旧都陥落の日・Another   作:IamQRcode

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ホロウレイダーの掟

 

 何とかホロウから脱出した俺は、その足で取引所へと向かった。

 

 もちろん、違法な取引所でありホロウで取ってきた遺物をディニーに変換したり、逆にディニーを使って銃や近接武器、ホロウ探索に必要な装備を買える場所でもある。

 

 取引所の扉を開けた瞬間、鼻に鉄とオゾンの匂いが混ざった空気が入り込んできた。

 

 中は薄暗く、LEDの非常灯が天井のあちこちでチカチカと点滅している。壁は錆びついた金属パネルに覆われ、床は油と血の染みが消えきらない。

 

 スラムのごろつきどもが、カウンター前の椅子や廃材のソファにだらしなく座っていた。全員が武装しており、その視線は鋭い。誰ひとり信用していない。ここでは、武器を持っていることが最低限の「礼儀」だ。

 

 中には、明らかにホロウ帰りとわかる奴らもいる。マスクのフィルターにはエーテルの結晶がこびりつき、肩の装甲や服の一部が異形に食い破られた痕もあった。

 

 ──俺と同じように、命懸けで何かを“掘り出して”きた連中だ。

 

「ボウズ、迷子か?」

 

 一人のホロウレイダーが話しかけてくる。

 

 ガスマスクで顔を隠し、手には大型ナイフが握られており所々が赤く錆びている。この錆が何でできたかは想像もしたくない。そして、ガスマスク越しに見える目はとても冷たい。

 

 俺は即座に首を横に振った。ビビったと思われるのが癪だったからだ。

 

「⋯⋯違う。売りに来ただけだ」

 

 鞄を軽く叩いて見せる。中にはホロウの奥で拾った遺物がいくつか入っている。

 

 すると、レイダーの男は鼻で笑った。

 

「はっ、口の利き方は一丁前か⋯⋯にしても、子どものくせにホロウ帰りってのは感心だな」

 

 男の目が細くなり、こちらを値踏みするように見つめてくる。

 

「そんな格好でホロウにはいったってことは、エーテル適正も高いんだろ? よかったな」

 

「⋯⋯エーテル適正ってなんだ?」

 

「はっ? お前、適正も測らずに入ったのか?」

 

「ああ⋯⋯」

 

「クックック⋯⋯クハハハハハハ!!」

 

 男は声を上げて笑った。笑い声はガスマスク越しにくぐもって響き、他のレイダーたちが一斉にこちらを見る。だが、彼らの目には好奇心と嘲りが混じっているだけで、殺意は感じられなかった。

 

「聞いたか? このガキ、エーテル適正を知らずにホロウに入っただとよ」

 

「ハハハ! 馬鹿じゃねえか!」

 

「おいおい、死にてえのかクソガキ」

 

「いいね。肝っ玉据わってるじゃねえか」

 

 周囲のレイダーたちも小馬鹿にするように笑う。

 

 何なんだこいつら。

 

 ナハトは思わずムッとした顔になる。

 

 ガスマスクの男はそんなナハトを放置し、ひとしきり笑う。

 

「ハァー⋯⋯生きて帰ってきたのが奇跡だぞ、お前」

 

 男はナイフを腰の鞘に戻し、興味深げにこちらに歩み寄り、しゃがんで視線を合わせてきた。俺はわずかに後ずさるが、彼はそれ以上詰めてこなかった。

 

「エーテル適正ってのはな、簡単に言えば“あの腐った世界にどれだけ耐えられるか”ってことだ」

 

「⋯⋯耐えるって、何に?」

 

「空気だよ、空気。ホロウの中には濃度の高い“エーテル”が満ちてる。それを吸い込むだけで、体はまるで病魔に侵されるように崩れる。酷い場合は、エーテリアス共の仲間入りだ」

 

 男は肩をすくめながら、立ち上がり、壁に凭れかかるように立った。

 

「それでも人間ってのは欲深いもんでな⋯⋯エーテルに耐性がある奴なら、ホロウの奥まで潜って、遺物を拾って、こんな場所で一攫千金を狙えるってわけだ」

 

