ギア率いる偵察チームの帰りを待っていたナハトたちは、交代で市民を守りながら、見張りや休憩をしていた。その中で、SATの通信士が、地図を広げて話し合うロクスとナハトの元へと近づく。
「隊長⋯⋯」
「どうした?」
「⋯⋯中央大通りが陥落しました⋯⋯防衛戦を行っていた治安官二名は、大通りの爆破をして殉職」
「⋯⋯そうか」
ロクスはそう言い、落ち着いた表情をしながらも、思わず倉庫の壁を殴ってしまう。
「大通りを爆破⋯⋯どれくらいの規模だ?」
ナハトは通信士に聞く。
「無線が混乱してるからわからないが、少なくとも大量のエーテリアスを巻き込んだらしい」
「そうか、ありがとう。ロクス、今の報告からして恐らく大通りは完全に使い物にならなくなったぞ」
「だろうな。エーテリアスを大量に吹っ飛ばしたんだ」
「つまり、エーテリアスの侵攻が大幅に遅れるということだ」
ロクスは深く頷いた。拳を下ろし、再び冷静な指揮官の顔に戻る。
「治安官ってのは、勇敢な奴が多いんだな」
アテネの言葉にSATの一人が応える。
「当たり前だ。我々の使命はこの街と市民を守ること⋯⋯我々が諦めたら、誰がこの街を守るというんだ」
「へっ、正義野郎め」
ロクスとナハトはそんなやり取りを見てから、もう一度地図へと目を向ける。
「⋯⋯大通りの二人は最後まで街を守るために動いてくれたんだな」
「ああ、彼らのまさに命をかけた行動を無駄にしないようにしなければならない」
その言葉に、誰も笑わなかった。ただ静かに、全員がその“二人の治安官”に心の中で敬意を送っていた。
「大通りの爆破のおかげで、エーテリアスの主力も消耗しゼロ号ホロウの拡大も少しだが抑えられた。一時的な時間稼ぎができたし、奴らの侵攻が東へ向かう前に、こちらが先手を打てるかもしれない」
「ギアたちの偵察次第、ってわけだな」
「⋯⋯ああ。奴らが突破口を見つけてくれれば、俺たちはすぐに動ける」
そのとき、倉庫の屋根にいた見張りが、手信号と共に声を上げる。
「戻った! 偵察チーム、東の路地から接近中!」
ロクスとナハトは顔を見合わせ、すぐに出入口へと向かう。続いてアテネ、ゼーレ、儀降らも後を追う。
暗がりの中、ギアを先頭に、偵察チームが姿を現した。戦闘服の一部が破れ、煤にまみれていたが、表情には確かな光があった。
「無事か!?」
アテネが駆け寄る。
「まあな、何とか生きてる。ついでに、いい土産もあるぜ」
ギアはそう言いながら、小さな携帯端末をロクスに手渡す。
「建物の配置と、エーテリアスの動き──おおよその群れの密度も記録してある。あと、避けられるルートが二つ。かなり使えるぞ」
ロクスは端末を確認し、すぐにSATの通信士へと渡す。
「解析を急げ。全隊員、再展開の準備だ!」
倉庫内がにわかに活気づく。救護班が移動用のストレッチャーを準備し、武装部隊が弾薬の確認を始めた。儀玄と儀降は結界を再調整しながら、術式の蓄積を続けている。
「ふぅ⋯⋯」
ギアは柱にもたれかかり、水筒の水を飲んで枯れた喉を潤す。
ナハトがギアに肩を叩く。
「ありがとう。おかげで動ける」
「礼はいらねぇよ。それに⋯⋯」
ギアが視線を倉庫の隅に向ける。そこには、すやすやと眠る幼子と、それを見守る少女の姿があった。
「助けたくなるだろ、ああいうの」
ナハトは笑みを浮かべ、頷いた。
「ああ。絶対に、見捨てない」
ロクスは端末を覗き込みながら、解析の進捗を通信士に確認する。
「どうだ?」
「ルートAは途中にエーテリアスの群れが断続的に確認されてます。ですが、移動タイミングを合わせれば通過は可能。ルートBは距離はやや長いですが、こちらは比較的安全です。ただ──」
「ただ?」
