炸裂刺突剣が、エーテリアスの中枢——ファーターのコアに突き立てられる。
ゴオオオオォォォォ——ン!!!!
重く、鈍い音が響き、世界が震える。剣先がコアに食い込むと同時に、そこから無数のヒビが放射状に広がっていった。
「グ、ガ、ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ファーターが凄まじい絶叫を上げる。コアが膨張と収縮を繰り返し、制御不能な暴走状態に陥っていた。背中の結晶体が光を強く放ち始め、翼が音を立てて砕ける。
ナハトは、剣を突き刺したまま動かない。
いや——
押し込んでいた。
「っっらああああああああああッッッ!!!!!」
両脚が悲鳴を上げる。太腿からは血が滴り、左脚は既に限界を超えていた。にもかかわらず、ナハトは全体重をかけて、叫びながら刃をねじ込んでいく。
「これは、俺たちの怒りだ!! ラプターの想いだ!! 何もかもっ⋯⋯!」
ナハトが目に力を入れ、流れる涙を止める。
「お前みたいな化け物に、壊されてたまるかあああああああああ!!!!!」
ついに剣が、コアの中心部に到達した。
その瞬間——
ナハトは剣の柄のボタンを押し、爆発を引き起こす。ファーターの体内から、爆発的なエーテルの奔流が噴き出す。紫と青の混合した閃光が空を貫き、エリー都の中心部が照らされる。
——そして、沈黙。
コアが砕けた。エーテルの輝きが、一瞬だけ美しく、空に消えていった。
ドオオオオオン……ッ!
ファーターの身体が、崩れ落ちる。
まるで巨神が崩れ落ちるように、地響きと共にその巨体は瓦礫と灰の中に沈み、完全に沈黙した。
「⋯⋯終わった⋯⋯のか⋯⋯?」
ゼーレがライフルを支えながら、膝をつく。ガスマスク越しに見える彼の目には、わずかに安堵の色が浮かぶが、すぐにナハトの姿を探す。
アテネも、両手で地面を押さえながら立ち上がり、ナハトの方へ駆け寄る。
「兄貴ッ!! しっかりしろ!! ナハト!!!」
ナハトは、瓦礫とファーターの残骸の上で、膝をついていた。剣は砕けていた。左脚からは、なおも血が流れている。それでも——
彼の手には、《キャロット》が握られていた。
それは、まるで意志を持つように、微かに光を放っていた。
だが、その光は、彼の心を癒すにはあまりに小さすぎた。
「⋯⋯ラプター⋯⋯お前、ほんとに⋯⋯」
言葉が途中で詰まる。
喉が締めつけられたように苦しくて、呼吸さえままならなかった。勝ったはずだった。戦いは終わった。けれど、胸の奥にぽっかり空いたこの感覚は——何も癒えていない。
ナハトはキャロットを握り締めながら、崩れるようにその場に座り込む。
そして、ぽろぽろと、静かに涙がこぼれた。
ラプター⋯⋯共に捨てられたポンプ。幼い頃から一緒で辛い気持ちも、嬉しい気持ちも、全てをあいつと分かち合った。
家族と呼べる唯一の存在だった。
そんな、ラプターが死んだ瞬間——
力を出せた自分が、心底、嫌になった。
「⋯⋯ふざけんなよ⋯⋯この無能野郎⋯⋯何がホロウレイダーだ⋯⋯ちくしょう⋯⋯最初からその力を出せよ⋯⋯」
ナハトは自身を殴る。
その様子をアテネとゼーレは黙って見つめていた。
彼らにとってもラプターは大切な存在であった。しかし、ナハトの方が心に負った傷ははるかに大きいだろう。
ナハトの拳が、自分の頬を殴る音がまたひとつ響いた。
アテネは静かに近づくと、その拳をそっと掴んで止める。
「⋯⋯もう、やめろよ。兄貴のせいじゃねえ」
その声は、いつになく柔らかかった。ナハトの震える肩に、彼はそっと手を添える。
「⋯⋯あいつは⋯⋯ラプターは、兄貴を信じてた。⋯⋯最後の瞬間まで、ずっと」
ナハトは顔を伏せ、肩を揺らす。
ゼーレが重い装備のまま、無言でナハトの隣に腰を下ろした。
そして、マスク越しにぽつりと言う。
「俺たちは⋯⋯救われた命だ」
ナハトは小さく、顔を上げた。ゼーレの視線は、遠くの焼けた空を見つめていた。
「助けられた⋯⋯その命を⋯⋯どう使うかは……俺たち次第だ」
アテネが笑う。少しだけ、無理矢理に。
「⋯⋯そうだ。兄貴。泣いてる暇なんて、ねえよ。ラプターに怒られちまうぞ。⋯⋯“僕の分も守れよ!”って、きっとそう言うさ」
ナハトは目を閉じて、拳をぎゅっと握った。
深く、長い息を吐く。
そして、静かに、言葉を返す。
「⋯⋯ああ。わかってる。⋯⋯わかってるよ」
