最後の力を振り絞り、ナハトたちはファーターに対して猛攻を仕掛ける。対するファーターも、コアを損傷し六本あった腕は三本にまで減った。
戦場に、最後の気迫が満ちる。
全員が満身創痍。それでも、希望というにはあまりにも脆い光を信じて、死の淵に立つファーターへ突撃する。
ナハトは駆けながら、倒れたホロウレイダーの鞄に目を止めた。その中には、偽装用に包まれたままのエーテル爆薬がひとつ──
「⋯⋯これだッ!」
ナハトは即座に鞄を引き裂き、爆薬を取り出す。そして、手にした炸裂刺突トンファーにそれを巻きつけ、即席の“特攻兵装”と化す。
《一撃で、終わらせる──!》
その姿を見て、仲間たちも意図を悟った。
「兄貴を通せぇぇぇッ!!」
アテネが絶叫しながら前進し、電熱斧でファーターの足元を斬りつけ、足止めを仕掛ける。
「くっ⋯⋯持ってくれよ⋯⋯俺の命」
ギアも、血まみれの顔で銃を構え、ファーターの視線を引きつけるように頭部に向けて連射を始めた。
ナハトが走る。義尾で迫る液化弾を弾きながら、一直線に敵のコアを狙って。
ファーターも黙ってはいない。残る三本の腕のうちの一本が、槍のようにナハトへと伸びる。
「──させるかッ!!」
その瞬間、パイルバンカーを装備したホロウレイダーが飛び出し、ナハトの盾となる。
グシャッ!!
鈍い音とともに、爪がホロウレイダーの胸を貫いた。
「⋯⋯っは、ガッ、まだだ⋯⋯まだ終わらねぇ⋯⋯!」
その男は最期の力で、パイルバンカーの発射機構を作動させた。
ズドォンッ!!
ファーターの腕が、爆裂と共に吹き飛んだ。
「⋯⋯じゃあ⋯な⋯⋯倒せよ」
パイルバンカーを装備したホロウレイダーはナハトに微笑み、そして地面へと倒れ動かなくなる。
「ああ⋯⋯ここまで、ありがとう」
残る腕は二本——
「うおおおおおおおッ!!」
アテネが、最後の気力を振り絞ってテルミット投斧を手に突撃する。
既に片腕を失い、胸部にも大きな傷が入っている身体。
だが──彼は止まらない。
燃え盛る斧が、ファーターのもう一本の腕に命中。肉が焼け、装甲が崩れる。
「今だ、ゼーレッ!!」
「フゥッ!!」
ゼーレの鉄柱が唸りを上げ、その焼けただれた腕にフルスイング。
ゴシャッ!!
腕が、吹き飛んだ。
──だが。
次の瞬間、ファーターの最後の腕から放たれた液化弾が、アテネの胸部を直撃した。瓦礫すらも粉々にする威力の攻撃、防弾ベストでは防げない。
灼熱の爆発。血と肉の破裂。
アテネの身体が、宙を舞った。
──彼は、ナハトのほうを振り返る。
笑っていた。
「兄貴⋯⋯あとは⋯⋯任せたぜ」
その言葉を遺して、アテネは崩れ落ちた。
「ああ⋯⋯先に地獄で待っててくれ」
ナハトはファーターへと向き直り、大きく息を吸って叫ぶ。
「ファーター!!!!」
ナハトの視界が、紅く染まる。
義尾の力を全開放し、瓦礫を蹴り飛ばし、空を裂き、ファーターのコアへと突撃する。
全身が破壊されようが構わない。痛みなどとうに通り越している。
戦場の空に、音もなくエーテル粒子が渦巻く。
ファーターが最後の一本の腕を高く掲げ、空を指すように展開した瞬間──
無数のエーテルレーザーが、再び降り注いだ。
「──ぐッ!!」
ゼーレが、立ちはだかる。
鉄柱を盾のように構え、全身に降り注ぐレーザーの直撃を浴びながらも、倒れない。焼け爛れた皮膚からは煙が上がり、鉄柱は灼け、骨の奥まで焼かれていく。
それでも、ゼーレは一歩、また一歩と、前へと。
「俺の命なんぞ⋯⋯とうに売り払っている!!」
最後の力を振り絞り、鉄柱を思い切り振るう。
──ゴシャァァッ!!
