雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第二十六章 未確認特級

東京郊外、杉並区の外れ――。

 

車が停車したのは、取り壊し予定の団地が立ち並ぶ区域だった。

草は伸び、窓ガラスは割れ、壁の一部は崩れ落ちている。

昼間にも関わらず、あたりは重たい霧のような瘴気に覆われていた。

 

三人は車を降りる。

 

「こちらです。現場は団地の中庭付近。中にいるのは……未確認の特級、1体のみ。ですが、それだけで十分すぎるほど危険です。」

 

「了解。」

キルアが軽く頷く。

 

その隣で、三輪は緊張で小さく息を呑んだ。

 

「三輪さん、くれぐれも無理はなさらないように。今回はあくまで、キルア君の補佐という位置づけですから」

 

「……はい!」

 

少し強く返事をした三輪の横顔を見て、伊地知は安心と不安の入り混じった表情で軽く頷いた。

 

「では、帳を下ろします。」

 

伊地知が印を結ぶと、空気が揺らぎ、辺りの光が一段暗く沈む。

日中にも関わらず、夜のような闇が押し寄せ、空間が切り替わる。

 

「おぉ、相変わらず気持ち悪いね。」

キルアは慣れたようにポケットに手を突っ込みながら、闇に包まれた団地へと足を踏み入れた。

 

三輪もすぐにその後に続く。

 

 

団地の敷地内へ入ると、すぐに異変を感じた。

 

地面がじわりと濡れている。だが、これは水ではない。

黒く粘ついた液体――呪力が染み出した跡だった。

 

「……これは……。」

 

三輪の顔から血の気が引いた。

 

その時だった。

 

“ガン……ガン……ガン……”

 

団地の中央、中庭に設置された壊れかけの遊具が、誰も触れていないのに軋みを上げて揺れた。

そして――

 

「――出てきた。」

 

キルアがぽつりと呟く。

 

視界の先、ブランコの下に、ズルリ、と巨大な影が現れた。

 

四足で這うその姿は、遠目には人型のようでありながら、頭部には無数の口が重なり合っていた。

目はなく、代わりに耳のような器官が左右に広がっている。

 

「何…あれ……人の呪い?」

 

「かもね。まずはどのくらい動くか見たい。」

 

キルアがゆっくりと前へ出る。

 

「ちょっと下がってて、三輪。」

 

「……わかった。」

 

手のひらからヨーヨーを外し、左右に一つずつ握る。

 

「さて……」

 

キルアの足元に青白い電気が弾けた。髪がふわりと浮かび、空気が一瞬張り詰める。

 

その瞬間、呪霊が動いた。

 

跳躍。常識外の高さで跳び、真上からキルアを押し潰すように襲い掛かる――

 

「……遅い」

 

キルアは一言そう呟いたかと思うと、影のように滑り抜け、次の瞬間には呪霊の背後にいた。

 

「こっちだよ」

 

キルアが片手のヨーヨーを振る。

それは唸りを上げながら呪霊の首を狙い、正確に側頭部を打ち抜いた。

 

「ぐあ”っ!!」

 

呪霊が呻き声のような唸りを上げると同時に、地面が激しく揺れた。

 

「!?三輪、伏せて!」

 

キルアがそう叫ぶと、呪霊の体から放たれた呪力が、まるで音波のように周囲に広がり、コンクリートを砕いていく。

 

三輪はとっさに伏せ、爆風が通り過ぎるのをやり過ごした。

 

「さすが特級って感じだね……。」

 

キルアが舌打ちしながら再び距離を詰める。

 

 

建物の壁を蹴って跳躍し、空中から呪霊へ再接近。

今度は両手のヨーヨーを使い、十字を描くように同時に叩き込んだ。

 

「――雷掌・双輪(らいしょう・そうりん)!」

 

ヨーヨーから放たれた電撃が呪霊を貫き、その巨体が一瞬痙攣する。

 

「が、があああああ……!!」

 

呪霊は苦しみの雄叫びを上げ、倒れたまま動かなくなった。

 

キルアがそっと地面に着地し、肩を軽く回す。

 

「じゃあ、次で終わらせるよ。」

 

 

その様子を、数メートル後ろから見ていた三輪は、ただただ呆然と見つめていた。

 

(……あれが、特級と戦うってこと……)

 

そして、何より――

 

(あの人は、本当に“守ってくれる”んだ。あんな脅威の前でも、私を気遣いながら戦ってくれてる。)

 

胸の奥がまた、静かに熱を帯びていった。

 

 

キルアは最後の一撃の構えに入っていた。

 

跳躍。

 

落下と共に、両手のヨーヨーを交差させて放つ――

雷が閃き、空間が震え、呪霊の身体が四散した。

 

 

空気が静まり返った。

 

帳の向こうの世界に、わずかに光が差す。

 

キルアがヨーヨーを巻き戻しながら、三輪の方を見た。

 

「大丈夫だった?」

 

「……うん」

 

三輪はゆっくり頷きながら、心の中で、確かに言葉にした。

 

(もっと、強くなりたい――この人の隣に立てるように)

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