「銃器対策部隊を壊滅させた例の大型浮遊エーテリアスが、Bルート上空の東側に一度出現した形跡があります」
ナハトが表情を曇らせた。
ナハトが曇った表情で黙り込むと、周囲の空気が一気に重たくなった。
「銃器対策部隊を壊滅させたって⋯⋯あの連中、重火器も揃えてたはずだろ?」
ギアの仲間が呟くと、周囲の兵士たちも一斉にざわついた。治安局の精鋭でも勝てなかったエーテリアス、つまり──正面からの戦闘は、死を意味する。
「落ち着け」
ロクスが低く一言で場を制す。
「どのみち、ここに留まってもいずれ包囲される。あとは時間の問題だ」
アテネが真剣な面持ちで問う。
「じゃあ、どっちのルートを選ぶ?」
ロクスは短く息を吐き、地図を睨んだ。
「ルートBを使う。ルートAは断続的に敵の群れがいる。正直、弾薬の量や戦闘音で集まるエーテリアスの事を考えると難しい」
ロクスが言葉を切った瞬間、倉庫内の騒がしさがすっと消え、全員が次の言葉を待つように静まり返った。
「だが⋯⋯ルートBにもリスクはある。あの大型浮遊型エーテリアスの再出現。もし移動中に接触すれば⋯⋯市民を守りきれない可能性がある」
ナハトが腕を組み、深く考え込むように目を伏せた。
しばらくの静寂の後、SATの一人が全員、思っていたことを呟く。
「“奴”が出た場合、どう対処します?」
「「俺が⋯⋯」」
ナハトとギアが同時に口を開く。
「⋯⋯俺とギアたちが囮になる」
ナハトとギアの言葉に、場の空気が一変する。息を呑んだのは、儀降と儀玄だった。
「兄様、それじゃ──兄様が⋯⋯!」
儀降が声を震わせる。儀玄も珍しく感情を隠さず、前へ出る。
「兄様が囮になる必要なんて──」
だがナハトは、毅然とした態度でそれを制した。
「いや、俺たちが一番適してる。エーテリアスとの戦いに一番詳しいのは、ホロウレイダーだからな」
静かだが、強い口調だった。
「それに、俺もギアも、戦場で死ぬ覚悟なんてとっくに済ませてる。治安局の精鋭部隊を壊滅させた浮遊型が出たら、一瞬の判断が命取りだ。民間人を守りながらじゃ、戦えない」
ギアも肩をすくめて笑った。
「そういうこった。俺たちなら、うまくやれるさ。少なくとも、他の奴がやるよりはマシだ」
儀降は目を伏せ、唇を噛む。
ナハトは少しだけ優しい表情を浮かべた。
「安心しろ。まだ、死ぬとは決まってない。あくまで“可能性”だ。それに⋯⋯」
ナハトは、眠る幼子とその傍らの少女に目をやった。
「誰かが犠牲にならなきゃ、前に進めないなら──それが俺たちでいい」
その言葉に、誰も反論できなかった。
ロクスが、黙ってギアの肩を叩いた。
「⋯⋯だとしてもだ。絶対に死ぬな。お前らが生き延びれば、それが市民を勇気づける」
「わかってる」
ギアが短く返し、ロクスが全体を見渡して指示を再開する。
「いいか、ルートBを通る。ギアたちとナハトたちホロウレイダーチームが前方で先行して“あれ”が現れるなら注意を引き、ルートを切り開く。SATはその間、後方から市民を護衛して進め。二人は結界は移動に合わせて展開してくれ」
「了解だ」
「ロクス、出発時刻を決めてくれ。隊をまとめる」
「十分後に出る。装備点検と負傷者の状態確認をしておけ」
それぞれが動き出す中、ナハトとギアは静かに目を合わせた。言葉はなかったが、互いの意思はもう十分に通じ合っていた。
──あとは、道を開くだけだ。
「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?
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時間をかけてもいい。どっちも書け