高専のグラウンドでは、夏油傑との初めての邂逅を終えたキルアと三輪が、再び訓練に集中しようとしていた。
「……さっきの人、本当にすごかったね……」
三輪がぽつりと呟いた。まだ少し手が震えている。肌にまとわりつくような重圧、言葉にできない威圧感。それはすでに彼がこの場を去ったあとも、空気の中に残っていた。
「うん。あの背中は本物だ。」
キルアはポケットに手を突っ込み、グラウンドの奥を見つめながら答える。
瞳には静かな熱が宿っていた。あの一瞬で、多くの情報を読み取った。
立ち方、気配、間合いの取り方すらも洗練されていた。
敵であれば、一瞬の油断が命取りになるだろう。
「でも、あの人って……確か……」
三輪が何かを思い出しかけたとき、キルアが先に口を開いた。
「ま、ああいう存在がいるってだけで、俺もまだまだってことだな。鍛え直さなきゃ。」
その言葉に、三輪は目を見開いた。
キルアの言葉には、どこか自分を律するような鋭さがあった。決して自分を見失わない強さ。
いつの間にか、自分の中にも似たような感情が芽生えていることに気づく。
「……私も、もっと強くならなきゃ。」
小さく呟いたその声にキルアが振り向き二ッと笑う。
「じゃあ今日の訓練、居合の構えもうちょっと見てくれない?」
「もちろん。動きも速度も、よくなってきてるし。」
キルアが口角を上げて応じる。二人は自然と距離を取り、構え合う。肩の力を抜き、ただ静かに相手を見る。空気が張りつめていく。
朝の光が差し込むグラウンドの中心。
セミの声が遠くで鳴き始め、吹き抜ける風がふたりの間に細かな砂埃を巻き上げた。
――そのとき。
校舎の方から、突如として足音が響いた。
裾を翻して、迷いなくこちらへ向かってくる。
「キルア、三輪。今すぐ集合だ。」
伏黒だった。その表情はいつにも増して硬い。緊急事態――そう告げるには十分だった。
「集合? 何かあったんですか?」
三輪が驚いたように問う。
「七海さんから連絡があった。埼玉に出た特級呪霊、位置を移動したらしい。今はもう東京との県境近くだ。……おそらく、二人が行くことになる。」
一瞬の沈黙のあと、キルアが静かに口を開いた。
「……今度は、三輪も俺も、本番か。」
その声には緊張よりも、確かな覚悟がにじんでいた。
「支度はしてある。伊地知さんが車を用意してる。急いで。」
伏黒の言葉に、二人は視線を交わすと、頷き合って走り出した。
足並みは自然にそろっていた。
砂煙の立つグラウンドを後にしながら、三輪は自分の胸の中にあるものに気づいていた。
恐怖ではない。不安でもない。
ただ、キルアに何かあった時、守れるようになりたい――その想いが、心の奥で静かに燃えていた。
新たな任務の予感。
それはふたりに、次なる試練と、互いの絆の深さを試す時間が近づいていることを告げていた。