東京校・訓練場――
朝の柔らかい日差しが差し込む中、まだ人影の少ない訓練場に、二つの姿があった。
「へぇ、ホントに来たんだ。てっきり寝坊するかと思ってた。」
先に到着していたキルアが、木の柵に腰かけながら笑う。
「やるって言ったからには、やるよ。」
三輪は少し息を弾ませながらも、迷いのない瞳でキルアを見つめていた。手には木刀。髪はポニーテールに結びジャージを着用して、動きやすい格好をしている。
「ふーん。じゃあ今日は“見るだけ”じゃなくて、“動いて”もらうよ。」
キルアは柵から飛び降り、地面に着地したその瞬間、まるで風がすれ違ったかのように一陣の空気が揺れる。
「え……は、早っ……」
三輪の反応がわずかに遅れる。
「今のはまだ準備運動。」
「本当に……?」
「うん、じゃあ始めようか。」
*
最初は、三輪の刀の軌道や間合いの確認から。
キルアは一切攻撃せず、ひたすら三輪の斬撃を避けていた。
「……っ!」
「ほら、焦らない。腰が甘くなる。」
「わ、分かってる……!」
何十手と斬り込むが、キルアの体には一切かすらない。まるで未来を読んでいるかのように、最小限の動きで回避していく。
「三輪、もうちょっと意識してみたら?」
「何を?」
「“切ろう”じゃなくて、“当てよう”とするんだよ。そうすれば、相手の“ズレ”も見えるようになる。」
三輪は一度大きく息を吐いた。
(……そうだ、私は……強くなりたいって、自分で言ったんだ)
一度深呼吸し、今度は重心を低く、姿勢を安定させて踏み込む。
「――はっ!」
今までとは違う速さ、違う質量を持った一撃。キルアの瞳が僅かに細められる。
「……へぇ、いいね。」
バチッ、と音が鳴る。キルアの右足がわずかに電気をまとった瞬間、彼は後方に軽く跳ねるようにして回避した。
「今のは当たりそうだったよ。」
「……やった……!」
肩で息をしながら、三輪は顔を上げた。
「うん、やればできんじゃん。すぐ伸びると思うよ。」
その言葉に、三輪は少し照れたように微笑んだ。
*
訓練場の片隅では、いつの間にか伏黒と虎杖も見守っていた。
「なんか三輪さん……雰囲気変わったな。」虎杖がつぶやく。
「意識の違いだな。技術は未熟だが、覚悟がある奴は成長が早い。」
*
その後も訓練は続いた。
動きの確認、間合い、技術の応用――。三輪の目の色は変わっていた。自分の意思で“強くなる”と決めた人間の目。
最後に、キルアがポケットからヨーヨーを取り出す。
「最後、これの回避できたら今日の課題クリア。」
「……わ、分かった。」
「ちゃんと避けないと、骨折れるからね。」
「!?」
「冗談だよ~。」
冗談では済まされない速度で、ヨーヨーが音を裂く。だが――
ギリギリで三輪は体を横に跳ねさせ、回避していた。
「ナイス!」キルアが笑って手を上げる。
三輪も、ようやくそこで本当に安堵の笑みを浮かべた。
*
訓練後、休憩室のベンチに並んで座る二人。
三輪の手にはスポーツドリンク、キルアの手にはおなじみのコーラ。
「……ありがとう、今日。」
「別にいいよ。俺も教えるの、悪くなかったし。」
その一言に、三輪は何気なく視線を落とす。胸の奥が、また少し熱くなる。
「……また、お願いしてもいい?」
「もちろん。」
その言葉に、三輪はまた一つ、自分の“強くなりたい理由”がはっきりしていくのを感じた。
――たった一歩でも、隣に立てるように。