旧都陥落の日・Another   作:IamQRcode

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見えざる手

 

 儀玄は翌日、六分街に行きアキラとリンと合流した。

 

 そして、リンが先に儀玄と共にメインフラワーが用意した飛行船で衛非地区へと向かうことになった。だが、ランマニアホロウ上空に差し掛かった時、突如として飛行船に大きな衝撃が来たかと思えば、火を上げてホロウ内に落下したのだ。

 

 リンが目覚めると、そこには飛行船の残骸が散らばり、奇妙な植物のようなものが生えているホロウの中であった。

 

「あいたた⋯⋯」

 

 リンは頭に手を当てながら立ち上がる。

 

 空間の裂目に落下した影響で衝撃は軽く、怪我をせずに済んだものの儀玄と逸れてしまった。リンは最近、ホロウに入れるようになったが、戦闘能力は皆無と言っていい。

 

「早く師匠と合流しないと」

 

 こんな状態でエーテリアスに襲われたら、ひとたまりもない。リンは通れそうで安全な道を警戒しながら進んでゆく。

 

「それにしても⋯⋯もしかして、これが資料にあったミアズマってやつ?」

 

 リンの目の前には不気味な色をした、植物らしきものがあった。

 

「⋯⋯離れておこ」

 

 よくわからないものに、触れないに越したことはない。

 

 リンはミアズマを避けて、通れる道を進んでいると突然、目の前にエーテリアスが複数現れる。

 

「嘘ッ!」

 

 逃げるにしても、足の速いハティがいるため追いつかれてしまう。かといって、戦う手段はない。エーテリアスはリンに襲いかかる。

 

 リンは目を閉じ、もう駄目だと思った瞬間だ。

 

 

 ——パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 乾いた銃声が立て続けに響く。

 

 次の瞬間、目の前に迫っていたエーテリアスたちの動きが、糸が切れたように止まった。黒い霧を散らしながら、地面に崩れ落ちていく。

 

 リンは呆然と立ち尽くし、ゆっくりと目を開いた。

 

「な⋯⋯え?」

 

 辺りを見渡す。

 

 だが、崩れた瓦礫の影にも、ミアズマの向こうにも、人の気配はない。銃声の主らしき姿はどこにも見当たらなかった。

 

 ただ、耳の奥にまだ銃声の余韻が残っている。

 

 ──助かった。

 

 安堵と同時に、膝の力が抜ける。リンはその場にしゃがみ込み、大きく息を吐いた。心臓がまだ早鐘のように打ち続けている。

 

 しばらくして──。

 

「リン!」

 

 聞き慣れた声とともに、儀玄が駆け寄ってきた。

 

「無事か? 怪我はないか?」

 

「だ、大丈夫⋯⋯」

 

 儀玄は辺りに散らばったエーテリアスの残骸に目をやり、眉をひそめた。

 

「⋯⋯リン、お前さん戦闘の心得があったのか?」

 

「違うの。急に銃声が聞こえたかと思ったら、エーテリアスたちが倒れてて」

 

「銃声?」

 

「うん」

 

 儀玄は辺りを見渡すが、自分たち以外に人の気配は感じられない。つまり、リンを助けたのは遠方からの狙撃、もしくは近くにいるが気配を消すのが得意な者の可能性もある。

 

「それにしても、まさか急に飛行船が落ちるなんて」

 

「そのことだがな。飛行船の残骸を調べたら撃たれた痕跡があった」

 

「じゃあ、誰かが私たちの飛行船を意図的に落としたってこと?」

 

「そういうことだ」

 

 メインフラワーの用意した飛行船を落とせる対空装備を持っている。少なくとも、そこらのホロウレイダーの仕業ではない。

 

「もしかして、さっきの狙撃の主が?」

 

「どうだろうな。だが、それだとしたらお前さんを助ける理由がわからん。それに、その者が犯人なら、今この時も私やお前さんを撃つはずだ」

 

 飛行船を落とすということは、中にいる者も殺そうとしていたということだ。つまり、狙撃でエーテリアスを倒した誰かと飛行船を落とした犯人は別人ということになる。

 

「まあ、お前さんが無事であることに比べたら、心底どうでも良いがな」

 

 儀玄は軽くため息をつく。

 

「連中の正体は遅かれ早かれ、明らかにするとしてまずはホロウから出よう」

 

 そう言うと儀玄はキャロットを取り出す。

 

「こっちだ」

 

「ねえ師匠、キャロットの使い方は雲嶽山で教えてもらったの?」

 

 リンが、儀玄が軽やかにキャロットを操る様子を見て首をかしげる。

 

「まあな。雲嶽山はホロウの調査もやってるから、探索のための技術や道具の扱いも教えてくれるんだ」

 

 儀玄は淡々と答え、ホロウの脱出経路を進んでゆく。

 

「へえ⋯⋯じゃあ、誰に教えてもらったの?」

 

 何気ない問いだったが、儀玄の手がわずかに止まった。

 

 ほんの一瞬の沈黙。

 

 だが、その間に何か重たいものが通り過ぎた気がして、リンは小さく瞬きをした。

 

「……自分を助けてくれた人の一人だ」

 

 儀玄は短くそう告げると、すぐに前を向き、キャロットを走らせた。

 

「さあ、出口を探すぞ」

 

 二人はホロウの歪んだ地形を進み、やがて薄く光が漏れる空間の裂目を見つける。儀玄が先に様子をうかがい、リンにうなずいた。

 

「行くぞ」

 

 裂目を抜けた先は、潮の匂いが強く漂う海岸だった。

 

 波が静かに砂を洗い、遠くには小さな漁船が浮かんでいる。

 

「⋯⋯衛非地区から、かなり離れてるな」

 

 儀玄が眉をひそめたその時、沖の漁船がこちらに向かってくる。

 

 先頭に立って手を振っているのは、長い髪を後ろで束ねた女性──儀玄の姉、儀降だった。彼女は船べりに立ちながら、笑みと共に大きく声を張る。

 

 

 

 

 

「旧都陥落の・Another」を書き終えてからの話なので、かなり先になりますが、他にもゼンゼロ小説を投稿しようと思っています。皆さんはどちらを見たいですか?

  • シルバー小隊を率いる若き指揮官の話
  • アストラの幼馴染でイヴと共に彼女を守る話
  • 時間をかけてもいい。どっちも書け
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