特級呪霊の討伐から数時間後。
東京都立呪術高等専門学校――通称、呪術高専。
午後の陽射しが差し込む校舎の一角。
一台の黒いセダンが正門を通り抜け、校庭の端に停車した。
「お疲れ様でした。」
伊地知が言うと、助手席から七海が、後部座席からキルアが降りる。
「ふぅー……戻ってきたか。」
キルアは両腕を大きく伸ばしてから校門を見上げる。
「結構時間かかったな。」
「特級相当に成ってましたからね。」
七海は淡々と応じながらも、横目でキルアを見る。
(この少年の“規格外さ”は、想定を大きく超えていた。)
「さて……報告に行きましょう。」
校内へ入った二人は、そのまま本館へ向かう。
ちょうどそこに、虎杖・伏黒・釘崎の1年ズが集まっていた。
「あ、帰ってきた!」
先に気づいたのは虎杖だった。手を振って駆け寄ってくる。
「おかえりー! どうだった!? 呪霊ってどんな感じだった!?」
「お前、テンション高すぎ。」伏黒が言いながらも近づく。
釘崎も腕を組んだまま興味深げにキルアを見る。
「生きて帰ってきたってことは、無事だったってことよね?」
キルアは飄々と笑いながら答えた。
「うん、余裕だったよ。」
「……マジで?」
虎杖が目を見開いた。
「七海もいたけど、途中から俺が全部やっちゃった。さすがに数が多かったからさ。」
「全部……?」伏黒が思わず確認する。
「特級もだよ?」
一瞬、空気が止まる。
「特級、って言ったか?」釘崎が眉を上げた。
「うん。デカくて、動きも早くて、七海も結構苦戦してた。けど、俺がやった。」
「……お前、ほんとに12歳か?」虎杖がぽつりと漏らす。
「でしょ?」キルアは肩をすくめながら笑う。
そのとき、廊下の向こうからあの声が届いた。
「おかえり~、キルア、七海♪」
黒の教師服に目隠し――五条悟が現れた。
「お、先生。」
キルアが振り返る。
「特級相当の呪霊、討伐完了とのことで。いや~、見事見事。七海~、レポートよろしくね~」
「……わかっています。」
七海は疲れたように肩を落とした。
五条はそのままキルアの前に屈み込み、目隠しの奥の瞳をじっと見透かすように言った。
「ほんとにすごいね、君。」
「……そう?」
「うん。この世界のルールを知らないはずなのに、適応が異常に早い。しかも、自分の能力を必要に応じて開示して、信用も得ようとしてる。大人でもできないよ、そんなこと。」
キルアは少し口を尖らせた。
「子ども扱いされるの、好きじゃないんだけど。」
五条は笑った。
「ごめんごめん。じゃあ一人の術師として言おうか。“その力、どう使うかは君次第”だって。」
「……どういうこと?」
「この世界の“呪術”は力がすべてじゃない。どこに属するか、誰と動くか、なにを守るか……その選択が、未来を左右するんだ。」
キルアは一瞬黙ったあと、言った。
「今はまだ、この世界で何をしたいか決まってない。けど、ここにいる奴らは嫌いじゃないし……しばらくは、見てみたいかな。」
「うん、それでいい。それが一番大事。」
五条は優しく言い、肩をポンと叩いた。
釘崎が呆れたように言う。
「なんか、先生と話すとみんな一気に話がでかくなるのよね……」
「ほんとそれな。」虎杖が頷く。
「とりあえずさー、帰ってきたんなら祝勝会しようぜ!」とノリのいい声を上げる。
「ケーキ食べたい!」と釘崎。
「俺は……ジュースでいい。」伏黒。
「えー! じゃあ、俺はからあげ!」と虎杖。
その賑やかな会話の中で、キルアはふと呟いた。
「……悪くないかもな、この世界も。」