雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第十六章 想定外の脅威、静かなる胎動

廃倉庫の鉄製の扉が、重たく軋みながら開く。

 

中は薄暗く、空気には埃と古びた鉄の匂いが充満していた。

三人は無言で足を踏み入れる。靴音がコンクリの床にコツ、コツと反響する。

 

「気をつけろ。いきなり来るぞ。」

 

伏黒の言葉が終わるのとほぼ同時に、影のように歪んだ気配が床から滲み出た。

 

ぬるり、と現れる異形の姿。

腐敗した皮膚と、醜悪にねじれた骨格――二級呪霊、二体。

 

「早速か。」

伏黒が目を細め、手を印に組む。

 

「玉犬“混”!」

 

その呼び声に応じるように、伏黒の足元の影から現れたのは、鋭い牙と漆黒の毛を持つ獣――玉犬“混”。

 

「おぉ〜!これが言ってたやつか!」

キルアが目を輝かせて口にする。

 

玉犬は唸り声を上げて飛びかかると、一瞬で二体の呪霊の喉笛を噛み砕いた。

血のような黒い液体が床に飛び散り、呪霊は悲鳴を上げる暇もなく消滅する。

 

「かっこいいー。なんか余裕そうだね。」

 

「今のは二級呪霊。まだ本番じゃない。」

伏黒が静かに呟きながら、前方の階段を見上げる。

 

*

 

二階に足を踏み入れると、空気がさらに重くなる。

古びた照明がかすかに灯るが、壁や床の隅々にまで暗い影が溜まっていた。

 

「また来るぞ。」

 

伏黒の言葉と同時に、床が粘るように膨れ、再び呪霊が姿を現す。

今回は三体。歪んだ背骨がカタカタと音を立てていた。

 

「じゃ、次俺がやるわ。」

キルアが一歩前に出る。

 

「えっ!? 三体だよ!? 大丈夫?」

三輪の声がわずかに上擦る。

 

だがその心配を他所に、キルアはふっと姿を消す。

 

――瞬間。

 

「えっ……!?」

 

三輪が目を見開いた次の瞬間、三体の呪霊の首が同時に宙を舞っていた。

銀色の残像がわずかに揺れて消える。

 

「すごい……」

三輪が思わずぽかんと口を開ける。

 

「さ、次行こーぜー。」

キルアは手をポケットに突っ込んだまま、まるで散歩の続きのように歩き出した。

 

伏黒は無言のまま、その背を追う。三輪も遅れてついていった。

 

*

 

二階の奥にある広間を抜けると、さらに上へと続く階段が現れる。

軋む鉄の段を登りながら、伏黒が言った。

 

「この上だな。」

 

三輪は立ち止まり、拳を小さく握る。

(……このままじゃ、何もできてない。わたしも……やらなきゃ)

 

「さっさと終わらせて帰ろーぜー。」

 

キルアは軽い口調で、すでに最後の一段に足をかけていた。

 

*

 

最上階。

天井は高く、窓から差し込む弱い光がホコリを照らしている。

広間の中心には何もない。だが――

 

「……おかしい。気配は確かにここからのはずだ。」

 

伏黒が辺りを見渡す。

 

すると、床の中央がぶくぶくと泡立ち始め、まるで泥のように溶けた空間から、人型の呪霊がぬぅっと現れる。

 

ひとり、またひとり――計二体。

 

異様に長い腕、異常に膨れた頭部。

その身体には、練り込まれたような呪力が渦巻いていた。

 

「マジか……。あの呪力量…術式を使うタイプの呪霊かもしれない。報告にはなかった。」

 

伏黒が歯を食いしばる。

 

「ん?術式が使えるか使えないかって、そんなに重要なの?」

 

キルアが気楽な口調で尋ねる。

 

三輪が緊張した面持ちで答える。

 

「術式を使える呪霊は、等級が一つ――いえ、場合によっては二つ、上がります。つまり、あそこにいるのは……特級相当の可能性があります。」

 

額にはうっすらと汗。

その隣で、キルアは少し首を傾けながら前方を見据える。

 

「ふーん。そうなんだ。」

 

呪霊たちは言葉を持たないが、ただそこに“立っている”だけで、空気を押し潰すような威圧感を放っていた。

 

倉庫の最上階――薄暗く、息苦しいその空間に、三人の術師が静かに構える。

次の瞬間、闘いの火蓋が切られる。

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