雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第三十一章 もう一人の最強

高専訓練場前――午前八時過ぎ

 

朝の光が斜めに差し込み、敷地内の草木がやわらかく風に揺れている。

グラウンドへ向かって歩くキルアと三輪。まだ生徒の姿はまばらで、広々とした空間に二人の足音だけが響く。

 

だが、グラウンドの入口に差しかかったところで、二人は足を止める。

 

「……誰だろ、あの人」

 

三輪がぽつりと呟く。

 

視線の先、陽を背に受けるようにして、ひとりの男が立っていた。長い黒髪を後ろで一つに結び、ゆったりとした服に身を包み、ポケットに手を入れて背筋をまっすぐに伸ばしている。

 

「……背中でわかる。あの人、めちゃくちゃ強い。」

 

いつもの軽口とは違う、緊張を含んだキルアの声。隣でその表情を見た三輪の胸に、ざらりとした緊張が走る。

 

(キルアがこんな風に言うなんて……一体、何者……?)

 

男がゆっくりと振り返る。穏やかな目元に、口元にはうっすらと微笑をたたえていた。

 

「こんにちは。君たち、ここの生徒かい?」

 

やさしげな口調。その反面、どこか底知れぬ圧がまとわりついている。

 

「ま、そんなところだけど。あんた、誰?」

 

警戒を隠さず、キルアがまっすぐ問う。

 

男は軽く息を吐いて言う。

 

「私は、ここの出の者だよ。少し、事情があってね――」

 

その時、風を切るような音とともに、目隠しの男が息せき切って走ってきた。

 

「傑~~~~~!!!!」

 

現れたのは五条悟。まるで旧友に再会した子供のように、その男に思い切り抱きつく。

 

「おいおい悟。久しぶりの再会というのに、君は変わってないな。」

 

「何ヶ月ぶりだと思ってんだよー!元気だった?いや、元気そうだけど!」

 

二人の間に流れる空気は、どこか懐かしくも、緊張感を含んだ独特なもの。

 

唖然とする三輪とキルア。やがて、五条がこちらに気づいて言った。

 

「あ、ごめんごめん。この人のこと知らないよね。紹介するね。この人……最強です。」

 

「そんな紹介で伝わるわけないだろう、悟。」

男が苦笑しながら言葉を続ける。

 

「改めて、私は夏油傑。この目隠しと同じ特級術師さ。」

 

「特級!?」三輪の肩が跳ねる。

 

「ふーん……道理で強いわけだ。」キルアが小さく頷いた。

 

「え?もう手合わせしたの?」五条が驚く。

 

「してないよ。でも、ただ者じゃないのはわかる。」

 

「さっすが、キルア」五条が嬉しそうに言う。

 

夏油はキルアをしげしげと眺めた後、言った。

 

「この子、生徒か?……どう見ても高校生には見えないが。」

 

「あ、それも傑に紹介しなきゃ。えー、この子!最強です!」

 

「もう少し丁寧に言ってくれ……」

夏油がため息を着く横でキルアが口を開いた。

 

「俺はキルア。この世界の者じゃない。気づいたらここにいて、いまはこの学校に世話になってる。」

 

「なるほどね……よろしく、キルア」

夏油は手を差し出す。キルアもそれに応じ、しっかりと握手を交わす。

 

「そっちの子は?」

 

「あ、私は三輪霞です!京都校の二年で、いまはこちらに遠征中です!」

三輪は少し緊張したように頭を下げた。

 

「京都校か。こちらこそ、よろしく」

 

握手のあと、夏油は再びキルアの方を見て、静かに言う。

 

「それにしても――異常だね。その力は。」

 

「え~?まぁ、特級だしね~」

五条が肩をすくめて言う。

 

「この世界の流れに属していない。術式にも呪力にも、収まりの効かない存在……ふむ。いずれその力、じっくりと見せてもらうよ。」

 

そう言い残し、夏油はゆっくりと高専の校舎へと歩き出す。五条もその後を追う。

 

ふたりの背中が横に並んだとき、空気が一変する。

 

まるでその場にいるだけで空間が圧縮されるような――ただならぬ「気配」。

 

「……あの二人、最強だね」

 

キルアがぽつりと言う。

 

「うん……オーラが違いすぎる……」

三輪も息をのむように呟いた。

 

しばらく二人でその背中を見送ったあと、キルアがふっと笑った。

 

「さ、特訓しよーぜ。」

 

そう言って歩き出すキルア。その背中に、三輪は何か大きな流れの予感を感じていた。

 

――訓練場の空気が、さっきよりも少しだけ張り詰めていた。

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