東京校・報告室。
重い鉄の扉が開き、五条悟が椅子に座ったまま視線だけで彼らを迎える。
「じゃ、伏黒。任務の報告を。」
伏黒は静かに一歩前に出て、手早く、簡潔に内容を伝える。
「準一級呪霊一体の報告だったが、現場では特級相当が二体に増えていた。三輪と自分は途中で分断され苦戦。一体の相手に対応したが、結果、キルアが二体とも撃破し、任務は完了した。」
「うんうん、ありがと~。まぁ、よくやったよ。」
軽く笑って五条は応える。
その一方で、彼の視線がすっと三輪へ移った。
報告の間、彼女は一歩下がった位置でずっと俯いたままだった。
拳を強く握り、口を固く閉じ、ただじっと自分を責めていた。
「まぁ……命があって、よかった。」
五条の声は、軽さの裏に優しさを孕んでいた。
「はい……。」
かろうじて口を開いた三輪の声は震えていた。
悔しさと、情けなさと――その奥に、助けられたことへの複雑な感情が入り混じっていた。
「まぁ、これから強くなっていけばいいじゃん?それまで俺が同行すればいいし。」
横でポケットに手を突っ込んだままのキルアが、何でもないことのように言った。
その一言に、また胸がじんと熱くなる。
三輪は顔を上げたかった。でも、上げられなかった。
そんな彼女を見ながら、五条の表情が一変する。
「……そうはいかなくなるんだよ、キルア。」
いつになく真剣な声だった。
「え?」
キルアが軽く首を傾げる。伏黒も視線を寄せる。
「うん。キルアの正式な等級が決まったよ。」
「え?」伏黒が思わず口にする。
五条はニヤリと笑って、片手を軽く挙げた。
「――特級だよ。おめでとう。」
「特級?」
キルアが小さく首を傾げる。ピンと来ていない様子。
伏黒は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに深くうなずいた。
「……まぁ、相応か。」
「すごい……おめでとう。」
三輪がようやく顔を上げ、やわらかな声で祝福を口にする。
「よくわかんねーけど、サンキュ。」
キルアは、にこっと笑った。
それは何の衒いもない、無邪気な笑顔――
(――ああ、やっぱり私は……)
胸の奥で静かに“確信”の灯がともった。
*
部屋――夜。
三輪が使っている部屋に、キルアと彼女が並んでいた。
小さなライトの下、キルアはベッドに腰掛けながら携帯ゲーム機を触っていた。
そのとき、三輪の携帯が鳴る。
「はい、三輪です。……え? 延期……?」
声が少しずつ大きくなっていく。
「えー!? 延期!? しかも終了時期未定!?」
驚きと困惑が混ざったような声が室内に響いた。
やがて、「……はい。……わかりました。失礼します。」と消えるような声で通話を終えた。
その様子に、キルアがゲーム機のスイッチを切りながら声をかける。
「なんとなく察するけど、一応聞くわ。どうした?」
「……京都へ帰るのが未定になった。」
三輪は視線を落としたまま、ポツリと答える。
ほんの数秒の間があって――
「よかったじゃん。一緒にいれる時間、増えた。」
まるで空にポンと雲が晴れたような、無垢な声。
キルアが、何気ない様子で笑った。
その笑顔に、また胸が締めつけられる。
何気ない一言。
なのに、それは誰よりも優しく、誰よりも真っ直ぐだった。
(……好き。やっぱり、好きなんだ。)
確信とともに、三輪はそっと手を胸に当てた。
自分の鼓動が、今も静かに震えていることを、感じながら。