雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第三十二章 研鑽と予兆

高専のグラウンドでは、夏油傑との初めての邂逅を終えたキルアと三輪が、再び訓練に集中しようとしていた。

 

「……さっきの人、本当にすごかったね……」

 

三輪がぽつりと呟いた。まだ少し手が震えている。肌にまとわりつくような重圧、言葉にできない威圧感。それはすでに彼がこの場を去ったあとも、空気の中に残っていた。

 

「うん。あの背中は本物だ。」

 

キルアはポケットに手を突っ込み、グラウンドの奥を見つめながら答える。

瞳には静かな熱が宿っていた。あの一瞬で、多くの情報を読み取った。

立ち方、気配、間合いの取り方すらも洗練されていた。

敵であれば、一瞬の油断が命取りになるだろう。

 

「でも、あの人って……確か……」

 

三輪が何かを思い出しかけたとき、キルアが先に口を開いた。

 

「ま、ああいう存在がいるってだけで、俺もまだまだってことだな。鍛え直さなきゃ。」

 

その言葉に、三輪は目を見開いた。

キルアの言葉には、どこか自分を律するような鋭さがあった。決して自分を見失わない強さ。

いつの間にか、自分の中にも似たような感情が芽生えていることに気づく。

 

「……私も、もっと強くならなきゃ。」

 

小さく呟いたその声にキルアが振り向き二ッと笑う。

 

「じゃあ今日の訓練、居合の構えもうちょっと見てくれない?」

 

「もちろん。動きも速度も、よくなってきてるし。」

 

キルアが口角を上げて応じる。二人は自然と距離を取り、構え合う。肩の力を抜き、ただ静かに相手を見る。空気が張りつめていく。

 

朝の光が差し込むグラウンドの中心。

セミの声が遠くで鳴き始め、吹き抜ける風がふたりの間に細かな砂埃を巻き上げた。

 

――そのとき。

 

校舎の方から、突如として足音が響いた。

裾を翻して、迷いなくこちらへ向かってくる。

 

「キルア、三輪。今すぐ集合だ。」

 

伏黒だった。その表情はいつにも増して硬い。緊急事態――そう告げるには十分だった。

 

「集合? 何かあったんですか?」

 

三輪が驚いたように問う。

 

「七海さんから連絡があった。埼玉に出た特級呪霊、位置を移動したらしい。今はもう東京との県境近くだ。……おそらく、二人が行くことになる。」

 

一瞬の沈黙のあと、キルアが静かに口を開いた。

 

「……今度は、三輪も俺も、本番か。」

 

その声には緊張よりも、確かな覚悟がにじんでいた。

 

「支度はしてある。伊地知さんが車を用意してる。急いで。」

 

伏黒の言葉に、二人は視線を交わすと、頷き合って走り出した。

足並みは自然にそろっていた。

 

砂煙の立つグラウンドを後にしながら、三輪は自分の胸の中にあるものに気づいていた。

恐怖ではない。不安でもない。

ただ、キルアに何かあった時、守れるようになりたい――その想いが、心の奥で静かに燃えていた。

 

新たな任務の予感。

 

それはふたりに、次なる試練と、互いの絆の深さを試す時間が近づいていることを告げていた。

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