廃倉庫の外――
帳が上がり、鈍く曇った昼の光が戻ってくる。
「お疲れ様です!」
車のそばで待っていた伊地知が、安堵した顔で三人を迎える。
「報告と違い、特級相当が二体……」
伏黒が真っ直ぐに伊地知を見据えて言う。
「申し訳ありません。現地からの呪力反応に誤差が出たのかと……」
伊地知は額に汗をにじませ、深々と頭を下げた。
「まぁ、俺がいたし?無問題でしょ。」
キルアは手を頭の後ろで組みながら、軽く笑ってみせる。
その笑顔は、まるでさっきまで特級と戦っていたとは思えないほど、どこか無邪気だった。
*
車内――
助手席に伏黒、後部座席には三輪とキルアが並んで座っていた。
走る車の窓から景色が後ろへ流れていく。
(終わった……)
三輪は、さっきの戦いを反芻していた。
――呪霊の鋭い爪が目前に迫ったあの瞬間。
確実に“終わり”だと感じた、死の恐怖。
それを何の前触れもなく断ち切った銀髪の少年。
(あの速さ、反応、判断力、そして強さ……)
隣で同じように外を眺めているキルアの横顔を見る。
ふと、あのときの感覚が蘇る。
不思議な体温と、真っ直ぐな声――
「大丈夫か?立てそう?」
ただの一言だったはずなのに。
胸の奥で、ずっと余韻を残している。
「……あの。」
三輪がぽつりと声を出した。
キルアがそちらを向く。
「ん?」
「さっきは……ありがとう。ほんとに、助かった……」
キルアは数秒、三輪の顔をじっと見てから――
「大丈夫だった?ケガとかない?」
その問いかけに、三輪ははっと息を呑む。
自分のことより、まず相手の無事を気遣うようなその声に、また胸が締めつけられる。
「……ない。平気。」
「なら良かった。」
キルアはふっと笑って、また窓の外に視線を戻す。
会話はそれで終わった。
だが、三輪の中では何かが確かに動き始めていた。
(この人……強くて、優しくて……)
彼を見ていると、不安も恐怖も、いつの間にかどこかへ消えてしまう。
それは術式でも何でもなく――ただ、彼という存在そのものが与えてくれる“安心”だった。
(……もっと知りたいな、キルアのこと。)
*
午後――
東京校へ戻った三人。
任務報告は明日でよいと通達があったため、それぞれの部屋へと戻っていった。
廊下を歩く三輪の足が自然と止まる。
ふと、部屋のドアを見る。そこは――
「……ただいま。」
その中から、先に部屋に戻ったキルアの声が聞こえた。
三輪は笑ってしまいそうになる。
きっと、もう“ここ”が自分の中でもう一つの居場所になっている。
ドアの前でしばらく立ち止まり、けれどノックはせずに自室へと戻った。
「今日はお疲れ。」
キルアがベッドに腰かけて言った。
「うん。お疲れ様。」
(焦ることないよね。少しずつでいいから――)
静かに、けれど確かに彼女の胸に“芽吹き”が始まっていた。