雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第二十八章 成長

朝の空気はまだ肌寒く、校舎の裏手にある訓練場にキルアがのんびりと現れたときには、すでにそこに一人の少女の姿があった。

 

三輪霞。

普段のスーツ姿とは違い、ポニーテールに青いジャージという動きやすい格好をしている。

背筋を伸ばし、木刀を構えて素振りを繰り返していた。

その表情は、真剣そのもの。

 

「おはよ、三輪。」

ポケットに手を突っ込んだまま、キルアが歩み寄る。

 

「……おはよう。ごめん、待ちきれなくて。」

 

「いいよ別に。やる気ってやつでしょ」

キルアは微笑むと、訓練場の壁際に寄って腰を下ろす。

 

「今日は見てるだけ?」

 

「いや、ちょっとどんな動きするか、改めて見たくなっただけ」

キルアはそのままあくびを一つして、あぐらをかいた。

 

三輪はふっと笑って、木刀を下ろした。

 

「じゃあ……見てて」

 

そう言って再び構えを取る。

 

シン・陰流。

簡易領域と居合術を併せ持つその流派の構えは、美しく、鋭く、そして静かだった。

 

――スッ。シュッ。

 

空を切る鋭い風音が数度、訓練場に響いた。

 

そのたびにキルアの目が細くなっていく。

 

「……動きが変わってきたね。」

 

「え?」

 

「前より重さがある。剣を振るってるって感じ。悪くない」

 

「ほんとに?」

少し頬を染めた三輪が、振り返る。

 

「うん。前は『振らされてる』って感じだったけど、今は『振ってる』」

 

その違いに、三輪は口を小さく開いたまま、驚きと喜びが混じった顔をした。

 

「……ありがとう。そう言ってもらえると、頑張ったかいがある。」

 

「じゃあ、俺も体動かすかな。」

 

そう言ってキルアが軽くその場でジャンプして、ふわりと着地する。

 

「今日は何する?模擬戦でもいいよ?」

 

「……お願い。模擬戦、付き合ってくれる?」

 

「もちろん」

 

そのまま、二人は訓練場の中央に立つ。

 

一歩下がって構える三輪。

居合の型で木刀を持ち、左足を少し引いて、呼吸を整える。

 

対するキルアは、相変わらず手をポケットに入れたまま、気だるげな態勢。

 

だが――

 

「行くよ!」

 

その声とともに三輪が前に踏み込むと、キルアの表情がすっと引き締まる。

 

(速い)

 

瞬間、キルアの頬に風が走った。

三輪の木刀が、寸前で止まっていた。

 

「……あれ?」

 

キルアが片目をぱちくりさせる。

 

「当たると思ってなかった?」

 

「うん。ちょっと意外。」

 

「じゃあ、もう一回いくよ!」

 

二撃目、三撃目。

三輪の動きは今までの彼女とはまるで違っていた。

 

研ぎ澄まされた居合、間合いの詰め方、そして何より目の輝き。

それを受けながら、キルアはわずかに口角を上げる。

 

(……悪くない。ていうか、すごい成長してる)

 

 

訓練を終えて、二人は並んで自販機前に立っていた。

 

「今日もコーラ?」

 

「もちろん。ここのコーラ、やっぱうまいし。」

 

「私も今日は……コーラにしてみようかな」

 

ボタンを押し、缶が出てくる音が響く。

 

「お、いいじゃん。乾杯」

 

「うん。乾杯」

 

缶を軽くぶつけ合い、二人は一口。

 

その横顔をちらりと見た三輪は、そっと目を伏せる。

 

(あの背中に……並んで立てるように、もっともっと強くなりたい)

 

風が通り抜けた静かな訓練場に、ふたりの笑い声が少しだけ響いた――。

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