雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第三十三章 予感

高専の車両の中、エンジン音とわずかに流れるラジオの音だけが静かに響いていた。車を運転する伊地知の横、助手席には三輪、後部座席にはキルアが座っている。

 

空は重たげな曇り空。窓の外を流れる景色も、次第に人家がまばらになり、廃れた街並みが姿を見せはじめていた。

 

「今回の任務について、説明します。」

ハンドルを握りながら、伊地知が口を開いた。

 

「対象は埼玉県との県境に出没した特級呪霊。ただし、すでに複数体確認されており、少なくとも三体以上の存在が報告されています。」

 

「……そんなにポンポン出るもんなの、特級って。」

キルアが窓の外に目を向けたまま、呆れたように言った。

「なんか、等級の基準、見直したほうがいいんじゃない?」

 

「……以前は、こんな事態はあり得ませんでした。」

伊地知が少しだけ声を落として続ける。

「しかしここ一年、特級クラスの呪霊が異常な頻度で発生しています。明らかに何かが狂い始めている。」

 

車内に一瞬、重苦しい沈黙が落ちる。

 

やがてキルアが、ふと思い出したように言った。

「そうだ。今日グラウンドにいた、長髪を後ろで結んでた人……あの人、五条先生とどういう関係?」

 

伊地知は表情を引き締めた。

「……夏油傑さんですね。彼は五条先生と同じ“最強”と称された術師です。学生時代は常に共に行動し、並び立っていました。元は高専の教員でもありました。」

 

「そうなんだ……。あの背中、只者じゃないってのはすぐわかったけど。」

キルアが独り言のように言う。

 

「夏油さんは、九州の大規模呪霊発生――特級呪霊8体、一級呪霊12体、合計20体の殲滅任務にあたっていました。」

 

「……20体!?」三輪が目を見開く。

 

「はい。あの方ほどの術師は、そうそういません。」

伊地知の声には淡々とした口調の裏に、わずかな畏怖すら滲んでいた。

 

「特級術師ってそんな何人もいるの?」キルアが訊く。

 

「キルア君を含めて、現在日本には五人の特級術師がいます。そのうち任務にまともに出てくれるのは、ほんの数名だけです。」

「生徒にも一人、乙骨憂太君という方がいます。現在は東北地方の特級呪霊討伐任務中です。」

 

「へぇ、そいつも強いんだ?」

「ええ。“里香”という特異な存在を伴う術師です。」

 

そのまま数分、車内には言葉のない時間が流れた。窓の外には、もうすっかり人の気配のない建物が続いている。

 

その静けさを破るように、キルアが不意に言った。

「……三輪。」

 

「ん? どうしたの?」

 

「今回の任務……嫌な予感がする。」

 

静かな声だった。その響きには、軽口でも冗談でもない、深い直感から来る何かがあった。

 

「え……?」

 

「だからさ。もし俺になんかあったら……すぐに伊地知さんのとこ行って。絶対、無茶すんな。」

 

「な、なにそれ……! やめてよ、縁起でもない……!」

 

三輪が震える声で返すが、キルアは笑ってみせた。

「大丈夫。俺の勘、外れることの方が多いし。」

 

だがその笑顔は、いつもの無邪気さと違って、どこか――切ない影を背負っていた。三輪はその違和感に気づいたが、何も言えなかった。ただ、胸の奥で何かが軋んだ。

 

「もうすぐ到着します。」

伊地知の声がそう告げると、車はゆっくりと目的地の開発が頓挫したショッピングモールの駐車場へ入っていった。

 

車を降りた三人の前には、張り詰めた空気と、不穏な気配が満ちる風景が広がっていた。

 

任務は、始まろうとしていた。

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