「進めぇー!!」
ホロウレイダー、SAT、雲嶽山の奇襲攻撃はエーテリアスの群れほ真ん中に大きく空白を空けた。その空白、新エリー都に続く道を市民は走る。
両脇からエーテリアスが殺そうと襲いかかるが、ホロウレイダーとSAT、銃器対策部隊の生存者が決死の覚悟で抑えている。
「フンッ!」
股の間をすり抜けようとしたエーテリアスを、ゼーレが鉄柱で叩き潰す。
「はぁッ!」
逃げる子どもを襲おうとしたタナトスを儀玄が格闘で捻じ伏せる。
「走れ走れ!! 地獄の出口はもうすぐそこだぞ!!」
怒号と銃声、悲鳴と咆哮が交錯する。
血と煙が交じり合う戦場の只中で、ナハトたちは牙を剥くエーテリアスの波を寸断し続けていた。
「こっちは通った! 次の列、走れ!!」
ロクスが怒鳴る。市民たちが次々と一本道を走り抜けていく。負傷者を背負う者、手を取り合う親子、目を逸らさず前を見据える若者たち──その誰もが、もう一歩も退けない覚悟で進んでいた。
「来いよ、化物ども! こっから先は通行止めだぞ!」
ギアの仲間の一人、鉈とアサルトライフルを持ったホロウレイダーが叫びながら引き金を引き続ける。だが──その時、側面から這い寄っていた異形の影が、一閃の爪で彼を襲った。
「避けろッ!!」
「っ!!」
ナハトが叫ぶと同時に、ホロウレイダーは地面に叩きつけられた。肩から深く裂け、赤い血が噴き出す。だが──彼は叫ばなかった。痛みを抑え込み、倒れた姿勢のまま鉈を逆手に抜き放つ。
「まだ終わってねぇんだよ⋯⋯!!」
迫りくる異形の腹を、渾身の一撃で裂いた。
吹き出たエーテル粒子を浴びながらも、ホロウレイダーはすぐさまショットガンを持ったSATに向かって叫ぶ。
「撃てッ!!」
SATの隊員は無言でショットガンを構えた。弾丸が吼え、ホロウレイダーの背後にいたハティが頭ごと吹き飛ばされた。
一方、ゼーレとアテネは、左右から迫る敵を正面から受け止めていた。
「⋯⋯俺たちが⋯⋯壁になる!」
ゼーレの鉄柱が唸りを上げ、飛びかかってきた浮遊型を地面へと叩きつける。その隣、アテネの電熱斧が燐光を放ち、四足歩行型のエーテリアスの脚を切断する。
「上下左右、どこもエーテリアスだらけじゃねえか!」
「ええい! こうも多いと!」
アテネが罵声混じりに叫びながら、爆発反応装甲をリロードする。ホロウレイダーがアサルトライフルをフルオートにして、撃ちまくる。吐き捨てた薬莢が熱を帯びて地面に転がり、足元に転がる異形の骸に当たって小さな音を立てる。
ロクスが声を上げる。
「——市民は新エリー都に向け突破完了! 雲嶽山、銃器対策部隊、治安官、行け!!」
「了解ッ!」
ロクスが叫びと同時に、儀玄・儀降の姉妹がすぐに反応し、前へと飛び出す。
「儀降、右から回る! カバーは任せた!」
「はい、姉様!」
続いて銃器対策部隊の生存者二人がサブマシンガンを撃ちながら、前傾姿勢で突進し、その後ろを傷を負いながらも気丈に走る女性治安官が追う。彼女は太腿を怪我していたが、歯を食いしばり、転倒することなく足を運んでいた。
「いけえええええ!!」
四方から這い出てきたエーテリアスの群れが、雲嶽山と銃器対策部隊、そして治安官たちの進路を塞ごうとする。
だが──。
「邪魔だッ!!」
儀玄が術式でエーテリアスを吹き飛ばし、近づいてきたエーテリアスには、踵落としで地面ごとエーテリアスを粉砕する。儀降がその隙に治安官の腕を引いて疾走した。
「姉様、右ッ!」
「見えてる!」
アルペカが液化弾を放とうとするが、銃器対策部隊の一人が連射でそれを撃ち落とす。その隊員を殺そうと背後に迫ったタナトス型にショットガンを持ったSATがドラゴンブレス弾を浴びせ、火だるまのまま倒れさせた。
「走れ! あとは任せろ!!」
ロクスの怒鳴り声と共に、二波目の突破隊が新エリー都へと向かう。
「兄様!!」
「行け! 必ず合流する!」
「⋯はい!」
背後ではSATとホロウレイダーたちが応戦を続けながら、少しずつ後退を開始していた。
ゼーレの鉄柱がエーテリアスを潰し、アテネの斧が燐光を振りまく。ギアのライフルが着実に敵を撃ち抜き、仲間がグレネードを投げる。
このまま、逃げられる。
──しかし。
その時だった。
