ファーターの咆哮が空気を裂き、次の瞬間には地にいた無数のエーテリアスを爆風のように吹き飛ばしていた。巨大な両翼を広げ、滑るような動きで宙を舞いながら、ナハトたちに向かって液化弾を連射する。
「散開ッ! 瓦礫を盾にしろ!!」
ナハトの怒声が響き、仲間たちは即座に反応する。各々が瓦礫や壊れた建造物の陰へと滑り込み、爆風と熱をやり過ごす。
ギアの仲間の一人が怒りに任せて叫んだ。
「んのやろ!」
アサルトライフルをフルオートに切り替え、ファーターへ弾丸の嵐を浴びせる。しかし、漆黒の装甲はほとんど無傷で、その弾幕を意にも介さない。
「ガアアアアァァァ!!!」
ファーターが怒り狂ったように口を開き、エーテルレーザーを解き放つ。狙いはさきほどのホロウレイダー──!
彼はとっさに瓦礫の裏へと飛び込むが、レーザーはそれすら貫通し、肩を焼き貫いた。
「グゥッ!」
苦悶の声に、ナハトが振り返らずに叫ぶ。
「エーテル阻害薬を打っておけ!」
応急処置が始まる中、ナハトは義尾とトンファーを携え、再びファーターへと突撃する。鋭く放たれた一撃がファーターの胴を狙うが──
「──ッ!」
六本の異形の腕がまるで意志を持つように防御に回り、ナハトの攻撃をすべて弾く。むしろ、返す一撃が斜め下から襲い、ナハトの胸元を裂いた。
「ぐっ……!」
防具越しにも響く衝撃と切れ味。鮮血が地面に散る。
(軍用ベストを切り裂くか!)
さらなる追撃がナハトを襲う。
「させん!」
だが、ファーターの背後から、両腕にパイルバンカーを装備したホロウレイダーが奇襲を仕掛ける。振りかぶった両腕のパイルが炸裂音を立てて、ファーターの背を狙う。
だが──
ファーターの羽が唐突に広がり、暴風のような衝撃波を巻き起こす。
「──ッ!?」
ホロウレイダーの身体は宙を舞い、数メートル先の瓦礫に叩きつけられた。
「グフぉ⋯っ!」
ホロウレイダーは内臓を痛めたのか、吐血する。
「いい加減っ!」
ゼーレとアテネが、ファーターの足元を狙って攻撃を加える。ゼーレは鉄柱で膝関節を打ち抜こうとし、アテネはテルミット斧で足の関節部を焼き切ろうとする。
「くたばれ⋯⋯ファーターッ!!」
「せめて脚部を──!」
しかしファーターは、液化弾を乱射しながら足元を制圧。アテネの斧が弾かれ、ゼーレの攻撃も届かずに跳ね返される。だが、その隙にナハトが中心にあるコアに狙おうとする。
——しかし
「兄貴ッ!」
警戒の声が飛ぶが──遅かった。
ファーターの爪が巨大化し、空気を裂いて迫る。質量を帯びたその斬撃が、ナハトの右脇腹を切り裂いた。
「がっ……!」
血が吹き出す。ナハトは転倒しながらも必死に姿勢を保ち、地面を蹴って後退する。
全員が血を流し、今までの戦いと疲労と傷で限界が近い。だがそのとき──
「──まだ⋯⋯まだだ! まだ終わっちゃいない!」
アサルトライフルとスタンガンを装備したホロウレイダーが、ミリタリーリュックを開けながら立ち上がる。
「こんなときのために温存してたんだ。とっておきだぜ!」
リュックから取り出されたのは、柄つきの手榴弾であった。それを幾つも束ねて、絶大な威力にした収束手榴弾。軍の戦闘ロボットですら、一撃で行動不能にできる代物である。
「くらいやがれェェ!!」
ホロウレイダーが全力で手榴弾を投げつける。それに気付いたファーターが、腕を振り上げ、空中でそれを打ち払う──!
「クソッ!」
──だが、その軌道の先に、アテネがいた。
「返すぜ! クソ野郎!!」
跳ね飛ばされた手榴弾を、アテネが跳躍と共に蹴り返す。そのまま弾丸のように軌道を変えた手榴弾が、ファーターの顔面目前で炸裂した。
轟音と光が一瞬、戦場を包んだ。
「今しかない!」
ナハトの叫びに、全員が反応する。
ギアが高台から頭部に向けて徹甲弾を連射、さらに怯ませる。そして、ナハトとゼーレ、アテネ、そして他のホロウレイダーたちが傷だらけの身体で一斉に突撃。
トンファー、斧、鉄柱、義尾、鉈、スタンガン、パイルバンカー──
すべての一撃が、ファーターの胸部の露出したコアを貫いた。
「うおおおおおおおおお!!」
雄叫びと共に、コアが軋むような音を上げ、輝きを失いかけた──
──が。
突如、ファーターが体内から衝撃波を放つ。
「ッ!!」
風圧ではない、質量のある衝撃波。そして、六本の爪が円を描くように回転し、周囲をなぎ払う。
まるで地面ごと引き裂かれるような音が響き渡った。ファーターの全身から放たれる衝撃波が、波動のように周囲へと広がり、数十メートル圏の地面をえぐる。さらに、六本の爪が高速で旋回しながら周囲を切り裂くように放たれた。
「全員伏せ──っ!!」
ナハトの叫びが届く間もなく、咄嗟に身を伏せた者たちの頭上を、暴力的な風と金属の爪が唸りをあげて通過する。遅れた者は、瓦礫ごと吹き飛ばされる。
「がッ!!」
斜め後方にいたホロウレイダーの一人──先ほど収束手榴弾を投げた男だった──その胸元を、爪の一閃が貫いた。
戦闘ベストごと肉を裂かれ、男の身体は宙に浮く。そしてそのまま、音もなく地面へ落ちた。胸部は半ば抉れ、もはや生存の望みはない。
「っ、ウソだろ⋯⋯!」
アテネの瞳が震える。
「くそっ⋯⋯あいつを倒せなきゃ!」
ファーターは傷つき、コアの輝きも鈍っている。それでもなお、確かに“生きている”。鋭い眼光が、周囲を睥睨する。
コアを突き刺したナハトも、トンファーを杖代わりに片膝をつきながら立ち上がる。血が顎を伝い、肩は深く裂けていた。
「⋯⋯これで、倒れねぇってのかよ」
ギアが歯を食いしばる。高台から見下ろすその目に、悔しさと焦燥が滲んでいた。
「諦めるな!!」
立ち上がったナハトが声を張る。
「全員、もう一度仕掛けるぞ!」
仲間たちは、一様に傷を負っていた。今まで戦いで負った傷と疲労で立つのもやっとだ。それでも、誰一人退こうとはしなかった。
──この怪物を、ここで止めなければ。
──仲間の死が、無駄になる。
——今まで死んだ者が無駄になる。
「ギア、コアをもう一度狙え! 全員、短期決戦だ! ヤツのコアを狙うぞ!」
「了解ッ!」
ギアが狙撃姿勢に入り、照準をコアへと定める。ゼーレとアテネが左右からファーターの注意を引き、ナハトは展開した義尾で脚部を絡め取ろうと接近する。
戦場が、再び動き出した──。
「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?
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時間をかけてもいい。どっちも書け