雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第十九章 揺れる

廃倉庫の外――

 

帳が上がり、鈍く曇った昼の光が戻ってくる。

 

「お疲れ様です!」

車のそばで待っていた伊地知が、安堵した顔で三人を迎える。

 

「報告と違い、特級相当が二体……」

伏黒が真っ直ぐに伊地知を見据えて言う。

 

「申し訳ありません。現地からの呪力反応に誤差が出たのかと……」

伊地知は額に汗をにじませ、深々と頭を下げた。

 

「まぁ、俺がいたし?無問題でしょ。」

キルアは手を頭の後ろで組みながら、軽く笑ってみせる。

 

その笑顔は、まるでさっきまで特級と戦っていたとは思えないほど、どこか無邪気だった。

 

*

 

車内――

助手席に伏黒、後部座席には三輪とキルアが並んで座っていた。

 

走る車の窓から景色が後ろへ流れていく。

 

(終わった……)

 

三輪は、さっきの戦いを反芻していた。

 

――呪霊の鋭い爪が目前に迫ったあの瞬間。

確実に“終わり”だと感じた、死の恐怖。

それを何の前触れもなく断ち切った銀髪の少年。

 

(あの速さ、反応、判断力、そして強さ……)

 

隣で同じように外を眺めているキルアの横顔を見る。

 

ふと、あのときの感覚が蘇る。

不思議な体温と、真っ直ぐな声――

 

「大丈夫か?立てそう?」

 

ただの一言だったはずなのに。

胸の奥で、ずっと余韻を残している。

 

「……あの。」

 

三輪がぽつりと声を出した。

キルアがそちらを向く。

 

「ん?」

 

「さっきは……ありがとう。ほんとに、助かった……」

 

キルアは数秒、三輪の顔をじっと見てから――

 

「大丈夫だった?ケガとかない?」

 

その問いかけに、三輪ははっと息を呑む。

自分のことより、まず相手の無事を気遣うようなその声に、また胸が締めつけられる。

 

「……ない。平気。」

 

「なら良かった。」

キルアはふっと笑って、また窓の外に視線を戻す。

 

会話はそれで終わった。

だが、三輪の中では何かが確かに動き始めていた。

 

(この人……強くて、優しくて……)

 

彼を見ていると、不安も恐怖も、いつの間にかどこかへ消えてしまう。

それは術式でも何でもなく――ただ、彼という存在そのものが与えてくれる“安心”だった。

 

(……もっと知りたいな、キルアのこと。)

 

*

 

午後――

東京校へ戻った三人。

任務報告は明日でよいと通達があったため、それぞれの部屋へと戻っていった。

 

廊下を歩く三輪の足が自然と止まる。

ふと、部屋のドアを見る。そこは――

 

「……ただいま。」

その中から、先に部屋に戻ったキルアの声が聞こえた。

 

三輪は笑ってしまいそうになる。

きっと、もう“ここ”が自分の中でもう一つの居場所になっている。

 

ドアの前でしばらく立ち止まり、けれどノックはせずに自室へと戻った。

 

「今日はお疲れ。」

キルアがベッドに腰かけて言った。

 

「うん。お疲れ様。」

 

(焦ることないよね。少しずつでいいから――)

 

静かに、けれど確かに彼女の胸に“芽吹き”が始まっていた。

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