夕食を終えた1年ズが部屋へと戻り、それぞれの時間を過ごしていた頃。
伏黒の隣、新しい部屋の中で、キルアは静かに窓際に腰を下ろしていた。
外には竹林。虫の声と、どこか懐かしいような風の音が耳に心地よい。
「……妙に静かだな。」
念の気配も、敵意も、奇襲の気配もない。
だが、それがむしろ落ち着かない。暗殺一家で育ったキルアにとって、完全な“平穏”は最も疑わしい状態だった。
(あの女の人――真希って言ったか。あの人も強そうだった……)
目を閉じ、思い出す。
(この世界、けっこう面白いかもな。)
と、不意に扉がノックされた。
「……ゾルディック、起きてるか?」
伏黒の声だ。
「……ああ。」
返事をすると、扉が静かに開き、伏黒が顔を見せる。
「五条先生が、ちょっと来いって。能力の確認をしたいらしい。」
「ふーん。早いな。」
「当たり前だ。お前、初見で呪霊潰しただろ。」
伏黒はそう言いながら、少しだけ目を細める。
「……五条先生も何者なのか分からないお前を、完全に信用してるわけじゃない。」
「伏黒も、警戒してるって顔してるよ。」
「当然だ。こっちは呪術師の学校だからな。」
二人は言葉を選びながらも、どこか似た空気を纏っていた。
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〜高専・訓練場(夜)〜
月明かりの下、訓練場にはすでに人の気配があった。
五条悟がゆったりとしたポーズで壁に寄りかかっており、その横では――
「おー、ホントに来たな、銀髪のガキ。」
――禪院真希が竹槍を肩に担いで立っていた。
「五条だと勝負になんないだろうから、代わりに私が見てやる。」
「お姉さん、まだ起きてたんだ?」
キルアが肩をすくめる。
「“見てやる”って何を?」
「お前がどんな“強さ”を持ってるか、こっちとしても知っておきたいって話よ。」
「真希の言うとおり。」
五条が指を鳴らしながら続ける。
「いきなり本気の戦闘は無理でもさ、身体能力とか反応速度くらいは見ておこうってことで。じゃ、真希、お願い。」
「ったく……」
真希が竹槍を軽く回しながら、キルアの前に立つ。
「ま、手加減はするけど、逃げんなよ?」
「本気で来てくれた方が、俺としては嬉しいけど。」
言葉の端に宿る殺気。だが、キルアの表情は穏やかだった。
「じゃ、始めようか。」
五条がそう言って風が静かに吹いた瞬間、真希の姿が消える。
だが――次に瞬きをしたときには、竹槍の一撃が止まっていた。
目の前、キルアの右手が竹槍の軌道を押さえ、左足は真希の懐に踏み込んでいた。
「……!」
真希の目がかすかに見開かれる。
「反応早いな、おい。」
「力を加減しなきゃいけない方が、やりにくいね。」
キルアが手を離すと、真希は一歩距離を取った。
「……認める。確かに、普通じゃねえ。」
「だろ?」
ニッと笑ったキルアの顔に、五条が面白そうに手を叩く。
「うんうん。こりゃ将来有望、っていうか今すでにヤバい子だね〜。」
「五条先生、こいつ……本当に“術式なし”なんですよね?」
伏黒が隣で小さく問う。
「ああ、間違いない。でも――この世界には、“術”以外の道もあるってことだよ。ね、キルアくん?」
「ま、そういうとこ。」
キルアの笑みは、どこか涼しげで、それでいて闇を孕んでいた。
「今夜はここまで。明日から本格的にどうするか、考えないとね〜。」
五条の言葉に、場の空気が緩む。
「じゃあ、俺戻るわ。」
「気を抜くなよ、ゾルディック。」
「真希こそ。」
軽く手を振って、キルアはまた伏黒と共に寮へ戻っていった。
その背を見送りながら、真希は竹槍を握り直す。
「……あのガキ、まだ何か隠してる。」
「だね〜。ま、そこが面白いんだけど。」
月は高く、静かに空を照らしていた。
――異界の少年は、静かに、高専に“馴染み始めて”いた。