旧都陥落の日・Another   作:IamQRcode

42 / 48
雲嶽山
あの日のことを


 

 

「お師匠様ー!」

 

「⋯⋯福福か。どうした?」

 

 適当館の縁側で儀玄は雲一つない、空を眺めていた。どれほどの時間を過ごしていたか、元気な弟子の声で夢から覚めるように、意識が戻る。

 

「潘さんが昼ご飯とのことです!」

 

「そうか⋯姉様を連れてすぐに向かう。先に行っててくれ」

 

「はい!」

 

 そう言うと、福福は軽い足取りで食堂へと向かった。

 

「⋯⋯十一年か」

 

 数多の死者を出した、旧都陥落事件と呼ばれるあの日から十一年の月日が経った。

 

 あの日の夜、旧都と新エリー都は式與の塔の爆破で分断された。ゼロ号ホロウの拡大は防いだが、軍先遣隊と治安局は軍主力の増援が来なかったため、数多の死者を出して壊滅した。

 

 私たちを守る為に戦ったホロウレイダーも、結局誰一人としてゼロ号ホロウから出てくることはなかった。アテネもゼーレも、そして兄様も⋯⋯誰も新エリー都に来ることはなかった。

 

 あの夜、私と姉様は泣いた。

 

 一生分の涙を流したのではないかと言うほど、泣いて過ごした。

 

 それでも、動かなければいけなかった。

 

 新エリー都は建設途中で雲嶽山も壊滅してしまった。私と姉様は悲しい気持ちを紛らわすかのように、馬車馬の如く働いた。 

 

 悲しみや喪失を考えれば、立ち止まってしまうと分かっていたからだ。

 

「儀玄⋯⋯」

 

 儀玄が過去のことを思い返していると、背後から声がする。振り返ると、そこにいたのは姉であり雲嶽山宗主の儀降であった。

 

「姉様、すまない。全く気付かなかった」

 

「また、あの日のことを思い出しているの?」

 

「⋯⋯ああ」

 

 二人とも、あの時のナハトと同じくらいの年齢になった。

 

 儀降と儀玄は虚狩りにも匹敵する存在としてもてはやされ、旧都陥落事件の際には治安局の部隊と協力し、数多の市民を助けた英雄とされている。だが、世間が信じるその話の中にホロウレイダーたちは一切、触れられていない。

 

 防衛軍上層部は犯罪者が数多のエーテリアスを倒し、民間人を救出したという事実を真実にしたくなかったのだ。そうすれば、ホロウレイダーを英雄のように扱う者が現れる。

 

 法によって統治されるこの都市で犯罪者が英雄視されるなんて、もってのほかだった。

 

 ナハトたちホロウレイダーの記録は抹消され、この世界に存在しなかったことにされている。

 

「姉様⋯⋯私は今でも思うんだ。週末になれば、兄様やアテネ、ゼーレ、ラプターがこの雲嶽山に顔を出すんじゃないかと」

 

 そう言うと儀玄は適当館の出入り口に顔を向ける。

 

 自分たちが子どもの頃を思い出す。

 

 黄嶺の厳しくも優しい修行でヘロヘロになった所に、ナハトたちが肉まんや冷えた飲み物を持ってやってくる。ゼーレは子どもたちにもみくちゃにされ、アテネは兎耳を触られ、ラプターは子どもたちにぬいぐるみ扱いされる。

 

 思い出せば、あの時間はまるで夢のようだった。

 

 肉まんの湯気の匂い、笑い声、ラプターの低くうなるような抗議の声──すべてが今でも耳の奥に残っている。

 

「⋯⋯でも、もう十年以上よ」

 

 儀降は静かに言った。その声には諦めでも否定でもなく、ただ時の流れを受け入れた人の響きがあった。

 

「わかってる」

 

 儀玄は小さく笑った。

 

「だからこそ、私たちは進まなきゃならなかった。雲嶽山を立て直し、弟子を取り、そして──あの約束も果たした」

 

 儀降は頷く。

 

 二人が心血を注いだのは、雲嶽山の再興だけではない。ナハトが残した言葉──青溟剣を封じる術式を完成させてほしい──その約束が、彼女らを突き動かしていた。

 

「結局、封印の術式を完成させるまで五年かかったな」

 

「ええ。色々と忙しかったから」

 

「⋯⋯完成した時、泣いてたな姉様」

 

「あなたも泣いてたじゃない」

 

 二人は顔を見合わせ、ほんのわずかに笑った。

 

 あの剣は今、雲嶽山の奥深く、誰も足を踏み入れられぬ封蔵庫に眠っている。だが、剣を見つめた最後の瞬間、儀玄は確かに感じた──あの冷たい青が、ほんのわずかに揺らぎ、安らぎを帯びたことを。

 

「さて、食堂に向かおうか姉様」

 

「そうね」

 

 二人は揃って弟子たちが待つ食堂へと向かった。

 

「そういえば、市長さんから紹介されていたアキラくんとリンちゃんはどんな感じだった?」

 

「良さそうだ。一応、名目上は雲嶽山の弟子として受け入れようと思う」

 

「そう。なら良かった」

 

「明日、私が迎えに行く。飛行船で戻って来るつもりだ」

 

「わかったわ。気をつけてね」

 

 ランマニアホロウの調査、これは衛非地区に住む全ての者に関わるものだ。

 

 ここ、衛非地区は旧都陥落を生き延びた者たちが多くいる場所であり、彼らにとって第二の故郷でもある。そして、多くの者がランマニアホロウで取れる輝磁に関わる仕事をしている。

 

 そんな、ランマニアホロウで最近、異常な数値データがで始めているのだ。

 

 それの原因を解明するためにも、プロキシであるアキラとリンと共に雲嶽山は共にランマニアホロウの調査を行うことにした。

 

「まあ、何とかなるだろう」

 

 儀玄はそう言って、姉と共に食堂へと入って行った。

 

 

 

 

 

「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?

  • シルバー小隊を率いる若き指揮官の話
  • アストラの幼馴染でイヴと共に彼女を守る話
  • 時間をかけてもいい。どっちも書け
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。