「⋯⋯あ⋯⋯あぁ⋯⋯ッ⋯⋯!」
誰かが震える声を漏らす。音の源は、空。
大気がうねり、空気が裂けた。
「────ギィアアアアアァァァ!!!」
悲鳴のような、怒りのような、咆哮が上空から降り注いだ。
空が歪む。
何かが──降ってくる。
地面に激突する直前、全員が目撃した。
漆黒と深紅の融合したような巨体、伸縮する異形の腕、堕天使のような羽が背から伸びる姿──。
それは確かに、中央区で倒したはずのエーテリアス。
ファーターだった。
「ナァァァハァァァトォォォ!!」
「嘘だろ⋯⋯!? あいつは死んだはずじゃ!」
「ッ⋯⋯再構成!?」
アテネとゼーレが有り得ないものを見るような表情になり、他のホロウレイダーやSATも今まで相手したエーテリアスとは格が違うということを瞬時に悟った。
戦場が凍りついた。
だが──動いたのはナハトだった。
「ロクス!」
ナハトの声が、戦場の空気を裂く。
「SATを率いて今すぐ撤退しろ! 新エリー都へ向かえ!」
ロクスは眉をしかめながら、ファーターの異形の姿を睨みつける。
「あれは⋯⋯」
「あいつとは因縁があってな⋯⋯一度倒したはずなんだが、これは再構成された“災厄”だ。要警戒型を超えてる⋯⋯下手をすれば、共生型レベルの存在かもしれない」
ナハトの言葉に、ロクスの喉がひくりと鳴る。目の端でファーターの背から蠢く羽がゆっくりと広がる。地面に這うエーテリアスの群れすら、その圧にたじろいでいた。
「────あれを、お前たちだけで止めるつもりか?」
ロクスの声が低く震える。
「今まで一緒に戦ってきたんだぞ⋯⋯犯罪者が⋯ホロウレイダーがなんだってんだ。俺たちは仲間だ! もう二度と仲間が死ぬ所は見たくないんだよ!!」
ナハトは睨み返すように、静かに、それでいて強く言い放った。
「だからだ、ロクス。──お前らには“未来”がある」
「なに?」
「新エリー都を作るのはお前らだ。市民を守り、治安を立て直し、秩序を築き直す。それは──俺たちじゃない。ホロウレイダーは、その“未来”に居場所のない亡霊だ」
ナハトがわずかに笑みを浮かべて言う。
「だから俺たちは《ここ》で終わらせる。お前らは《次》を生きろ。⋯⋯お前らがいなくて、誰が市民と新エリー都を守るってんだよ」
言葉の意味が、じわじわとロクスの中に染み込んでいく。握った拳が震える。歯を食いしばる。くそ、と声が漏れた。
「それに、俺はこの化物を生んだ責任を取らなくちゃならない」
「⋯⋯クソッ!」
だが、やがてロクスは顔を上げた。
その目には悔しさと──仲間を信じる誇りがあった。
「⋯⋯わかった。だが⋯⋯絶対に、生きて帰ってこい。一人でも欠けるな。あんたらがいなきゃ、次に何が来た時、市民は⋯⋯」
「分かってる。約束はしないが⋯⋯全力は尽くす」
ナハトとロクスが最後の視線を交わす。
ロクスは息を吐き、振り返ると声を張った。
「SAT撤退! 新エリー都へ移動する! この場はホロウレイダーに任せる!」
「だが──!」
「命令だ!! 行け!!」
SATの隊員たちが名残惜しそうにナハトたちを見るが、すぐに背を向けて走り出した。ロクスも最後にもう一度だけ後ろを振り返り、ナハトに短く頷いてから、群れの中を突き進む。
──空気が、再び重くなる。
ナハトは後ろを振り返り、ギアの仲間たちに声をかけた。
「お前らも逃げていいぞ」
だが、ギアの仲間たちは何を言ってるんだと言いたげな表情になり、口角を上げながら各々の武器を構える。通信機から、高台にいるギアの声が聞こえる。
「ここまで来たんだ⋯⋯もうちょい付き合うぜ」
ナハトはアテネ、ゼーレ、そして全員の顔を見てから、ファーターへと向き直す。
「じゃあ、派手にやるか。地獄の門番らしくな」
──ファーターが、唸った。
その咆哮が、大地を揺らした。
そして、ホロウレイダーたちは、死地のど真ん中で立ち向かう。誰かの未来を繋ぐために──。
「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?
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時間をかけてもいい。どっちも書け