倒された呪霊の身体がゆっくりと霧散し、空気に溶ける。
やがて帳が解除され、外の光が団地跡に差し込んだ。
「……戻ろっか。」
ヨーヨーをポケットに収めながら、キルアが三輪にそう声をかけた。
「うん。」
少し汗ばんだ額を拭き、三輪は小さく微笑んで頷いた。
車中。伊地知が運転席、キルアと三輪は後部座席に座っていた。
「まさかあれほどの呪霊だったとは……」
伊地知の声には、かすかな震えがあった。
「未確認ってのはこういう意味もあるんだね。呪術師って大変だ。」
キルアは窓の外を眺めながら、肩をすくめるように言った。
その言葉に、三輪は少しだけ苦笑した。
「でも……すごかった。私は……ただ見てるだけで……」
「それでいいんだよ。」
キルアは振り返って言う。
「今はって意味だけどね。見て、学んで、考えて。それが一番成長する近道だと思うし。」
「……うん」
三輪は静かにうなずきながら、その言葉を胸に刻んだ。
呪術高専・東京校
報告を終えたキルアと三輪が学長室を後にする。
報告の大部分はキルアが担い、三輪は横に立って話を聞いていた。
廊下に出ると、夕陽が差し込む廊下が橙色に染まっていた。
「……ごめん。私、役に立てなかった。」
三輪がぽつりと呟くように言った。
「ん?別に怒ってないけど?」
キルアはポケットに手を突っ込みながら、いつものように軽い口調で返す。
「でも……私、ずっと見てるだけで……。足手まといにしかなってなかった。」
「……でも、逃げなかったじゃん。」
その言葉に、三輪の足が止まった。
キルアも足を止めて振り返り、真っ直ぐな目で三輪を見る。
「怖かったでしょ?でも、そばにいたじゃん。それで十分強いよ。」
「……!」
「強さって、力だけの話じゃないよ。」
そう言ってキルアはまた前を向き、歩き出す。
「俺、そういうの、ちゃんと見てるつもりだからさ。」
ぽつりと残されたその言葉は、まっすぐ三輪の胸に届いた。
その夜、東京校の寮。
二人の部屋では、三輪が机に向かって黙々とノートに呪術理論を書き写していた。
シャッ、シャッというペンの音だけが部屋に響いていたが、ふとその手が止まる。
(私……もっと強くなりたい)
(この人と一緒に任務に出るとき、守られるだけじゃなく、隣で戦えるようになりたい)
その時、部屋の入り口が開いた。
風呂上がりのキルアが、タオルで髪を拭きながら入ってくる。
「勉強?真面目だねぇ」
「……うん」
「明日も訓練つきあおっか?」
「……お願い。朝からでいい?」
「もちろん。じゃ、俺、先に寝るね~」
そう言ってベッドにダイブするキルアの姿を、三輪は横目で見ながら、小さく笑った。
(絶対、強くなってみせる)
ノートを開き直し、もう一度ペンを走らせた。
夜が更けていく中で、小さな決意の灯火が確かに灯されていた――。