雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第四十一章 結誓の神殿

キルアの身体が大きく痙攣する。

 

「が……あっ……あ……」

 

喉の奥から絞り出される声はもはや言葉になっておらず、ただ呻きに近い断片的な音。

目は白目を剥き、瞳孔は定まらず虚空を彷徨う。

口元からは泡が溢れ、顎がガクガクと外れそうなほど震えていた。

全身から滴る汗は床を濡らし、震える四肢には自力で動かす力など残っていなかった。

 

キルアの頭を抱え、胸に引き寄せる三輪の目から、次々と涙がこぼれる。

 

「もう……やめてっ!!!」

 

三輪の絶叫が空間に響いた。

 

しかし――

 

「やめるわけなかろう?」

中央の高座、紅の靄の中からゆらりと立ち上がった蠱紅が、嘲笑を浮かべながら言う。

「妾の顔を傷つけた者は、万死に値する。最大の苦痛をもって、その命を溶かす。」

 

蠱紅の目は愉悦に染まり、まるで玩具を壊す前の子供のような好奇の色で、痙攣するキルアを見下ろしていた。

 

その瞬間だった――

 

「領域展開――《百鬼結誓(ひゃっきけっせい)》」

 

鋭い声と共に、空間の奥底から黒い奔流が噴き出すように立ち上った。

紅い靄は吸い込まれるように消え、血塗れの廃墟は複雑に構成された巨大な呪陣都市のような構造へと変貌していく。

 

床には無数の咒が刻まれ、建物の柱には封印の符が浮かび上がる。

上空には黒々とした雲が垂れ込め、その中心に黒塗りの神殿が鎮座していた。

 

神殿の頂、玉座のような高所に、後ろ髪を一つに束ね、ゆったりとした袴のようなズボンを穿いた男が立っていた。

 

夏油傑――

 

その目は蠱紅を真っすぐ見据えていた。

 

「領域展開は、より洗練されたものによって上書きされる。」

 

その静かな声が、異空間の中に響く。

 

「ば、馬鹿な……!妾の領域が、消え……!?」

 

蠱紅の目が恐怖に染まる。

女の顔が青ざめ、足元がふらつく。

 

玉座の上、夏油の視線がキルアと三輪に向いた。

三輪は未だ泣きながら、痙攣し続けるキルアの胸に顔を埋めていた。

その痛ましい姿に、夏油の目が鋭く光る。

 

「……よくも、私の仲間を傷つけてくれたね。」

 

それは静かだが、深く重く、確かな怒りが込められた声だった。

 

「やかましい!!妾を侮辱するな!貴様の精神も引き裂いてやるわ!」

 

蠱紅が指を向け、呪詛の言葉を唱える。

 

だが――

 

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 

次の瞬間、蠱紅の身体がのけぞり、頭を抱えて絶叫した。

口からは血が噴き出し、目から黒い煙が漏れる。

 

「無駄だよ。この領域内では、私に向けられた呪力による攻撃はすべて、術者自身に反射される。」

 

夏油の声は冷たく、情け容赦がなかった。

 

「おのれ……おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

蠱紅が怒り狂い、呪力を全開にして身を震わせる。

 

「終わりにしよう」

 

そう言って、夏油は手を前に差し出した。

その指先から術式が展開され、次々と黒い呪力の渦が生まれる。

 

そして現れたのは――

 

《ろくろ首》

 

白粉を塗ったように蒼白な顔立ち。だがその首は異様に長く、髪の毛は乱れ包丁を手にしていた。

口元には禍々しい笑みを浮かべながら、刃を引きずるようにして迫る。

 

《天狗》

 

山伏の装束を纏い、黒い翼を広げて空を飛ぶ男。

その手には羽団扇が握られ、風と呪力を操って上空から奇襲をかけてくる。

 

《一本だたら》

 

全身を猛獣のような体毛に覆われ、片足のみ異様に肥大化した巨人。

その腕には戦槌を持ち、大地を砕くほどの破壊力を持って突進してくる。

 

「――狩れ。」

 

夏油の命令と共に、三体の特級呪霊が一斉に蠱紅へと襲いかかる。

 

ろくろ首が地を這い、斬りかかる。 天狗が空から羽団扇で斬撃を飛ばす。 一本だたらが地響きを立てて突進、槌を振り下ろす。

 

蠱紅はその場で必死に回避しようとするも、既に領域内の術式で呪力が逆流しており、満足に動けない。

 

「やめ……やめろぉぉぉ!!!」

 

もはや叫びも空しく、三体の呪霊が次々とその身体を裂き、砕き、噛み千切る。

紅の血が霧のように舞い、空間は地獄絵図と化した。

 

やがて、夏油が手のひらを掲げる。

 

「――終わりだ」

 

重く、冷たい声と共に、蠱紅の身体が引き寄せられ、収束する。

その身体は光を失い、徐々に縮んでゆき、やがて茶色い手のひらサイズの球体へと変化した。

 

「ぐ……ぁぁぁ……」

 

小さく呻くような声が球体から漏れる。

 

夏油はそれを迷うことなく口へと運び、丸呑みにした。

 

蠱紅――完全消滅。

 

呪陣都市のような領域はゆっくりとその姿を消し、元の廃墟の三階へと空間は戻っていく。

 

「……ッ!」

夏油が玉座から降り、崩れ落ちたキルアと三輪のもとへと駆け寄る。

 

キルアの身体は小刻みに震え、目は未だ焦点を結ばず白いまま。

三輪はその身体を抱きしめ、言葉もなくただ涙を流し続けていた。

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