雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第三十八章 雷と霞

軽快に特級呪霊にダメージを与えていたキルアだったが、突如コンクリート剥き出しの床を転がるように、身体が弾き飛ばされた。

 

「うがぁぁぁぁっ!!」

 

壁に叩きつけられた直後、彼は頭を押さえて呻き声をあげた。額には脂汗が浮かび、目の焦点は定まらず、肩で荒く呼吸している。

 

「キルア!!」

 

三輪は血の気の引いた顔で駆け寄る。

 

キルアの足元に膝をつき、肩を支えたその瞬間、彼の体温が異様に高いことに気づく。

 

「くっそ……まずい……。こんな時に……」

 

キルアが呻くように言葉をこぼす。呪霊の内部から流れ込んでくるような圧倒的な呪力の干渉。先ほどとは比べ物にならない悪意が、彼の脳を蝕んでいた。

 

「俺を置いて逃げろ……伊地知さんのとこに……」

 

そう言いながら、崩れ落ちるように体を預けようとするキルアに、三輪が叫んだ。

 

「できるわけないでしょ!!」

 

声が震え、目に涙を溜めながら、必死にキルアの身体を支える。

 

「このままだと……二人ともやられちまう……」

 

その言葉が現実になるのを告げるかのように、ゆっくりと、しかし確実に呪霊がこちらに向かって歩みを進めていた。骨のような節の多い手足を引きずるようにして、裂けた口から濁った音を響かせながら。

 

三輪は静かに、キルアの身体を床に横たえ、ゆっくりと立ち上がる。

 

「させない……」

 

その声は震えてなどいなかった。

 

「三輪……逃げろ……」

 

背後から絞り出すようなキルアの声。

 

「嫌だ。逃げない。」

 

振り返らずに、強い言葉で答える三輪。

 

「守ってもらってばかりじゃ嫌なの。私も――キルアを守りたい。」

 

そう言って、そっと目を閉じた。

 

次の瞬間、空気がピンと張りつめる。

 

「――シン・陰流 簡易領域」

 

詠唱とともに、三輪の周囲に術式の気流が巻き起こる。呪霊の気配を自動で察知する領域が展開され、三輪の身体が一瞬で研ぎ澄まされたように変わる。

その範囲は呪霊が一歩でも進むと中に入ってしまうほどに広かった。

 

呪霊が声にならない咆哮を上げて走り出す。

 

その途端――

 

「雷迅・霞走り」

 

ピシャッ、と音を立てて三輪の足元に火花が散る。まるでキルアの"神速"を思わせるような電光の踏み込み。

姿が消えた。

 

次に現れたとき、三輪は呪霊の背後にいた。

 

チィン――!

 

鞘に収められた刀の金属音が、空気を裂く。

 

そして次の瞬間、呪霊の首がふわりと宙を舞い、砂のように崩れ、虚空に消えた。

 

一拍遅れて、三輪の膝がわずかに震えた。

 

「……できた……」

 

かすれた声で呟くと、彼女はすぐにキルアの元へと走った。

 

「キルア!」

 

三輪の顔を見たキルアが、微笑む。

 

「すげぇじゃん。俺の神速並みの速さだった。」

 

「キルアのおかげで……キルアを守れた!」

 

そう言って、三輪の目からまた涙がこぼれる。

 

キルアは静かに、三輪をその腕で優しく抱きしめた。

 

「ありがとう。助かった。」

 

「うん……うん……!」

 

三輪もその背に腕を回し、しっかりと抱き返す。

ぬくもりが伝わる。言葉よりも確かに。

 

しばしの沈黙の後、キルアが顔を上げる。

 

「おそらく、次が最後だ。このまま終わらせちまおう。」

 

その声に、三輪が真っすぐ応える。

 

「うん。二人で……終わらせよう。」

 

二人は並んで立ち上がる。

 

傷つき、疲弊していても、今の彼らは確かに前よりも強い。

 

背中を預けられる相手が、今、隣にいるから。

 

そして、最後の戦いへと歩み出した。

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