雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第十一章 ゾルディックの牙

石段を登りきり、朽ちた鳥居をくぐると、そこには風にさらされた木造の寺が静かに佇んでいた。

だが、外見の静寂とは裏腹に、空気は異様な重さを孕んでいた。

 

「……これはもう、“特級”と見て間違いないでしょう。」

 

七海の声は低く、重かった。

キルアもまた、肌にまとわりつくような“呪い”の気配に眉を寄せる。

 

「……なるほどね。たしかに、今までとは全然違う。」

 

「私が先に入ります。あなたは後方で待機を。」

 

七海は鉈を手に、足音もなく本堂の扉を押し開いた。

 

ギィィ……という重い音と共に、暗闇が口を開く。

 

その中に、ソレはいた。

 

巨大な肉塊のような異形の存在。

四つの腕、縫い合わされたような口元、背には何かの霊的遺骨のような装飾を纏い、呻き声のような低い音を発していた。

 

「――ッ!」

 

七海が踏み込み、十劃呪法で接近戦を仕掛ける。

 

一撃、二撃。

手応えはある。だが――

 

バシュッ!!

 

「ッ……!」

 

横薙ぎに振るわれた腕が、まるで槍のような速度と重さで襲いかかる。

七海は間一髪で身を翻したが、頬に鋭い切り傷が走った。

 

「……耐久力が異常だ。単発での致命打は望めない。」

 

七海は冷静に判断し、足を踏み直す。

だが、呪霊はすでに彼の動きを“学習”し始めていた。

 

十劃呪法を予測し、腕を盾にする。影のような腕が伸び、七海の回避動作に先回りする。

 

バンッ!

 

「……ッぐ!」

 

回避しきれず、七海の腹部に直撃。スーツの内側に仕込んだ防具で致命傷は避けたが、衝撃で一瞬膝をつく。

 

「七海!」

 

キルアが叫ぶよりも早く、呪霊が跳躍した。

 

質量の塊が七海へ降りかかる――!

 

「……チッ!」

 

その瞬間、銀光が駆ける。

 

バシュウゥッ!!

 

“音”と“影”が入れ替わるように、キルアが七海の前に割って入る。

目にも止まらぬ速さで呪霊の巨体の懐に潜り込み、電光のごとき蹴りを叩き込んだ。

 

ズガァンッ!!

 

呪霊の巨体が数メートル吹き飛び、木造の柱をへし折って壁にめり込む。

 

「大丈夫?」

 

キルアが七海を見下ろし、手を差し伸べる。

 

「……ええ。感謝します。」

 

七海は立ち上がりながら、内心で圧倒された。

 

(……反応速度も、威力も……まるで常識の外だ。)

 

キルアはゆっくりと呪霊に近づく。

 

「こっからは本気出すよ。試すにはちょうどいい相手だ。」

 

彼の身体から、淡く青白い“電気”が立ち上る。

髪が逆立ち、足元からバチバチと雷光が走る。

 

「“神速”――俺の中でも最速のやつ。」

 

キルアの目が射抜くように細まる。

 

呪霊が怒り狂って襲いかかる。

だが――キルアの姿が、消えた。

 

バッ!

 

一歩、前。

 

ドゴォ!!

 

二歩、右。

 

メキッ!!

 

三歩、背後――

 

ズバァッ!!!

 

四歩目にはもう、呪霊の膝が崩れ落ちていた。

 

「……触れれば潰せる。位置取りとタイミングさえ合えば、あとは握るだけ。」

 

キルアは呪霊の背に乗り、そのまま右手をその頭に当てる。

 

「じゃ、これでおしまい。」

 

――バチィィン!!!

 

直撃の雷撃が、呪霊の脳内に一瞬で走った。

火花を散らし、肉が焼ける臭いが辺りに漂う。

 

呪霊は断末魔の声すら発する間もなく、内側から崩れていった。

 

しばらくして、静寂。

 

その場には、まだ薄く煙る黒焦げの肉塊だけが残されていた。

 

「……終わったね。」

 

キルアが力を抜き、手をぶらぶらと振った。

 

七海は数歩後ろからその背を見つめたまま、呟くように言う。

 

「……異常な才能です。」

 

キルアは肩をすくめるように振り返った。

 

「まぁ、元の世界で色々あったからね。」

 

「それでも……これほどとは。」

 

「正直、こっちの世界での戦い方、だいぶわかってきた。」

 

七海は無言で頷いた。

 

(この少年は――)

 

(“呪術”の枠組みに属していないにもかかわらず、これほどの応用力を発揮する。)

 

(しかも、まだ十二歳だというのに……)

 

「じゃ、戻ろっか。あの伊地知って人、ずっと一人で待ってるんでしょ。」

 

軽く笑いながら歩き出すキルア。

 

その背中は年齢を忘れさせるほどに、静かで堂々としていた。

 

七海は静かに言葉を返す。

 

「……ええ。戻りましょう。」

 

“異世界から来た暗殺者”は確かにここに存在していた。

そして――

その力は、すでに“特級”すら脅かす域に達していた。

 

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