雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第十四章 ふたりきりの夜、ひとつの部屋で

夜九時。

訓練を終え、食事も済ませた後、校舎の一室――201号室の扉がゆっくりと開かれた。

 

「ふぅ……ただいま。」

 

キルアがスリッパを脱ぎ、部屋へと入る。

その少し後ろを、三輪霞が静かに続いた。

 

「お、お邪魔します……」

 

部屋は畳敷きの作りで、シンプルな木製ベッドが二つと、勉強机が一つ、押し入れとクローゼット、小さな冷蔵庫、そして窓の外には竹林。

 

キルアは窓際のベッドに腰を下ろす。

三輪は鞄をそっと押し入れの端に置き、遠慮がちにもう一方のベッドの前に座った。

 

「……ほんとに、ごめんなさい。まさか、同じ部屋になるなんて思ってなくて……」

 

「別に気にしてないよ。」

 

少しの沈黙。

 

三輪が不意に口を開ける。

 

「キルア君って…ゾルディック家、なんですよね。」

 

キルアが驚いたように三輪を見る。

 

「知ってんの?」

 

「う、うん……話はちょっと。東京校からの噂で聞いたことあるだけですが…」

 

「へぇ……」

 

キルアは少し視線を落とした。

 

「まぁ、そんなにいい話じゃないよ。訓練ってより、処理とか暗殺とか、そういうのばっかだったし。」

 

「……」

 

三輪はその言葉に、軽々しく返せる言葉が見つからなかった。

けれど、なにか言いたくて、少しだけ勇気を出して口を開いた。

 

「でも……優しいんですね。キルア君って。」

 

「……は?」

 

“君”付けで呼ばれたことに違和感を感じたキルアが振り返る。

そしてふっと、笑う。

 

「やっぱ、“くん”付けは落ち着かないや。」

 

「えっ、ご、ごめんなさい……!」

 

「いいって。でも、キルアでいいよ。年齢とか、気にしないから。あと、タメ口でいいよ。」

 

三輪は目を見開いたあと、小さく頷いた。

 

「……じゃあ、キルア。」

 

その名前を声に出した瞬間、彼女の胸がまた、ふわりと熱を持った。

 

「ねぇ、三輪はさ。何で呪術師になったの?」

 

不意に問いかけるキルア。

 

三輪は窓の外を一度見てから、ゆっくりと答える。

 

「……初めは、なりたくてなったってわけじゃないよ。私の家、弟も二人いて裕福じゃないし……学費が免除になるって聞いて、呪術高専に入った。」

 

「……ふーん。」

 

「でも、今はちゃんと術師として戦いたいって思ってる。誰かの役に立てるなら、それが嬉しいから。」

 

キルアはじっとその横顔を見ていた。

 

真剣で、素直で、どこか危うくて――

だけど、まっすぐだった。

 

「……なんか、いいね。そういうの。」

 

そう呟いて、ベッドにごろんと仰向けになる。

 

天井を見上げたまま、柔らかく続けた。

 

「……俺、さ。この世界の誰かのために生きるって、まだピンとこないんだよね。戦う理由とか、誰かを守るとか……」

 

「でも、それでもいいと思うよ。今はまだ、それを探してる途中なんじゃない?」

 

「……探せるかな、俺にも。」

 

「きっと、見つかるよ。」

 

三輪の声は静かだった。

でも、どこかに確信を宿していた。

 

「……そうだといいけど。」

 

しばらくの沈黙。

夜の校舎は静かで、風の音と、遠くの車の音だけが聞こえる。

 

「そろそろ寝よっか。」

 

ベッド脇に腰かけていた三輪が立ち上がり言う。

 

「そうだな。」

 

「……キルアは、寝るとき電気つけとく派?」

 

「いや、どっちでも平気。」

 

「じゃ、消すね。」

 

「うん。」

 

パチ、と部屋の灯りが消える。

 

二つのベッドに横たわる気配。

沈黙の中、三輪が小さく息を吐いた。

 

「……キルア。」

 

「ん?」

 

「おやすみなさい。」

 

「……おやすみ、三輪。」

 

夜の帳に包まれながら、二人は静かに目を閉じた。

それは、特別なことは起きない、ただの一夜。

けれど、ふたりの心にとっては、確かな距離の変化をもたらした夜だった。

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