 男は親指で自分の胸を指す。

 

「俺もそうだ。エーテル適正60点。おかげで何とかまだ人間でいられてる」

 

「⋯⋯それって、どうやって調べるんだ?」

 

「普通は“検査キット”ってのを使う。50点以上なら適正ありだ。逆に50点未満なら非適性って診断される。非適性ってのは、まあ──この世界にとっちゃ、死刑宣告みたいなもんだな。一応、ホロウに潜る装備はあるがホロウ災害に巻き込まれたら、高い確率でお陀仏だ」

 

 男はふっと笑った。

 

「まっ、お前は運がよかったな。もしくは、体に何か秘密があるか⋯⋯」

 

 その目が、まるで獲物を見るような色になる。

 

「ンナナ!(そんなことより、早く売ろうよ!)」

 

「そ、そうだなラプター⋯⋯えっと、色々教えてくれてありがとう」

 

 そう言って俺は男から目を逸らし、取引所の奥へと足を踏み入れた。ラプターが小さく羽ばたきながら俺の肩に乗る。周囲のレイダーたちが未だに俺を物珍しそうに見ているのがわかったが、視線を受け流すことにした。

 

 カウンターの奥に座っていたのは、眼鏡をかけた初老の男だった。灰色のコートを着て、肘をついたままこちらを見ている。その視線は鋭く、まるで俺の頭の中まで覗いてくるようだ。

 

「新顔だな。名前は?」

 

「⋯⋯ナハト」

 

「ふん、覚えとこう。物は?」

 

 鞄をカウンターに置いて、中身を見せる。

 

 男は、黙ってそれらを一つひとつ手に取り、ルーペのような装置で確認していく。時折、ピリリと音を立てて光る測定器も取り出し、何やらメモを取っている。

 

 しばらくの沈黙の後、彼は顔を上げた。

 

「旧時代の映像記録にバッテリー、あとは諸々使えそうなものか。まあ、初めてにしてはよくやった方だな」

 

「⋯⋯いくらになる?」 

 

 男は口角をわずかに上げた。

 

「全部で——8000ディニーってところだ」

 

「⋯⋯たったそれだけ?」

 

 正直、命をかけて潜った割には合っていない。だが、今の俺にとっては大金だ。

 

 もう少し高くならないか交渉すべきか?

 

「初めてにしちゃ上出来だ。あんまり欲をかくな。そいつらがちゃんと市場に流れりゃ、十分に信用が付く。それが次の取引に繋がる」

 

 言いくるめようとしてるんじゃないか、という疑いもあったが、周囲の視線と空気に押され、俺は黙って頷いた。今は、ここで揉めるのは得策じゃない。

 

「取引成立だ」

 

 そう言うと、男はカウンターの下から小さな端末を取り出し、俺の端末に接続してディニーを送金する。端末の画面に金額が表示され、振動と共に確認通知が来た。

 

「ナナナ!(すごいよナハト! ご飯いっぱい買えるね!)」

 

「⋯⋯だな。お前も、フル充電できるかも」

 

 あとは、武器や防具も必要だな。

 

 俺はカウンターの隣に設置された装備ブースを見やった。壁一面に並ぶ武器やガジェット、そして防具の数々。どれも中古で、傷や汚れが目立つが、それでも今の俺には必要なものばかりだ。だが、さすがにこの金では買えない。少しずつ貯めていかないと。

 

 そのとき、さっきのガスマスクの男が再び近づいてきた。

 

「ナハトって言ったな。ちょっとした忠告だ。これからホロウレイダーとして生きていくつもりなら、“信じるもの”は一つにしておけ。あと、空っぽのまま死ぬんじゃねえぞ」

 

「⋯⋯どういう意味だ?」

 

 男は答えず、ただ指を一本立てて見せると、無言で背を向けて去っていった。

 

 信じるものを一つ。

 

 

 

 このクソみたいな世界で生き延びるために、必要なのは銃か、仲間か、それとも——。

 

「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?

  • シルバー小隊を率いる若き指揮官の話
  • アストラの幼馴染でイヴと共に彼女を守る話
  • 時間をかけてもいい。どっちも書け
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