春の名残がまだ空気に残る午後、東京校の訓練場に軽やかな足音が響いていた。
少し大きめのリュックを背負い、水色のロングヘアーが揺れる。
京都校の三輪霞が、遠征訓練のため東京校を訪れたのだった。
「うわぁ……さすが東京校。広いし、なんか明るい……」
肩の力が入りすぎないよう、深呼吸をして門をくぐる。
その先で見慣れない少年が、自販機の前で飲み物を物色していた。
銀髪、シャープな目元、どこか猫のような雰囲気。
青いタートルネックのロングTシャツの上に薄紫のシャツを重ね着し、下は動きやすそうな藍色のハーフパンツジャージを着用している。
制服でも私服でもない、不思議な装い――
「あれが……」
三輪は思わず立ち止まり、小さく息をのんだ。
(あの子が、噂の……“キルア=ゾルディック”!?)
関西にも噂は届いていた。
「異世界から来た子」、「特級相当の呪霊を討伐した十二歳の少年」、「五条悟が一目置く存在」――
しかし、想像していた人物像とは違っていた。
もっと大人びていて、冷たい印象かと思いきや、今は缶コーラの味に舌鼓を打ちその炭酸に目を細めている。
(……かわいい)
不意に胸がトクンと鳴った。
その瞬間、キルアが視線に気づいて振り返った。
「……誰?」
あまりに率直な言葉に、三輪はドキッとしてしまう。
「えっ、あ、えっと、わたし、京都校の――」
「三輪霞だ。」
隣から声が入った。伏黒が歩いてきて、簡潔に説明を入れる。
「京都校二年。居合の術師。今回の遠征訓練でこっちに来てる。」
「ふーん。」
キルアは缶を持ったまま、三輪を一瞥する。
「よろしく。」
「……よ、よろしくお願いします……!」
小さく頭を下げる三輪。鼓動の高鳴りは、まだ静まらない。
その後、本館前に全員が集められ、遠征期間中の部屋割りが貼り出された。
それを見た直後、虎杖が叫ぶ。
「うおっ!? キルアの部屋、三輪さんの名前と同じになってるぞ!?」
「え……?」三輪が振り向く。
貼り紙を確認すると、確かに――
「201号室:三輪霞・キルア=ゾルディック」
伏黒が眉をしかめた。
「……五条先生の手違いか?」
案の定、数分後――
「いや〜ごめんごめん、手ぇ滑った☆」
五条悟が現れて軽く手を上げる。
「今回の遠征で三輪ちゃんが使う予定だった部屋キルアにあげちゃってさ。他の部屋全部物置だったから……キルア、その部屋、二人で使ってくれない?」
「は?」
三輪は顔を赤くして言葉を詰まらせた。
「どうせ遠征の事忘れてたんでしょ…」
釘崎がため息混じりに言う。
「五条先生、それはちょっと……!」
伏黒が一歩前に出る。
「大丈夫大丈夫。何かあったらすぐ僕が帳で仕切るし♪」
キルアは面倒くさそうにそのやりとりを眺めていたが、やがて肩をすくめ三輪を見ながら言った。
「……そっちが嫌じゃなければ、俺は別にいいよ。」
そのあまりに素っ気ない、だが自然体な返事に、三輪は顔を真っ赤にして俯いた。
「え、えっと……私も、だ、大丈夫です……あ、あの……問題ないです……!」
虎杖が楽しそうに横から茶々を入れる。
「おぉ〜、まさかの男女同部屋!?」
「黙れ。」伏黒が一蹴。
釘崎も面白がりながら言う。
「ま、三輪ちゃんなら変なことになんないでしょ。むしろキルアの方が可愛いし。」
「……それ、フォローか?ってか俺はかわいくねーよ。」
キルアはコーラをもう一口すすってから、誰にともなくぽつりと呟いた。
「……あぁ、なんかまた面倒なの始まりそうだな……」