「ナハト——お前もこちら側に⋯⋯」
ファーターが言葉を発した瞬間、少なくとも十メートル以上は離れていたナハトが一瞬で近づき、炸裂トンファーで殴りかかる。
「っ!?」
ファーターはそれを大型ナイフで受け止めた。
「――消えろ、ファーター」
ナハトの目はもう迷っていない。
この瞬間、ナハトは初めて人を殺す事に何とも思わない冷酷な目になっていた。
「⋯⋯いい目になったな。ナハト」
燃え盛るエリー都、エーテリアスのうめき声や銃声、悲鳴が鳴り響く地獄と化したこの街で救った者と救われた者の戦いが始まろうとしていた。
「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?
-
シルバー小隊を率いる若き指揮官の話
-
アストラの幼馴染でイヴと共に彼女を守る話
-
時間をかけてもいい。どっちも書け