ファーターの最後の一本の腕が、破壊され、吹き飛んだ。
そして、背中から重十字ライフルを引き抜く。
「兄者ァァァァッ!!」
ゼーレの叫びとともに、撃ち放たれた弾丸が、ファーターの胴体を撃ち抜いた。装甲が裂け、内部の器官が崩れ落ちる。
全てを終えたゼーレは、その場に膝をつき、崩れ落ちる前に、かすれた声で呟いた。
「兄者⋯⋯任せた⋯⋯」
そして、動かなくなった。
──残るは、ナハトただ一人。
迫るエーテルの余波。
ナハトは、爆煙の中を駆ける。
義尾で地面を蹴り、飛来するレーザーを弾き、時に避け、時に焼かれながらも進む。液化弾が肩と腹を撃ち抜き、防弾ベストが砕けるが、それでも足は止まらない。
「うぉおおおおおおッ!!」
だが、そこに一閃。
ファーターの膝が動いた。最後の機能として残っていた、損傷した脚部。それが、ナハトの行く手を阻もうと動いた瞬間──
「まだだァァァッ!!」
ギアだった。
傷だらけで大量出血で震える体を、建物の影から無理やり引きずり出し、震える指でライフルの炸裂弾を装填する。
血で滲んだ視界の中で、照準を一点に絞る。
「テメェなんざ⋯⋯一発あれば十分だァァァ!!」
──発射。
ズドォン!!
炸裂弾がファーターの足元を砕いた。
金属音とともに、損傷した脚部がもげ、ファーターの巨体がわずかにバランスを崩す。
それが、ナハトにとって唯一の“突破口”となった。
「ナハト⋯⋯頼むぜ」
ギアは通信機越しに、かすれる声で言った。
「みんなの命も、全部背負ってる。お前しか、もう、いねぇ⋯⋯」
そのまま、ギアは銃を手から落とし、静かに瞼を閉じた。
ナハトの視界が、涙で滲む。
その涙すら蒸発するような熱の中で、ナハトは雄叫びを上げる。
「ファーターアアアアアアアッッッ!!」
液化弾が腹を貫く──それでも進む。
焼けただれた右腕に、炸裂刺突剣を構えたまま。
瓦礫を飛び越え、義尾でバランスをとりながら、空を裂いて一直線にコアへと突撃する。
「終わりだァァァァァッ!!!」
──ガッ!!
炸裂刺突剣が、ファーターのコアに深々と突き刺さる。
ファーターの両目が、大きく開かれる。
その瞬間、ナハトはスイッチを押し込んだ。
「爆ぜろ──“全部”だッ!!!」
刹那。
エーテル爆薬が反応し、コアの奥深くで大爆発が起きた。
──ゴォォォォォォオオオオオオンッッ!!
凄まじい光と衝撃があたり一帯を包み、廃墟の街に“夜”のような巨大な閃光が走った。
高熱、爆風、火花、そして──沈黙。
地面が抉れ、ビルの壁面が崩壊し、空すら赤黒く染まるような衝撃波が数秒続いた。
やがて、そのすべてが収まったとき──
ファーターの身体は、胸部から上が消失し、足元の残骸だけを残して動きを止めていた。残った体がエーテル粒子となり、徐々に消えてゆく。
ナハトの姿は、瓦礫の中に埋もれていた。
——微かに、胸が上下していた。
まだ、生きている。
皆の命を背負い、ギリギリの命で、勝ち取った勝利だった。
──終わった。
終わらせたのだ。
仲間の“命”を手に。
その静寂の中で、ナハトはゆっくりと目を開けた。
「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?
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時間をかけてもいい。どっちも書け