ナハトは立ち上がる。脚の痛みはまだ鋭く残っていたが、心の中には再び芯が通り始めていた。
「ラプターの命を無駄にはしない。あいつの分まで、俺たちは前に進むんだ」
そのとき、アテネの端末が微かに信号を受信する。
「⋯⋯儀玄と儀降からの信号だ。後方の合流地点で市民の安全確認をしてる。そっちに向かおう」
ゼーレが頷き、立ち上がる。
「ここはもう⋯⋯限界だ。いつか⋯⋯地盤ごと⋯⋯崩落する」
「なら、急ごう。ここで死ぬわけにはいかない」
ナハトはキャロットをミリタリーリュックに入れる。一度だけ、ラプターの亡骸を見て、静かに祈りを捧げてから前へ進み出す。
アテネとゼーレも、その後ろに続く。
焼け焦げた街の中、瓦礫と光の残骸が舞う廃墟を、三人の影がゆっくりと進んでいった。
その遥か先で——
儀玄と儀降が待っていた。
焦燥の中にもどこか安堵を滲ませた表情で、彼らは仲間の帰還を出迎える。
「兄様! それに、アテネさんとゼーレさんも!」
「良かった⋯⋯無事で」
二人の喜びの表情に少しだけ、ナハトの表情も緩む。
「ファーターは⋯⋯決着をつけてきた。でも、ラプターが⋯⋯俺を守って⋯逝った」
「⋯⋯そんな⋯⋯」
儀降と儀玄は俯いてしまう。あの時、自分らも残れば良かったのではというタラレバが心の中を支配する。
儀降と儀玄は、それぞれ俯いたまま言葉を探していた。だが、姉の儀降が先に口を開く。
「⋯⋯兄様、私たち⋯⋯先に退いたこと、申し訳ありません。もっと⋯⋯もっとできることがっ!」
だが、ナハトはそっと手を出してその先の言葉を止める。儀玄と儀降が頭を上げ、ナハトを見つめる。
「謝るな。あのとき、お前たちが先に退いてくれたからこそ、市民を守れたんだ。お前たちの判断は⋯⋯間違ってなんかいない」
そして、ナハトは両手を広げるようにして、二人を見つめた。
「⋯⋯それより、大きな怪我はしてないか?」
儀降は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべて首を振る。
「はい、私は平気です。軽い打撲程度で⋯⋯大丈夫です」
「私も少し擦りむいたくらいで、問題ないです」
二人の元気な返事に、ナハトはほんの僅かに笑った。それは戦闘の最中、一度も見せなかった、柔らかな本来のナハトの笑顔だった。
「そっか⋯⋯良かった」
その言葉には、確かに希望が宿っていた。
ナハトは再びキャロットに目を落とし、それを静かに見つめながら、呟くように心の中で語りかける。
ラプター⋯⋯お前が託してくれた命。俺は、この二人を守るために使う。⋯⋯絶対に、無駄にはしない。
そう、決意はもう揺るがなかった。
そのまま、ナハトはアテネのほうへ歩み寄ると、キャロットを手渡した。
「アテネ⋯⋯こいつを、お前に託す。《キャロット》はラプターの遺志だ。プロキシでもあるお前なら——こいつを扱えるか?」
アテネはキャロットを受け取り、目を細めて静かに頷く。
「任せな、兄貴。こいつの想い、俺が背負うよ。絶対に⋯⋯市民を守りながら、ホロウを脱出してみせる」
その言葉に、ゼーレも小さく頷く。
「俺たちの⋯⋯出番だな」
焼けた空、焦げた鉄の臭い、崩れた街の静寂。そこに残されたものは悲しみだけではない。意志だった。
ラプターの遺志。
仲間たちの意志。
そして、自分自身の意志。
「よし——」
ナハトがゆっくりと振り返り、全員の顔を順に見ていく。
子どもを抱えた母親。
片足を引きずる老人。
服を煤で黒く染めた整備士。
泣きながらも懸命に歩く少女——
その一人ひとりに、ナハトは目を向ける。キャロットを託した意味が、徐々に形となって現れ始める。
彼らと儀降、儀玄を救うこと。それこそが、戦いの果てに残された「生」の証。
「アテネ、儀玄、先導を。儀降、ゼーレ、警戒を頼む。俺は最後尾で全員の動きを確認する。誰一人、置いていかない」
「了解ッ!」
儀降、儀玄、ゼーレ、アテネ。全員が即座に反応し、士気を高めていく。疲労は限界だ。装備の消耗も著しい。それでも、彼らは立ち上がる。
「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?
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時間をかけてもいい。どっちも書け